アメリカの越境EC市場に日本企業が参入するための
ポイントを解説
日米間の越境EC市場は近年増加傾向にあり、販路開拓の手段としてアメリカのEC市場への参入を考えている事業者にとってはチャンスがあると言えるでしょう。その一方で、アメリカでの需要や独自の法規制など、越境ECを始める前に理解しておくべきことはいくつか存在します。
当記事では、アメリカの越境EC市場に日本企業が参入するためのポイントを、市場規模や税制、法規制、参入方法の面から解説していきます。
日米間の越境EC市場の動向
日米間の越境EC上における取引額は毎年成長しており、市場は拡大傾向にあります。
【日米間のB2C越境ECの取引額と成長率】
年度 |
日本からアメリカへの販売額と成長率 |
アメリカから日本への販売額と成長率 |
2019年 |
9,034億円 |
2,863億円 |
2020年 |
9,727億円 |
3,416億円 |
2021年 |
1兆2,224円 |
3,362億円 |
2022年 |
1兆3,056円 |
3,561億円 |
経済産業省「電子商取引に関する市場調査報告書」令和元年から令和4年度より
とくに取引額についてはアメリカからの購入額よりも日本からの購入額の方が大きく、成長率にも同様の傾向が見られるため、アメリカ市場において日本製品は一定のポジションを得ていることが伺えます。
アメリカの越境EC市場が拡大している背景として、インターネットやスマートフォンの普及による消費者の
EC利用が増加していることが要因です。世界的な市場においては2021年の7,850億USドルと比較して10年程度で約10倍の規模へ急成長する予測となっており、アメリカの市場も今後更に拡大していくと見込まれます。
市場は拡大傾向にあることから、日本企業がアメリカの越境EC市場に参入するのにはチャンスがあるといえるでしょう。ただし、アメリカ市場で人気のある商品もあれば参入の難しい商品もあるので、事前に自社の商品が通用するか事前に調査をしておくことが肝要になります。
アメリカの越境EC市場で人気のある商品
アメリカの越境EC市場では、次のような商品が人気となっています。
【アメリカの越境EC利用における売れ筋商品】
順位 |
商品 |
割合 |
1 |
アパレル、靴、アクセサリー |
48% |
2 |
おもちゃ、ホビー商品 |
36% |
3 |
本、CD、DVD娯楽製品、教育商品 |
34% |
4 |
宝石、腕時計 |
31% |
5 |
電子書籍、音楽、ゲームのダウンロードコンテンツ |
26% |
6 |
化粧品 |
26% |
6 |
旅行 |
26% |
8 |
コンピューター、タブレット、モバイル電子機器 |
20% |
8 |
家庭用電化製品、家具 |
20% |
10 |
スポーツ、アウトドア用品 |
19% |
経済産業省「我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査) 」より作成
アメリカの越境EC市場で人気のある商品は、アパレルや化粧品などのファッション系、おもちゃやゲームなどのホビー系、家電製品などに大別されます。これらの商品を取り扱っている事業者にとっては、アメリカの越境EC市場に参入しやすいでしょう。
一方、食品類や医薬品、健康関連商品などはアメリカの越境EC市場において売れ筋にはありません。とくに日本から配送距離の遠いアメリカにおいて、食品類や医薬品の輸出は消費期限やFDA認証をはじめとする参入障壁の高さがあり、アメリカ市場で成功するのが難しい分野です。
商品需要の有無に関わらず、自社製品がアメリカの越境EC市場で通用するだけの特徴があることは重要になります。経済産業省「我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査) 」によると、アメリカの消費者が越境ECを利用する理由として「比較的安い価格で商品が買えるため」「好きな商品が国内で購入できないため」「国内にないユニークな商品が欲しいため」などが挙げられており、値段や商品の独自性が必要になることが読み取れます。
以上のことから、日本企業がアメリカの越境EC市場で売上を立てるためには、越境ECを利用してでも購入するだけの価値を製品に付与する必要があると言えるでしょう。需要のある商品ならば競合との価格競争に負けないような工夫を、需要のない商品ならば独自性を付加価値としてつけることで他社商品との差別化を目指してみてください。
アメリカに商品を発送する際に注意すべき税制や法規制
越境ECで海外に荷物を発送する際には、取引相手国の税制や法規制について理解をしておくことが望ましいです。とくにアメリカに商品を発送する場合には、以下のような独自の注意点があります。
【アメリカに商品を発送する際に注意すべき税制や法規則】
・800USドルまでの商品発送には関税が掛からない
・食品や衣料品の輸出にはFDA認証が必要になる
上記の他にも、輸出品目や州ごとの法規則などの特別な処置が必要になる可能性はあります。越境ECを利用してアメリカに商品を発送する際には、自社の品目や取引先地域において特別な法規制や税制が掛からないか調査をしておくと良いでしょう。
800USドルまでの商品発送には関税が掛からない
越境ECでアメリカへ商品を発送する場合、一度の取引が800USドル未満であれば関税が掛かりません。800USドルという数字はアメリカの関税法第321条においてデ・ミニマス値として定められています。
デ・ミニマス値とは、各国規定の金額未満での取引には関税が掛からないというルールです。アメリカでは国際ビジネスを後押しするため、2016年にデ・ミニマス値が200USドルから800USドルまで引き上げられました。
関税が掛からないことでアメリカ現地の商品との価格競争による不利が緩和されるため、デ・ミニマス値の引上げは越境ECにおいて有利に働きます。ただし、アメリカへ輸出する際には以下の条件に当てはまる場合はデ・ミニマス値が適用されません。
【デ・ミニマス値が適用されないケース】
●顧客1人当たりの1日における取引が800USドルを超える
●反ダンピング関税および相殺関税の対象となる商品を発送する
●アルコールや煙草などアメリカ税関以外が税金を徴収する商品を発送する
とくに注意が必要なのは顧客の1日の取引額であり、購入者が1日に自社取引を含めた合算で800USドル以上の購入をする場合は関税の免除が受けられなくなります。関税の支払いは購入者が行うので販売側の不利益にはなりませんが、関税が掛かることによるトラブルが生じることも考えられるので、商品を配送する際に購入者とのコミュニケーションを強化するなど対策をしておく必要があるでしょう。
また、その他の詳細な条件についてはアメリカ合衆国税関・国境警備局の「電子商取引に関するよくある質問 」のページを参考にしてください。
食品や医薬品の輸出にはFDA認証が必要
越境ECでアメリカへ食品や医薬品を輸出する場合、FDA認証の取得が必要になります。FDA認証とはアメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration)による認証であり、特定の品目をアメリカ国内に輸出する際には商品をFDAに登録することが義務付けられています。
アメリカ食品医薬局の名が示す通り、FDA認証が必要になるのは主に食品や医薬品です。具体的には次のような品目において、アメリカに輸出する際にはFDA認証が必要になります。
【FDA認証が必要になる品目】
●食品、飲料
●化粧品
●医薬品
●医療機器
●放射線放出装置
FDA認証を受けずに該当商品を輸出してしまうと税関での輸入拒否を受けてしまう可能性があるほか、商品の差し押さえや刑事告訴などの罰則を受ける可能性があります。越境ECで該当商品をアメリカに輸出する際には、必ずFDA認証を受けるようにしましょう。
FDA認証を受けるためのステップは品目ごとに変わります。品目ごとのFDA認証の取得方法については、「FDA認証とは?対象となる商品や取得方法など解説 」のページを参考にしてください。
アメリカ越境EC市場への参入方法
日本の企業がアメリカの越境EC市場に参入する場合、既存のECモールに出店するか自社でアメリカ向けにECサイトを構築する手段があります。
参入方法 |
特徴 |
既存のプラットフォーム出店する |
【メリット】 【デメリット】 |
自社でECサイトを構築する |
【メリット】 【デメリット】 |
既存のプラットフォームに出店する方法は、主に集客面と初期コストの低さに優れています。一方で売上に対する手数料が発生するほか、出店先のサイト規約に従う必要があるため自由な販売戦略を取りにくい欠点があります。
自社でECを構築するのは運用を軌道に乗せるまでのコストは高いものの、サイトのカスタマイズ性や運営の自由度に優れています。また、自社運営のECサイトは集客するコストは掛かるものの、サイトの規約に縛られない自由なプロモーションも可能です。
それぞれの手法に一長一短があるので、自社の状況にあった参入方法を選択するのが良いでしょう。越境EC参入時には既存のプラットフォームに出店して自社商品のアメリカ市場での需要を確かめたうえで、自由な販売戦略を立てたくなった時に自社でECサイトを構築する、または自社サイトと既存のプラットフォームを併用するなどの手段も検討してみてください。
既存のプラットフォームに出店する
日本企業がアメリカの既存プラットフォームに出店する時は、各プラットフォームのシェア率と特徴から出店先を決めると良いでしょう。
日本商工会議所発行の「越境 EC/ 海外販売の 基礎知識 」によると、2021年10月時点のアメリカECモールの市場シェアはAmazonが40.4%、Walmartが7.1%、eBayが4.3%のトップシェアとなっており、とくにAmazonのシェア率が抜けています。
また、トップシェア3社の特徴は次のようになります。
【トップシェアの各プラットフォームの特徴】
プラットフォーム名 |
特徴 |
Amazon |
アメリカ最大の越境ECサイト。 フルフィルメントサービス「Fulfillment by Amazon(FBA)」を利用することで商品の梱包や受発注、カスタマ―サポートまで一貫した物流支援を受けられる。 また、Amazonグローバルセリングという越境ECのサポートプログラムがあり、日本語でサポートを受けることも可能 |
Walmart Marketplace |
世界最大の売上規模を誇る小売店ウォルマートが運営するECサイト。 元々アメリカ所在の企業しか出店できず、2022年より一部の日本企業の参入はあるものの出店の審査基準は高く、2024年時点では日本企業の出店先としては候補に挙がりにくい。 オンラインで注文した商品を店舗で受け取るなど実店舗との連携という独自の強みがあり、現状では日本企業の競合は少ないので、今後の展開次第では出店先候補になりえる |
eBay |
世界190か国に展開するオークションサイトであり、売上の半数はアメリカが占める。 B2C取引も可能だが、オークションサイトであるためC2C取引の方が主流。 日本企業が出店する場合、日本の現地法人イーベイ・ジャパン株式会社の日本語によるサポートを受けられる |
シェア率と特徴の双方から見ると、日本企業がアメリカ越境EC市場に参入するならAmazonが向いていると言えるでしょう。とはいえ、シェアが多いということはプラットフォーム上に競合が多いとも言えますし、Amazonの利用ユーザーに対して自社製品に需要があるとは限りません。
そのため、Amazon以外のECモールの並行利用を視野に入れることも考えられます。各ECサイト毎に利用ユーザーの性質も異なるため、出品する商品によってはWamart MarketplaceやeBayの方が需要があるケースもあり得ます。
ただし、出店を並行する場合は手数料の負担や運用コストが増えることに留意しなければなりません。まずはAmazonのみに出店してみて売上が立たないようであれば併用を始め、自社に合っているプラットフォームに販売先を絞るなど工夫をすると良いでしょう。
自社開発のECサイトを構築する
日本企業が自社開発のECサイトを構築する場合、shopifyなどのECサイト作成サービスを利用して作成するか、ゼロからECサイトを構築するフルスクラッチの二つの手段があります。
【自社開発のECサイトを構築する手段】
自社サイトの構築手段 |
概要 |
ECサイト作成サービスを利用する |
【メリット】 【デメリット】 |
フルスクラッチのECサイトを構築する |
【メリット】 【デメリット】 |
ECサイト作成サービスの利用とフルスクラッチの大きな違いは、初期コストの重さとカスタマイズ性です。ECサイト作成サービスはサイト作成が簡易に済むほか、サイトの多言語対応や決済機能もついているのですぐにECサイトの運営を始められるメリットがある一方で、テンプレート外のデザインはできずにカスタマイズ性が劣るデメリットがあります。
フルスクラッチでECサイトを構築するのは初期コストが掛かりますが、サイトの自由なカスタマイズが可能です。とくにECサイトのデザイン性を自社サイトと合わせるなど、長期的なブランディングの観点から見た時にはフルスクラッチにしかできない特性はあります。
なお、月々に発生する費用に関しては、ECサイト作成サービスは月額料金が発生するものの、フルスクラッチサービスもランニングコストが掛かるので、その差異はサイトの運用体制により、一概にどちらが安いかは断言できません。
ランニングコストの面から単純に比較はできないため、自社で越境ECサイトを構築する場合は初期コストとカスタマイズ性の観点から決めると良いでしょう。
まとめ
日米間の越境EC市場は毎年拡大傾向にあるため、日本企業がアメリカの越境EC市場に参入することは販路開拓の一つの手段となりえます。アメリカ市場で商品を売るには、日本や現地の競合の商品と比較した際に選ばれるだけの独自性が必要になるでしょう。
アメリカの越境EC市場に参入する場合は、独自の税制や法規制についても理解しておきましょう。とくに食品や医薬品を輸出するにはFDA認証が必要であるため、該当する品目を輸出する際には注意が必要です。
アメリカの越境EC市場に参入するには、既存のECモールに出店する方法と、自社でECサイトを構築する手段とがあります。初期コストの軽さとカスタマイズ性が反比例する傾向にあるので、将来的な展望も含めてどの手段で開始をするか検討する必要があるでしょう。
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