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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第108回)

やっぱり「2度目」が勝負!(沖縄県酒造協同組合)

やっぱり「2度目」が勝負!(沖縄県酒造協同組合)

連載の91で私は、八丈レモンフェスの話をご紹介しました。東京・八丈島の特産品である(でも、実はあまり知られていない)レモンの魅力を島の内外に伝えるためのプロジェクトでしたね。
驚くほど大きくて、また思いのほか美味しいレモンをテーマに据えたイベントを、1度だけ催して満足するのではなくて、コロナ禍という厳しい状況にありながらも2度目をちゃんと開催した経緯を。91では綴りました。

2度目があるか。それはコロナ禍のもとでの商品プロモーションに限らず、あらゆる企業活動で大事になっている部分だと、私は確信しています。1度だけ、というのは比較的たやすいんです。問題は続けられるかどうか。単発で終わらないからこそ、人はその商品なり地域なりに対して意識を傾けてくれます。特に、2度目がカギでしょう。2度できれば、34度と、取り組みは継続しやすいですからね。

で、今回は沖縄の泡盛の話です。読者の皆さんのなかには覚えてくださっている方もいらっしゃるかもしれません。いまから3年半前(2019年)に、この連載で綴っています。

コラムのタイトルは、「『ひとつも残さずに』が生み出す効果!」でした。沖縄には全部で46の泡盛蔵があるのですが、そのすべての蔵の泡盛をひとつ残らず、ほぼ同量をブレンドして、1本の泡盛をつくってしまったプロジェクト。その名である「いちゃゆん」とは。沖縄の言葉で「出逢い」を意味します。
2018年に登場し、「いちゃゆん25度」も「いちゃゆん43度」もまたたく間に完売となりました。合わせて限定9000本(1800mlボトルを含む)が捌けたのですから。かなりの反響だったといえます。

このプロジェクトを進めたのは、沖縄県酒造協同組合でした。2004年からずっと市場縮小傾向が止まらない泡盛業界をなんとかせねばとの一念で手がけたと聞きました。そして2019年当時の取材で、協同組合の専務理事は最後にこう語っていました。

「もう一度、すぐに、とは言いません。でも、今回の『いちゃゆん』の取り組みに、できれば再度挑みたい」

どうして専務理事がこのとき、「もう一度、すぐに、とは言いません」と口にしたのか。この「いちゃゆん」が完成するまでには相当な苦心があったからだといいます。

沖縄の泡盛蔵は、大手どころから離島のごくちいさなところまで、その規模は相当に異なるのだそうです。零細の蔵にしてみると、わずかな生産量から「いちゃゆん」のために協同組合へ拠出する分を確保するだけでも大変なわけです。当時、かなりの粘り腰で協同組合の担当者が交渉を続けたらしい。

そのことを考えると、協同組合の専務理事の立場からすれば、そう軽々しく「もう一度」とは発議できないという話だったんです。でも…。

今年(2022年)、コロナ禍が続くなかで「いちゃゆん」の第2弾が登場しました。もちろん今回も協同組合の立案と主導によって立ち上がったプロジェクトです。

「いちゃゆん」には、2度目があったのですね。

今度は「46蔵」ではなくて…

やっぱり「2度目」が勝負!(沖縄県酒造協同組合)

今度はどんな「いちゃゆん」なのか。そこは気になりますよね。なぜなら、前回2018年は「沖縄にある46蔵をひとつも残さずに全部ブレンド」という、もうこれ以上ないとも思われるようなインパクトの泡盛を完成させているわけです。今回、2度目として全く同じことをやっても、その衝撃度は薄れるでしょう。いったいどんな方法をとったのか。

2度目の「いちゃゆん」は、46ではなくて12蔵のブレンドでした。えっ、パワーダウンなのか? いや、そうともいえないというのが私の感想です。

2021年、ユネスコは「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界自然遺産登録を決定しました。そこで協同組合は、その記念として、沖縄県北部のやんばる地域にある、全12藏の泡盛をブレンドして、「いちゃゆん」第2弾を企画しようと決断した、という話です。

前回の「いちゃゆん」の流れを生かすかたちで、今回はやんばる地域の蔵をひとつ残らず、としたわけですね。私にはパワーダウンでは決してなくて、「いちゃゆん」の考え方をしっかりと生かした2度目であると感じられました。しかもそこに必然性がある(世界遺産登録記念)のですから、ちゃんと今回の取り組みにも意味が備わっています。

今回はアルコール度数44度の1種類ですが、生産は6000本と、そんなに減らしてはいません。その価格は2200円です。今年(2022年)3月に発売となりました。

さあ、ここからは協同組合の話を聞いてゆきましょう。専務理事に加え、生産の責任を担った工場長にも質問を重ねました。

まず、売れ行きはどうなのでしょうか。専務理事はいいます。

「予想を超えています。1年かけて売り切ればいいと思っていたら、もうすでに4600本が捌けていますから」

熟成タンクのなかは、もう相当に少なくなっているそうです。

またも苦労? それとも?

やっぱり「2度目」が勝負!(沖縄県酒造協同組合)

前回2018年のときには、すべての蔵から泡盛を拠出してもらうのにかなりの苦労が伴ったと聞いていましたが、今回はどうだったのですか。

「それが、すんなりといきました」

そうだったのですか。確かに蔵の数は少なくていいとはいうものの、やっぱり大変なのかなと予想していたのですが…。

世界遺産登録を盛り上げるためになにかできないか、という気持ちを沖縄県北部の蔵に伝えたら、すぐに呼応してくれました

私が想像するに、もし今回がいきなりの試みであったなら、おそらくすんなりとは進まなかったはずと思います。2018年の取り組みがあったからこそ、今回の沖縄県北部の12蔵は商品のイメージもたやすくついたでしょうし、その狙いも即座に理解できた。前回の成果をちゃんと生かせている、という点でも、今回の発案は意義深いのだと感じさせます。

「12蔵のうち、ひとつの蔵でも欠けてしまうようなら、今回の『いちゃゆん』はやめようと考えていました。けれども、みんな揃って『やりましょう』と応えてくれたんです」

やはりそこには専務理事としての覚悟があったのですね。

前回の「いちゃゆん」を開発する折に苦心した、小規模な蔵でさえも即応だったのも大きかったと思います。12蔵のなかには離島のちいさな蔵も複数あります。それでも快く協力を申し出たそうです。

デザインは前回を踏襲した

やっぱり「2度目」が勝負!(沖縄県酒造協同組合)

ここでページ冒頭の画像をご覧いただけますでしょうか。3本のボトルが並ぶうち、左の2本が前回の「いちゃゆん」、一番右が今回の「いちゃゆん」です。

一番左のは2018年の「いちゃゆん25度」で、ラベルには海の色をモチーフにした丸い円が46個重なっています。真ん中は2018年の「いちゃゆん43度」。こちらは太陽をイメージした黄色い円が46個。そして今回の「いちゃゆん」では、やんばるの森を想起させる緑の円を12個重ね合わせました。重ねた円の数はいうまでもなく、力を貸してくれた泡盛蔵の数を示しています。前回からの流れで今回のプロジェクトがあるということを理解できるデザイン踏襲ですね。

さらに…。前回ではさすがに蔵の数が多すぎてできなかったのですが、「いちゃゆん」の外箱には今回、12の蔵のラベルや連絡先を印刷しています。

「この外箱を見て、泡盛への興味を深めたお客さまが問い合わせしてくれれば、と考えました」

外箱ひとつも、ちょっと変えたというわけです。

ところで、泡盛の市場はいまも厳しいのでしょうか。コロナ禍によって飲食店需要が激減していますよね。

「コロナ以前の水準にはいまも戻っていません。全国旅行支援で観光客が戻ってきているので、そこに期待を寄せています」

今回の「いちゃゆん」は泡盛消費にも世界遺産の観光にも、ひとつの呼び水となるかもしれません。

いちばん肝心なことを聞き忘れていました。前回の「いちゃゆん」は46蔵の泡盛をほぼ均一にブレンドするという力技でありながら「我々も正直びっくりした」と専務理事がいうほどに、美味しくまとまった味わいになっていましたね。今回の12蔵ブレンドは、果たしてどうだったのでしょうか。今度は工場長に尋ねてみました。

「これがですね、相性がよかったんです。おそらく各蔵がきっちりとした泡盛をつくっているからでしょう」

工場長は今回も、最初は心配していたそうです。個性がぶつかりはしないかと…。

「ところが、濃厚な味わいながらに、ちゃんとまとまりました。よくここまでまとまったなあと感じました」

こればかりは実際にブレンドしてみないとわからない。工場長も「偶然の産物」と話していました。でも、前回に続いて今回も「まとまった」というところが、実に興味深いところです。工場長はさらにこういいます。

今回の「いちゃゆん」はオイリーな味わいを備えているのが特徴なんです。例えば2本買っていただいて、まず1本はすぐに飲んで、もう1本は開栓せずに何年か寝かせておくのもいいかと思います。オイリーに感じる部分が変化して、もっとなめらかになると予想していますから

ああ、そういう楽しみもある泡盛に仕上がったのですね。

タイミングを逃さないから

やっぱり「2度目」が勝負!(沖縄県酒造協同組合)

ここで愚問かもしれませんが、あえて尋ねてみたいことがあります。やっぱり2度目をやってよかったでしょうか。専務理事は即答でした。

「もちろん、よかったと確信しています」

以前、あれほど再挑戦は難しいかもと語っていたのに、前回から4年のときを経て2度目を実現できたのはなぜでしょうか。

「タイミングの問題だと思っています」

そうですね。世界遺産登録というまたとない好機を逃さなかった。そこは間違いなく大きかったはず、と私も感じます。とはいえ、好機というのはえてして逸することもまた多いものです。これは私の想像ですが、専務理事はおそらく2018年以降、折に触れて、2度目の「いちゃゆん」をどこで仕掛けるか、考え続けていたのだと思います。だからこそ、タイミングを見逃すことなく、ここという場面で果敢にプロジェクトを再び立ち上げることができたのでしょう。

専務理事はこうもいいます。

この1本は「説明しやすい泡盛」なんですね。「やんばる全部がここに入っています」と伝えれば、まずお客さまは振り向いてくれますから

説明すれば買ってくれる1。泡盛市場が落ち込むなかで、これは貴重な存在に違いありません。

その意味でも、2022年の3月に出す、というところが大事だったんです。世界遺産登録から時間が経ちすぎると意味が薄れてしまいます

それも含めての、タイミングの大切さ、というわけだったのですね。

さあ、次のプロジェクトは?

やっぱり「2度目」が勝負!(沖縄県酒造協同組合)

上の画像の右側が協同組合の専務理事、左側が工場長です。今回のプロジェクト第2弾について、工場長は振り返ります。

「やんばるの12蔵にすれば、『いちゃゆん』での大きな儲けはないんです。拠出してもらう泡盛の量はさほどでもないので…。それでも協力を惜しまずに出してくれたからこそ、今回の『いちゃゆん』は完成できました」

2018年の「いちゃゆん」を協同組合はしっかりと売り切りましたし、県内外の酒愛好家のあいだで話題をさらうことにも成功しました。繰り返しになりますが、その成果を放っておいて無駄にしてしまうことなく、次のチャンスを窺いながら、ここという好機を逃さないように考え続けたから、今回の第2弾は企画され、各蔵の協力を得られたのだと、私は確信しています。

さらにいうと、ヒットを果たした前回と全く同一の企画にせず、「やれることをやる」という意識のもと、前回とはまた違った趣向をものにできたのも大きかった。46蔵すべてでなくとも、12蔵であることにしっかりと意味があるんですから…。

こうなると、気になってきますね。専務理事に聞いてみたい。第3弾はあるのでしょうか。

「わかりません」

そう笑って返されました。でも私はここで予想しておきたい。この先、沖縄でなにかのトピックがまた生まれたとき、きっと「いちゃゆん」の第3弾プロジェクトが動き出すのではないでしょうか。それも、「今度はこうきたか」と再び納得してしまうようなかたちで…。

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