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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第91回)

「2度目」こそが大事!(八丈レモンフェス)

「2度目」こそが大事!(八丈レモンフェス)

地域産品をどう盛り上げ、広く手に取ってもらえるようにするか。これはもう、どの地域でも課題となっているところですね。

普通に考えると、なんらかのプロモーションを打つ、あるいはイベントを催すといった施策が考えられます。ただし……これまで私がこの目で見てきた事例を振り返ると、ひとつのことが間違いなくいえるかと思います。

それは「1度で終わってしまうかどうか」が問題であるという話です。プロモーションにしてもイベントにしても、一度はできるんです。それ相応の成功を収めるケースも少なくない。ところが2度目がないんですね。1回やったらほっとしてしまうのか、力尽きてしまうのか、続かないんです。

1回ではだめなんだ、と私は思います。たとえちいさな規模の取り組みであっても、2度目、3度目と重ねていかないと、地域産品の存在を広める効果はおぼつかないでしょう。

ただ、そこにはハードルもあるわけです。地域産品の関係者というのは、えてして立場の異なる人たちの集合体ですから、意見も割れがちで、意思決定ひとつも大変になります。そこをどう乗り越えるか。この連載で綴った例でいいますと、第52回の高岡伝統産業青年会や、第62回の陸前高田 発酵パークCAMOCY第87回の秋田由利牛振興協議会などが、大きな参考となるかもしれません。どれも、いっとき限りの取り組みで終わらないために努力を重ねた事例ですね。

で、今回のテーマです。東京・八丈島の特産品というと、みなさんはなにを思い浮かべますか。くさや、明日葉、島焼酎と認知度の高い産品は多いのですが、これらに加えて、もうひとつあります。それはレモンなんです。

私、以前に八丈島のレモン(八丈フルーツレモンと名づけられています)を口にすることがあって、驚いたのを覚えています。そのレモンは目を見張るほどの存在感で、手のひらに余るような大きさが特徴。力感あふれる姿かたちですが、酸味は穏やかで皮はさほど苦くない。果汁を絞るというより、皮や果肉ごと食べるのにふさわしい。島の人は「サラダに入れたら、もうドレッシングがいらないよ」とまでいいます。料理に使っても、スイーツの素材に用いても、お酒の香りづけに絞っても、いや、もうそのまま蜂蜜などに漬け込んでも、明らかによそのレモンとは違う魅力を放ちます。

聞けば、その歴史は1940年にまでさかのぼるそうです。ひとりの男性がレモンの苗を持ち帰り、それを農家が大切に育て、島内全体にレモン栽培が広がっていったといいます。でも、その歴史や凄みすらある味わいの割には、あまり広くは知られていませんよね。

昨年(2021年)の春、八丈島の青年が立ち上がり、「八丈レモンフェス」を開催しました。島内にある飲食店の屋外スペースを借り、料理や飲み物を提供するとともに、地元ミュージシャンなどが音楽で盛り上げました。一昨年来のコロナ禍のため、開催の延期を余儀なくされて大変だったそうですが、それでも昨年4月に無事実行され、島に暮らす人たち300人弱が来場しました。あとから知ったのですけれど、この「八丈レモンフェス」、主催する青年たちのまさに手弁当で催したイベントだったそうです。行政からの補助金や助成金などはいっさいなし。それにもかかわらず、300人近くを集客できていたのは立派な話と感じました。

私、偶然だったのですが、別の仕事で八丈島を訪れていて、この「八丈レモンフェス」を見ることができました。私が惹かれたのは、「まずなにをおいても、八丈島に住んでいる人に、いまいちど島のレモンの魅力を感じてもらう」という、その狙いです。いきなり大都市圏に打って出るのではない。地元の人が振り向かないものに、よその人が振り向くはずがない、という強い姿勢を、そこに見て取ることができました。

コロナ禍に、どうする?

「2度目」こそが大事!(八丈レモンフェス)

そして今年(2022年)の春先、「八丈レモンフェス」の第2回を開催するという知らせが、私のもとに届きました。これにはとても興味を抱きました。コロナ禍が続くなかで、よく第2回の実施に踏み切ったなあというのがひとつ。そしてもうひとつは、冒頭で触れたように、第2回があること自体への評価でした。

第1回の「八丈レモンフェス」は先ほどお伝えした通り、島内にある飲食店の屋外スペースを借りてのリアルイベントでした。今回はそれを大幅変更しての開催となっています。

第2回「八丈レモンフェス」のコンテンツは大きく2つです。まず、3月下旬の土曜に開催したオンライン配信。11時〜15時30分の間、YouTubeを利用して動画を発信するというものです。中身はなかなか凝っていて、2人のMCによるトークを軸に据え、途中でレモンなどの紹介するVTRを流すほか、5組の音楽ライブを生で配信。また、島内の3カ所から生の中継も挟むという構成でした。オンライン配信のメイン会場は、閉校となった島内の小学校の建物。MCのトークは理科室から、ミュージシャンなどによるライブは音楽室からです。

もうひとつの大事なコンテンツは、島内の店舗との連携でした。飲食店が16、物販の店が4つ、この「八丈レモンフェス」に合わせて3週間近く、特別メニューや限定商品を提供するというものです。そのほか、島外と島内に向けてそれぞれ、地元酒販店のECサイトを間借りするかたちで限定のレモン関連商品を販売もしました。島内に住む人向けには送料を押さえるなど、より購入しやすくも工夫されていました。

昨年の第1回が当日限りのお祭りのようなイベントだったのに対して、今回は島内に根づいている店々の力を得たことによって、3週間近く続くイベントにできている点が、まず注目されます。そして、さらにいうと……。

第1回はいってみれば「島内向けのイベント」という位置づけでした。それが今年の第2回は、オンライン配信とECサイトの活用によって、「島外にも発信するイベント」にできていました。こうして段階を踏んでいるところも、私には意義深く感じられました。しかも、島内の飲食店と連携することによって、「引き続き、島内にも訴求するイベント」である点は変わりませんし。

コロナ禍であることを逆手に取りながらも、できることを積み重ねた内容になっているとも思いましたね。

高校生が加わっている意味

「2度目」こそが大事!(八丈レモンフェス)

先ほどお話ししたように、「八丈レモンフェス」は、地元の青年たちが企画立案し、第2回を数えたイベントです。で、スタッフの顔ぶれを見ると……

高校生が目立つんです。確認してみると、総勢22人の運営スタッフのうち、地元高校生が15人を占めているそう。オンライン配信でのスイッチャー(画面の切り替えを判断して操作するスタッフ)は高校生でしたし、島内を駆け巡って生の中継映像を撮影し、照明機材を駆使し、配信確認を担うのもまた高校生でした。

これがまた大事な部分と、私は感じました。このイベントは島の若い世代が中心となって取り組んだところがいいのですが、さらに若い高校生までもが加わっている。彼ら彼女らは八丈島のレモンのことをきっと記憶に刻むことでしょう。島でこれから先も暮らすにしても、島を出て生活をするにしても、レモンのことを忘れず、大事に思い続けるはずです。そうした世代がいつか、レモンのことをさらに盛り上げる役目を果たすことでしょう。

視聴数はじわじわと伸びた

「2度目」こそが大事!(八丈レモンフェス)

では、この第2回「八丈レモンフェス」、私の目にはどのように映ったか。八丈島を当日訪れた折の話を交えて整理しましょう。

まず、3月下旬のオンライン配信ですが、リアルタイムでの視聴数は数十人程度でした。少ないという気もしますけれど、その後、アーカイブ化(事後の視聴可能な配信)によって、アクセス数はじわじわ伸びており、このコラムを綴っている4月初旬時点では、視聴数は1000回近くにのぼっています。オンラインでの配信時から1週間でここまできているのですから、これは一定以上の意味をなす数字といって差し支えないでしょう。アーカイブ動画は下記から閲覧できます。最初の9分間が無音なのにご注意ください。それぞれのコンテンツ(音楽ライブや、島内からの中継など)には、説明欄から直接飛べるようになっています。

そして、島内の飲食店などとの連携ですが、これもまた成功だったのではないでしょうか。ちいさな島で16もの飲食店と協業できるまでに、とても大変な交渉があったと思いますし……。

連携する飲食店のラインナップを見ますと、なかなかのものです。島きっての超実力店であり、予約するのも困難な「梁山泊」では、「フルーツレモンタルタルの鶏南蛮」のほかに2種のスイーツを限定メニューに加えていました。また、地元の人も足繁く通う「魚八亭」では、「八丈レモンと地魚カルパッチョ」と「八丈レモンピザ」を用意。私が同店を訪れた折、居合わせたすべてのお客さんがそのどちらかを注文していました。

オンライン配信で中継のあった「藍ヶ江水産 地魚・干物食堂」では、「むろ鯵と鶏もも肉の島レモングリル」を提供していました(すぐ下の画像がそれです)。観光客が多く訪れるこの食堂では、店内にしつらえた大画面のモニターで、オンライン配信をリアルタイムで映していて、訪れるお客さんたちがそれに見入っていたのも印象に残りました。

つまり、地元の飲食店との連携は、見事に功を奏したと表現できますね。島を代表する店々がちゃんと力を込めて料理づくりに臨んでいたことも伝わってきましたから。

3回目、4回目を見据えて…

「2度目」こそが大事!(八丈レモンフェス)

さあ、ここからは「八丈レモンフェス」の実行委員に話を聞いていきましょう。実行委員長は島外からの移住者であり、自営のシステムエンジニアとして働いている男性です。

まずなにより、今回のテーマともいえる「2度目への取り組み」について聞きたい。昨年1回限りのイベントではなく、こうして2回目もやるというのは規定路線だったのですか。

「どんなかたちにするにせよ、2回目を催すという意思はありました」

それはなぜ?

「第2回の『八丈レモンフェス』が、この先、第3回、第4回と続けるための大事なプロセスと位置づけていたからです」

どうして続けることが大事なのでしょうか。

「これからの八丈島のことを考えると、衰退の一途となってしまってもおかしくありません。島外から人を呼ぶための動きが、ここで大事になります」

ちょっと意地悪な質問かもしれませんが、だったら別の産品をフィーチャーするかたちでもいいですよね。レモンであることの理由はなにと考えたのでしょうか。

「島の未来につながる存在と確信したからです。八丈島のスタンダードな産品はすでにいろいろ存在しますが、固定的な印象もどこかありますね」

ああ、確かに……。八丈島のレモンには戦前からの歴史はあるとはいえ、まだまだ知名度は低い。でもそのぶん、可能性を拓くことができますね。

「柔軟性のある素材なんです。さまざまな組み合わせが自在ですし」

実行委員長は、そこに注目して、音楽とレモンを融合させたイベントで、まず昨年は島内の人たちに、レモンの存在を改めて知らしめようとした。そして今年は、島内・島外の両面にアピールできるよう、ウイングを広げたというわけです。

イベントは、いわば「手紙」

「2度目」こそが大事!(八丈レモンフェス)

私が感じ入ったのは、第1回である昨年よりも今回のほうが手間のかかる内容であった点です。1日限りでのリアルイベントより、今年はエネルギーを割いていますね。飲食店との連携、ECサイトでの商品販売などもそうですし、オンライン配信というのは、意外に準備が大変なものです。

「第1回よりも内容を充実させるという思いは最初からありました」

ちなみに、八丈島のレモンの存在価値って、島内の人は理解できているのでしょうか。1つあたりの値段は普通のレモンより高いですし、手に取る機会は実は少ないのでは?

この疑問に答えてくれたのは、島で生まれ育った実行委員の女性でした。

「昨年、地元で『ふわふわフレーク 八丈フルーツレモン』という新商品が登場した折、もう秒殺的に売れたんです。ということは。島で暮らす人も意識のどこかでレモンのことを気にしていたのではないでしょうか」

それは興味深い話です。普段からこまめに買い続けなくとも、八丈島の人は自分たちの島にレモンが存在することをわかっていた。で、なにかのきっかけさえあれば、ちゃんと反応してくれるということですね。そして、昨年、今年と「八丈レモンフェス」が続けて催され、それがまた、島の人たちを振り向かせる好機として機能した……。

島の一般住民はもちろんのこと、JAは実行委員にレモンを納めてくれ、そして繰り返しになりますが、飲食店なども協力を惜しまなかったという話です。

実行委員長はいいます。

『八丈レモンフェス』は、地域内外の人たちへの、いわば『手紙』のようなものと思っています。この島にはレモンがあるよ、というメッセージです

変わらない状態からの脱却

「2度目」こそが大事!(八丈レモンフェス)

さて、「八丈レモンフェス」は今後どう進むのでしょうか。

「次に目指すのは、これまでの第1回と第2回を融合させた、ハイブリッドな形態での開催です」

なるほど……。リアルのイベントで地元の人を集め、そしてオンライン配信で八丈島の外にいる人たちにも訴求する。そういうことですね。コロナ禍が一段落すれば可能になります。実行委員は忙しくなるでしょうけれど、来年以降の姿が楽しみになります。

最後に、実行委員長へ尋ねました。この取り組みのゴールはどこにありますか。

島のなかで『このままでいいだろう』という意識がなくなる状態というのが、ひとつのゴールかもしれません

なにも変わらない状態からの脱却。そのためのフェスであり、変わるための強い素材としてレモンに光を当て続ける……。八丈島のレモンと同じような存在はおそらく、どの地域にも潜んでいるのではないでしょうか。よくよく考えてみたら、思いのほか実力派だったという産品です。その価値を生かし、伝え続けるのは、ほかならぬ地元の人であるべきなのでしょうね。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分
析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっ
ている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」
(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、NTT東日本「経営力向上ラボ」、
家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地
方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」な
ど、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

ANA国内線「北村森のふか堀り」監修

経済産業省 北海道経済産業局 地域ブランド創出支援事業 チームリーダー
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)

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