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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第104回)

「びっくり」を創出する源泉!
(株式会社ハンドライフ・クリエイト)

「びっくり」を創出する源泉!(株式会社ハンドライフ・クリエイト)

毎週のように全国を巡っていると、「なんだこれは?」と驚くような商品が各地に潜んでいることに、改めて気づかされます。

今回の話はマスタードです。ソーセージに塗ったり、ハムに添えたりする、あのマスタード。出逢ったのは香川県の高松市でのことでした。マスタードなんて当たり前のようにあるものと思われるかもしれませんが、クラフト系である少量生産の商品って、探すと実はけっこう存在するんです。そのなかのひとつが今回のテーマです。

驚く点はいくつかあります。まず、その値段。3種類のマスタードのセットが5400円もします(202210月現在。今後、原材料高騰のために値上げの可能性もあり)。ひと瓶あたり1800円です。まあ、ごく稀に3000円くらいするマスタードがないわけではありませんが、普通の商品なら200円台からせいぜい1000円ほどですから、相当に値が張ります。まだまだ全国に知られているようなマスタードというものではないだけに、かなり強気な価格設定ですね。

で、次に驚いたのが、その味だったわけです。まずはペースト状の「カレス」をハムステーキに添えてみました。上の画像の右側の瓶です。いやこれは官能的と表現していいのではないか。甘みもコクも奥深くて色気すらある。ハムよりむしろマスタードが主役を張るくらいのひと皿となりました。

粒状のマスタードである「ノワール」(真ん中の瓶です)と「ドレ」(左の瓶です)を試しました。これで確信できました。やっぱりマスタードが主役になりうる。肉のパテに乗っけるのもいいし、魚のカルパッチョでも面白い。先ほどの「カレス」と同じで、マスタードのために肉や魚があるといっていいかも…。しかも、マスタード単体で楽しめてしまう。この粒々だけでワインが進みました。

付け加えるなら、もうひとつ意外なことがありました。このマスタードを売っているのは、靴のリペア(修理やメンテナンス)を専門としているお店の一角なんです。高松の中心街にある百貨店のすぐそばにある一軒。食のセレクトショップでも、贅沢な調味料を取りそろえる店舗でもないんです。これはどういうことなのか。

食のプロが振り向いた

「びっくり」を創出する源泉!(株式会社ハンドライフ・クリエイト)

この商品、「宗紀(そうき)マスタード」といいます。製造・販売しているのはハンドライフ・クリエイトという、ご夫婦で営む地場の企業です。夫が代表を務め、妻である上坂宗紀さんがこのマスタードを開発・製造しています。

このマスタードを発売したのは2019年で、翌年の2020年にはECサイトも立ち上げています。売れ行きはどうなのか。

「普段は11件の注文があるかどうかです。でも

今年(2022年)9月に、大阪の老舗百貨店の催事で、四国のハム・ソーセージメーカーのブースの端を借りて販売したところ、7日間で約270個が完売となってしまったといいます。それも試食サービスなど一切なしで、とのことですから、かなり大きな反響だったといえますね。

「借りたスペースは、レンガ2個分くらいのごくごく小さなものでした。そこにマスタードの瓶を並べて店頭に立っただけでしたが、持ち込んだ商品がすべて売れました」

さらには、四国だけでなく本州の料理人からの注文が、ここにきて相次いでいるとも聞きます。香川の人気店からだったり、誰もが知る東京の老舗からだったり。その発端は料理人への必至の売り込みだったのかと思ったら…。

「私たちからはプロモーションしていません。なぜ?と思って、ある料理人さんに尋ねたら、『数々のマスタードを取り寄せて、ひとつひとつ食べ比べたら、これが一番だった』と言われました」

つまりは「実力勝ち」だったということですね。とても注目すべき話と思いました。こうしてじわじわと存在感を高めている宗紀マスタードですが、どうしてまた製造販売を思い立ったのでしょうか。

マスタードは嫌いだった

「びっくり」を創出する源泉!(株式会社ハンドライフ・クリエイト)

開発を手掛けた宗紀さんはいいます。

「実は私、マスタードが嫌いだったんです」

それは思いがけないひと言ですね。宗紀さんによると、既存のマスタードの刺激の強さが口に合わなかったそうです。

でも、「嫌いだからこそ、商品を開発する」というところから始まって、ヒットに結びつけた事例というのは、意外にも少なくありません。たとえば、この連載の64回、中川政七商店の原稿で綴った「29」という靴下は、2011年に登場したロングセラー商品ですが、これを開発した同社の女性社員は「靴下がずっと大っ嫌いでした」と笑っていました。で、商品をつくるにあたって、彼女自身がどうして靴下を嫌いなのか、まずしっかりと振り返ったらしい。そして靴下のもつ欠点(締め付けすぎるので履き心地が悪い、など)をひとつひとつ解決しようと動いたわけです。そうしたら、消費者の気持ちに刺さる商品をものにできた。

話をマスタードに戻しましょう。宗紀さんは、「嫌いだったマスタード」を「好きなもの」に変えようとしたわけですね。

そうです。一緒に合わせる食材の味もきちんとわかり、マスタードの味も楽しめる、そんな性格のものをつくりあげたかった

宗紀さんはもともと、プライベートでパンやマヨネーズなどをしばしば手づくりしていました。ウスターソースまでこしらえていた、とも…。そして転機が訪れます。

宗紀さんは、夫が手掛けている靴をリペアするお店をサポートし、姉妹店として靴を販売する支店を開いていました。これは夫からの頼みだったといいます。だったら今度は、妻である宗紀さんのやりたいことをやり、夫がそれを支える、という形にしようとなった。そして宗紀さんは、マスタードを商品化して、夫のお店の一角をその販売拠点にしたいと伝えます。夫はもちろん快諾。靴のリペアの店舗で売ろうと決めただけでなく、宗紀さんのマスタードのブランディングも担うことにしました。サイトやリーフレットにある商品紹介テキストは、夫の手になるものです。

お手本はなく、自分で開発

「びっくり」を創出する源泉!(株式会社ハンドライフ・クリエイト)

ここで思うことがあります。プライベートでパンや調味料づくりを続けてきたとはいえ、商品化に挑むとなると、そんなに簡単ではないですよね。

いえ、マスタードのイメージは初期段階からはっきりとありました。マスタードづくりの基本的なレシピを全く参考にしなかったわけではありませんけれど、味を形づくるうえでは、自分の考えを信じました

そうだったのですか。既存の商品をお手本にしたわけでは決してなかったわけだったのですね。目指したことは2つだったそうです。まず「お客さんの想像を掻き立てるマスタード」、もうひとつは「面白いといってもらえるマスタード」。

ああ、これは興味深いところです。どんな素材で、具体的にどんな風味で、といった話ではなくて、そのマスタードを知った場面でなにを得られるか、をテーマに据えた、ということですね。

商品づくりでこれは実に大事な部分だと、私は思います。なにを創出したいのかが一番で、具体的な材料の話などはその次にくる話だからです。よく「原材料にこだわりました」といった謳い文句に出逢いますけれど、極端に表現すれば、どんな原材料かであるかにもまして、なにを導き出したいのかこそが問われるべきです。原材料の選択は、あくまでそのための手段です。

ただし。念のためにいいますと、この宗紀マスタードは、材料がそれ相応の中身であるそうです。このマスタードは、マスタードシードとビネガー(酢)、それに塩とハチミツを加え、あとは香辛料を足して熟成させたものです。ビネガーはオーガニックのものを使っていて、どうやらそこが味に直結しているらしい。

「カレス」が官能的な味わいだと先ほど伝えましたが、これが「ノワール」に用いるブラウンマスタードシードと、「ドレ」に使っているイエローマスタードシードの両方を含んでいると聞きました。で、それぞれの粒を潰してペースト状にしています。ただ単に2つのマスタードシードを混ぜるのではなくて、それぞれを仕込んでから合わせているとのこと。やはり手が込んでもいるわけですね。

規模より世界観が必要な分野

「びっくり」を創出する源泉!(株式会社ハンドライフ・クリエイト)

こうして、発売から3年あまりで、プロの料理人をはじめ、知る人ぞ知る存在にまで育っている宗紀マスタードですが、本人からするとなにがそのポイントだったと思いますか。

「全方位のお客さまを狙わなかったことかもしれません」

確かにそれはいえますね。そもそも、マスタードにひと瓶1800円出そうと思わない人は、もうすでにお客ではありえませんから…。

「『マスタードなのに、こんな値段?』と敬遠するお客さまがいることは、もう最初からわかっていました。でも、ここは曲げませんでした」

そこは極めて大事だったと思います。値段を下げることを優先すれば、商品のありようはややもすれば中庸化します。そうなってしまうと無名のちいさな企業では成功できません。わざわざそんな商品を手に取る必然性が薄れてしまうからです。そこそこ安いマスタードなら、どこにでもあるわけです。だから…。

規模を追うより、世界観を追いました

そうですね。それが正解だったと感じさせます。さらにいうと、商品の存在を伝えるうえで、あえて「讃岐発」とか「高松発」とか謳ってはいないのに、結果的には「高松にこんなマスタードがある」と認知させているところも絶妙ですね。

「お客さまが買いたくなる『絶対的な要素』を突き詰めるしかないと考えました。それはマスタードの中身にしても、プロモーションの方法にしても同じでした」

近年、しばしば「身の丈ビジネス」の重要性が説かれています。事業の大きさや高い利益率をあえて追求しない。でも、自分ならではの商品を、可能な範囲で精いっぱいの力を込めて創出する。そんなビジネスモデルのことを指します。宗紀マスタードはまさに、そうした体制のもとで生まれた快作ではないかと、私には感じられました。

次の一手は? 身の丈ビジネスの好事例と私は感じたと、たったいま綴りましたけれど、もしかすると販路の拡大?

「いえ、目指しているのは季節限定のマスタードの発売です。でも、バリエーションをやみくもに増やそうとは考えていません。せいぜい、あと2つくらいでしょうか」

それは口にしてみたいですね。ぜひまた、ひと匙のマスタードによって舌をびっくりさせてもらいたいからです。

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