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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第98回)

ゴールを掲げる意味と効果!(株式会社丹羽久)

ゴールを掲げる意味と効果!(株式会社丹羽久)

この連載で4年ほど前、「ゴールの共有」こそが中小企業の協業では大事という話を綴っていました。金属製のわさび専用おろし板「鋼鮫」の事例でした。
この商品を開発した山本食品と近隣の町工場は、協業しながらこの「鋼鮫」を完成させるにあたって、真っ先にゴールを設定したうえで、それをしっかり共有していました。目指すところは2つ。まず、「プロの料理人が使う鮫皮のおろし板よりも、手入れがラクな商品であること」。そして、「鮫皮のおろし板よりも、はるかにおいしくおろせる商品であること」。

それを金属でつくろうとすれば、明らかにハードルは高いんです。でも、こうしてゴールを共有できていたから、途中でぶれることはなく、300パターンもの試作(すべてボツでした)を経て、ゴールにたどり着きます。
わさびをおろす金属面に、なんと「わさび」というちいさな文字を多数並べたら、2つのゴールをものにできた、という、おとぎ話のようなエピソードでした。このバックナンバー記事に実物の画像を載せていますので、ちょっとご覧いただければと思います。

目指すゴールをしっかりと掲げて、チーム内で共有することが肝要だという教訓は、なにも複数の企業にまたがって商品開発するときだけに有効なわけではありませんね。ひとつの企業内でなにかをなそうという局面でも、同じように大切になります。今回はそういう事例をお伝えしましょう。

その名を「住まいの魔法のスチーム レンチン! 電子レンジの洗浄剤」といいます。岐阜県恵那市に本社のある中堅メーカー・丹羽久が開発・販売している商品で、値段は500mlボトルが899円。ちいさな300mlボトルは598円です。

発売直後から思わぬ反響

ゴールを掲げる意味と効果!(株式会社丹羽久)

なにをするための商品か。もうその名称から想像がつきますね。電子レンジの内部を掃除するための1本です。
ボトルの中の液体を耐熱容器に注いで、それを電子レンジに入れ、600Wで約2分加熱します。するとスチームが発生してレンジの中に広がります。そのあと、布で拭き取ればきれいになります。実際に使ってみたら、確かに汚れはかなり落ちました。汚れたところをふやかしてくれる感じなのですね。500mlボトルは25回分、300mlボトルは15回分だそうです。

それがどうした? と思われるかもしれません。電子レンジの内部を掃除するための商品って、以前から複数ありますから……。とはいえ、ちょっと考えてみてください。みなさん、電子レンジの中の掃除、やっていますか。私は長らくほったらかしでした。やらなきゃなあ、と思いつつも、行動に移せていなかった。

で、この商品なのですが、昨年(2021年)秋に発売するや否や、同社の担当者自身も想像していなかったほどの動きをみせたといいます。予想の1.5倍の引き合いがあり、いっときは品薄状態が続きました。商品のプロモーションは同社の公式ツイッターで触れたくらいです。発売当初、コストをかけた広告宣伝には踏み切っていません。それでも、クチコミで反響を呼んだというわけですね。

SNSを検索したら「こんな商品があったのか」という声が挙がっていて、励みになりました

それはなぜなのか。電子レンジの庫内掃除をこまめにやろうと考える人は必ずしも多くないとも考えられそうなのに、どうして突然のヒットなのか。
商品を企画した担当者本人に話を聞いてみました。

「既存の他社商品とは異なる部分があったからでしょうね」

それはなんなのですか。

「まず、スチームを出して、庫内の細かな凸凹にも行き渡らせるような商品にしたところでしょう、これまで存在した他社商品ですと、洗浄成分を含んだクロス(布)タイプなどがありましたが、それよりもラクかと思います」

それだけではなかったようです。と、いいますか、もうひとつの特徴がどうやら決定打となったらしい。それは……。

「この商品、成分が中性なんです。よその商品はまずアルカリ性です」

そこにどんな意味があるのか。キッチン周りの家事に普段から気を遣っている方ならピンとくるはずですね。念のため説明します。

中性でなければならない意味

ゴールを掲げる意味と効果!(株式会社丹羽久)

担当者は、こう解説します。

「中性であることが大事なのは、シンプルな理由なんです」

それはなんですか。

「電子レンジを製造販売している家電メーカーは、『庫内の掃除に使うのは、中性のもので』と、明確に推奨しています。それに尽きます」

ああ、そういうことなんですね。でも、だったら、よそのメーカーも庫内掃除に使う商品はアルカリ性ではなくて中性にすべきじゃないんですか。

「いや、そこにひとつのネックがあります。普通に考えればアルカリ性の洗剤のほうが汚れは落ちやすいんです」

中性だと、本来はそんなにきれいにできないわけですか。

「そうなんです。きわめて難しい話だと思います」

でも、担当者はここで「既存商品の大半がアルカリ性であることを消費者が気にして、手を出しにくかったのではないか」という仮説を立てます。こうして仮説をみずからのなかで立てる作業は大事ですね。第93回の「レトルト亭」がまさにそうでした。「レトルトパウチ食品には、本当に不便な面は存在しないのか」と考え、答えをみずからの頭のなかから導き出した。今回の話もそれに似ています。
さあ、ここから担当者はどう動いたのか。

技術部門は、頭を抱えた

ゴールを掲げる意味と効果!(株式会社丹羽久)

改めてちょっとまとめます。電子レンジは、食材を庫内に入れて使う調理家電ですね。そこにアルカリ性の洗剤を使って掃除するというのは、少なからぬ消費者にとって心理的抵抗があるかもしれません。しかも、ほかならぬ家電メーカーは、レンジ庫内の掃除にあたって中性の素材を推奨している。しかしながら、それでは汚れをちゃんと落としづらい…。そういうことですね。

最初は、アルカリ性の素材を使うしかないかなとも考えていたんです。でもやっぱり「待てよ」と、自分にストップをかけました

家電メーカーが中性を推奨しているうえに、消費者にもアルカリ洗剤の使用に抵抗感があると推察するならば……。

「ここは中性でいくしかないと判断しました」

でも、簡単な話ではないはずですよね。ちゃんと汚れを落とせる商品にするには。

「技術陣に『中性にしてほしい』と言ったら、みんなが頭を抱えましたね」

しかも同社は、これまでアルカリ性の素材(重曹など)を得意としてきた企業でもありました。ここで中性の素材を用いて商品を完成させるというのは、かなりの困難が伴ったのではないかと想像が尽きます。

「それでも半年で商品の原形はできあがりました」

それは相当に早いですね。もちろん技術陣が頑張ったおかげでしょうけれど、そのほかに私が考える理由は2つです。まず、クロスタイプではなく、庫内で加熱してスチームを発生させるというアイデアがよかったこと。そしてもうひとつは「中性でいくんだ」というゴールを社内で共有できたこと。これではないでしょうか。目指すゴールをごくごくシンプルに、また短い言葉で表現できた。また、なぜそれがゴールなのか、背景も明快でしたよね。家電メーカーの推奨に沿うことと、消費者の心理的抵抗を限りなく減らすことです。

技術陣が苦心のすえに探し当てたのは、カルボン酸塩という素材だったといいます。簡単にいうと石鹸のような成分で、天然にあるようなものだそうです。合成の界面活性剤ではない。また、商品には香料も含んでいないとも聞きました。これなら消費者の抵抗感も少ないはずですね。だからこそ、先に触れたように「こんな商品があったのか」という反響に直結したのでしょう。

ゴールが最初に掲げられていれば、なんとか道筋をつけられる可能性は高まる。今回の事例はそのお手本のようなものと、私は思います。もしハナから「アルカリ性じゃないと無理でしょ」と諦めていたら、こうした商品を世に送り出すことはできなかったはずですし、技術陣がどうにか適切な素材を見つけ出そうとは決してならなかったとも推測できます。

社内の反対を乗り越えて…

ゴールを掲げる意味と効果!(株式会社丹羽久)

ゴールを掲げて開発メンバーが踏ん張った。それにしても、よくこれを開発しきったなあ、と感じ入る商品でもあります。

社内では反対の声もありました。「マーケットがちいさすぎる」「どれだけ売れるのか」というふうに……

それでも反対の声をはねのけて、開発を続けられたのは?

「社員の家族へのヒアリングでした。『そういう商品なら使ってみたい』という言葉が届いたんです。それを励みに、自信を抱きながらつくり上げました」

ここで考えるべきは次の点かと思います。マーケットがちいさすぎるのはなぜか、使うにかなうだけの商品が登場していないからと捉えることもできるわけです。今回の商品領域はまさにそれだった。だったら「使いたい」と強く感じさせるような商品を完成させればよいわけです。

第14回の電動車椅子「WHILL」の話を思い出してみましょう。長い距離を歩くのが困難な人は、シニア層を含めて多数いるはずなのに、電動車椅子の市場は振るわず、新たな商品を開発する機運は全く存在しませんでした。そこにベンチャー企業であるWHILLが、物理的にも心理的にもハードルを下げる、高性能でスタイリッシュな電動車椅子を世に出した。すると国内だけでなく海外でも大きな注目を浴び、現在では空港や観光地などで幅広く導入されていますね。つまり、見た目に現れている市場規模だけでは、そのマーケットに潜む真のニーズは測れないということだと思います。

今回の「住まいの魔法のスチーム レンチン! 電子レンジの洗浄剤」も、この「WHILL」と同じような話でしょう。「だったら、家電メーカーも消費者も納得できるものを、自分たちの手でつくるまでだ」というところにおいて……

この商品、発売当初はホームセンター中心に卸していましたが、大手スーパーマーケットからの受注も生まれ始めているそうです。不便とストレス解消型の商品はやっぱり強い、とも感じさせますね。

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