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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第93回)

「正解」はどこにあるのか!
(株式会社アピックスインターナショナル)

「正解」はどこにあるのか!(株式会社アピックスインターナショナル)

この連載で私は、「プロダクトアウト回帰にこそ、強い商品を投入できるカギがある」と繰り返してきました。

プロダクトアウトというのは、商品開発者の考えを優先させたモノづくりのこととされ、その対義語はマーケットインです。こちらは、買い手のニーズを優先させたモノづくり、となります。

こう聞くと、マーケットイン型のほうが顧客ニーズにピントを合わせた商品開発にできそうで、商品がヒットする確率は高いように思えますね。プロダクトアウト型はしばしば、作り手の独りよがりな商品開発になりがちとも指摘されますし……。

でも、話はそんなに簡単ではありませんね。モノづくりを続けてきた皆さんでしたらご経験があると思いますが、消費者に「次になにが欲しいか」と尋ねて、そこから得られた答えどおりに商品をつくっても、必ずしもヒットしません。いや、ヒットしないで商品が埋もれてしまう可能性のほうが高いかもしれません。なぜそうなるのか。

これも何度も綴ってきた話ですが、消費者が「真に求めている欲求」というのはえてして消費者自身の意識の底に眠っていて、自分自身でも認識できていないし、言語化すらできていないものです。意識もできていないままのこうした真の欲求を、インサイトといいます。ということは、企業の側は消費者のインサイトを掘り起こす作業こそが重要になります。

それを完遂するうえで不可欠なのが、プロダクトアウト型の思考です。消費者自身も気づいていないけれど、彼ら彼女らが本当に求めているのはこういう商品なのではないか、と探り、作り手の側から世に問う。すると、消費者は「ああ、確かに自分はこういう商品を望んでいたんだ」となるわけです。

消費者を集めてグループインタビューをかけたところで、彼ら彼女らのインサイトは見いだせない。私はそう確信しています。答えは「作り手である自分自身の中にこそある」からです。商品開発者がみずから、消費者のインサイトがどこにあるか、仮説を導き、その仮説のもとでモノづくりに臨む。これが正しい意味でのプロダクトアウト型思考であると、私は考えています。

いやいや、消費者のインサイトを捉えようとするわけだから、それは広い意味でのマーケットイン型思考と表現していいのではないか。そう考える方もいらっしゃるかと思います。でも、私はそうは捉えていません。消費者のインサイトに刺さる商品を完成させるうえでは、作り手側の「この商品は誰がなんといおうと、こうあるべきだ」という強い意志が不可欠です。ちょっと理屈めいた物言いになって恐縮ですが、あくまで「正解」は開発者の中から湧き上がるものであることを忘れてはならない。

とはいっても……。そんなに簡単に「正解」を導けるモノではありませんね。商品の作り手がこうしたプロセスを完遂するには、かなり難しさを伴うのは確かです。そこには不安も付きまといますし。

いい事例があります。プロダクトアウト型の思考を貫いて、ヒットを遂げた、あるキッチン家電の話です。

できる機能は、ひとつだけ

「正解」はどこにあるのか!(株式会社アピックスインターナショナル)

「レトルト亭」という商品で、開発したのはアピックスインターナショナル。決して大手家電メーカーの話ではありません。

これ、なにができるキッチン家電かといいますと、お湯も電子レンジも不要で、レトルトパウチ食品を温められるというもの。本体は昔ながらのトースターのような姿で、トースターと同じように本体上部に長方形の穴があいています。そこにレトルトパウチを突っ込んで、スイッチを入れると、あとは放っておいてもレトルトが温まるという商品です。

できることは、もうそれだけなんです。レトルトをお湯やレンジなしで温められるというだけ。値段は7000円台半ばです。人はたったそれだけのためにお金を払うのでしょうか。いや、それが思わぬヒットとなっているんです。

昨年(2021年)にクラウドファンディングで公開となったこの商品、短期間の間に2255万円超もの支援を集めました。昨今のクラウドファンディングは公開件数が多く、人気が分散する傾向にあるだけに、2200万円を超える支援というのはかなりの反響であると思います。

ただし、この商品、クラウドファンディングの支援者に商品を発送した直後、大きなアクシデントが起きました。「レトルト亭」でレトルトを温めたら、レトルトの袋が破損して中身が飛び散ってしまったという話が、ネットを賑わせたんです。新しい商品にとって、ある意味、致命的なトラブルと感じられましたが、同社はすぐさま原因究明を急ぎ、追加部品を送り、本体に装着してもらうことで、この問題を解消しています。

それでも、こうしたトラブルというのは、たとえ問題解決がなされてもその後の売れ行きにマイナス要素となりがちですね。しかしながら、「レトルト亭」は、今年(2021年)初めの一般販売開始時に、計画の6倍ほどの受注があるなど、マイナスを跳ね返すような動きとなっています。おそらく、トラブルに即座の対応をみせたために消費者の困惑や不安が軽減されたこと(後述しますが、ユーザーからもたらされたトラブル情報に即対応したのは大きかった)、それと商品自体の新規性が高かったこと、この2点が一般発売スタートの場面で追い風となったのでしょう。

商品の説明はこのくらいにして、ここからは、今回の本題である「レトルト亭」の開発プロセスを順にたどっていくことにします。この商品の開発担当者ご本人に話を聞いてきました。

まず、なにをおいても確認しておきたい。「レトルト亭」って、プロダクトアウト型の開発だったのですか、それともマーケットイン型の開発だったのでしょうか。

「完全なプロダクトアウトですね」

ああ、やはりそうだったのですか。

「2020年からコロナ禍が広がるなかで、多くの人は自宅ですごす時間が増えましたね。そうした環境下で、レトルト食品の売れ行きが高まっているというニュースを目にしたのがきっかけでした」

でも、それだけでは、いきなり「レトルト亭」のような商品をゼロからつくりあげようとは、なかなか思い立ちませんよね。

ここで考えたんです。レトルト食品って便利ですが、その中に『不便な要素』は本当にないのだろうか、と……

そこがスタートだったといいます。私にはとても大きな意味のある発想に感じられました。レトルト食品のことを普通に考えれば、もう便利の塊のような存在なわけです。そこに不便な要素があるかもしれないとは、ほとんどの人は思いもしないでしょう。ページ冒頭で綴った話に戻せば、たとえばレトルト食品を食べつけている消費者を集めて質問を重ねたところで、「レトルト食品にも不便さはあります」という答えはきっと得られないのではないかと、私は推測します。

「私たち自身でも、答えにすぐ行き着いたわけではありませんでした。でも……」

レトルト食品を何度も使ってみるうちに、ハッと気づいたそうです。

「使う頻度が高くなるほど、そこに『不便』があることがみえてきたんです」

それは「温めるのが、実は面倒」という部分でした。

社内では賛否両論が渦巻いた

「正解」はどこにあるのか!(株式会社アピックスインターナショナル)

では、すぐに「レトルト亭」の開発にゴーサインは出たのでしょうか。

「当社のトップマネジメント層との議論で、賛否両論が噴出しましたね」

どういうことか。「レトルト食品は、もうすでに便利な存在だろう」「お湯くらい沸かせよ」という反対意見が続出したというんですね。ただし、それとは逆に「この企画、いいよね」という声も一方で挙がったそうです。

「そうした賛否両論を耳にして、『そういうことか』という発見があったんです」

それは……。ジェネレーションギャップがそこにある、という分析でした。年齢の高い社員にすると、レトルト食品が登場して生活が便利になったという記憶がある。つまり「レトルト食品は、それ自体が便利だ」という強いイメージをいまも抱いているんですね。

一方、比較的若い年代の社員にとっては、生まれたときから当たり前のようにレトルト食品があるわけで、その使い方がもっと便利になるなら嬉しい、とごく自然に捉えられるわけです。

「若い年代の人は、電子レンジでそのまま温められるレトルト食品がいくつも出てきたことで、より便利になったのを実感していますね。でも、レンジアップできないレトルト食品もまだまだ多く存在しています。だからこそ、『もっと便利になるなら、それは嬉しい』とごく普通に感じるのではないか、と推察しました」

平行線をたどるともいえそうなこの議論を、どう収めたのでしょうか。

「いきなり家電量販店で売るのではなくて、クラウドファンディングにかけて反応をみませんか、と提案しました」

なるほど……。クラウドファンディングとは本来、こういう場面のためにあるものですよね。世の中に広く受け入れられるかどうかわからないが、こういうプロジェクトに挑みたい、というふうに。その意味で、この判断は正しかったと思わせます。

そして、実際にクラウドファンディングに臨んだ結果、先に触れたとおり、2255万円超もの支援を集めるに至りました。

「さすがにここまでの反響とは、思ってもいませんでした」

クラウドファンディングの公開にあたって、なにか仕掛けたりしたのでしょうか。インフルエンサーと呼ばれるような情報拡散に長けた人物にそっと依頼したりですとか……。

「いえ、いくつかのメディアに公開情報を提供したくらいです。ただし、ひとつだけ意識したことはあります」

それはなんだったのでしょうか。

「この『レトルト亭』に興味を抱いてくれるのは間違いなくガジェット好きだろうという確信はありました。だから、ガジェット好きの閲覧数が多いウェブ系のメディアには強く掲載依頼しましたね」

それはいい戦術だったと思います。クラウドファンディングに限らず、中堅中小企業がメディアにプロモーションをかける際には、ただ単に広く網をかけるというのはコスト的にも人手の問題的にも難しいですからね。まずどこを狙うかを絞ることが有効です。

「レトルト亭」の担当者は、ガジェット好きの消費者そうに強いメディアに、と照準を定めた。そこがよかったのでしょう。そのメディアは情報を取り上げ、実際、そこから人気に火がついたようです。

トラブルに即座に対応

「正解」はどこにあるのか!(株式会社アピックスインターナショナル)

ここまでは予想を超えて順調な滑り出しでした。ところがクラウドファンディング終了後に書品を発送した直後、本体で温めている途中のレトルト食品の袋が破損するというトラブルの情報が届きます。本文冒頭で触れたとおりです。

かなり深刻なアクシデントだと思うのですが……。

「最初は原因がわからなかったんです」

開発担当者によると、考えるべき要素はかなり多かったそうです。そのときの室温ひとつも関係するのでは、と推測した。

「私たちは、レトルト食品の種類によるのでは、と仮説を立てました」

テストを繰り返しながら、食品メーカーに問い合わせもしたところ、「中に入れる素材にもよるが、実際に製品にしてみないと不明なところもあって、これが原因と断定することはできない」との回答だったそうです。

ではどうするか。担当者は「熱と圧力」が主因と踏まえて、レトルトの袋を本体ではさみこむ構造を改めると同時に、熱を逃がす部品を追加することを決めました。

そして、急いで追加部品を製造し、クラウドファンディングで「レトルト亭」を手にしていたユーザー全員に発送しました。

「対処策を見いだしたのが2021年の12月初旬でした。そしてその月のうちに部品をユーザーに発送しました」

コストがかさむことを度返しして、担当者自身に伝手のあった国内の金属加工メーカーにすぐさま製造してもらったそうです。

こうした対応が功を奏したのでしょう、トラブルは解消、その後の一般発売への影響も食い止めることができています。トラブル発生時にはネットで炎上の気配もみせていましたが、ネットユーザーは企業のその後の取り組みもちゃんと注視しながら、冷静に評価したという話なのだと感じます。

これ以上の機能は要らない

「正解」はどこにあるのか!(株式会社アピックスインターナショナル)

ここで、念のために確認しておきたいことがあります。「レトルト亭」はレトルト食品を温めるだけの、いわば一発芸型の商品ですね。確かにこうした一発芸型のキッチン家電のヒットは、ここ10年ほどのトレンドとなっていますが、それにしても社内で反対はなかったのでしょうか。

「もちろん、そういう意見はありました。レトルト食品を温めるだけでいいの? と……」

それにはどう反論したのですか。

レトルト食品に不便を感じている人からすれば、『これ以上の機能は要らない』んです。
複雑な機能をつけたところで、『お客さんからすれば、なにができる家電なのか、わからなくなります』そう説得しました

そのとおりですね。一発芸型のキッチン家電が注目され続けている理由は、まさにそこにあるわけです。自分にとって必要な機能だけが欲しい。ほかにあとなにを買い揃えるかは、自分の自由にさせてほしい。そう考える消費者が増えているわけですから。

もうひとつ、この「レトルト亭」を実際に手にして感じ入ったのは、この商品の構造です。低温ヒーターを内部に備え、あとは古典的なキッチンタイマーのようなダイヤルがあるくらい。枯れた技術だけでつくられた商品なんです。

「確かにもう、ローテクの塊のような家電なんですよ」

それでいて、生活の一部に新しさをもたらすような感覚を抱かせる商品であるというのもまた、痛快な話に思えますね。

「本当はもっとやりたいこともあったんです。たとえば、温度センサーをより高度なものにするとか……。でも、価格との兼ね合いを考えると、これが正解だという判断を最後は下しました。ローテクも捨てたものではありません、いまも生きながらえている技術ということは、機能が安定しているわけですから」

さて、実際の売れ方なのですが、ガジェット好きが買い求めた以外にも動きが出ているようです。単身赴任している男性、あるいは高齢の親がいる家族が「コンロの火を使うより安心」と購入するケースもあるらしい。思わぬ消費者層をつかめた、というのも、ヒットの要因だったのですね。

最後に……。なぜ、ここまでの強い商品をつくれたのか。改めて問いたい。

当社は後発の家電メーカーです。ナンバーワンはまず獲れません。ならば、マスはあえて狙わない。ピンポイントでの戦いにこそ勝機があると考えたのが大きかったのかもしれません

さらにこうも語りました。

「競合メーカーが数多くいる中では、『自分たちはここにいる』という旗を振らなければいけないんです。『あなたのための商品がここにありますよ』と……」

とても共感できる言葉であると、私は思います。そうした「旗」こそが、超大手を含む、数々の企業に対峙できる武器になるはずです。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分
析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっ
ている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」
(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、NTT東日本「経営力向上ラボ」、
家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地
方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」な
ど、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

ANA国内線「北村森のふか堀り」監修

経済産業省 北海道経済産業局 地域ブランド創出支援事業 チームリーダー
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)

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