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意外と知らない知的財産権(第2回)

海外進出における留意点~特許編~

海外進出における留意点~特許編~

海外でも日本製品のファンは多く、日本の技術力には高い評価が与えられています。そのため、日本企業が海外に進出する際には、模倣品の出現等のリスクに備えておく必要があります。
リスクを低減するための手段として特許権の取得は有効な手段の一つですが、海外における特許権の取得や維持には多額の費用がかかりますから、第1回の記事でも述べたとおり、やみくもに権利取得をすることなく、海外進出の目的や進出形態に応じた対策を講じることが求められます。

海外にはパテントトロールや悪徳ブローカーのような知的財産権を糧に不当な利益を得ようとする者がいます。海外進出には通関や決済リスク等の中小企業にとってハードルの高い様々な問題がありますが、知的財産権に関する検討・対応を疎かにすると、製品の製造販売自体が中止に追い込まれたり売上が減少したり巨額の損害賠償金(例えば、ミノルタ・ハネウェル特許訴訟では1億2750万ドル)が発生するなどの重大な被害も想定されることから、自らが実践できる知財リスク低減手段は講じておくべきです。

例えば、新商品を開発し日本特許を取得して販売したところ好評だったため、海外にも進出したところ、しばらくしてその国で模倣品が出回ったという場合、日本のみで特許を取得していても模倣品を排除できません。

筆者は、これまで述べ数百人から知財の相談を受けてきましたが、日本で特許を取得していたら他の国でも独占排他権がある又は日本特許取得から何年経っても他の国で特許を出願・取得できると思い違いをしている方が多数いました。
しかし、特許権の効力が及ぶのは原則的に国あるいは国際機関(欧州特許庁等)毎となりますし、第1回の記事でも紹介したとおり、優先権制度を利用できる期間は限定的です。論文等の発表をしていなくても、特許公開公報や特許公報が発行された時点で公報記載事項は公知となる点にも留意する必要があります。

特許権の成立、変動や効力等は各国ごとに独立しているとの原則の下、特許制度は各国ごとに制定・運用されています。したがって、特許に関わるような新製品や新商品を海外で製造ないし販売しようとする場合には、進出先の法制度・運用の理解に努め、海外市場における競争優位性を確保するため、日本での権利取得の如何にかかわらず、必要に応じて当該国での特許権や実用新案権を取得することも求められます。

知財リスク低減手段の一例

知財リスクのうち、本稿のテーマである技術上のアイデアを保護する特許に関するリスクとして、

例えば、

(1) 出願が後れたため、特許取得要件である新規性が喪失し権利取得が不可能になった
(2) 第三者が先に出願して登録してしまった
(3) 取得した特許の権利範囲が狭く侵害品・模倣品を排除できない
といった自社のアイデア保護に関するものや、

(4) 自社製品が他社の特許権を侵害していた
といった他社の権利に関するものなどが挙げられます。これらは海外に進出する場合に限らず国内でも同様に生じるリスクですから、基本的なリスク軽減手段も共通にするところです。

すなわち、(1)(2)については、国内・国外を問わず展示会への出展や製品の販売等による公表の前に出願の時期を検討しておくことが必要です。(3)については、弁理士等の専門家を活用しつつ事業計画等も考慮して自社製品だけでなく予想される模倣品もカバーする広い権利の取得に努めることが望まれます。
(4)については自社製品に用いられる技術を分析のうえ当該技術についての特許権や実用新案権の存否を事前に調査しておくことが挙げられます。特に海外での事業展開に着目すれば以下のような特有の留意点があります。

外国出願及び権利取得の留意点

海外における特許権や実用新案権の取得・維持・権利行使には多額の費用が発生しますので、進出国ごとに事業規模、競合他社(特に製造業者)の存否および他社による実施可能性、知的財産に対する権利・遵法意識の強さや法制度等の充実度等を踏まえて権利取得を目指す国を選定することが重要であり、適宜、当該国の実情に通じた専門家への相談も活用すべきです。

特許協力条約(PCT)に基づき全ての加盟国を指定して国際出願(PCT出願)を行えば、特許性に関する国際調査や国際予備審査の結果を得ることが可能で、最初の出願日(優先日)から原則30ヶ月以内に国内移行(翻訳文提出)手続を採ることができるという猶予が与えられますので、これらの調査(審査)結果や猶予期間を利用して真に権利取得を目指すべき国を絞り込むこともできます。なお、出願国が少数にとどまる場合には、国際出願の方が費用や早期権利化の点でデメリットになり、当該国へ直接出願した方が良いこともあります。台湾等の非加盟国は国際出願でなく直接出願することになります。

国際出願したら世界中で特許権が得られる又は1つの出願で世界中の全ての国に権利が及ぶ国際特許があると思い違いをされている方もいらっしゃいますが、現在のところ国際出願において指定した国(指定国)それぞれにおいて権利化手続を行う必要があります。指定国でも権利化手続を途中で断念した国や指定国以外の国では権利が及びません。

外国で特許権を取得するためには、当該国が指定する言語での翻訳文を提出する必要があるため、例えば、日本出願を行う当初から翻訳のし易さを考慮して明細書を作成しておく等の対策が考えられます。

国によっては特許対象となる発明の種類が日本と異なります。特許出願の手続や要件には各国ごとに異なる点があります。例えば、日本において特許権を取得するためには出願日から3年以内に出願審査の請求を行う必要がありますが、このような審査請求制度を採用しない国(例えば、米国)や、審査請求の期間が3年以上である国(例えば、ドイツ)もあります。また、出願前に展示会等で発表した場合の救済規定である新規性喪失の例外を認める国は多数ありますが、その適用要件は国により異なります。例えば、中国では、例外適用を受けられるケースが、中国政府主催又は認める国際展示会で初めて展示された場合等、所定の場合に限定されています。

このように外国に出願する際に留意すべき点は多岐にわたりますので、弁理士に依頼する際には、どの国で権利化したいのか、発表のタイミングや場所、将来の事業計画も含めてご相談されることをお勧めします。

侵害調査の留意点

海外進出における留意点~特許編~

特許権や実用新案権の成立、変動や効力等は原則として各国ごとに独立しているため、権利侵害の前提となる特許権等の存否や権利範囲の調査も各国ごとに行う必要があります(なお、例外として、欧州統一特許のような広域にわたって成立する特許もあります)。
多くの国において、日本のJ-PlatPatに相当するような特許検索システムを整備しており、日本国内からもインターネットを介して利用可能ですので、自らが実践できる知財リスク低減手段として積極的に活用し、自身での調査や弁理士による調査を事前に行っておく必要があります。特許の文章は独特なので、権利範囲を読み間違えないよう、弁理士に公報の読み方をレクチャーしてもらうことをお勧めします。

権利化に求められる進歩性の程度や、特許が付与される対象(例えば、ビジネスモデル特許が認められる範囲)、権利が付与されるまでに要する期間等は各国ごとにまちまちですから、一度の調査では足りず、また、日本では進歩性が低いと思われる発明でもその国で権利が有効に成立している場合もありますから注意が必要です。

改正等について

本記事の内容は、2019/5/7現在の内容です。知的財産の法律は毎年のように改正があり、例外規定も多く、各国で改正のタイミングが異なるのでご注意下さい。また、国際出願のルール、加盟国等も変わるのでご注意下さい。

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