今さら聞けないインボイス制度の基礎
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2023年10月1日からインボイス制度が始まります。
しかし、「そもそもインボイス制度って、なに?」や「うちは免税事業者だから関係ないよね」という中小企業経営者の方々も多いのではないでしょうか。
インボイス制度は消費税の免税事業者だからといって、全く関係ない制度ではありません。
しかも2023年10月1日からのインボイス制度に対応するためには、原則として2023年3月31日までに納税地を所轄する税務署長に登録申請書を提出する必要があります。
本記事では、インボイス制度導入直前期の今、中小企業経営者の方が押さえておきたい「今さら聞けないインボイス制度の基礎」について解説します。
1.インボイス制度とは?
(1)消費税の納税方法
インボイス制度を知るためには、まず消費税の納税方法を理解する必要があります。
消費税の課税事業者が消費税の課税額を計算する際に、以下の計算式が適用されます。
売上の消費税 – 仕入れや経費の消費税額 = 納付する消費税額
(売上税額) (仕入税額) (納付税額)
この計算式から分かるように、消費税の課税事業者は、売上にかかる消費税額を全額税務署へ納付する必要はなく、その商品を販売するために自社が仕入業者へ支払った消費税額を控除することが可能です。
例えば、商店において、1,000円の商品を販売し、販売価格の10%である100円の消費税を受け取ったときのことを考えましょう。
そのまま考えると、その商店は税務署に100円の消費税を納税する必要があります。しかし、その商品を問屋から800円で仕入れており、問屋へ仕入額の10%に当たる80円の消費税を納めていた場合は、この80円が控除され、納税する必要のある消費税は100円から80円を控除した20円となります。
インボイス制度適用前までは、このような仕入業者へ支払った消費税額の控除(以下、「仕入税額控除」といいます)を受けるためには、法定事項が記載された帳簿および請求書等を保存することが要件とされていました(請求書について、以下、「区分記載請求書」といいます)。
しかし、インボイス制度適用後については、この仕入税額控除を受けるための要件が変更となるのです。
(2)インボイス制度
それでは、仕入控除を受けるための要件がどのように変更になるかを見ていきましょう。
2023年10月以降は、従来の区分記載請求書の代わりに「適格請求書」(インボイス)などと帳簿の保存をすることが新しい要件となります。
適格請求書とは、税務署長に対して申請を行い、登録を受けた(以下、「インボイス登録」といいます)適格請求書発行事業者が発行する一定の事項が記載された請求書や納品書その他これらに類するものをいいます。
以上のとおり、インボイス制度とは、一言でいうと「消費税の仕入控除を受けるための要件変更」であるといえます。
2.登録しない場合の取引先への影響
(1)免税事業者にとってのインボイス登録
課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者は、一定の場合を除き、その課税期間における課税資産の譲渡等について、納税義務が免除されます。
これらの事業者を免税事業者といいますが、免税事業者が適格請求書を発行するためにインボイス登録すると、課税事業者となり消費税の納税義務が発生します。今まで納付が不要だった消費税を納付する必要が出てくるのです。
この点だけ考えると、免税事業者にとってはインボイス登録をするメリットは無いように思えます。
それでは免税業者はインボイス登録を検討する必要は無いのでしょうか。
答えは「No」でしょう。
2023年10月1日以降、取引先から適格請求書の発行を求められる機会が多くなると思います。その際、適格請求書を発行できるのはインボイス登録された適格請求書発行事業者だけとなりますので、インボイス登録を受けていなければ、取引先に対して適格請求書を発行することができません。
その結果として、取引先は従来受けられていた消費税の仕入控除を受けることができなくなる(注1)のです。
(注1)インボイス制度開始後、6年間(2023年10月から2029年9月まで)は、免税事業者等からの課税仕入れについて、一定の条件を満たした場合に仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています。
免税事業者の皆様にとっては、取引先への影響を考えつつ、自社のインボイス登録を検討する必要があるでしょう。
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(2)適格請求書を使用しない簡易課税制度
取引先が課税業者だからといって、必ずしも適格請求書の提出を求められるわけではありません。
消費税の申告方法には、原則課税の他、簡易課税制度という制度があります。
簡易課税制度は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の中小事業者の納税事務負担を軽減するために設けられた制度で、仕入税額控除の計算を簡素化できるようにしたものです。
簡易課税制度を選択した場合、消費税の課税額を計算する際に、以下の計算式が適用されます。一見、通常の課税業者と変わりはないように見えますが、仕入税額控除を受ける際の計算が簡略化されるうえ、適格請求書の保存も必要とはなりません。
つまり、取引先が消費税の課税業者であったとしても、簡易課税制度を選択している場合は適格請求書の提出を求められないことになります。
(簡易課税制度を選択した場合の仕入税額控除額)
売上の消費税 – 仕入れや経費の消費税額(注2) = 納付する消費税額
(売上税額) (仕入税額) (納付税額)
(注2)簡易課税制度を選択した場合、以下の計算式で算出
仕入れや経費の消費税額 = 売上の消費税額 ✖️ みなし仕入率
ここで使用するみなし仕入率とは、業種ごとに定められた仕入率のことです。例えば卸売業であれば、「売上の90%程度の仕入額がかかっていて、それに対して消費税を払っているだろう」ということで売上の消費税額にみなし仕入率90%をかけることで簡易的に仕入税額控除を簡易的に行うものです。
具体的には、2,000万円の売上がある卸売業者(軽減税率の適用なし)の場合、売上にかかる消費税は10%の200万円となりますが、そこから、みなし仕入額(2,000万円✖️90%=1,800万円)の10%である180万円の仕入税額控除が受けられることになり、納付税額は20万円(200万円 – 180万円)となります。
業種別のみなし仕入率は下表のとおりとなります。
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(出典:国税庁ホームページをもとに筆者作成)
3.インボイス登録を受けるかどうかの判断について
(1)インボイス登録を受けるべきか?
インボイス登録のメリット・デメリットを以下に簡単にまとめてみます。
◉インボイス登録のメリットについて
- 取引先(免税事業者、簡易課税制度選択事業者を除く)から適格請求書を求められた時に提出することができ、インボイス制度を理由とした取引先からの取引条件の変更要求リスクを回避できる。
- 適格請求書を発行することで、企業としての信用力が向上する。
◉インボイス登録のデメリットについて - 自社が免税事業者であった場合、インボイス登録をすることで課税事業者となり、消費税の納税義務が生じる。
- 確定申告の際、納税事務が煩雑になる。
例えば、自社の取引先が免税事業者や簡易課税選択事業者に限られる場合は、インボイス登録をする必要は少ないように考えられます。
一方で、原則課税事業者との取引が多い場合は、インボイス登録の必要性は高まるでしょう。
自社の取引先が、どのようなスタンスであるのか、インボイス制度が始まる前に確認しておくことが重要だと考えられます。
(2)インボイス登録申請に際して
繰り返しとなりますが、2023年10月1日にインボイス登録する場合は、2023年3月31日までに登録申請を行う必要がある点に留意してください。
登録申請を行うためには、納税地を所轄する税務署長に適格請求書発行事業者の登録申請書を提出する必要があります。その際は、e-Taxも利用可能です。
(※)制度については、変更される可能性もありますので、最新の情報等については必ず国税庁のホームページ等でご確認ください。
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