インド人システムエンジニアは今
インドの人口は13億9,341万人(2021年世界銀行資料より)であり、近い将来、中国を上回り人口が世界最多の国となることが見込まれています。少子高齢化に苦しむ日本とは対照的に経済成長率も8.68%(2021年)と新興国の中でも上位の数字を記録するなど、現在、もっとも勢いのある国の一つといえるでしょう。
また、インドはアラビア数字発祥の国ともいわれており、理系教育が非常に盛んに行われています。さらにインドは、ヒンディー語と英語が連邦政府の公的共通語に指定されており、いわゆるエリート層と呼ばれる人々は高いレベルの英語教育も受けているため、ネイティブレベルの英語力があります。
このような高い教育レベルにより輩出される英語が堪能な理系人材は、インド国内のみに留まらず、日本を含む世界各国でシステムエンジニア(以下、「SE」という)として活躍しています。
1.インド人SEとは
(1)インド人SEとの協働
もう20年以上前の話になりますが、筆者が勤務していた金融機関(以下、「A銀行」)でインドの会社が開発したパッケージシステムを導入することが決定しました。その頃、システム開発部門に所属していた筆者は別部門に異動するまで6年ほどの間、多くのインド人SEと働いておりましたので、その頃の経験を少しご紹介します。
当時は一部の外資系企業を除き、インド人SEと国内で協働する機会はまだ少なかったと記憶しています。
金融機関のシステムは正確性を第一に設計されるようになっており、当時は大きな汎用サーバを使用した汎用系システムを自社開発することが一般的でした。そのような中、A銀行では、基幹システムである勘定系システムを従来の汎用系システムからWindowsベースのサーバを利用したオープン系システムへ移行することを決定しました。また、アプリケーションについても、通常、金融機関が行うような自社開発ではなく、インドに本社を置くB社製のパッケージシステムを導入することとしました。インド製のパッケージシステムを使用する場合、日本独自の金融慣行に則った仕様の変更が必要になること、アプリケーションをすべて日本語に変更する対応などが必要となります。さらに経営層からは、短期間でのシステム開発を要請されていたため、非常に困難なプロジェクトとなりましたが、結果としては、予定どおりの納期で開発を完了することができました。
国内のシステムベンダーは比較的保守的であり、そのような難易度の高いプロジェクトはそもそも受注しないのではないかと思われるほどのものでしたので、当時、A銀行が当該プロジェクトをB社に発注したことは正解だったと思います。
(2)インド人SEはどのような人材か
筆者の印象として、インド人SEは非常にタフな人材が多いと思っています。彼らは、与えられたタスクをこなすために、昼夜を問わずに仕事をしていました。前述したプロジェクトが完遂できたのも、そのようなインド人SEの気質によるものが大きかったと考えています。
一方で、日本人の我々から見ると不可能だと思えるような経営層からの要求も彼らは躊躇なく受けてしまうという側面もあり、結果として十分な品質の作業が約束どおりに行われないケースなども散見されました。
これは文化の違い、気質の違いから感じられる違和感かと思いますので、やはり異文化圏の彼らと協働して仕事をするときは、そのような違和感を理解する必要があることを痛感しました。
筆者はインド人SEと働いた経験から、「彼らは優秀なのでしょうか?」という質問をされることが非常に多いです。しかし、それは、「日本人のビジネスパーソンは優秀なのでしょうか?」という問いかけに似ています。皆さんもそのような問いかけをされた場合、答えに窮してしまうのではないでしょうか。
日本人のビジネスパーソンにも優秀な人とそうでない人が居るように、やはり同じインド人SEでも、優秀な人も居ればそうでない人も居ます。
ただ、きわめて優秀なSEは多く居ました。
日本の優秀な学生が就職活動をするにあたり、SEを選択する割合は大きいとはいい難いですが、インドでは多くの優秀な学生が理系大学に進学し、その後、SEの道を選択します。
選りすぐりの人材がSEとして働いていることに理由があると考えています。
これは、インドでは英語教育が盛んであり、ネイティブと同程度に英語ができる学生が多く居る影響が大きいでしょう。英語でのコミュニケーションを問題なく取れることで、彼らの目線はインド国内よりも世界各国に向いているのです。また、世界各国で活躍するためにインド人が優れているとされる数学的素養を活かすことのできるSEという仕事は非常に適した職種であり、ニーズも多いことから世界で活躍するSEを目指す学生が多くいるといわれています。
日本国内では、デジタルトランスフォーメーション(DX)の流行などもあることから、IT人材が慢性的に不足している状態が長く続いています。日本語で十分コミュニケーションが取れないなどの理由に加えて、近時は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、インド人を含む外国人SEの活用は限定的とならざるを得ない状況でしたが、今後は感染症の影響も小さくなることが予想されることから、多くのIT企業でインド人SEの活用をさらに活発化させる必要性が出てくるでしょう。
そのような中、インド人SEを確保するためには何が必要でしょうか。
その答えを導くために、彼らが描くキャリアプランを理解しておくことが肝要かと考えられます。
2.インド人SEのキャリア
(1)インド人SEのキャリアプランについて考える
彼らが世界を目指すのは、やはり待遇面でのインド国内と海外での格差が大きいからでしょう。最近こそ、インドは経済成長が著しいですが、平均年収という視点だとまだまだ欧米各国に及びません。
インドは貧富の差が激しく、職業によっても年収の格差がありインド国内ではSEの平均年収は他の職種の平均年収よりも突出して高いといわれています。
しかし、そのような状況においてもインド国内でSEとして働くよりも平均年収が高いアメリカなどの欧米諸国でSEとして働く方が高い年収を得ることが期待できます。例えば国内最高峰の工科大学であるインド工科大学(IIT)の卒業生には、GAFAを中心としたアメリカ企業は1500万〜3000万円、ヨーロッパ企業は800万〜2300万円などの年棒提示をして卒業生の獲得に乗り出しているというデータもあります。
(出典:https://asiatojapan.com/jgs/recruitment-employment-countries/india/iit2021-seminar-report2/)
また、海外で先進的なIT技術に触れることでSEとしてのスキルの向上も見込めるため、更なるキャリアアップも可能となります。
そのような理由から彼らは世界を目指すという話を多くのインド人SEが語っていました。
(2)20年前に日本でシステム開発を行っていたインド人SEは今
20年前、筆者とともに働いていたインド人SE数人に対し、現在の状況をヒアリングしてみました。
その結果として、日本の会社に就職し、日本人と一緒に働いている者やいわゆるFIRE(Financial
Independence Retire Early)を達成し、母国に帰り豪邸を建設し、悠々自適な生活を送っている者、アメリカやシンガポールなどで同じくSEとして活躍し続けている者など様々でした。少ないですが、B社にとどまり本社のあるインドに帰国した者も居ます。
驚くほど、彼らは活動の拠点を世界各国に移して活躍しており、皆、思い思いに自らのキャリアを積み上げている状況がうかがえます。
経済産業省は、2030年までに日本のIT人材は40万人〜80万人程度不足すると試算しています。
今後、少子高齢化が進んでいくことも考えると、日本国内のIT人材不足が日本人SEだけで解消される可能性は低いと考えられます。
そのような状況において、今後、優秀なインド人などの外国人SEを日本に呼び込む制度が必要になることでしょう。
コロナ禍が収束しつつある今こそ、インド人SEをはじめとした外国人SEが活躍できる環境を各企業が提供し、多くの外国人SEを日本に招聘することが、停滞している日本経済復活のための促進剤になるのではないでしょうか。
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