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  • 2023.01.11

インド映画で南アジアを知ろう

インド映画で南アジアを知ろう

巨大なインド映画の市場

世界でもっとも稼いでいる俳優は誰だろう?

雑誌Forbesはその問いに答えるため、「The World's Highest-Paid Actors」という特集を毎年掲載している。下図はその2021年版のリストだ。「ロック様」ことドウェイン・ジョンソンを筆頭として、マーベル映画でもおなじみのクリス・ヘムズワースやロバート・ダウニー・ジュニアなどいわゆるハリウッド俳優が8人入っている。

インド映画で南アジアを知ろう

出典:Forbes誌「The World's Highest-Paid Actors2021」

5位のジャッキー・チェンは言わずとしれた香港映画の大スターだ。日本人で知らない人はいないだろう。
しかし、4位の「アクシャイ・クマール」を知っている人はほとんどいないのではないだろうか?アクシャイ・クマールは100本以上の作品に出演してきたインド映画のトップ俳優の一人だ。コメディー映画「HOUSEFULL3」ではヨーロッパの選手に人種差別を受けたトラウマから「Indian」という言葉を聞くと極悪人格スンディーへと豹変してしまうサッカー選手サンディーを演じるなど、コミカルな役柄を得意とする。

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映画「HOUSEFULL3」 手前がアクシャイ・クマール

インド映画俳優がこのランキングに入るのは初めてではなく、過去にはサルマン・カーンやシャー・ルク・カーンなどもトップ10入りを果たしている。サルマン・カーンは自らの映画プロダクションを持ち、ベタなストーリー展開であるにも関わらず、なぜか泣かせる映画を作る名優である。また、シャー・ルク・カーンは「キング・カーン」の異名を持つインドのトップ俳優で、デリー大学で成績優秀表彰を受けたという頭脳派である。

インド映画は低予算感をダンスで補うシンプルなストーリーの面白可笑しい映画、というイメージを持っている人は少なくないだろう。しかしながら、上述のように、インド映画の予算規模は俳優の収入が世界のトップ10入りをするまでになっており、日本映画を既に凌駕している。2022年10月から日本でも公開された映画「RRR」の製作費は55億ルピー(2022年12月4日現在のレートで約90億円)であり、これより製作費が大きい作品は日本映画の歴史上「ファイナルファンタジー」のみである。

このような予算規模を確保できる背景として、インド経済の発展があげられるだろう。インド共和国の人口は、2023年には中華人民共和国を追い越し世界第1位となると予想されている。また、一人当たりGDPも2011年の1458ドル、2016年の1732ドルから、2021年には2277ドルへと成長し、その経済規模は質量ともに拡大した。Forbes誌の「World`s Billionaire List」(いわゆる世界長者番付)でも、アダニ・グループ会長のゴータム・アダニ氏が一時2位に躍進するなど、その存在感が高まっている。

その広大な市場は、インド西部のムンバイ市を中心としたヒンズー語のボリウッド映画(ムンバイの英語名
Bombayの「B」をハリウッドと組み合わせた造語)に加えて、南部タミル・ナドゥ州を中心としたタミル語のコリウッド映画など複数の映画文化の存在を可能にしている。例えば、長らく日本におけるインド映画の代名詞だった「ムトゥ踊るマハラジャ」はタミル語映画、近年ブームを巻き起こした「バーフバリ」はテルグ語映画である。日本の感覚で、1つの自治体内で映画文化が成立するというのは理解がしにくいが、タミル・ナドゥ州のみで7,000万人の人口を擁しそれだけで国家レベルの規模感があるのである。

さらに、近隣の南アジア諸国ではインド映画が娯楽として広く受け入れられている。例えば、私は以前インドの隣のバングラデシュ人民共和国に住んでいたが、バングラデシュの人々はインド映画を普段から観ているため、ヒンズー語をある程度理解することができる。
また、インド国内だけではなく見逃せないのはNRI(Non-Resident-Indian)やPIO(Person-of-Indian-
Origin)と呼ばれるインド国外に居住するインド人やインドにルーツを持つインド国籍以外の人々の存在である。

それらの人々の存在により、インド映画は中東やアフリカなどにも市場を持つ。近年はアメリカ合衆国におけるインド系住民の存在感も高まっていることから、インド映画俳優がハリウッド映画に出演する事例もある。有名な例では、「ジュラシック・ワールド」や「アメイジング・スパイダーマン」などに出演していたイルファン・カーンがいる。また、インド映画のトップ俳優の一人、プリヤンカ・チョープラーはインド映画俳優として初めてアメリカで連続ドラマ「Quantico」の主演をつとめたことや、アメリカの歌手ニック・ジョナスと結婚したことで話題となった。

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ドラマ「Quantico」

インドとアメリカのつながりは、俳優の交流のみにとどまらない。
ハリウッド映画、特にCGを多用したアクション映画を観た後は、エンドロールに注目してみよう。そうすると、たいていどこかに、インド人の名前だらけの部分が存在する。
インドのIT企業が、アメリカのIT企業の下請けをして発展してきたといわれるのと同じ構造で、インド企業が、アメリカの映画製作の下請けをしているわけである。

これらの会社はもちろん、ハリウッド映画だけを作るわけではなく、当然同じ技術をインド映画製作の仕事で使っていくことになる。つまり、今やインド映画はハリウッド並みの技術により作られていることになる。その技術力の高さは、「バーフバリ」や「RRR」などのアクションに活かされている。

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映画「バーフバリ」

インド映画から得られるもの

日本人がインド映画を観ると何が良いだろう。
その一つは、インド映画を観ることでインド人の思考回路を理解することができることだ。
例えば、様々な摩擦や違いがあるとはいえ、日本は多くの古典を中国と共有していて、中国史の知識も持っている。そのため、日本人は中国人をある程度理解することができる。一方で、ヒンズー教やインドの歴史を深く知っている人は稀だろう。そうした中で、インドは日本人にとっては理解がしにくい国になっている。それを解決する鍵の一つが映画である。

例えば、インド映画を観ていると、その強烈な海外志向を知ることができる。
インドの映画は、歴史ものでない場合、ストーリーのどこかで主人公が海外に行く場面がきわめて多い。例えば前述の「HOUSEFULL3」はそもそもイギリス在住のインド人家庭を舞台とする。

また、英語が社会的成功の鍵になっていることから、英語教育に対する渇望が強い。「マダム・イン・ニューヨーク」では、一家で唯一英語を話せないことがコンプレックスの主婦がニューヨークで英語教室に通う。主人公達がドバイで開かれるダンスコンテストに出場する「Happy New Year」のヒロインも英語が話せないことがコンプレックスで、主人公の話す英語っぽい話し方に惹かれていく。

「ヒンディー・ミディアム」では子供を、英語で教育をしてくれる私立小学校に入れようと躍起になる両親が描かれる。この両親は田舎の衣料品店経営で非常に裕福であるにも関わらず、上流階級ではないため、親の面接で落ちてしまうという設定も興味深い。
その続編ともいうべき「イングリッシュ・ミディアム」では、一人娘の英国留学の夢を自分の店を売ってでも叶えようと奮闘する父親をイルファン・カーンが演じている。

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映画「イングリッシュ・ミディアム」

インド映画は、インドの影の側面も教えてくれる。
日本でも公開された「バジュランギおじさんと、小さな迷子」は、パキスタンからやってきて親とはぐれてしまった口のきけない少女シャヒーダーを家に帰してあげるため、不器用なまでの善人であるバジュランギおじさんが奮闘する感動作だ。
しかし、その背景には深刻なインド-パキスタン間の対立がある。

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映画「バジュランギおじさんと小さな迷子」

シャヒーダーがモスクでお祈りをしようとするのを見つけてヒンズー教徒でないことに気が付いて主人公がショックをうけるシーンや、クリケットのインド-パキスタン戦を観ていてパキスタンの得点を喜ぶシャヒーダーに場が凍り付くシーンなどにそれが表れている。

サルマン・カーン演じる厳格なヒンズー教徒で菜食主義者の主人公が、葛藤しながらも、鶏肉を食べたがるシャヒーダーをイスラム教徒が経営するチキン店に連れて行ってあげる場面は、「Chicken Kuk-Doo-Koo」という曲名のダンスシーンとして描かれYouTubeなどで公式に公開されている。一見しただけではただの面白可笑しいインド映画の1シーンにしか見えないが、背景にはそうした重い文化対立があるのである。

「無職の大卒」という映画では、大卒が多くなりすぎて、高学歴でも仕事のない若者が出てきていることが見て取れる。この映画の悪役は、巨大建設会社グループの若き御曹司で、ひょんなことから別の建設会社に職を得ることができた主人公が自分同様、職になかなか恵まれない高学歴者と協力して立ち向かうこととなる。
インドは、多くの企業がファミリービジネスとして血縁を重視した経営を行っていることもあり、格差は激しい。本作はそうした生まれながら経営者の地位が約束された人々への、下剋上の物語ともいえる。

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映画「無職の大卒」

このように、インド映画を観ることで、南アジア世界をより身近に感じることができる。また、インド映画を観ることで、南アジアの人々と語り合う話題ができることだろう。日本でも近年はインド映画の上映が増えてきたほか、英語字幕に抵抗がなければインドの映画製作配給会社であるEros International社が提供する
「Eros Now」というインド映画配信サービスを観ることもできる。南アジア世界に興味のある読者にはぜひおすすめしたい。

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インド映画配信サービス「Eros Now」

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