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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第105回) 

「覚悟の旗振り」をする! その1(京丹波町の人々)

「覚悟の旗振り」をする! その1(京丹波町の人々)

今回と次回、2回にわたって、この秋から私自身が関わっているプロジェクトの話を綴ること、お許しください。今回は京都府の京丹波町の名産である栗のこと、次回は愛媛県の宇和島市で生産されている真珠のことです。どちらも地域行政が絡むテーマではあるのですが、中堅中小事業者の経営層の皆さんにもヒントとなる要素が多いと思い、ご紹介することにします。

京丹波と宇和島、2つの産品に共通しているのは、私が携わっている案件というだけではありません。次に挙げるような部分が同じです。

  • 生産量が激減している
  • 新たな価値を見いだすことが急務
  • 地域の団体戦で攻めようと意識がある

京丹波の栗にしても、宇和島の真珠にしても、地域ブランドとして一定の知名度を有していますね。でも、どちらも必ずしも順風満帆というわけではありません。過去の名声に頼って今後も地域産品として生きながらえられるのか、そこには不安も横たわっている。

だったらどうするか、という話です。それぞれの関係者に共通するのは「覚悟の旗振り」をしようと立ち上がった、という点にあると私は感じました。では「覚悟」とはなんなのか。2回の原稿を通して、そのあたりを詳しくお伝えしていきたいと思います。

まず今回は、前述の通り、京丹波の栗をめぐる話をしましょう。私など、最初は「京丹波の栗って、もう十二分にブランディングできているのではないか」とも感じていたのですが、実は深刻な課題がそこにあるというのですね。

それが栗の生産量の激減です。地元の関係者によると「減少どころか、滝が激しく落ちるような感覚」なのだそう。全盛期に比べると10分の1の水準に留まっていると聞きました。後継者不足、天候不順など、原因はいくつもあるようです。一方で、消費者からの人気は根強くあり、生産量の激減のために貴重な商機を逸してしまっている状況だといいます。このままでは、せっかくのブランド力を損ない、市場での存在感を失ってしまう可能性もあります。

矢継ぎ早に手を打ち始め…

「覚悟の旗振り」をする! その1(京丹波町の人々)

すぐ上の画像は、今年(2022年)10月の週末に地元で催された「京丹波マルシェ」の風景です。栗を用いたスイーツや料理が各ブースに並んでいました。焼き栗をその場でこしらえていたブースでは長い列が続き、50kgもの栗がわずか数時間で完売状態に。やはり人気は高いのですね。

「でも、このままではいけない」

自治体として栗の振興に力を入れ始めた、京丹波町のプロモーション戦略室の主査は、そう強調します。

私たちは、京丹波の栗がもつブランド力に甘えてきたのかもしれません。農家さんたちの奮闘にどこか委ねてしまって、『誰かが育ててくれるだろう』と考えてしまっていたところが正直ありました

でも、このままではいつか栗生産の文化は途絶えてしまうかもしれません。その危機感が、町の人々を揺り動かし始めたというのですね。
昨年(2021年)から京丹波町では、行政だけでなく生産者や販売者を含めて、なんとかしようという気運が生まれつつあります。

まず、ふるさと納税サイトでのクラウドファンディングを実行。地元生産者の支援とブランド育成をテーマに掲げ、目標額を上回る590万円超を集めました。これがひとつの起爆剤といいますか、勇気をもたらしたといいますか、地元の雰囲気は少しずつ好転します。
京丹波町のプロモーション室主査はこうもいいます。

この町の栗は、確かに『美味しい』ですし『甘い』。でもその先の『何か』をもっと明確にしないといけません。クラウドファンディングの成功は、それを考え、歩みを始める契機となりました

たとえば…。何人もの生産者たちが、栗を上手に育てるために研修に臨みました。草刈り、剪定、肥料やりなど、先達の技術をいちから学ぼうと動いたわけです。ある農家さんはこう話していました。

「学んだ先の農家さんは『大きな粒の栗しか出荷しない』と断言していました。栗そのものを味わうなら大粒のほうがいいし、そこに価値も生まれます。つまり『売り先を見てつくる』ことが大事と教わりました」

つくり方や売り方にまで、農家さんがちゃんと意識をもつことは極めて大事だと、私も思います。育てて獲って出荷すればいい、という話では、もはやないわけですね。

地元の公立高校も呼応した

「覚悟の旗振り」をする! その1(京丹波町の人々)

こうした取り組みが進むなかで、地元の高校も呼応しました。京丹波町で唯一の公立高校です。遊休農地を使って、生徒と一緒に栗農場を立ち上げることを決めました。同校の副校長はこう話します。

「年々減っている栗の生産に寄与できるだけではありません。生徒の喜びにもつなげることができるはずです」

高校の生徒だけでは管理は難しいですから、そこに町や農業公社も加わるといいます。つまりはもう、地域の団体戦であるわけですね。

先に触れた10月の「京丹波マルシェ」では、この高校の生徒たちが農作物や加工品を販売していて、ブースは大賑わいでした。高校の栗農場で何年か先に栗が実ったら、こうしたイベントで、栗の六次産品が生徒たちの手によって登場するかもしれません。地元に暮らす若い世代が、ほかならぬ栗に注目することになるのは、栗生産の未来にもつながる話であるとも思います。
京丹波町の人たちは、ここで手を緩めませんでした。さらに「全国初」という策にも着手しました。

最初の1カ月で100万円超

「覚悟の旗振り」をする! その1(京丹波町の人々)

今年(2022年)9月、京丹波町は、「店舗型ふるさと納税」をスタートさせました。
店舗型ふるさと納税というのは、オンラインで寄附を申し込むのではなくて、消費者がその地域まで足を運び、その地にある店舗で寄附をするという形態を指します。京丹波町の場合、町内の栗農場で受け付けるというもので、消費者が栗をそこで買う際に、現金などで支払うのか、それとも寄附の形を取るのか、選ぶことができるようになっています。寄附手続きはもちろん、その場で済ませられます。

この店舗型ふるさと納税、京丹波町での導入は「関西初」であり、また農場での実施としては「全国初」なのだそうです。
反響はどうか。農場主に尋ねてみると…。

「最初の1カ月で、寄附額にして100万円を超えました」

かなり上々の滑り出しですね。
ちょっと話が横道にそれます。私、ふるさと納税の在り方にはかねてから疑問を抱いてきました。その地域を応援するというよりも、ただ単にお得なものを手に入れられればいいと消費者が考えるきらいがあって、地方応援という理念にかなっているのかどうか、確信がもてないからです。

しかしながら、この店舗型ふるさと納税の場合、消費者はまず、その地域に行くことが前提になりますね。寄附する町の空気を知り、人と出会い、寄附することで産品を手にする…。この形であれば、(たとえ、お得に買いたいという動機が先行したとしても)地方応援の姿としては一定の意味をもつのではないでしょうか。
その意味でも、京丹波の栗を店舗型ふるさと納税で提供するという手は、おおいにありと感じました。農場主との会話もそこに生まれるわけですし。
この農場主が栗畑を背景に教えてくれた話ひとつ、私には印象的なものでした。

「健康に育てる、が私たちのテーマなんです。そうして育った栗には、噛みしめる瞬間の充実感が備わっていますから」

こうした会話からもまた、京丹波の栗を現地で入手する価値を感じさせました。

ベクトルを明示する意味を

「覚悟の旗振り」をする! その1(京丹波町の人々)

ここからは再び、京丹波町プロモーション戦略室の主査の話です。栗をめぐる取り組みは、こうしていくつも立ち上がっています。では、次に繰り出すべき手とはなんなのでしょうか。

「基礎づくりができたいま、はっきりとしています」

というと?

「ベクトルを示すことにあります」

生産者も販売者も、そして栗を使った産品をつくる事業者も、地元の関係者すべてがそれを求めているのでは、主査は考えているそうです。つまりは、京丹波町の人たちが同じゴールを見据えられるよう、しっかりとした旗を掲げるということですね。

「そうです。地域ブランディングとはすなわち、ひとつの方向をみんなで目指す作業にほかなりませんから」

ならばどうするか。ここで主査は「覚悟」という言葉を使います。

覚悟をもって、町が旗振りをできるか。そこにかかっているプロジェクトであると私は感じています

そうですね。私も同感です。この連載で何度も綴ってきました。こうした地域産品のブランディングではしばしば「差別化が大事」といわれますけれど、差別化というのは、結果的に生まれるものであって、最初から目指すものでは必ずしもないと、私は考えています。差別化の作業とは、よそを気にするものであって、ややもすれば自身の持ち味を忘れてしまいがちだからです。これも私が重ねてお伝えしてきましたが、各分野の商品が成熟の一途をたどる現状では、最初から差別化を狙う姿勢は、ブランディングのプロジェクトが袋小路に迷い込んでしまう危険性をはらんでいるとすら思います。

大事なのは、「自分たちが『唯一無二』と信じるものをきちんと大事にして、『それを強みと言い切る勇気』をもつこと」にあると考えます。それはつまり、主査のいう「覚悟の旗振り」なわけです。

誰もが驚く「旗」を掲げる

「覚悟の旗振り」をする! その1(京丹波町の人々)

私自身の話になりますが、京丹波町の栗を生かすプロジェクトに参画するのは、この秋からのことです。基礎づくりができたいまの段階からその次を目指す局面で、私が呼ばれました。京丹波の栗に携わるすべての皆さんと共有できるベクトル、目指すゴールをつくるお手伝いに私が入るということです。

では、私に課せられたものとは? 「町内だけではなく、よその地域の人も含めて、誰もが驚くような『旗』を提案する」ことにあると考えています。

今後の指針となる「旗」というのは、「そんなことができるの?(もしできるならすごいけれども…)」と人々をびっくりさせることが肝要でると、私は確信しています。すぐにでも実現しそうな目標、たどり着けそうなゴールでは、関係者が悩みながら歩みを進めるための「旗」とはなり得ないですし、プロジェクトの推進力としても不足です。
ここで思い切った「旗」をつくり上げることができるか…。地元の皆さんと力を合わせて頑張っていきたいと思います。

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