輸出を始める際に知っておきたい輸出管理の基礎
「わが社もこれからは海外市場に進出していこう!」
こう考えている経営者の方は多いのではないでしょうか? しかしこれから輸出に取り組もうとしている中小企業の方に、ぜひ知っておいてほしいことがあります。それは輸出管理の手続きの必要性です。輸出管理とは、輸出する前に法規制などに基づいて適切な手続きを行うことを言います。
本コラムでは、これから輸出を始める際に最低限知っておきたい輸出管理の基礎についてご紹介します。
1.輸出管理の必要性
輸出管理はなぜ必要なのでしょうか? その理由は、国際的な平和と安全の維持のために必要とされているからです。仮に軍事転用が可能な製品などが国際社会の安全を脅かす可能性のある国家やテロリストに渡った場合、非常に大きな脅威となってしまいます。このような最悪の事態が起きることを未然に防止するために輸出管理の制度が設けられています。
ちなみに輸出管理は、国際的な枠組みに基づきルールが決められています。このルールに基づいて様々な手続きが必要になるのです。これらの手続きを適正に行わずに輸出した場合、違法輸出となってしまう危険性があります。そして違法輸出に該当した場合は、以下のような非常に重い罰則を受けることになるため十分な注意が必要です。
<違法輸出による主な罰則> ※外為法(外国為替および外国貿易法)に基づくもの
刑事罰 |
・10年以下の懲役 |
行政制裁 |
・3年以内の貨物の輸出や技術提供の禁止 |
警告 |
・経済産業省から違反企業に対する警告(原則会社名を公表) |
なお、「うちの会社は民生品しか作っていないから関係ない」と思っていると非常に危険です。民生品であっても軍事転用されてしまうリスクがあるため、十分な注意が必要になります。例えば自動車部品の切削に使われる工作機械は、ウラン濃縮用遠心分離機の製造に利用できてしまうので、適切な手続きが必要です。
2.輸出管理の全体像
1)輸出管理のポイント
輸出管理の対象となるものとしては、製品や部品などの貨物があります。これら貨物はサンプル品など無償で輸出されるものも含まれます。さらに貨物以外の技術情報の提供も対象となります。ちなみに技術の提供の場合は、日本国内で提供する場合でも、輸出管理の対象となるケースがあるため注意が必要です。
(詳細については後述する「安全保障貿易管理ガイダンス[入門編]」を参照してください)
そして輸出する際には、貨物や技術が法令などで規定された規制品に該当していないかどうかの確認と、該当する場合には許可の手続きが必要になります。
<輸出管理の対象>
区分 |
主な具体例(一部) |
補足事項 |
貨物の輸出 |
製品、部品、サンプル品の送付 |
有償無償を問わず発生する。 |
技術の提供 |
図面などの技術データの提供 |
有償無償を問わず発生する。 |
2)主な法令や規制
上位となる法律として外為法があり、貨物の輸出と技術の提供に関する規制について政令や省令などにおいて細かく規定されています。外為法に基づく規制は、「リスト規制」と「キャッチオール規制」から構成されており、これらに該当する場合は、経済産業大臣の許可が必要になります。
リスト規制とは:
国際的な合意を踏まえ、兵器や武器の開発等に利用されるおそれの高いものを法令等でリスト化して規制しています。規制対象となる貨物については、「輸出令・別表第1」に、技術については、「外為令・別表」に定められています。
<リスト規制で定義されている項目>(2022年8月現在)
分類 |
項番 |
規制品目 |
主な具体例 |
武器 |
1 |
武器 |
銃砲、火薬類、軍用車両 |
大量破壊兵器等関連 |
2 |
原子力 |
核燃料物質、原子炉 |
3 |
化学兵器 |
軍用の化学製剤の原料 |
|
3-2 |
生物兵器 |
軍用の細菌製剤の原料 |
|
4 |
ミサイル |
ロケット・製造装置等 |
|
通常兵器関連 |
5 |
先端素材 |
ふっ素化合物製品 |
6 |
材料加工 |
軸受等、数値制御工作機械 |
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7 |
エレクトロニクス |
集積回路、高電圧用コンデンサ |
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8 |
電子計算機 |
電子計算機等 |
|
9 |
通信 |
伝送通信装置等、通信用光ファイバー |
|
10 |
センサー |
水中探知装置等、電子式カメラ |
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11 |
航法装置 |
加速度計等、ジャイロスコープ等 |
|
12 |
海洋関連 |
潜水艇、水中回収装置 |
|
13 |
推進装置 |
ガスタービンエンジン等、人工衛星等 |
|
14 |
その他 |
粉末状の金属燃料 |
|
15 |
機微品目 |
電波の吸収材、核熱源物質 |
キャッチオール規制とは:
リスト規制に該当しない貨物や技術であっても、兵器や武器の開発等に利用される可能性がないとは言えません。そこで、リスト規制を補完する形で作られたものがキャッチオール規制です。その用途と需要者の内容に基づき、規制に該当する場合には、経済産業大臣の許可が必要になります。なお、キャッチオール規制には「大量破壊兵器等キャッチオール規制」と「通常兵器キャッチオール規制」の2つがあり、それぞれで許可が必要になる要件が異なっています。
3.輸出管理の主な流れ(手続き)
貨物や技術の引き合いが発生した結果、自社で製品を輸出したり、技術を提供したりすることになった場合は、「①該非判定」「②取引審査」「③出荷管理」という3つの手続きが必要になります。
①該非判定|
輸出する貨物や提供する技術が、規制に該当しているかどうかを判定する手続き
主な実施事項:
・該非判定を行う対象を特定し、技術情報やスペック情報など必要な情報を収集する
・収集した情報に基づき法令と照合し、規制に該当しているかどうかを判定する
該非判定における注意事項:
該非判定は最新の法令に基づいて判定を行う必要があります。上述したリスト規制などの品目は毎年改正されるので、常に最新の情報を把握しておく必要があります。また、工作機械など一部の製品では複数の項目で規制されているものがあります。このため、他の項目でも該当していないかについて見落としがないように注意する必要があります。
②取引審査|
輸出する貨物や提供する技術について、取引先の事業内容や用途を確認することで、軍事用途に使用される可能性がないかをチェックし、取引を行うかどうかを判断する手続き
主な実施事項:
・需要者に関する情報を収集し、軍事用途に使用される可能性がないかをチェックする
(主な確認項目)
*現在、もしくは過去に兵器等の開発を行っていないか
*軍もしくは軍に関係する機関ではないか
*取引先に関する情報に基づき軍事用途に使われる可能性がないか
取引審査における注意事項:
直接の取引先だけでなく、最終的な需要者も含めて確認する必要があります。
③出荷管理|
貨物の出荷や技術の提供を行う前に、誤出荷防止のために事前の審査内容などと一致しているかを確認する手続き
主な実施事項:
・出荷する貨物などについて以下の項目をチェックする
(主な確認項目)
*前のステップで実施している該非判定と取引審査が確実に終了しているか
*出荷する貨物や提供する技術が上記の該非判定や取引審査の内容と一致しているか
*輸出許可が必要な場合には、事前に許可を取得しているか、さらに許可を取得したものと一致しているか
出荷管理における注意事項:
出荷する貨物や提供する技術が事前の審査内容と一致しているかを確認するうえでは、チェックリストなどを活用すると有効です。
4.その他に取り組むべきこと
1)社内体制の構築
輸出管理を適切に行うようにするためには、組織的に輸出管理を行うしくみを構築する必要があります。該非判定、取引審査、出荷管理を実施する部門や責任者を明確に決めておきましょう。特に実務の手順を誰がどのように行うかを明確にしておくとよいでしょう。
2)最新情報の継続的な入手と共有
国際動向を踏まえて法令や省令における規制等は常に変わる可能性があります。このため、定期的に最新の情報を入手しておく必要があります。また入手した情報は社内の関係者に共有できるしくみを作っておくとよいでしょう。
3)定期的な教育の実施
構築した輸出管理体制を維持していくためには、輸出管理に関わる社内のすべての人が規制や手続きについて正しく理解していることが大前提となります。このためにも、社内の関係者に対する定期的な教育は欠かせません。少なくとも年に1回は実施しましょう。教育用のテキストは社内の実情に合ったものを作成することをおすすめしますが、難しいようであれば経済産業省が発行している各種資料を活用することも有効です。
4)監査などチェックできるしくみの構築
教育とあわせて定期的な監査の実施も必要です。法令に基づき輸出管理が適切に実施されているかについてチェックします。主な監査項目としては、「輸出管理の社内体制、該非判定などの各種手続きの実施状況、教育や文書管理の実施状況」になります。また、これらについてチェックリストを作成して確認を行うことも有効です。
5.参考情報
1)経済産業省「安全保障貿易管理」のホームページ
https://www.meti.go.jp/policy/anpo/
安全保障貿易管理(輸出管理)の概要や各種申請手続き、関係法令などの情報がまとめられています。この中にある「安全保障貿易管理ガイダンス[入門編]」の資料は一度目を通しておくことをおすすめします。
「安全保障貿易管理ガイダンス[入門編]」:https://www.meti.go.jp/policy/anpo/guidance.html
2)説明会やアドバイザー派遣制度の活用
また経済産業省では、主に中小企業を対象に輸出管理などに関する説明会を定期的に実施しています。さらに、アドバイザー派遣による輸出管理体制の構築支援サービスを行っています。これらの制度は無料ですので、機会があれば積極的に活用してみてください。
説明会のリンク:https://www.meti.go.jp/policy/anpo/seminar00.html
いかがでしたでしょうか。
今回は輸出管理に関する基礎的な部分についてご紹介しました。しかし、輸出管理にはこれ以外にも多くの注意すべきことがあります。今回ご紹介した情報を最大限に活用して、今後の自社の取り組みに役立てていただければ幸いです。
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