基礎からのリサーチ。情報収集のイロハを徹底解説
マーケティング、経営企画、商品開発など、新しいモノやサービスを生み出す仕事では、業界や競合のリサーチ(=情報収集)が不可欠です。その生産性はリサーチのアウトプットの質と投入工数で決まります。ただやみくもに実施すると時間がいくらあっても足りません。本稿では、リサーチの効率化に必要な下準備や情報収集の秘訣を紹介します。
リサーチの罠
サーチは時間も手間もかかります。なのに、いざ報告したら「それで?」と言われた経験はありませんか?がっかりですよね。そんな罠に嵌らないためのポイントが2つあります。
①アウトプットの質。リサーチには「示唆」が必要
注意すべきは、リサーチのアウトプットは与えられたテーマ・課題への示唆を与える内容であるべし、ということです。情報の整理だけでは、残酷ですが単なる情報の羅列に過ぎず価値がありません。意思決定の参考となる情報に仕上げる必要があります。
②投入工数最小化。やみくもなリサーチは時間を浪費する
リサーチの難しさは、世の中の膨大な情報量にあります。Google検索すると洪水のように情報が出てきます。時間がいくらあっても足りません。本当に必要な情報を最短経路でピックアップして収集する技術が求められます。
下準備で決まるリサーチの良し悪し
リサーチは漠然と始めると、欲しい情報にたどりつけないまま時間だけが経つリスクがあります。まず「何を、何のために、どのくらいの時間でリサーチすべきか」検討しましょう。そのポイントは3つです。
①調査対象を具体的に絞りこむ
リサーチの目的を明確な課題の表現で設定しましょう。次にその目的からブレイクダウンし、具体的に何を調べるのか導き出します。逆に曖昧な表現では調査対象を明確にできません。たとえばフィットネス市場の将来性のリサーチを依頼されたとします。
・NGな目的設定:日本のフィットネス市場の調査・分析
・良い目的設定:日本のフィットネス市場は成長しているのか?
→ どの年代か?どの地域か?どのサービスか?収益性は?
このように、リサーチに課せられた具体的な課題を明確にして、調査対象をブレイクダウンします。当たり前のようで、意外と忘れやすいポイントです。
②今置かれているフェーズを把握する
テーマのフェーズによって、アウトプットに求められるレベル感が異なってきます。
・企画立案・検討着手: 業界の動向、トレンド、業界用語など全体感の把握
・施策・仮説の立案: 何個かのテーマ方向性に対するおおまかな根拠の把握
・施策・仮説の検証: 意思決定にダイレクトに役立つ詳細な根拠の把握
たとえば、情報依頼元は企画立案のため全体感が知りたいのに、一部領域の詳細情報を報告してもニーズにマッチしません。今のフェーズの位置は必ず意識したいところです。
③求められるレベル感を把握する
情報依頼元が求めるレベル感も重要です。粗いリサーチでよいか?納期は?など具体的に確認しましょう。確認ポイントは3つです。
・スピード: どの程度時間をかけるのか?(2~3時間、数日、1週間)
・範囲の広さ: 対象の事業領域だけでよいか?関連領域・周辺領域まで含めるか?海外まで含めるか?
・調査の深さ: 公的情報だけでよいか?業界団体情報も必要か?複数ソース・記事も調べる必要があるか?
このように調査範囲と時間の掛け方を見極めます。この①②③がつかめたらアウトプットイメージをデザインし、できれば情報依頼元とすり合わせるのが望ましいでしょう。
情報ソースの特性を知ろう
次に実際の情報調査段階での留意点です。情報ソースには種類ごとにメリットや留意点があります。その特性を踏まえることで、効率的にリサーチできます。ここでは5つのソース種類別に特徴や留意点を説明します。
①インターネット検索
メリットは、誰でも容易にでき、業界・企業・商品・サービスなどを手早く把握できること。一方、留意点は、誰でも容易にできるためリサーチの差別化が難しい点です。玉石混交で断片的な情報も多く見極めも必要です。また、検索キーワード如何で拾い上げられる情報が異なるため、検索センスも求められます。
②業界紙・業界誌の記事
特定の業界に調査対象が絞り込まれている場合、特に時系列で調べたいときに有効です。多くの新聞・雑誌媒体はWeb化されています。ただ無料閲覧できる範囲は、たいてい概要や最近のニュースに限られます。ネット検索で概要を掴み、詳細はEL-NETなど有料サービスや図書館で各記事を精査するといった方法がよいでしょう。
③国・自治体・外郭団体の公的調査資料・統計資料、業界団体資料
各公的団体は非常に広範囲の情報を集めており、白書・報告書や統計として無料公開しています。信頼性も高く使わない手はありません。白書・報告書は、業界の全体感やトレンドの把握に有効で、所轄官庁や自治体をネット検索すると見つかります。
定量的なリサーチにはe-statなど公的統計がお薦めです。ただ統計情報には考察の記載はないため、自力で分析し示唆を導き出す必要があります。
④民間調査レポート
帝国データバンク、矢野経済研究所、富士経済グループなどの調査会社が業界報告を発行しています。各業界の深みある情報を効率的に取得できます。一般的に、公的情報よりも地域、顧客、価格など多角的な切り口で分析しています。ただし有料のため費用対効果の見極めが必要です。
⑤専門書、業界書
書籍は専門家により情報収集や整理が済んでいます。特定の業界・商品に対象が絞り込まれているときに有効です。ただ読み通しに時間がかかるため、インデックスを探す意図で手早く通読することをお勧めします。
また、図書館を利用すれば費用を抑えられます。東京近郊では国立国会図書館がお薦めです。インターネットでの蔵書検索・予約機能もあり利用しない手はありません。
定番情報ソース4選
業界状況・市場環境を調べる場合、「まずここから探す」という定番の媒体があります。企画立案、検討着手のフェーズに特に有効です。いくつかご紹介します。
①業種別審査事典(株式会社きんざい)
全10巻に1500を超える業種の業界動向や財務諸表など統計情報が収載されています。業界概況を調べるとき最初にあたる資料です。多くの公立図書館で所蔵されています。
URL:https://www.kinzai.jp/books/14jiten
②業界団体ホームページ
特定業界の調査に有効です。多くの業界団体のホームページには、業界概要、トレンドや統計資料が掲載されています。ネット検索でも見つけられますが、「会社四季報 業界地図」(東洋経済新報社)や
「TDB REPORT/業界動向」(帝国データバンク)などにも、業界団体一覧やホームページアドレスが載っています。
③政府統計の総合窓口 e stat
先述の総務省統計局が提供する政府統計のポータルサイトです。各省庁が集めた膨大な統計関係情報(国勢調査や物価指数など)がワンストップでまとめられており、時系列や詳細データをExcelやCSV形式でダウンロードできます。統計数値データをそのまま提供しているため、データ整理や分析は自身で行う必要があります。
URL:https://www.e-stat.go.jp/
④地域経済分析システム RESAS
産業構造・人口動態 ・人の流れなどの官民ビッグデータを、可視化の仕組みとともに提供しています。産業構成、人口、雇用、観光、消費などのデータを地図上に可視化でき、地域の実情把握や商圏分析に活用できます。運営主体は経済産業省と内閣官房です。
URL:https://resas.go.jp/#/13/13101
リサーチは工数を抑えながら良い示唆を与える内容を作れるかどうかが勝負どころです。本稿では下準備のポイントや定番の情報ソースを紹介しました。これらのリサーチ方法をぜひ試していただき、ムダのないリサーチ手順を確立いただければと思います。業務効率が抜群に上がるはずです。
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