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  • 2021.11.11

大副業時代の労務管理

企業が従業員の副業を認める際の必須ポイント:
就業規則・労働時間編

企業が従業員の副業を認める際の必須ポイント:就業規則・労働時間編

広がりつつある副業解禁

スキルや経験を得ることで主体的にキャリアを形成できること、自分がやりたいと考えることができ自己実現に資することなどから、副業が注目を集めています。また、「働き方改革」の一環として、厚生労働省においても、副業の普及促進を図るための施策が行われています。このため、現在は従業員の副業を禁止しているものの、将来的には副業解禁を検討している企業も少なくないと思われます。

そこで、今回は企業が従業員の副業を認める際にどのような点に留意すべきかなど、副業を可能とする制度を導入するために検討すべきことのうち、就業規則の見直しや労働時間の通算などを中心に説明をします。

副業は必ず認めなければならないのか

副業を禁止している企業では、就業規則において副業を一律に禁止する旨が規定されていることも多いと思います。

しかし、そもそも、従業員は、労働契約の締結によって一日のうち一定の限られた勤務時間のみ企業に対して労務を提供するものでその限度において企業の支配を受けるにすぎず、これを離れて企業の一般的な支配に服するものではありません。

したがって、従業員は、勤務時間以外の時間については、自由に利用することができる以上、企業は副業のために、従業員が勤務時間以外の時間を利用することを、原則として許されなければならないとされています。

このことからして、本来的には企業が従業員の副業を禁止できるのは、従業員が副業をすることによって労務の提供が不能又は不完全になるような事態が生じたり(副業に多くの時間を費やすことで過労状態となり業務を遂行することが困難となるような場合が典型的です)、企業の秘密が漏洩するなど所属企業への背信行為となったりする事情がある場合などの例外的な場合に限られることとなります(マンナ運輸事件:京都地判平成24年7月13日労判1058号21頁など)。従業員が職業選択の自由(憲法第21条第1項)を有することからしても、企業が副業を制限することが例外的なものになるといえるでしょう。

従業員が副業を行うことを原則として可能とする
就業規則の見直し

上記の裁判例の考えを踏まえると、企業において副業に関する就業規則の規定を例えば以下のように見直すことが考えられます。この就業規則の例の第2項各号に規定しているのが、上記の裁判例において企業による副業の制限が可能とされるものです。

そして、従業員が行う副業がこれらに該当するかどうかということや、当該従業員の副業先での労働時間を把握(詳しくはのちほど説明します。)するため、就業規則の例の第1項では副業を行う従業員に会社への届出をする義務を課しています。

【副業に関する就業規則の例】

(副業)

第〇〇条 従業員は、会社に届出をすることにより、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。

2 会社は、従業員による前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。

⑴ 労務提供上の支障がある場合

⑵ 企業秘密が漏洩する場合

⑶ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合

⑷ 競業により、企業の利益を害する場合

(厚生労働省『モデル就業規則』を参考にして作成)

企業は副業を行う従業員の労働時間を把握する必要がある:
労働時間の通算

労働基準法において、以下のような労働時間に関する規律があります。

① 企業は従業員に対し、原則として『法定』労働時間(休憩時間を除き一日につき8時間、1週間につき40時間)を超えて働かせることはできません(労働基準法第32条)。

② ①について、36協定の締結により『法定』労働時間を超えて働かせることができますが、その場合でも時間外労働と休日労働とを合計して単月で100時間を超え、又は複数月平均で80時間を超えることはできません(労働基準法第36条第1項、第6項第2号・第3号)。

③ 企業は『法定』時間を超えて労働をさせた従業員に対し、残業代(時間外割増賃金。労働基準法37条)を支払わなければなりません。

従業員が副業を行う上で企業が気を付けなければならないのは、従業員が従事する企業を異にする場合において、上記の『法定』労働時間は通算して考えるということです(労働基準法第38条第1項)。

例えば、企業A(令和3年1月1日付けで労働契約を締結)の『所定』労働時間が5時間の従業員が、企業B(令和3年4月1日付けで労働契約を締結)で『所定』労働時間4時間副業を行った場合、合計の労働時間は9時間となり、当該従業員は『法定』労働時間を超える労働をしたということになるのです。(なお、労働契約や就労規則によって企業が定めた労働時間を『所定』労働時間といいます。『法定』労働時間と『所定』労働時間は非常に混同しやすい概念ですので注意してください。)

そして、副業を行う従業員について、自社の『所定』労働時間と副業先の『所定』労働時間を通算し、『法定』労働時間を超える部分がある場合は、時間的に『後』から従業員と労働契約を締結した企業が自社の36協定で定めるところによってその時間外労働を行わせることになります(厚生労働省『副業・兼業の促進に関するガイドライン』3⑵ウ・エ)。すなわち、先ほどの例では企業Bが1時間について時間外割増賃金を支払う必要があるのです。

企業が従業員の副業を認める際の必須ポイント:就業規則・労働時間編

(厚生労働省『副業・兼業の促進に関するガイドラインわかりやすい解説』15頁)

これらのことからも明らかなように、企業は副業を行う従業員については、副業先の労働時間などを把握しておく必要があります。

なお、従業員が副業先と労働契約ではなく、業務委託契約や(準)委任契約を締結している場合(例:起業、共同経営、コンサルタント、顧問、理事、監事等)や副業先と労働契約を締結している場合であっても、労働準法上の労働時間規制が適用されない場合(例:管理監督者・高度プロフェッショナル制度)は、通算はありません。

副業を行う従業員の労働時間管理の負担の増加を
どのようにして軽減するのか

従業員が副業先の業務に従事する労働時間を把握・管理しなければならないことは、企業にとって労務管理上の負担が大きくなることを意味します。

この点に対する対応として、厚生労働省『副業・兼業の促進に関するガイドライン』では以下のような条件で副業を認めるいわゆる「管理モデル」の導入が紹介されています。

【管理モデルの概要】

注:以下は、これから副業先と労働契約を締結することを想定したものです。

① 自社における1か月間の時間外・休日労働の上限(A)に、副業先における1か月間の労働時間(所定労働時間及び所定外労働時間)の上限(B)を通算して、時間外・休日労働の上限規制(時間外労働と休日労働とを合計して単月で100時間以内、かつ複数月平均で80時間以内)の範囲内とするとともに、上限(B)の範囲内で労働させること。

② 自社は、自社における時間外・休日労働の実績に基づき割増賃金を支払うこと。

③ 副業先は、①の副業先における1か月間の労働時間の上限(B)の範囲内の労働時間について、割増賃金を支払うこと。

(厚生労働省『副業・兼業の促進に関するガイドラインわかりやすい解説』16頁等をもとに作成)

企業が従業員の副業を認める際の必須ポイント:就業規則・労働時間編

(厚生労働省『副業・兼業の促進に関するガイドラインわかりやすい解説』16頁等をもとに作成)

就業規則や労働時間以外にも副業を可能とする制度を
導入する際のポイントがある

企業が副業を可能とする制度を導入する際には、就業規則の見直しや労働時間の通算以外にも、労災保険、雇用保険、厚生年金保険及び健康保険の適用や従業員へのケアなど、留意しなければならない重要なポイントは他にも多く存在します。

企業としては、従業員はあくまでも自社に尽くすものだという考え方があったことは否定しがたいことなどから、副業を可能とする制度の導入にはまだまだ具体的なイメージが浮かばない企業も少なくないと思います。本稿が副業に対する理解が進む一助となれば幸いです。

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