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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第76回)

デザインとは何のためか!(竹内製菓株式会社)

デザインとは何のためか!(竹内製菓株式会社)

ちょっと厳しい表現で恐縮ですが、「伝わっていないのは、存在していないのと一緒」と私は常々考えています。だったら企業や商品の存在をどう伝えていくのか。デザインの力によって、というのは、ひとつの方策ですね。
ただ、このデザインというのが難しい。ただ洒脱にすれば事足りるというものではないし(ここをよく見誤りがちです)、なんと言っても正解の見えづらい領域でもありますからね。だったら、どのあたりをとっかかりにして、企業のウェブサイトなり、ロゴなり、商品パッケージなりのデザインを再構築すればいいのか。

「そのデザインによって何を伝えたいのか」「なぜデザインを変えるのか」という原点をないがしろにしないという点に尽きる、と私は思います。なんだ、当たり前じゃないか、と感じられるかもしれませんけれども、デザイン再構築の過程で意外と忘れられがちなんですね。

今回の事例は、竹内製菓という新潟県小千谷市に根付いている企業の話です。柿の種をはじめ、あられやおかきといった米菓の製造に携わってきた一社です。
創業75周年を迎え、社長から専務へと代替わりを進める同社は、今年(2021年)、ウェブサイトや商品パッケージの大々的な見直しを図っています。創業75周年の記念事業のようなもの?当代からの事業継承に弾みをつけるため?いや、話を聞いていくと、そこにはもっと深い狙いがあったようです。

この事例を通して、「企業はなぜ、デザインの領域も大事にすべきなのか」「それを通して何を伝えるべきなのか」を考察していきましょう。

埋没することへの危機感

デザインとは何のためか!(竹内製菓株式会社)

竹内製菓の専務は開口一番、こう言いました。

「うちは下から数えたほうが早い会社です」

新潟県内では、米菓関連の業界団体に15社が参画しているそうです。最大手クラスの売上高が1000億円規模であるのに対して、竹内製菓は10億円強という水準です。

「埋没する恐怖感はありますね。特に一般消費者向けの商品ですと、どうしても他のメーカーと中身がかぶるということもありますし」

専務によると、米菓の世界では、商品のアイデアが「もう出尽くした感がある」といいます。どの社もヒット商品の開発を狙っていますが、業界内ですでに売れてる商品に似たものをぶつけるという状況も出てきているそうです。
その一方で、米菓業界そのものは決して逆風下にあるわけではない、とも……。この1年をとってみても、コロナ禍での巣ごもり需要によって、市場はわずかではあるけれども伸びを見せてもいるらしい。
竹内製菓はどうなのか。

「正直なところ、現状維持といったところです」

2008年のリーマンショック直後こそ、売り上げがわずかに落ち込んだものの、そこから持ち直した後は、ほぼ横ばいでの推移です。競合相手がとても多いなかで、これは健闘という見方もできるし、新たな商機をものにできなかったという捉え方もできるかと思います。

名前を伏せたままでいいのか

デザインとは何のためか!(竹内製菓株式会社)

この竹内製菓には、実は強みがあります。OEM(相手先ブランド商品の製造)の領域で、一定以上の評価を得ているといいます。自社ブランド商品とOEMの売り上げ比率は4:6とのことですから、OEMに強いというのが理解できますね。

このところの例で言いますと、昨年(2020年)に話題をさらった「新型カキノタネ」を実際に製造しているのは、竹内製菓です。日産自動車テクニカルセンターと伊勢原市(神奈川県)が協業して作った柿の種で、半年間で実に10万個が捌けたというヒット商品となっています。日産自動車の往年の名車たち23モデルのシルエットをかたどった柿の種を作ってしてしまおうというプロジェクトであり、上の画像の商品がまさにそれ。
竹内製菓の三代目にあたる専務には、ずっと忸怩たる思いがあったそうです。

OEMが得意であるのはいいんです。でも、腑に落ちないこともあった」

それは、一般消費者向けの商品の存在を、どうしてもっと広く伝えていかないのか、という点にありました。

「大手メーカーの力は年々増しています。そうしたなかで、うちが旧態依然としたままでいいのか。具体的に言うと、一般消費者向けの商品の発信にも力を入れるべきではないのか、という思いでした」

日産自動車の「新型カキノタネ」では「製造協力 竹内製菓」と小さく付記はされているのですが、他の多くのOEM案件では完全な裏方仕事になることも当然あります。だからと言って、OEM事業の意義や価値を専務は否定しているわけではなくて、なぜ同時に自社ブランド商品を伸ばそうとしないのか、という二代目の経営方針に対する疑問があったというわけですね。

「自社ブランド商品がよりしっかりと世に出れば、竹内製菓の名前が広がるのですから、社員の意識にも好影響をもたらします。そこを目指したかった」

この「新型カキノタネ」に「製造協力 竹内製菓」と小さくても明示してもらったのは、専務が先方に頼んだからだそうです。

「社内の意識を変えようと考えた私にとって、まず手始めの仕事だったと言っていいかもしれません。OEMであっても私たちの名前を出してほしかった。先方にそうお願いしたら快諾を得ましたね」

「美味しければいい」ではない

デザインとは何のためか!(竹内製菓株式会社)

そして次に専務が臨んだのが、同社にとって一般消費者向けの主力商品である柿の種のパッケージデザイン見直しでした。
このページの一番上の画像をご覧いただけるでしょうか。左側が以前のパッケージ。右側が今年(2021年)から一新したパッケージです。デザインがスタイリッシュであるとかいう話以前に、何より「竹内製菓」の商品であることを前面に訴えかけているのをご理解頂けるかと思います。

私はこのデザイン、好きですね。なぜかというと、旧パッケージに比べると、作り手の息遣いや本気度が段違いに伝わってくるように感じられるからです。で、商品の場合、その中身もさることながら、そうした要素って実に大事だったりするわけです。とりわけ、成熟商品(すでに十分な進化を遂げた分野で、一見しただけでは他企業との差異を判別しにくい商品)のケースではなおのこと、そう言えるのではないか。
私など、「社内の改革を進めるなかで、できるところから始めていったのだな」と感じたのですが……。実は、事はそんなに簡単ではなかったと聞きました。

「商品パッケージをこうして変更する作業を始めてみて、やっと気づけたことがありました。マーケティングに関する社内の意識は、考えていた以上にずっと弱かったという事実です」

竹内製菓の米菓は、大手企業からも高く評価されていたために(まあ、だからこそOEMでの実績を誇っているわけです)、そこにあぐらをかいていたのかもしれないと専務は痛感したそうです。
どういうことか。

「『うちの米菓は美味しいから、ちゃんと食べてもらえるはずだ』という思いが強すぎるんですね」

専務はここで考えます。

「単に『ものが良ければ売れる』『美味しければ売れる』という意識ではいけません。伝えていってこそ、会社はこの先も存続できる」

だから、柿の種のパッケージを見直すプロセスでは、デザイン変更そのものにもまして、社内の空気を変えることに力を込めました。

会社にもアップデートが必要

デザインとは何のためか!(竹内製菓株式会社)

具体的にはどういうことでしょうか。

「デザイン自体の決定をなす以前に、どうしてデザインを変えるのか、社内に対してじっくりと説明を重ねていこうと考えました」

専務が社員に語り尽したのは、次の2つでした。

「『会社もアップデートしないといけない』『自分が関わっている商品と認識しないといけない』。そのためには、社員みんなと一緒にパッケージ変更を進める必要があるんです、と話しました」

そうですね。アップデートというのはなにもソフトウェアの話に限ったことではなくて、商品ひいては企業が存続するには必要不可欠な工程ですね。

専務はデザイン変更の手を緩めないと同時に、「お客様へのお約束」と題したコーポレートメッセージを策定しました。
それは「もち米いのち」「全員職人宣言」「愛される会社」という3つのフレーズで構成されています。広く社外に向けた文言と捉えることもできますけれど、私にはこれもまた、まずは社内に向けた強いメッセージにも感じられました。大事なことを社員が共有して、社内の温度差を詰めていくという作業に思えたのです。

1つめの「もち米いのち」は、どういう品質の商品を作るかに向けての言葉ですし、2つめの「全員職人宣言」は、同社が培ってきた技術を再認識しましょうという呼びかけですね。3つめの「愛される会社」からは、まず社員の家族や地元から評価される企業であらねばという決意と感じられます。

なぜ、柿の種から始めたのか

デザインとは何のためか!(竹内製菓株式会社)

ところで……。専務はなぜ、パッケージデザインの変更を、柿の種から始めたのでしょうか。それも「お徳用柿の種」という安価な量産型商品を最初に選んだのか。

「自社ブランドという意識のカケラもなかったように思えたからこそ、です」

中身があまりに低廉な商品で、従来のデザインはあまりにも簡素な商品。だからなおさら、ここから手をつけたかったという話ですね。

「社内では『売れているんだから、別にこのままでいいんじゃないか』という声も上がりました。でも違います。むしろ逆なんです」

むしろ逆というのは?

「売れているんなら、もっと自発的に、もっとしっかりと伝えていくのが、しかるべき姿勢です。だから、この『お徳用柿の種』のデザイン変更から着手するのには意義があるんです」

そういうことなのですね。とても納得できました。竹内製菓には高価格路線の商品も存在します。でも、そうした商品からデザイン再検討するのではなくて、こうしたごく当たり前に存在する商品を優先することで、社内の意識も変わるという話なんですね。
それでもまだ、社内からの反対はあったそうです。

「『この顔(パッケージ)で売れているんだから、マイナーチェンジでいい』という指摘でした。でも、私は思い切って変えるべきと説得しました」

専務の狙いは、ただ単純に見た目のデザインを変更するところにあるわけではなかった、という点はすでに綴りましたね。ということは、やっぱりデザインをゼロベースから見直す作業こそが必要だったという話です。
ちなみに、二代目であり、現在も社長であるお父さまはどのように?

「私に伴走してくれています。『いいんじゃないか』と……。心の中でどう思っているかはわかりませんけれど」

成果はすぐに現れ始めた

デザインとは何のためか!(竹内製菓株式会社)

社内の意識を変えるためには、デザイン変更第1号となる「お徳用柿の種」がしっかりと答えを出すことが求められますね。どうだったのでしょうか。

「売り上げが伸びたんです。下がると覚悟していたんですが……」

パッケージが変わるわけで、いっときは動きが落ち込むかもしれないのは織り込み済みだったのと、旧パッケージ時代と価格は同じながら内容量をわずかに減らしたのも敬遠要素になるかと懸念してもいたそうですが、結果としては吉と出たということですね。

「まず、外部からの評価が高く、安心しました。ある人気小売店では取り扱い店舗を急遽増やすという話にまで進展しましたし」

とりわけ、デザイン変更した同シリーズのなかの「サラダ柿の種」は、出荷数が3倍となるほどの効果を生んだといいます。
専務に念のため確認しましたら、「柿の種の味そのものは以前と変えていない」そうです。中身が従来と同じでも、デザインに手を入れたことで、まさに「伝わった」。そういうことだと思います。もうひとつ言うなら、私がこの連載で繰り返しお話ししている「何を変えて、何を変えないかの峻別の大切さ」を、この竹内製菓の事例からも見て取ることができますね。

中小でもちゃんと生き残れる

デザインとは何のためか!(竹内製菓株式会社)

大手どころから中小までがしのぎを削っているのが、米菓の分野です。最後に専務に尋ねたいのですが、中小規模のメーカーでも、今後生き残っていくことはできるのでしょうか。

「私は、中小メーカーも大手どころ相手に戦えると確信しています」

それはなぜ?

「デザインの再構築に始まるリブランドによって、まず、低価格競争の悪いスパイラルから脱却できる可能性を見出せたこと。次に、市場性のある商品をうちが有していることを、流通小売企業にも消費者にもより広く知ってもらえる手立てを掴めたこと。この2つですね」

別の表現を試みるなら、専務は今回の取り組みを通して「この会社の立ち位置」を鮮明にしたということになろうかと思います。だから、まず社内が振り向き、次に流通小売企業が振り向き、その成果として商品者も振り向き始めた。
デザイン変更が、単なる「見た目の美しさや格好よさの訴求」を最終目的にしたものでないことを、より具体的にご理解いただけた話かと思います。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分
析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっ
ている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」
(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、NTT東日本「経営力向上ラボ」、
家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地
方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」な
ど、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

ANA国内線「北村森のふか堀り」監修

経済産業省 北海道経済産業局 地域ブランド創出支援事業 チームリーダー
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)

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