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  • 2021.05.12

公正な人事評価を行うために

公正な人事評価を行うために

違法とされうる不当な人事評価

人事評価は、使用者である企業が提供された労務をどう評価するかの問題であること、評価項目は抽象的なものであることが多く、個々の評価の当否は法的な判断になじまないことなどから、人事評価は、企業に広範な裁量が認められています(東京地判昭和60年3月14日労判451号27頁など)。

しかし、国籍・信条・社会的身分(労働基準法第3条)や組合活動(労働組合法第7条第1号)など、法律で差別的な取扱いをすることが禁止されている事項を考慮したり、不当な目的や従業員間の均衡を欠いたりするような人事評価は、違法とされることもあります(例えば、対象期間外の言動を考慮した人事評価が違法であるとされたものとして、マナック事件(広島高判平成13年5月23日労判811号21頁)があります。)

したがって、「裁量が認められる以上、人事評価が違法となることはない」と考えるのは危険であるといえます。

公正な人事評価は従業員のモチベーションの観点からも重要

公正な人事評価は、モチベーションという観点からもその重要性が指摘されています。モチベーションに関する理論のなかに、公平理論というものがあります。
公平理論とは、「自分の仕事に対する評価」と「他人の仕事に対する評価」とを比較して、不公平を感じる場合は、公平性を感じるような状態に近づく行動をとるというものです。

例えば、同僚と自分とが同じ評価がされるべきであるのに自分の評価が同僚の評価に比べて低かったとします。この場合、その従業員は、低い評価に見合う仕事しかしなくなってしまいます(すなわち「手抜き」をするのです)。その従業員が「手抜き」により質の低い仕事をすれば、低い評価と一致することになり、公平性を感じるような状態に近づくというわけです。

このことからも明らかなように、不公正な人事評価をすれば、従業員は仕事の質を下げようとするマイナスのモチベーションが生じかねないのです。

評価に必要な事実を正確に把握することが
公正な人事評価の第一歩となる

では、公正な人事評価はどのようにして実現できるのでしょうか。この点に関し、最初に認識しなければならないのは、人事評価はその人の人格を評価するのではなく、その人の仕事を評価するということです。

すなわち、人事評価をするにあたっては、まずは評価の基礎となる事実を正確に把握しなければなりません。先ほども述べましたが、人事評価の評価項目は抽象的なものが多いです。このため、評価項目の根拠となる具体的な事実関係を把握する必要があるのです。

例えば、「部下の能力を把握し、指導、育成に努めている」という項目があるとしましょう。このような評価項目がある場合「あいつは部下に対してやさしいから評価を高くしよう。」などとしてしまいがちです。しかし、「部下に対してやさしい」というのは評価であり事実ではありません。
「異動してきたばかりの部下に、仕事の流れを具体的に説明している。」、「相談に来た部下に対し、まずは部下の意見をよく聞いている。」などと具体的な事実を把握したうえで、その事実から評価を導き出す必要があるのです。

また、「部下としばしば飲みに行っている。」という事実は、良い評価をすべき事実とも思われますが、実は人事評価とは関係のない事実となります。なぜならば、個人的に飲みに行くのは業務時間外に行われるものであり、業務それ自体とは直接の関係がないからです。このように人事評価の対象となる事実かどうかにも注意する必要があります。

そして、本稿を読んでいる方の中には、人事評価の時期になって慌てて評価項目を確認しているという人もいるかもしれません。しかし、日ごろからどのような評価項目があるのかについて把握しておかなければ、人事評価のために必要な事実を正確に把握することは困難であるといえます。

【評価項目】
「部下の能力を把握し、指導、育成に努めている」

【事 実】
① 部下に対してやさしい。
  →そもそも事実ではない

② 異動してきたばかりの部下に、仕事の流れを具体的に説明している。
  →良い評価をすべき事実

③ 相談に来た部下に対し、まずは部下の意見をよく聞いている。
  →良い評価をすべき事実

④ 自分が忙しいときには相談に来た部下に対し「自分で調べろ」とだけ言う。
  →悪い評価をすべき事実

⑤ 部下としばしば飲みに行っている。
  →評価項目とは関係のない事実

公正な人事評価を行うために

評価をする際に注意すべき点

事実関係を正確に把握したのちに、その事実を評価していくわけですが、評価の際には注意しなければならないことがいくつかあります。

例えば、ある特定の評価項目が高いことからその人は他の評価項目も高いのではないかと考えてしまいがちであるということが挙げられます(これをハロー効果といいます。)。

また、評価が特定の部分に偏ってしまうことが起こりがちであるということです。具体的には、無難な評価をするために多くの評価対象者が100点満点の50点付近に集まってしまうというということ(これを中心化傾向といいます。)等が挙げられます。

さらに、事実を評価する際、評価を行う時期と近接した時期に認識した情報を過大に評価してしまいがちであるということ(これを近接誤差といいます。)にも注意が必要です。

これらに対する特効薬のようなものはありません。評価の際にこれまでに述べたことが起こりがちであるということを認識したうえで、自分が行った人事評価を振り返ってみるといったことを繰り返していくことにより公正な人事評価の力をつけていくしかないといえます。

公正な人事評価の運用のために

これまで、公正な人事評価を行うために注意すべき点についてご説明してきました。ところで、そもそも公正な人事評価とはいったいどのような人事評価なのでしょうか。この問いに対する答えの一つとして、公正な人事評価とは、評価対象者が納得できる人事評価であるということが言えるでしょう。

ただし、評価対象者が納得できる人事評価を行うことは容易ではありません。誰しも、自分は一生懸命仕事をしていると考えることから、高い評価でない場合は、自分の仕事が正当に評価されていないと考えがちであるためです。

では、評価対象者が少しでも納得できる人事評価を行うためにはどのような人事評価の運用をすればよいのでしょうか。

一つの方法として考えられるのが、評価者による評価結果に関する充実したフィードバックの機会です。具体的には、評価者が1on1(上司と部下とが1対1で行う打ち合わせ)などにより、高い評価であったところについては率直に称賛する一方、低い評価とせざるを得なかったところについても、その根拠となった具体的な事実を説明し、どのようにすれば改善できるかを評価者と評価対象者とが一緒に考えていくという前向きな姿勢を見せることではないでしょうか。

おわりに

違法な人事評価は論外としても、公正な人事評価を実現することは容易ではありません。しかし、公正な人事評価は、モチベーションの向上のほか、透明性のある風通しの良い組織づくりにもつながるものといえます。明日からでも、評価対象者がどのような仕事をしているか具体的に観察することから始めてみるのはいかがでしょうか。本稿が参考になれば幸いです。

武田 宗久

武田 宗久

PROFILE

ライター,コンサルタント
1978年生まれ,大阪府出身。京都大学大学院法学研究科修了
2011年弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2020年中小企業診断士登録

債権回収や離婚等の一般民事事件を担当する一方,大阪の中小企業や自治体を元気にするため,法務・労務を中心とした支援に取り組む。著書に『改正民法対応!自治体職員のためのすぐに使える契約書式解説集』(令和2年,第一法規,共著)など。

お問い合わせ先
株式会社プロデューサー・ハウス
Web:http://producer-house.co.jp/
Mail:info@producer-house.co.jp

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