企業の海外進出におけるリスクと対処法を解説
企業が海外進出する際には、様々なリスクが考えられます。事前に起こり得るリスクに備えることで、海外進出の失敗を防ぐことにつながります。
当記事では、企業が海外進出する際のリスクと対処法を解説します。企業の海外進出を考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
リスクマネジメント不足は海外進出に失敗する要因となる
企業が海外進出する際には、起こり得るリスクを特定、分析して問題の発生や重大化を防ぐプロセスであるリスクマネジメントが大切です。リスクマネジメントの不足により、トラブルへの適切な対処ができず、海外での事業展開に失敗する恐れがあるためです。
リスクマネジメントは海外進出のフェーズに合わせて行うことが大切であり、海外進出の検討段階では「海外進出の目的を明確にすること」「海外進出先のリスクを知ること」が有効です。
明確な目的が無い状態で海外進出をした場合、方向性が曖昧なものとなり、ビジネス戦略や資金計画などに不備が生じやすくなります。また、現地でのリスクを事前に知っておくことで、進出予定先や時期の調整も可能です。
「なぜいま海外進出をするのか」という目的や必要性を明確にし、海外進出のメリットだけではなくリスクも知った上で海外進出を実行するか判断しましょう。
なお、企業の海外展開におけるリスクマネジメントの方法について詳しく知りたい方は、中小機構が提供する「海外リスクマネジメントマニュアル」を参考にしてみてください。
企業の海外進出におけるリスクと対処法
企業の海外進出では、以下のリスクが考えられます。
【企業の海外進出におけるリスク】
分類 |
リスクの概要 |
調達リスク |
・インフラの未整備 |
生産リスク |
・技術流出・情報漏えい |
販売リスク |
・顧客とのトラブル |
バックオフィスリスク |
・税務手続きに関するトラブル |
社会リスク |
・治安・政情の悪化 |
自然災害・感染症リスク |
・自然災害 |
参考:中小機構「海外リスクマネジメントマニュアル」
これらは主に海外への拠点を設けて事業展開する場合に高くなるリスクですが、事前の情報収集などにより対処法を用意しておくことで、問題の発生を防げる可能性があります。
また、海外進出先の地域や事業の形態によっても各リスクの大きさは異なります。自社が海外進出する場合にはどのようなリスクが大きいのかを考え、リスクマネジメントを行いましょう。
調達リスク
調達リスクとは、企業の海外進出の際に必要な資材や資金、労働力などの調達に伴うリスクのことです。
【調達リスクの種類】
リスク |
発生し得る問題 |
対処法 |
インフラの未整備 |
・主要交通機関の不通や遅延により必要な資材を入手できない |
・現地のインフラに関する事前調査 |
現地パートナー・ |
・不利益な契約の締結 |
・取引時の契約書の作成 |
資金調達上の障害 |
・為替管理制度の変更や為替変動に伴う損失 |
・事前に十分な資金を用意しておく |
参考:中小機構「海外リスクマネジメントマニュアル」
たとえば、現地の交通機関や電気、通信網などのインフラが整備されていないことにより、希望のスケジュールで資材や備品などの調達ができない可能性があります。
また、言語や習慣、法律の違いから現地パートナーとのトラブルが発生することや、資金調達が困難となる恐れもあります。
調達リスクへの対処法としては、日本との連携など複数の調達ルートを確保しておくことや、現地パートナーとの信頼関係を築くことが有効です。必要な資材や資金などが不足すると事業運営に影響が出るため、滞りなく調達できるようそれぞれのリスクへの対処法を検討しておきましょう。
生産リスク
生産リスクとは、商品やサービスの生産に伴うリスクのことです。
【生産リスクの種類】
リスク |
発生し得る問題 |
対処法 |
技術流出・情報漏洩 |
・現地での模造品の蔓延 |
・現地で特許を出願する |
施設・設備に関する |
・販売先への納期遅延 |
・事前に設備の安全性を確認する |
製品・サービスの品質不良 |
・販売後の製品の不具合によるリコール |
・生産や販売を信頼できるパートナー企業へ依頼する |
環境汚染 |
・操業停止命令 |
・環境関連の法規制の調査 |
参考:中小機構「海外リスクマネジメントマニュアル」
現地での商品やサービスの生産において、機密情報保護や安全・品質に対する意識の違いから、情報流出や品質不良といったトラブルにつながることがあります。
また、製造設備が現地の気候に合わずに故障することや、環境関連の規則の違いにより想定外の法律違反を犯してしまう恐れもあります。
生産リスクによって起こる問題は、コストの発生だけでなく顧客や提携先からの信頼を損なう可能性があります。生産リスクを低減させるため、情報管理や従業員の教育に加え、現地の気候や法律などの事前調査を徹底しましょう。
販売リスク
販売リスクとは、商品やサービスの販売に伴うリスクのことです。
【販売リスクの種類】
リスク |
発生し得る問題 |
対処法 |
顧客とのトラブル |
・売掛金の回収失敗 |
・取引先の信用調査 |
商慣習・風俗・ |
・納期管理やコスト意識の違いによる取引上のトラブル |
・商習慣や宗教に関する情報収集を行う |
取引に関する法令違反 |
・企業への高額な罰金 |
・関連法規制の調査 |
参考:中小機構「海外リスクマネジメントマニュアル」
商品やサービスの販売に伴い、言語や習慣、法律などの違いから様々なトラブルを引き起こす可能性があります。
たとえば、日本と現地の商習慣や契約意識の違いから、代金の回収が困難となり多額の損失を被るリスクが考えられます。また、現地の宗教や法律の調査不足により予期せず法律違反を犯すことや、現地の顧客および従業員へ不快感を与えることにもなりかねません。
販売リスクに対処するためには、現地の習慣や法律に関する事前調査と、取引先との書面による契約条件の擦り合わせなどが有効です。万が一のトラブル発生時に備えて信頼できる専門家を確保しておき、取引に関する保険への加入も検討しましょう。
バックオフィスリスク
バックオフィスリスクとは、扱う商品やサービスには直接影響がない部分である、税務や人材関連におけるリスクです。
【バックオフィスリスクの種類】
リスク |
発生し得る問題 |
対処法 |
日本の税制との違いによる税務関連のトラブル |
・税務調査への対応不備や申告の誤り |
・現地の税制の把握 |
従業員等による不正行為 |
・不適切な帳簿管理 |
・不正が起きやすい業務の洗い出し |
人材確保の障害 |
・人件費の高騰や失業率の低さによる採用困難 |
・教育体制の整備 |
労使間のトラブル |
・労働条件への不満によるストライキ |
・就業規則の策定 |
参考:中小機構「海外リスクマネジメントマニュアル」
海外に拠点を設けている場合は現地での納税義務が発生しますが、日本とは制度の内容が異なるため申告漏れや対応不備につながりやすいです。また、労働環境が起因する、従業員による不正行為やストライキなどが発生する可能性もあります。
税務関連のリスクに備えるには、事前に現地の税制について把握しておくことに加え、信頼できる税理士や会計士などの専門家へ相談できる体制を整えておきましょう。
なお、従業員のトラブルは、労働環境の整備や従業員との信頼関係の構築によって防げる可能性があります。監視カメラの設置や監査の実施だけでなく、日頃から積極的なコミュニケーションを取り、不正に対する意識改革と労働環境への不満を解消していくことを心がけてみてください。
社会リスク
社会リスクとは、治安の悪化や制度の変更などの社会的な要因に伴うリスクの事です。
【社会リスクの種類】
リスク |
発生し得る問題 |
対処法 |
治安・政情の悪化 |
・戦争やテロの発生 |
・海外進出前の現地の治安調査 |
盗難・強盗・誘拐 |
・商品の盗難 |
・海外進出前の現地の治安調査 |
法規制の変更・不透明な運用 |
・予告のない輸入規制の施行による業務の停止 |
・法律による規制や運用状況の事前調査 |
参考:中小機構「海外リスクマネジメントマニュアル」
社会リスクには現地の政治や経済、環境などの変化に起因する「カントリーリスク」も含まれており、社会情勢や自然災害などによりリスクの高さも変動します。
また、国によっては日本と比較して頻繁な法規制の変更が行われている場合があり、予告なく規制内容が変更され事業に影響を及ぼす可能性があります。
社会リスクに対処するためには、海外進出の検討段階での現地調査が有効です。実際に現地に足を運ぶことで、数値やデータでは判断できない現地の情勢の把握が可能です。
さらに、治安や法律などは変化する可能性があることを念頭に置き、情報収集だけでなくトラブルに備えた証拠の保全と弁護士など信頼できる専門家を確保しておきましょう。
自然災害および感染症リスク
自然災害および感染症リスクは、現地で発生する自然災害や感染症の流行などが起因するリスクです。
【自然災害および感染症リスクの種類】
リスク |
発生し得る問題 |
対処法 |
自然災害 |
・豪雨による浸水での操業停止 |
・現地における自然災害の傾向の調査 |
感染症・衛生 |
・従業員の罹患による事業運営の困難 |
・現地の感染症情報や医療体制の把握 |
参考:中小機構「海外リスクマネジメントマニュアル」
自然災害リスクは国や地域ごとに傾向があり、事前にリスクの高さを把握しやすいことが特徴です。現地に拠点を置く場合には豪雨や噴火など災害の起こりやすい地域を避けることや、災害時に必要となる備蓄品を用意しておくなどの対処が可能です。
ただし、自然災害の中には地震や津波など予測が難しいものもあるため、災害発生時に備えた連絡手段の確保や在留届の提出などを徹底することが大切です。
なお、衛生環境や医療体制が十分でない国では、感染症の拡大による被害を受けやすく、事業継続が困難となる恐れがあります。影響が長期化する場合には、事業撤退を余儀なくされる可能性があることも留意しておきましょう。
現地へ拠点を設けずに海外進出する方法もある
企業の海外進出では、現地への拠点を設けずに販路を拡大する方法もあります。海外進出に伴うリスクの多くは海外に拠点を設けて現地で事業を展開する場合のものであり、拠点を日本に置いたまま海外への販路開拓を行うことでリスクを回避できる場合があります。
現地へ拠点を設けない海外進出の方法には、貿易やフランチャイズ契約、M&Aなどがありますが、近年注目を集めているのが越境ECです。越境ECとは、多言語・多通貨に対応し、国境を越えて商品やサービスの取引ができるインターネット上の通販サイトです。スマートフォンなど通信技術の普及により、越境ECの需要が拡大しています。
海外に拠点を設けなければ、現地のパートナーや顧客との意識の違いによるトラブルのほか、税制や法律の違いによる罰則などのリスクを低減できます。また、現地の治安の悪化や自然災害の影響を直接受けることもありません。
海外進出を考えている場合は、選択肢のひとつとして越境ECなど現地への拠点を設けない事業展開の方法も検討してみましょう。
まとめ
企業の海外進出には様々なリスクが考えられます。リスクへの備えが不足していると、問題が発生した際に対処ができず海外進出を失敗させる原因となるため、事前に入念なリスクマネジメントを行うことが大切です。
海外進出におけるリスクの多くは海外に拠点を置く場合に高くなるものであり、現地へ拠点を設けない事業展開により回避できるリスクもあります。近年はスマートフォンや通信技術の普及により越境ECの需要が拡大しているため、海外進出における選択肢のひとつとしてみてください
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