1. TOP
  2. Alibaba JAPAN PRESS
  3. 知っておきたい下請法の知識 ~下請法で親事業者と下請事業者とがWinWinに~
  • 2022.03.25

知っておきたい下請法の知識
~下請法で親事業者と下請事業者とがWinWinに~

知っておきたい下請法の知識 ~下請法で親事業者と下請事業者とがWinWinに~

下請法はどのような場面で適用されるのか

知っておきたい下請法の知識~下請法の内容をざっくりつかむ~」と題するコラムでは、主に下請法の趣旨や下請法が定めるルールの概要について解説しました。もっとも、下請法が定めるルールは抽象的であり、実際にどのような場面で下請法が活躍するのかについて、ややわかりくい面があることも否定できません。

そこで、今回は、実際に下請法はどのような場面で適用されるのかなどについて、事例も踏まえつつ、解説したいと思います。

発注書に下請代金を記載できない事例

【事例1】

自動車の製造を行うP社(資本金10億円)は、Q社(資本金1億円)に対して自動車の部品の製造を委託した。委託に際してP社はQ社下請代金の価格について交渉をした。その際、Q社からは、当該部品は過去に使用したことのない素材の加工が必要となるため、現段階で価格については不明であるものの、遅くとも当該部品を初めて納品した1週間後には確定するとの回答があった。

P社がQ社に対して行う委託は製造委託(下請法第2条第1項)であり、P社の資本金が3億円を超えている一方Q社の資本金が3億円以下であることから、【事例1】においては下請法が適用されます。

親事業者であるP社はQ社に対し発注に際して所定の内容を記載した書面(発注書面)を交付する義務があります(下請法第3条)。もっとも、内容が定められないことにつき「正当な理由」がある場合は、内容が確定次第、内容を記載した書面(補充書面)を交付すれば足りるとされています(下請法第3条第1項ただし書き)。この「正当な理由」とは、取引の性質上委託した時点では具体的な記載事項の内容を定めることができないと客観的に認められる理由をいうものと解されています。そして、発注書面に記載する必要がある事項の一つとして下請代金の額があります(下請法第3条の書面の記載事項等に関する規則第1条第1項第4号)。

【事例1】では、価格が決定できないのは、下請事業者であるQ社が現時点で判断できないことによるものですので、「正当な理由」があるといえます。この場合は、発注書面に概算額を記載してしまうと当該金額が最低保証額である等の疑義が生じる可能性があるため、いったん仮単価であることが明確な「未定」、「1円」といった記載をした発注書面を作成するとよいでしょう。

なお、当初親事業者が下請事業者に対して交付する書面には、当該内容が定められない理由及び特定事項の内容を定めることとなる予定期日を記載しなければならないとされています(同規則第1条第3項)。この「予定期日」とは、具体的な日が特定できる必要があるとされています。【事例1】では、「部品を初めて納品した1週間後」と具体的な日が特定できる内容をQ社が回答していますので、この内容を書面に記載すればよいでしょう。

親事業者が下請事業者にコスト削減提案をした事例

【事例2】

貨物運送業を営むP社(資本金5000万円)は、Q社(資本金1000万円)に対し、倉庫における貨物の仕分作業の業務を委託していた。P社では全社的にコスト削減を目的とした業務の見直しを行っており、Q社に委託している貨物の仕分作業の業務についても、業務の流れや倉庫の貨物配置の適正化を図ることにより仕分け作業にかかるコストが2割削減できるとの試算をした。このP社による試算は客観的に十分な合理性を有するものであった。
そこで、P社は、Q社に対し、下請代金を2割減額する旨を通知した。

P社がQ社に対する業務委託は、役務提供委託(下請法第2条第4項)にあたること、P社の資本金が1000万円を超え5000万円以下である一方でQ社の資本金は1000万円以下であることから、【事例2】においては下請法が適用されます。

この事例において、P社が委託している業務のコスト削減のための検討をすることそれ自体には何らの問題もありません。しかし、P社がQ社に対していったん契約で決まった下請代金の減額を一方的に通知することは、たとえコスト削減の試算が客観的に合理的なものであったとしても下請代金の減額の禁止(下請法第4条第1項第3号)に違反することとなります。

【事例2】のような事例の場合、公正取引委員会からP社に対し以下の内容の勧告がなされる可能性があります。

① 下請代金の減額分をQ社に支払うこと

② 取締役会又は株主総会において今後同様の違反行為を行わないことを確認すること

③ 当該違反行為とそれに基づく対応や今後の違反行為防止のための社内体制を整備することを役員及び従業員に周知徹底すること

④ Q社に対し自社がどのような措置を講じたかを通知すること

では、P社はQ社と協議を行い、単価の引き下げの合意が成立していれば、下請代金を減額しても下請法に違反しないのでしょうか。下請法は、「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること」を禁止しており、合意があっても「下請事業者の責に帰すべき理由がない」以上、減額することは許されません。実際に、親事業者と下請事業者とが合意の上で単価改定を行い、旧単価で発注したものにまで新単価を遡及適用した事例について勧告の対象となったものがあります。

知っておきたい下請法の知識 ~下請法で親事業者と下請事業者とがWinWinに~

建設工事でも元請による下請に対する不当な取扱いは
許されない

【事例3】

大手ゼネコンのP社は、建設業者のQ社に対し、R市役所庁舎建設に関する土木工事を下請として受注した。この土木工事に関し、Q社は、P社から半年余りにわたり一方的にP社が指定する資材(実際に工事に使用する必要はない。)の費用として毎月10万円から15万円を請求されたうえで、出来高払いの下請代金から控除された。

元請下請間の取引依存度が高い場合、下請は元請からの取引が継続できなければ事業を行うことができなくなるおそれがあります。このことから、元請が下請にとって、著しく不利な要請を行っても、下請はこれに応じざるを得ない状況となることが少なくありません。

建設工事の請負は、下請法が適用される製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託(下請法第2条第1項ないし第4項)のいずれにも当たらず下請法の適用はありません。

しかし、建設業法において下請法と同様に、下請を保護する規律が規定されています。【事例3】の場合は、不当な使用材料等の購入を強制の禁止(建設業法第19条の4)や元請負が下請代金の支払時に建設工事において元請・下請間に生じる諸費用を差し引く赤伝処理の禁止(建設業法第19条の3)に違反することとなります。

なお、建設業法違反は、公正取引委員会の勧告等ではなく、建設業の許可権者である国土交通大臣(地方整備局長等)又は都道府県知事による行政指導・営業停止・許可取消等の対象となります(建設業法第28条・第29条)。

親事業者と下請事業者とがWinWinになることをめざして

2回にわたり、下請法についての解説を行いました。下請法については、経済産業省や中小企業庁のウェブサイトにおいて、詳細な資料やセミナー実施の案内が登載されています。また、ウェブサイトでは「下請かけ込み寺」と称して下請に関する相談(建設工事含む)の窓口についても案内がなされています。これらは基本的には無料で利用できるものなので活用することをお勧めします。

下請法の規律は、親事業者と下請業者とが継続した信頼関係を構築することができるためのものでもあります。親事業者と下請事業者とがWinWinになることを目指して取引を行っていくことが重要ではないでしょうか。

SHARE

海外展開に対するお問い合わせはこちら

おすすめ記事

中国における越境EC市場の現状は?参入する際の注意点も解説

2023.12.21

中国における越境EC市場の現状は?参入する際の注意点も解説

越境ECの始め方と必要な準備を解説

2023.12.20

越境ECの始め方と必要な準備を解説

FDA認証とは?対象となる商品や取得方法など解説

2023.10.31

FDA認証とは?対象となる商品や取得方法など解説

資料のご請求や
お問い合わせはこちら