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  • 2021.04.26

「新収益認識基準」のキーポイントとは?

「新収益認識基準」のキーポイントとは?

令和3年4月1日以降に始まる事業年度から、大企業を中心に、「新収益認識基準」の適用がスタートしています。企業の収益の根幹をなす「売上」の基準を変えるという、インパクトのある制度変更です。ビジネスの現場に与える影響は決して少なくないと思われます。

大企業に勤務する方、特に営業職系の方なら、昨年度のうちに管理部門などから制度の説明を受け、準備を整えてきた方も多いでしょう。概要をQ&A形式でまとめてみましたので、ぜひ新しい会計基準について理解を深めてみて下さい。

新収益認識基準導入の背景

Q.そもそも「収益の認識」とは、どういうことですか?
「収益の認識」と聞くと、日ごろ聞きなれない言葉なので身構えてしまう方もいるかも知れません。では「売上の計上」はどうでしょうか。実はこの2つは同じ意味です。収益認識基準とは、その売上に関して、「いつ」「いくらで」「どのように」計上するかのルールを定めるものです。

Q.なぜ導入されることになったのですか?
少し難しい話になりますが、収益・費用の認識基準(計上基準)として「現金主義」、「発生主義」、「実現主義」の3種があります。このうち収益の認識に使われるのは「実現主義」、つまり販売の実現をもって売上計上する方式です。一方、費用の認識に使われるのが「発生主義」、つまり商品などの提供の事実により費用計上する方式です。費用と異なり、売上は、将来について不確実性を伴うものであるため、保守主義の原則の観点から、「実現主義」が用いられています。

昭和24年に定められた企業会計原則では、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。ただし、長期の未完成請負工事等については、合理的に収益を見積り、これを当期の損益計算に計上することができる」となっています。

しかし逆に言えば、「収益は実現主義を採用すべし」という原則以外に、細かい統一基準はありませんでした。企業によりまちまちであるため、厳密な意味での財務諸表の企業間比較ができない状態が長く続いていたのです。

そこで、日本の企業会計基準において、収益認識における実現主義の具体的な内容に関する基準として、「収益認識に関する会計基準」(新収益認識基準)が新たに制定されることになりました。この基準の内容は、基本的には国際会計基準(IFRS)の内容とほぼ同じです。

Q.どんな会社に適用されるのですか?
会社法上の大会社や上場企業は、2021年4月1日以降に始まる事業年度から、強制適用になります。それ以外でも有価証券報告書を出す企業や、監査法人の監査を受ける企業も適用になります。一方、中小企業は適用義務がありません。

収益認識の5ステップ

Q.新しい収益認識基準では、売上はどのように認識されるのですか?
5つのステップが定められています。ここでは、新基準で影響を受けやすい「商品とサービスのセット販売」の事例で説明します。顧客に2年間の修理サービスのついたパソコンを10万8千円で販売するケースで見てみましょう。

ステップ1:契約の識別

顧客との間にどんな商品やサービスを売買する契約が発生したかを確認します。事例の場合は、顧客に「2年間の修理サービスがついたパソコンを販売する」契約が発生した、という事実確認となります。

ステップ2:履行義務の識別

「商品(パソコン)を売り渡す義務」および「修理サービスを2年間提供する義務」が別々にあると認識します。
売上計上するタイミングは、商品(パソコン)を売り渡した時点と、修理サービスを履行した時点の2つあることになります。

ステップ3:取引価格の算定

商品(パソコン)販売、及び2年間の修理サービスの提供に対する取引価格を10万8千円と算定します。

ステップ4:履行義務への取引価格の配分

取引価格10万8千円を各履行義務に配分します。
・商品(パソコン)本体の販売に対する価格…10万円
・2年間の無料保証サービスに対する価格…8千円

ステップ5:履行義務の充足による収益の認識

履行義務を果たした時点で収益を計上します。
商品(パソコン)を売り渡す義務を果たした(充足した)時点で10万円を収益計上し、2年間の無料保証サービス分は1年ごとに4千円を収益計上することになります。
この事業者が従来、販売年に収益を10万8千円で計上していたとすれば、新収益認識基準では販売年は10万4千円となり、残り4千円は翌年に収益計上することになります。

「新収益認識基準」のキーポイントとは?

影響の大きい類型

Q. 企業の売上高が変わるかもしれないと聞きましたが?
いわゆる代理店業を行う企業の場合、新収益認識基準の「本人取引・代理店取引」の論点により、従来と売上高が大きく変わる場合があります。

まず、「総額」と「純額」というキーワードを押さえましょう。総額は、売上原価と相殺せずに売上高を全額収益計上する方法です。純額は、売上原価と売上高を相殺して、その差額のみを収益計上する方法です。

先ほどのステップ2で履行義務を認識したら、それが「財またはサービスのそれぞれが顧客に提供される前に、当該財またはサービスを企業が支配しているかどうか」を判断します。支配とは「当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力」と定義されます。支配しているなら本人取引で総額表示、支配していないなら代理店取引で純額表示、となります。

例えば、代理店として他社商品を販売し、顧客から1万円の代金を得たが、8千円は仕入れ元に戻して自社の収入は手数料2千円のみといった企業の場合、新収益認識基準での収益は、手数料の2千円だけとなります。
百貨店や商社、ソフトウェアの卸売のような業態では、従来総額表示をしていたものが、純額表示に変わるケースも多いでしょう。従来に対し、売上数字は大きく減少することになります。もちろん利益額は変わりません。

Q. ほかにも影響の大きそうなケースはありますか?
少し難しくなりますが、従来の「工事完成基準・工事進行基準」も変わります。前述の「企業会計原則」(昭和24年)の引用部の後段をご参照下さい。

長期にわたるビル工事などを請け負う場合、工事が完成した時点で売上計上するのが「工事完成基準」、工事の途中でも、その時点までの進み具合に応じて売上計上するのが「工事進行基準」です。このうち「工事進行基準」は、新収益認識基準を機に廃止されます。つまり工事の途中で、工事の進捗に合わせて売上を計上するには、新収益認識基準に則った、より厳密化されたルールで行うことになります。

数年の工期がかかる建設業や、長期にわたるソフトウェアの受託開発を行うITベンダーには影響が大きいと思われます。

Q. 海外取引はどうなるのですか?
通常の輸出取引であれば、履行義務を果たした時点、つまり「資産に対する支配が顧客に移転したタイミング」を考え、その時点で売上を計上することになります。
契約で支配の移転する時期が定められている場合はその時点で収益を認識し、契約で明確にされていない場合には、インコタームズによって判断することになります。

FOB(本船渡し)やCIF(運賃保険料込み)は「船積基準」、EXW(工場渡し)やFCA(運送人渡し)は「出荷基準」、DDP(関税込み持込渡し)は「検収基準」となるでしょう。

まとめ

以上、新収益認識基準の概要の一部を紹介してきました。新収益認識基準は範囲が広く、また非常に複雑であり、大企業の経理担当チームでも理解し実行するには時間がかかります。

しかし、従来の売上を分解し、新基準に沿って配分し直す過程で、あらためて従来の会計処理や関連する業務、またその内部統制について検討する機会となった場合も多いでしょう。
今回の制度変更にさほど影響を受けなかったという方もぜひ、この機に「事業の売上高と真の利益額」「自社の強みや付加価値」について見つめ直してみて下さい。

(なおこの記事は、執筆時点の情報について概要を抜粋して記載したものであり、完全性、正確性、時間の経過、あるいは情報の使用に起因して生じる結果について一切の責任を負わないものとします。)

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