交渉で失敗しない!即実践できる交渉術の基本を押さえよう!
ビジネスで交渉をする場面は数多くあると思いますが、普段の交渉で無意識にやっていることでも、「交渉学」という学問として確立されている手法が存在します。
この記事では、交渉を有利にすすめるための交渉術の基本についてご紹介します。
交渉する前に、決裂した時のための準備をする
交渉を始める時、交渉が決裂した場合次の手を考えていますか?交渉を始める前から決裂した時のことを考えるというのは少し奇妙かもしれませんが、交渉を成功させるためには重要です。
具体的にイメージできるよう、簡単な例で説明します。
あなたは海外営業担当の正社員採用を行っているとします。
この正社員募集に、海外営業として多くの経験と知識を持っている鈴木さんが応募してきました。
鈴木さんは年収600万円を希望していますが、あなたの会社では年収400~550万円くらいで人材を採用したいと考えています。
もしも、鈴木さんしか応募者がいなかった場合、600万円の希望を受け入れざるを得ません。
しかし、国内営業担当としての経験があり、海外営業については未経験ながら、これから経験を積めば活躍できそうな田中さんが応募してきたらどうでしょうか。田中さんの希望年収は450万円です。
もし鈴木さんと年収交渉をするとしても、田中さんを採用するという代替策があるため余裕をもって交渉に臨めます。
このような「交渉が決裂した場合の代替策」のことを交渉学ではBest Alternative To Negotiated Agreement の頭文字を取り、BATNAと呼んでいます。
比較できるBATNAを持つことにより、交渉を有利に進めることができます。
相手のBATNAが分かれば、落とし所は見つかる
そもそも交渉が妥結する時って、どんな時だと思いますか?
自分と相手が共に納得できた時に交渉は妥結に至りますよね。つまり交渉とは、自分と相手の両方が納得できる落とし所を見つけることです。
どうしても自分の希望を通したい気持ちが先走って、相手の事情や希望にまで考えが至らないかもしれませんが、交渉学では相手を知れば知るほど交渉はうまくいくと教えています。
この考え方を先ほどの例の続きで説明します。
即戦力になる鈴木さんを採用したいため、鈴木さんと、給与の交渉をすることにしました。 当初想定していた年収は400~550万円ですが、鈴木さんの希望年収は600万円です。
話を聞くと、前職の給与は500万円で、今より年収を上げたいため600万円を希望したことがわかりました。
鈴木さんが今の年収より下がらなければ年収交渉に応じるのではないかと仮定し、年収520万円でスタートし、今後の成果次第で昇給すると鈴木さんに伝えました。するとこの条件を承諾し、鈴木さんの入社が決まりました。
なぜ、鈴木さんとの交渉は上手く行ったのでしょう?
交渉がまとまる可能性のある年収の範囲が、鈴木さんの現在の年収500万円から、自社の想定上限額の550万円であると把握できたためです。
このような「双方で承諾する可能性のある範囲」をZone of Possible Agreementの頭文字を取ってZOPAと言います。
ZOPAは自分と交渉相手のBATNAが重なる範囲ですので、相手のBATNAを予想し、ZOPAを把握する事で、落とし所が見つかりやすくなります。
ビジネスにおけるBATNAとZOPAの具体例
では実際にビジネスの場で考えると、どのようなBATNA、ZOPAがあるか、いくつか例を見ながら考えてみましょう。
【具体例1】
ねじ製造会社の社長になったつもりで考えてください。
ある日、主要取引先である阪神製作所から10万本のねじを3日間で納品できるかと問い合わせがありました。もしできなければ他を当たると言っています。
しかし、10万本ものねじは3日間では間に合わず、最低でも4日は必要です。
重要な取引先である阪神クレーン製作所の依頼を断るわけにもいきません。
このような場合、どんな交渉ができるでしょうか?
交渉の際、まず初めに考えることは自社と相手の状況、そしてBATNAです。
お互いのBATNAとZOPAを整理してみましょう。
・自社の状況 |
・阪神製作所の状況 |
期日への要望から、おそらく納期を急ぐ発注を受けていることが窺えますが、もう少し詳しい状況を探るため、阪神製作所に連絡してみました。
「なぜそんなに急ぎで必要なんですか?」 |
こうして、交渉は見事成立しました。
相手が絶対に担保したいことを把握し、自分の要望と重なる部分を見つけることが重要です。
【具体例2】
今度は食器メーカーの経営者になって考えてください。
Alibaba.comにお皿を掲載していたところ、ドイツの食器卸会社であるヘッセから引き合いがありました。ヘッセは100枚で150万円のところを140万円に値引きして、2週間以内に届けて欲しいと言っています。
リピートが見込めそうな新規顧客と契約はしたいですが、あまり安売りはしたくありません。
お互いの状況とBATNAをまとめてみましょう。
・自社の状況 |
・ヘッセの状況 |
現時点ではBATNAは不明ですが、140万円という価格と2週間以内という納期、2つの条件のどちらか妥協できないか質問しながら探っていきBATNAを想像します。
では、まず期日を確認してみましょう。
「2週間以内の納期という事でしたが、どんな用途でお使いでしょうか?」 |
相手は納期の変更は望んでいない事が分かりました。
では次の価格について確認してみましょう。
「140万円での購入をご希望とのことですが、それだと弊社が赤字になってしまいます。 |
このようにして交渉が成立しました。
この成功例では、納期には譲歩の余地なしと考え、値引きするという方法を取っています。
ひとつひとつの要望に対し、変更する余地があるかどうかを探ってみるとより良い落とし所が見つかります。
自分の要望ではなく、まずは相手が何を求めているのかを知ることが良い交渉の鍵です。
BATNAとZOPAを意識した交渉術
さらにBATNAとZOPAを活用するために大事な3つのポイントを紹介します。
1.交渉の前にできるだけ多くの情報を得てBATNAを持つ
落とし所が見つかりにくい交渉では、相手の状況に合わせて時に自分が出す条件を変化させる必要があります。
一つの手段しか考えていなければ、ZOPAを狭めてしまうことになったり、交渉が決裂してしまうことにもなります。多くの情報で相手のBATNAを想像し、交渉の前に多くの選択肢を持っておきましょう。そうすれば柔軟にBATNAを切り変えることができます。
2.自分のBATNAは相手に隠す
相手にBATNAを知られてしまえば、交渉の世界では負けが決まってしまったも同然。
よい条件でまとめることのできたはずの交渉が、相手の良いようにまとめられてしまうこともあります。
例えば、具体例2のBATNA「140万円まで値下げできる」ということに勘付かれてしまった場合、145万円で交渉は妥結せず、希望価格の140万円まで下げられていたでしょう。
交渉が少し行き詰まったと思える場面でも、BATNAを相手に悟られないようにしましょう。
3.相手に自分のBATNAを誤解させる
これは2つ目の「相手にBATNAを知られてしまえば、交渉の世界では負けが決まる」という原理を逆手に取ったものです。
これは少し高度な技かもしれませんが、自分の心の中で決めている本当のBATNAは相手には隠し、表向きのBATNAを用意しておきます。
具体例2で言うと、本当は140万円まで値下げできると思っていますが、150万円がBATNAであるように見せていますね。そのため、相手はその表向きのBATNAによってZOPAを少し高く見積もっており、145万円で交渉がまとまりました。
まとめ
目先の利益だけでなく、双方が納得できる着地点で交渉をまとめれば、相手からの信頼を得られ、交渉相手との中長期的な関係が期待できます。自分のBATNA、相手のBATNAを意識した交渉をするために、普段の小さなやりとりの中でもBATNA、ZOPAの考え方を取り入れてみてはいかがでしょうか。
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