街なかで見出したビジネスチャンス。電子部品から健康食品・化粧品へ

設立が急きょ決まったこともあり、パネルジャパンは母体であるパネルグループの業務を一部代理する形でスタートした。これまでグループが扱ってきた電子材料の輸出を担当することになったものの、他国との価格競争に巻き込まれた上、円高で利益が出ない。このままでは会社が倒れる……と危惧した周社長は、日本の強みが生きる輸出品がないか模索し続けた。

そんなとき、街なかのドラッグストアを通りかかると、多くのアジア系観光客が日本の化粧品や健康食品を買い求める姿が目に付いた。高品質で安全な商品を求めるお客様に、日本の化粧品・健康食品は必ず売れる。美容・健康分野に勝機を感じた周社長は、すぐに化粧品原料を扱う展示会に足を運んだ。しかし、結果は厳しいものだった。

「私たちは全くの素人で、展示会を一周しても正直なにもわからない(苦笑)。ひとまず原料を売りたかったので、ヒアルロン酸などの化粧品原料を扱う大手メーカーに買い付けたいと伝えたものの、本気にされず笑われました。あきらめきれず、取引実績をつくるため特にあてもないのに1kg数十万円もする超高価格の原料を買い付けたんです。そうやってリスクをとっても、世界中に発信すればその原料を買ってくれる人がいます。業界で無名だった当社が高価な原料を着実に販売する様子を見て、メーカーさんも信頼してくれるようになり、今では医薬品向けのヒアルロン酸など約140種類もの原料を卸してくれるようになりました」

まさに一から取引先との関係づくりに努めた周社長。原料の輸出販売のみならず、取り扱う原料を使ったオリジナルブランドの化粧品や健康食品の製造販売(OEM)を手がけるようになった。

中華圏でのアリババの信頼度は絶大。想像以上に拡がった取引先

従業員約3,000名を数えるパネルグループの中で、健康食品・化粧品分野に挑戦しているのは、従業員わずか3名のパネルジャパンのみ。取引先はグループの母体がある台湾や中国の一部にとどまっていた。東アジアを超えてさらに販路を広げたいという思いから、2014年にアリババへの入会を決めた。

掲載する商品名には「Japanese」「high quality」といった単語を入れ、日本製の材料や、高品質で安全な材料を求めているバイヤーの目に留まりやすいように工夫した。

初受注は約半年後、マレーシアの有名メーカーから。アリババからの受注が軌道に乗るまで一年ほどかかったのは、ページに掲載する情報の翻訳に時間を割かれていたからだそうだ。

「日本の原料メーカーの資料は日本語版しかないことがほとんどで、高品質なものほど品質を保証するための仕様書が膨大です。私たちのお客様は高品質な原料、安全性の高い原料を探しているので、細かな資料もすべて翻訳して読んでもらえるようにしました。私たち自身も、食品に関する国ごとのルールなど知らないことがたくさんあり、毎日勉強でした」

現在は、毎月2、30件の有効な問い合わせがあり、取引先は世界37か国へと広がった。「取引先をここまで広げることができたのはアリババのおかげ。アジアでのアリババの知名度は相当高く、商談がスムーズに進むことも多いです。今、特に引き合いがあるのは中国、ベトナム、台湾。親日国であるベトナムの高所得者は日本製品を好みますし、OEM事業に関心を持つ方も増えています。有望な市場なので、ベトナムに支店も設けました」

成長のためには、誰も手をつけたがらないところに愚直に手を届かせること

パネルジャパンの美容・健康事業の成功の秘訣についてお話を伺うと「ハードな勉強と先回り対応」に尽きるようだった。

「確かに、お客様の面倒ごとを予見して先にカバーしてきたことは、評価をいただいている要因かもしれません。例えば、認証や証明書の取得が必要な場合は早急に対応します。輸出先の国によって必要になる書類が違うんですよね。『おそらく、あなたの国では取引の際こういう準備が必要になりますよ』と先にお伝えすると、お互いに流れを共有できて取引もスムーズに進みますし、信頼関係を築く第一歩になります。関税や国ごとに起こりうるリスクなども、できるかぎり事前に情報提供します」

周社長は簡単なことのように話されるが、国ごとに異なる情報を調べ上げ、的確に提供するためには相当な時間と手間をかけて学ばなければならない。積極的な学びの姿勢は、オリジナル製品を製造するOEM事業にも確実に生かされている。

周社長は、かつて東京工業大学に留学して博士号を取得した一流のエンジニア。とはいえ、現在の事業に関する知識はゼロだった。化粧品や健康食品の原料の種類、価格や成分、配合など、論文を読み込みすべて一から勉強したそうだ。

「お客様が求める効果は何か、形態はどうするか、数量や予算はどのくらいか。例えば、美白効果を持つ液体タイプの化粧品を、この予算で1万本。そういったお客様の条件をできるだけ応える製品を企画できます。原料の価格も熟知しているので、配合を決めれば見積もりも当日に出せます。海外から日本の製造工場に直接仕様書を送っても、見積もりの返答だけで1ヶ月はかかると思います。そのスピード感の違いは多くのお客様から喜ばれています」

成功企業の仕事ぶりに共通するのが、お客様の想像を超えるスピード感と丁寧さ。同社も、問い合わせには必ず当日返信し、お客様が輸送費等に納得して支払ってくださるなら、原料1kgからでもドアtoドアで確実に届けている。

自分たちが設計した健康食品や化粧品を、世界中に届けたい

業務多忙で、新たに社員を採用するなどさらに海外展開を加速する同社。今後の展望についても伺った。

「今、美容・健康事業の売上は2億円ですが、いつかは10億円くらい稼げる会社を目指したいですね。成長の鍵はOEMがにぎっています。海外でも研究開発が進んでいるので、原料の販売だけに頼っていると価格競争に巻き込まれる日が必ず来ます。今でも、原料販売とOEM事業の売上比率はほぼ同じで、OEMが急速に伸びています。日本はまだまだ安定した大企業への就職が人気ですが、アジア圏には起業意欲の高い若者がたくさんいます。中でもハードルが比較的低い起業は、製造元を確保し、自分のブランドを立ち上げること。当社はそんなお客様のコンサルタントになって、企画や製造元との交渉、言語や物流、金融にまつわる面倒事をサポートすることで、OEM事業を推し進めたいと思います」

オリジナル製品をつくる段階になると、やはり一度は顔を合わせないと進行が難しいそうだ。アリババでのご縁も活かしながら展示会で対話する機会を設けるなど、オンラインとオフライン両輪での営業活動を続けている。

「現在は、東南アジアのバイヤーが集まりやすいシンガポールの展示会に注目しています。海外の展示会では現地のローカル企業とつながる機会が増えます。ローカルとはいえ人口が多ければマーケットは大きい。健康や美容というのは世界共通の願いなので、需要も拡大するはずだと思っています

パネルジャパンのオフィスには、取引のある国にシールが貼られた世界地図と、これまで製造した化粧品や健康食品が並ぶ棚がある。
「地図にシールをもっと貼っていきたいし、棚にも当社がお手伝いした商品をぎっしり並べていきたいです。ちょっと子どもみたいな夢ですね(笑)。でも、日本の高品質な原料や製品が世界中に届いている証拠だと思うと、地図と棚を見ているだけでこの仕事をしていてよかったと思えるんです」

流ちょうな日本語で語る周社長の目には、思い描いた通りの光景がすでに見えているに違いない。(文:岡島 梓)