あらゆる商品を包むパッケージを生み出す会社
「もうひとつの強みは、パッケージの精密な色合わせです。私たちは色が細かく指定されたキャラクターがプリントされた包装や、多品種で小ロットのキャンペーン品も手がけており、色合わせには非常に気を遣います。当社は製版と印刷部門が一か所にまとまっていて綿密な連携がとれるので、スピーディーかつ高品質な印刷が施せます」
そう話すのは、ニットーパックの五味敦史社長。国内のクライアントから依頼を受けて製造したパッケージは、世界的にも独特といえるほど進化しているそう。長年、お客様の要望により寄り添い続けてきたことで、技術力が磨かれてきたのだ。
メーカーならではの苦境が続いた、長い一年
同社がアリババを導入したのは、2012年。国内市場の縮小は自明であり、海外に新たな市場を求めるタイミングでアリババからの営業を受けたのがきっかけだった。
まずは、自社の存在を知られなければ始まらない。導入当初から現在まで海外事業を担う部長の関口雄介氏が、アリババの担当者からサポートを受けながら、サイト構築から始めた。しかし、スタートから長らく、取引に結び付くコンタクトがなかった。その苦境には、メーカーならではの理由があった。
「小売・卸売業の場合は、商品をサイト内で紹介して、その商品を求めるバイヤーと取り引きするという流れが一般的ですよね。私たちのようなOEMメーカーは、お客様の要望から製造に着手するのが基本。パッケージの用途やロットを伺わないと、素材の検討すらつかず、大まかな見積もりを出すにも時間がかかります。急いで見積もりを返しても返事が途絶えたり、価格を提示した時点でNGということも。価格以外の価値を伝える前に判断されることが多く、落ち込みましたね」(関口氏)
さらに、食品のパッケージ等はサンプルを送ってから現地で耐用試験があり、注文までのタイムラグもある。苦しい時期が続く中、タイのある化粧品メーカーから、パッケージ製造の問い合わせがあった。スタートして1年後のことだった。
信頼感を武器に、顧客との関係を地道に築く
条件に合わせたパッケージが提供できる旨を化粧品メーカーに伝えると、すぐに製造依頼があった。ニットーパックに製造を依頼した理由は、その会社が取り引きしていた中国メーカーの不良率が4割と非常に高く、品質を重視したためだと知った関口氏。その信用に応えようと、最終確認用の製品を持ってタイの会社を訪問したところ、その行動力がさらなる信頼につながり、今でも密な関係が続いている。
「納品した当時ベンチャー企業だったその会社は、マーケティング力を活かして年々売り上げを伸ばし、あっという間に上場企業になりました。クライアントの役に立てるよろこびはもちろんですが、ともに成長できることは幸せですね」(五味社長)
品質を重視する会社から選ばれたという事実が、同社の価値を明らかにした。2017年には食品安全管理システム認証FSSC22000を取得。取得には労力がかかったが、大きなアピールポイントを獲得した。
知見を活かし、現地生産への足掛かりを築く
「現在、先ほどのタイの会社や、レトルト包装を納入しているシンガポールの商社とは良好な関係を築き、売上も立っていますが、クライアントも商売ですし、この関係が半永久的に続くわけではないという危機感は常に持っています。
岐路が訪れたとき、例えば、クライアントが多品種展開するタイミングで、私たちから新提案できるかが鍵だと考えています」(関口氏)
仕様書が送られてきたときに「同じ費用感でこんな素材でも製造可能」「費用が変わるがこの製造法がベスト」といった提案をすると、その意見が採用されることもある。まだまだ、海外にはパッケージ製造に関する情報が少ない。技術コンサルタントのような立場を築くことも、日本企業の強みを生かしたビジネスチャンスのようだ。
さらなる販路の開拓に挑戦しようとしている同社。今年もタイとマレーシアで行われる展示会に出展し、展示会後も現地に滞在して商談を行う予定だ。
「今は、高級路線で私たちが先行していますが、現地の製造レベルは必ず上がります。そのとき、現地に生産拠点がないと立ち遅れる。ゆくゆくは東南アジアに生産拠点を持ちたいですね。さらに、今後は環境への配慮から、石油から植物由来のパッケージへシフトすることも予測されます。ただ、植物由来の新素材を従来の機械で加工できるかどうかは未知数。素材メーカーと密に連携し、時代が求めるパッケージをつくっていきたいです」(五味社長)
長期的な視点のもと、自社の価値を高めて伝える
海外での販路開拓事例が少なかったOEMメーカーとして成功事例を生み出したニットーパック株式会社。その秘訣はどんなところにあったのだろうか。
「いきなり精神論かと言われそうですが、一番は諦めないこと(苦笑)。これはメーカー全般に言えると思いますが、問い合わせが来ないことには製造が難しい。販路を広げる努力をしながらも、海外事業をじっくり育てようという思いが会社に浸透しているといいですね。
アリババ入会当初、周囲からは『関口さんは何の仕事をしてるんだろう…』と思われていたはずです(苦笑)。しかし、当時の社長と現地を訪問して状況を見てもらい、実績を上げることで会社内の理解を得られるよう動いてきました。
また、私たちは輸出に関して全くの素人でしたが、その点は信頼できる輸送会社にお願いすることでハードルを超えました。プロに任せる部分を見極めることも大切です」(関口氏)
じっくり腰を据えて、自社の価値を発信すること。評価されているポイントを認識し、伸ばしていくこと。
互いの価値を認め合い、ともに成長できるクライアントと歩む同社の今後がさらに楽しみだ。(文:岡島梓)