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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第113回)

危機は何度でも乗り越える!(有限会社しんぼり)

危機は何度でも乗り越える!(有限会社しんぼり)

コロナ禍に見舞われてから約3年が経ちました。逆境に陥った企業は、業界を問わず数々存在しました。と同時に、コロナ禍だからこそ、厳しい状況のなかから新たな商品を生み出さねばと動いた経営者も多かったと思います。

この連載でいいますと、44回の「さきめし」は、応援消費の潮流をいち早く築いたスマホアプリでした。54回の「絹マスク」の開発逸話からは、町工場の矜持を深く読み取れました。60回の「骨抜きハモ」は、1人の料理人が地域を動かした経緯を綴っています。71回の「ムジンノフクヤ」は、業界の収益悪化状況を変える可能性をも見いだした事例でしたね。77回の「私のプリン食堂」の話からは、業態転換の意義を学ぶことができました。103回の「紋別タッチ」は、地域での共創から生まれる重要なところを示しています。

今回もまた、コロナ禍で売り上げ激減となった局面から企業はどう動くべきか、そのヒントを掴める事例です。
売り上げが立たない状況で開発した商品が、まず局地的なヒット。さらにそこからよその地域に住む消費者までが注目し始めたという話です。すでにその名は知られていますから、皆さんどこかでお聞きになったこともあるかもしれません。

「チョコQ助」というお菓子です。薄く焼いた南部せんべいにチョコレートをかけた商品。現在の価格は1248円という手ごろな存在なのですが、クチコミがまたクチコミを呼ぶといった感じで、ちょうど2年前、20213月に発売されて以来、どんなに増産をかけ続けてもたちまち品切れという状態となっています。

製造・販売するのは青森県八戸のしんぼりという地場のお菓子メーカー。もともと観光客向けのお土産商品が主力だったために、2020年のコロナ禍で売り上げが激減。それを打破しようと開発したのが「チョコQ助」でした。その意味では、この新商品は同社の救世主となったともいえます。ところが

昨年(2022年)夏には、いっとき製造中止に追い込まれています。せっかく起死回生の商品をものにできたのに、夏のあいだ、ずっとつくることができなかったんです。
つまり、同社にとっては「2度の危機」があったというわけですね。2度の危機というと、この連載の96回の「様似町の魚貝類」の話がありました。さあ、今回のケースでは、どのような経緯がそこにあったのか。順番にお伝えしていきましょう。

観光客激減がもろに直撃

危機は何度でも乗り越える!(有限会社しんぼり)

先ほどお話ししたように、しんぼりは八戸を訪れる観光客のためのお菓子を主力にしたメーカーでした。コロナ禍が同社を直撃して売り上げは落ち込み、半減どころではなく、89割減にまでなったそうです。
観光客が戻ってこなければ、同社の業績は上向きません。製造部でせんべいをつくっていた主任が動きます。

うちは観光客を対象にした商品をつくってきましたが、思い切って地元に暮らす人向けの新商品を開発せねば、と考えました

その両者では、同じお菓子といっても性格は相当に違ってきますね。想定単価もパッケージの仕様もそうですし、そもそも地元の人の場合には日常的に食べるお菓子となるわけですから、中身自体が全く別物になるはずです。

「正直なところ、地元客に照準を定めた商品の開発というのは、実質初めてのことでした」

まず、なにを素材にするか。主任が着目したのは「久助(きゅうすけ)」でした。南部せんべいの規格外商品のことを業界ではそう呼ぶそうです。割れたり欠けたりした南部せんべいを使えば、単価は安く押さえられますから、地元客向けの商品に生かすにはちょうどいい。

しかし、ただ単に久助を売るのでは、地元の消費者は振り向いてくれないでしょう。だったらどうするか。

「あっ、チョコがあるじゃないか、と」

同社はコロナ禍に見舞われる前から、チョコを使った新商品の開発を進めていました。でも、コロナ禍のせいで開発は途絶えたままでした。すでに他社の商品では南部せんべいとチョコを組み合わせたものはありましたが、観光客向けの存在であり、地元客対象ではないつくりでした。

「私たちが考えたのは、久助にチョコを線状にかけてゆくという手法です」

なぜか。

「ちょっとしょっぱい南部せんべいとのバランス。これに尽きますね」

さっそく試作してみると、「これ、おいしいんじゃないか」となりました。ただし、そこで満足はしなかった。

「せんべいにはもう少し塩気が欲しいし、ゴマを足してみるべき、というふうに微調整を続けました」

ああ、つまり単純に規格外の南部せんべいを流用したのではなかったのですね。軽い食感の南部せんべいをそれ専用に焼いて、味の調整もチョコをかけることを踏まえて変えたということだったのでした。

直営店で、すぐに消えた

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ここで聞いておきたいのですが、伝統的な産品である南部せんべいにチョコをかける手法に抵抗はなかったのですか。南部せんべいをいじくるな、とか、南部せんべいで遊ぶな、とか。

「それはありませんでした。もともと、うちは南部せんべいの分野では後発であって、派生型の商品化に踏み切ることに抵抗はありませんでした。それに…」

それに…なんでしょうか。

伝統的に南部せんべいをつくっている事業者がいくつも存在するのですから、私たちは“ここにしか入り込めない”、つまり(正統派の南部せんべいとは一線を画した)新しい商品で勝負するしかないという背景もありましたね

自分の会社の立ち位置をきちんと踏まえたうえで商品開発に臨んだという話だと、私は思います。そうした意識のないままに、やみくもになにかをつくろうというのでは、「チョコQ助」は誕生しなかったかもしれません。

「チョコQ助」の発売は、20213月でした。

「コロナ禍がこの先も長引くと考えられ、なにもしないでいると『もうこれ以上は無理』という局面だと判断しました。地元客向けの商品を出すのはいまだと」

商品名をつけたのは社長でした。「久助」のままでは語感が固いので、「Q助」としようと考えたそうです。パッケージは凝らず、あえてシンプルなデザインとしました。日常のお菓子という雰囲気を醸すためでした。

「これは特別な日のお菓子ではなく、普段買っていただく商品。それも地元に暮らす人のために…という位置づけを考えると、この商品名、このパッケージがいいとなりました」

市内の直営店に「チョコQ助」をまず並べてみました。すると、連日例外なく、出したぶんだけあっという間にさばけていきました。もちろん、観光客ではなく地元の客が飛びついたのでした。狙いどおり、八戸の人たちに評判が広がって、「もっと欲しい」という声がすぐに届いたといいます。

「でも、発売当初は『チョコQ助』を手作業でつくっていたために、1日せいぜい100袋ちょっとの製造が限界でした」

つくってもつくっても間に合わない。完全に想定外のことだったと聞きます。

発売翌月の20214月には、空いている機械を用いて増産をかけました。それでもまだ数が足りない。それで慌ててチョコをかける装置を導入します。
これでなんとかなるかと思ったら、今度はベースとなる南部せんべいの側の製造が追いつかなくなりました。またしても設備の手当てが必要になりました。増産を重ねているはずなのに、店舗に出荷した途端に売れ尽くし、2022年に入ったあたりで「1組のお客の購入は3袋限定」といったように制限をかけざるを得なくなりました。そして直営店には毎日、開店前から行列ができるほどに

このころには地元のスーパーマーケットからの注文が相次いで、それらにも必死に卸していましたが、やはり店頭に並んだら即売り切れ、という状態を余儀なくされます。ちなみに、上に掲載した画像は今年(2023年)3月に八戸のスーパーマーケットで撮ってきた一枚です。今でもまだまだ品切れ続きであることがわかるかと思います。

こうした異例の状況がクチコミをさらに呼んで、「チョコQ助」はいつしか全国区での人気となってゆきます。ただし、販売しているのは、八戸にある同社の直営店と、県内のスーパーマーケットなどにほぼ絞っています。同社のネット通販では取り扱っていません(価格にすごいプレミアを乗せて売るネット通販事業者が一部にみられますけれど)。

そもそもが地元客のための商品であったという原点を守っている、ということなのだと私は思います。コロナ禍のきわめて苦しい場面で助けてくれたのは、ほかならぬ八戸で暮らす人たちだったわけですからね。もちろん、品薄続きのためにネット通販に回す余地がないという事情があるにせよ…。主任はいいます。

「コロナ禍で仕事がなくなり、工場を一時休止までしていたころのことを思えば、忙しくてうれしいと感じる一方で、お客さまに申し訳ないという気持ちが強くありました」

2022年に入っても増産体制の強化をさらに続け、最初は1100袋強だったのを、1日で1000袋を超えて製造できるようになりました。それでも足りない程の人気はまだ続きました。

ところが、ここで別の問題が発生しました。発売から1年をすぎた昨年(2022年)の夏のことでした。

ひと夏の製造中止を決断

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チョコが固まらなくなったのでした。夏の暑さのせいでした。発売初年の2021年は製造数がそれほどでもなかったので、当時ある冷却用設備でなんとかなったのですが、大増産をかけていた2022年の夏は対応しきれなくなりました。

「お恥ずかしい話ではあるのですが、完全に追いつかなくなったんです」

ここでどうするか。

「ただでさえ品薄なのに、いつどれだけの数を届けられるかお伝えできないというのは、本当に失礼な話と考えました」

そうした不確定な状況を続けて、地元のスーパーマーケットにも消費者にも迷惑をかけるのならば、体制を整えるまでのあいだ、製造を止めるしかない、と主任は決めます。夏の時期、2カ月間を製造中止としました。

せっかくの「チョコQ助」人気が萎んで、消費者が離れるという心配はなかったのでしょうか。

できないものをできるといって、しのごうとするほうが申し訳ないという気持ちでした、ただ、製造中止としていたあいだ、「残念です」という声が届いたものの、クレームはありませんでした。とても感謝しています

涼しくなった9月、「チョコQ助」は製造と販売を再開します。結果をいいますとお客は離れませんでした。

「待っていてくださる、と私たちは信じていました。必ずや戻ってきていただける、と…」

地元には1人で毎回何袋も購入する消費者がついていました。2021年の春に窮余の策として登場させたこの商品を支持した層が、今回も見放すことはなかったのですね。

新工場でさらに増産を期す

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今年(2023年)の夏に向け、チョコ対策は大丈夫なのでしょうか。

「チョコを冷却する装置を増やしましたし、本社の隣に新しい工場を立ち上げて、もっと増産できるようにしています」

現在では1日に4000袋つくれる体制まで持ってくることができたそうです。ここからさらに1日8000袋体制までを視野に入れているとのこと。最初が100袋ちょっとだったのを考えると、かなり強気にも思えますけれど、実際、先ほどの画像でお見せしたように今でも品薄状態なのですから、確かに必要な設備投資なのでしょう。

最後に尋ねたい。どうしてここまで売れていると主任は考えますか。いっときのブームで終わってしまうことがなく、2021年の3月から飽きられることなくずっと人気が続いているのは、単に品薄による飢餓感によるものだけでは説明がつきづらいですよね。

「商品のおいしさだと思います」

確かに…。軽やかな食感で、塩気と甘さのバランスも絶妙。次のひとくちをぐいぐいと誘う仕上がりになっています。

「ただし…」

主任は言葉を続けます。

「この『チョコQ助』が救世主になったのは間違いありません。コロナ禍で売り上げが立たない状況から、想像を超えて急伸しましたから、でも、社としてはこれだけ売れても浮き足立っていません。淡々としています」

それはどうして?

この先、時間が経てば、人気は一段落するでしょう。ですから、冷静に次の商品を開発する姿勢が私たちは必要です

そうですね。こういう局面でこそ、次の一手に向かう意識が大切なのだと思います。それは地元向けなのか、戻りつつある観光客向けなのか。「チョコQ助」の飛躍を受けて、きっとその両面で攻めるのでしょう。

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