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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第96回)

たとえ危機が2度襲っても!(様似町の漁師、
株式会社グリーンストーリープラス、
様似町観光協会)

たとえ危機が2度襲っても!(様似町の漁師、株式会社グリーンストーリープラス、様似町観光協会)

以前、この連載で、「コロナ禍において、地方の観光業が真に危機を迎えるのはいつなのか」というテーマをお伝えしましたね。81回の南砺市観光協会の話でした。もちろん、2020年の段階で大変な状況に陥っていたわけですが、本当の意味で危機を迎えるのは「コロナ禍が落ち着いた、その瞬間だ」という指摘に、私はハッとさせられました。人々の消費行動に制約がなくなり、どこにでも行けるようになれば、地方の観光業、あるいは地方の産品は埋もれてしまいかねないわけです。

だからこそ、いまから地域の魅力をさらにブラッシュアップすべきだ、という話でもありましたね。で、今回のテーマです。

南砺市のほかにも、そのように考え、2020年春の段階から動いていた地域があります。それは北海道・日高地方の様似(さまに)町。あの襟裳岬から遠くない位置にあります。今回は、この様似町の水産物をめぐる話。

最初に申し上げますと、様似町の漁業をめぐっては、2020年、そして今年(2022年)と、2度にもわたって大きな危機に襲われています。2020年はいきなりのコロナ禍です。これはほかの地方と共通ですね。でも、それだけでは終わらなかった。前年から様似町の海で赤潮が発生し、水産物が壊滅的な被害を受けたのです。

2度の危機にどう立ち向かったのか。その経緯を順にお伝えしていきます。

売り先が激減するなかで

たとえ危機が2度襲っても!(様似町の漁師、株式会社グリーンストーリープラス、様似町観光協会)

様似町は、春ウニが獲れる地域です。北海道のなかでもウニの旬が異なり、その意味でも、東京をはじめとする大都市圏の高級料理店に重宝されている産品でもある。味はというと、これがまたとびきりの一線級です。相応に値も張りますから、なかなか一般消費者には手が出しにくい面はあるものの、まあそれだけ、食のプロが評価してきたということなのですね。

ところが……。2020年の春に新型コロナウイルスの感染急拡大が起きます。全国の飲食店は休業を余儀なくされ、春ウニが旬を迎えたにもかかわらず、売り先を失ってしまいます。獲らなきゃいいじゃないか、と思われるかもしれませんが、そうするとウニが昆布を食べてしまいます。様似町は昆布漁もまた盛んですから、これは困る。

どうするか。様似町観光協会の職員が動きました。

「もともと、私は『春ウニが伝統的に美味しい町であることを、もっと広く伝えたい』という思いを抱いていました。これはコロナ禍の前からの話です。だから、消費者に直接アピールする手立てを講じるべき、と計画していました、そこにコロナ禍が襲ってきたわけです」

観光協会の職員は、地元・北海道の食材を全国各地に伝える取り組みを続けている、グリーンストーリープラスの代表に話を持ちかけます。

「消費者に直接、春ウニを届けたい、と、かねてから相談していましたが、コロナ禍に襲われたいまこそ、まさにそのタイミングとなりえます。売り先が激減したからです」

グリーンストーリープラスの代表はその気持ちに呼応しました。代表はなぜ、一緒に動こうと考えたのでしょうか。

「地域産品にとって大事なのは、必ずしもマスをつかむことではありません。『とにかく多くのファンを』ではなくて『深い関係を紡ぎ続けられるファンを着実に』というほうが賢明です。様似町の春ウニを各地の消費者に送ることで、それが成り立つと考えました」

躊躇する漁師もいたが…

たとえ危機が2度襲っても!(様似町の漁師、株式会社グリーンストーリープラス、様似町観光協会)

具体的にはなにをするか。観光協会の職員、そしてグルーンストーリープラスの代表は、「殻つきの春ウニをそのままの状態で、消費者のもとに発送しよう」と発案します。

ところが、一部の漁師さんや漁協からは、消極的な声が漏れてきました。まず、春ウニを直販した経験がこれまで全くなかったこと。それと、殻つきの状態で送って、もし中身が溶けていたりしたら、クレームにつながりかねないという不安があること。この2つが理由でした。

観光協会の職員とグルーンストーリープラスの代表は、そこを説得にかかります。「消費者もいろいろと納得づくで購入してくれます」「たとえ中が溶けかかっていても、こういう社会状況なのだから、誰も怒りません」「いまここでためらっていては、事態はなにも変わりません」というふうに……。

すると、ある漁師が賛成の声を挙げました。そのウニ漁師さんの話です。

「春ウニの殻を自分で割ってすぐに食べるのが最も美味しいというのは、地元の人なら知っています。だったら、各地の消費者に殻つきの状態で売るのもいいじゃないか、と」

ウニ漁師として不安はなかったのですか。

「中身を確認しないまま送るのは、確かに心配ではありますね。でも、それも逆に面白いかもしれないと考えました。割ってみて中はどうなのか……。それも含めて楽しんでいただければという考えです。自然界で獲れるものだから、そうした状態がどうしても生まれます」

これで、様似町の春ウニを、消費者に直接送る手はずが整いました。

売ったのは春ウニではない?

たとえ危機が2度襲っても!(様似町の漁師、株式会社グリーンストーリープラス、様似町観光協会)

で、ここからです。グリーンストーリープラスの代表は、観光協会の職員やウニ漁師たちに、次のような提案をしました。

「ただ単に、『春ウニを通販で送る』のではなくて、『ファンクラブ』としましょう」

どういうことか。グリーンストーリープラスの代表はいいます。

「もちろん、春ウニを消費者に直接販売するというのが、今回の事業です。でも、大事なのは、春ウニを得ること自体にもまして、ほかにあります。それは、漁師と消費者を直接つなぐ、という点にあります」

ああ、なるほど。漁師は毎日大変な思いで魚介を獲っていますが、それを口にする消費者と直接に話をすることはほぼありませんね。この危機的な状況下で、あえてそうした関係を構築してしまおう、という狙いだったのですね。

つまり、春ウニを売るということ以上に、春ウニを獲る漁師とのいい関係を販売するのが目的、とでも表現すればいいでしょうか。ならば、今回の事業の名称はおのずと決まりますね。グリーンストーリープラスの代表はこう名づけました。

「『春ウニファンクラブ』です。1度きり、春ウニを買っていただくのではなくて、ファンクラブ会員として、長くお付き合いしてくださいね、という思いをそこに込めました」

実際、どのような反応があったのか。2020年春に、グリーンストーリープラスが運営する「北海道食べる通信」で希望者を募ったところ、募集枠の40人がわずか1日で埋まってしまい、急遽、その枠を50人に広げます。その定員にもすぐに達し、最終的には100人が集まったそう。

コロナ禍では「応援消費」という言葉が注目されましたね。苦境にあえぐ事業者を支えるために、積極的にものを購入しようと……。この連載でいいますと、44回の「さきめし」など、その好事例です。今回の「春ウニファンクラブ」もまた、応援消費が実った、ひとつの姿といえそうですね。

ちなみに、「春ウニファンクラブ」初年(2020年)の売り上げは、およそ60万円だったといいます。この金額が多いか少ないかは議論が分かれるかと思いますが、そもそも様似町の春ウニはそんなにたくさん獲れるわけではないので、募集数をある程度絞らなければならなかったことも背景にあります。そしてもうひとつ、この60万円の意義です。グリーンストーリープラスの代表はこう話します。

「これは『明日に繋がる60万円』であると確信しました」

なぜなのでしょうか。

漁師の意識が大きく変わった

たとえ危機が2度襲っても!(様似町の漁師、株式会社グリーンストーリープラス、様似町観光協会)

グリーンストーリープラスの代表が言葉を続けます。

漁師と消費者のコミュニケーションが、この様似町で初めて生まれたんです

漁師からは「ぜひ、買ってくれた消費者に会いたい」「もっと美味しい食べ方を直接伝えたい」という声が次々と挙がったそうです。そして消費者の側からは、心配されていたクレームはなく、「次は、梱包をこういう感じでぜひ送ってほしい」といった形での要望が寄せられたといいます。マイナスの声ではなく、前向きな声だった、という話ですね。つまり、「ファンクラブ」とした狙いは当たったといえるでしょう。「コロナ禍が収まったら様似町を訪れたい」という消費者もいたと聞きます。

コロナ禍に見舞われるなかでこうした関係を紡げたことは、様似町の漁師にとって、とても大きな励みになったはず、と私も思います。

クレームが来なかったことに関して、前出のウニ漁師はこう語っていました。

「観光協会やグリーンストーリープラスが、消費者に向けて、殻つきのウニの特性をちゃんと説明してくれていたのが大きかった。つまり、このファンクラブを立ち上げるにあたって『持ち場ごとにそれぞれが頑張った』ということです」

やってよかった?

「もちろんです。これまでは獲った春ウニを卸して終わりだったのが、『旨い!』という声を直接聞くことができたわけですから」

最初に動いた観光協会の職員は、この反響をどうみたのでしょうか。

「売りっぱなしではない、というところが大事だったのですね。ネットショップで販売するだけじゃない。ちゃんとファンをつかめたからこそ、こうした流れが生まれたんです」

危機に対して団体戦で臨む。そして持ち場ごとに力を尽くす。地域産品の存在を伝えるうえで、やはり重要な話なのでしょう。

春ウニが全滅してしまった

たとえ危機が2度襲っても!(様似町の漁師、株式会社グリーンストーリープラス、様似町観光協会)

ところが……。昨年(2021年)の晩夏のことでした。海が大しけとなった後の浜に、ウニが大量に打ち上げられるという事態が、様似町を襲いました。プランクトンの異常発生、いわゆる赤潮です。それがいまも続いている状況。

様似町の春ウニは今年、全滅でした。水揚げゼロだったのです。ウニ漁師はいいます。

「言葉も出ないほどの衝撃でした。ここまでの状況は初めてです」

聞くと、春ウニが様似町の海で再び育ち、獲れるようになるまでには最低でも4年はかかるそうです。

コロナ禍に見舞われた様似町の漁師に希望の光をもたらした「春ウニファンクラブ」は、ならばどうするのか。再び、観光協会の職員の話です。

「最初は、もう諦めの気持ちしかありませんでした。でも……」

でも、なんだったのでしょうか。

「春ウニがダメなら、貝があるじゃないか」

観光協会の職員は、さらにいいます。

「確かに『春ウニファンクラブ』と名づけた取り組みですけれど、私の思いとしては『様似町ファンクラブ』であってほしいという部分が一貫してありました。だったら、会員の皆さんに状況を説明したうえで、貝をおすすめしよう、と」

そして、様似町の貝づくしのセットを、「春ウニファンクラブ」の会員に先行販売するよう動き始めます。グリーンストーリープラスの代表は、とりわけ様似町のホッキ貝に注目しました。

「北海道内のほかの産地とは漁期が異なることもあり、ここ様似町では卵を抱いたホッキ貝が、5月に揚がるんです。これは大きな魅力となる」

私も購入して食べてみましたが、卵の舌触りも風味もべらぼうなものでしたね。ぜいたく極まりないホッキ貝と断言できます。

コロナ禍に追い打ちをかけるような赤潮の発生にも、関係者はくじけることがなかった。ファンクラブの存在を生かして、次の手を探ろうと、ただちに一歩を踏み出した。そこが大きかったという話です。

この貝づくしの販売にあたっては、貝を獲る漁師の協力がもちろん不可欠です。その漁師にも話を聞きました。

「赤潮の被害は、貝にも及んでいます。今年の水揚げは去年の半分程度です。浜値も上がってしまって一般の消費者に直接売るというのは難しい部分もあるけれど、この話を断りたくなかった。関心を寄せてくれる消費者に、ちゃんと貝を出していかないと」

愚問かもしれませんが……様似町のホッキ貝はやっぱり美味しい?

「そりゃもう別格です。まるっきり違うと、私は思いますよ。特に様似町の冬島で揚がるホッキ貝は……。玉は大きく、水っぽさがない。5月の時季の抱卵ホッキ貝がまた旨いし」

地域には宝物がちゃんとあるのだと感じさせる話でもありますね。春ウニの復活まではあと最低4年待たないといけませんが、「ファンクラブ」の会員は、様似町で獲れる貝の魅力をまた知ることになったわけです。

地方が生き延びる戦略を…

たとえ危機が2度襲っても!(様似町の漁師、株式会社グリーンストーリープラス、様似町観光協会)

上の画像の左上がホッキ貝の漁師、右上がウニ漁師。そして、左下が「春ウニファンクラブ」の管理運営を担うグリーンストーリープラスの代表、右下が一連の取り組みを先導した観光協会の職員です。

2020年からの経緯について、観光協会の職員は語ります。

この2年は、地方が生き延びる戦略を立てる機会になったと思います

豊かな漁場が強みである様似町ですが、もともと有名な観光地というほどではありませんでした。これからの町のために、食材の豊かさこそを、広く、そして深く訴求していく、ひとつの契機となった2年間だったということですね。

グリーンストーリープラスの代表はいいます。

「これからは地域と地域が直接に結びつく時代です。必ずしも大都市圏だけが対象になるわけではない。『春ウニファンクラブ』の取り組みを通して全国各地の消費者と地元漁師がつながり、その感を改めて強くしました」

ウニ漁師は「春ウニファンクラブ」の会員に向けて、先月、オンラインのトークイベントで直接、春ウニの状況を説明しました。様似町の漁師たちがなにを思い、どのように前向きな姿勢を貫こうとしているか、熱意を込めて消費者に語っていました。そういうコミュニケーションが生まれているのも、今回の取り組みを関係者がしっかりと続けてきたからこそ、ですね。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分
析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっ
ている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」
(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、NTT東日本「経営力向上ラボ」、
家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地
方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」な
ど、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

ANA国内線「北村森のふか堀り」監修

経済産業省 北海道経済産業局 地域ブランド創出支援事業 チームリーダー
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)

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