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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第95回)

その技術で海外市場をつかむ!
(中橋莫大小株式会社)

その技術で海外市場をつかむ!(中橋莫大小株式会社)

この連載で何度もテーマにしてきた話が2つあります。「OEM製造で培った技術を使って、自社ブランドを構築できないか」「新たな市場を模索して、そこに打って出ることはできないか」。
今回取り上げる商品は、まさにこの2つのテーマにかなうものです。なにかというとルームシューズ。東京・墨田区にある中橋莫大小という中小企業が2013年に発売した「merippa(メリッパ)」という商品です。

その名から想像がたやすくつきますね。つまりはメリヤスを用いてつくったスリッパ、ということです。優しい肌ざわりが持ち味で、そのデザインバリエーションはここまで累計700近くに及ぶとも聞きました。つまり、700ほどの種類を世に送り出せるほど大健闘しているということにほかなりません。値段は5060円と決して安くはないのですが、それでも消費者がついてきています。

同社はなぜ、「merippa」を開発したのか、そして、どのような道のりをたどって「merippa」はいまも売れ続ける存在になっているのか。今回はそこを見ていきましょう。

国内生産比率はわずか0.3%

その技術で海外市場をつかむ!(中橋莫大小株式会社)

中橋莫大小はもともと、カットソーのOEM製造に長年携わってきた会社です。取引先は有力ブランドが数多く、そうした仕事を通して技術力を蓄えてきたといいます。
それがなぜ、2013年に初めての自社ブランド商品を手がける判断をしたのか。聞けば、現社長が先代から事業を受け継いだばかりの時期だったそうです。

「メリヤスの世界は、海外勢力にかなり押されている状況だったんです」

国内生産の比率はわずか0.3%に落ち込み、職人さんの数はどんどん減っていった。

「せっかくモノをつくれる技術があるのに、『これじゃダメだ』と強く感じました」

ならば自社ブランド商品を開発するのが一手であると決断します。ただし、取引先は著名なコレクションブランドが中心だったこともあり、なにをつくるのかは悩みどころでした。

「長年の取引先を差し置いて、私たちがみずから服をつくって打つのはおこがましい話ですからね」

では、どうするか。メリヤスの技術を生かすのは、もう必須ですね。そうでないと意味がありません。社内でいくつもの試作を進めました。帽子、あるいはカバン……。そうしたなかで、30代の女性社員が提案したアイデアが目を惹きました。

「それがルームシューズでした。すぐにピンときましたね」

社員から、強い力をもった発想が出てきたのですね。

「みんな、ものづくりが好きでこの世界に入ってきているんです。だからこそ、なにかをつくろうとなると、こうしてアイデアが浮かぶのでしょう」

ただし、あくまで同社の仕事の中心はOEMにありました。そのためでしょうか、自社ブランドの立ち上げに対して、社内全体がすごく盛り上がるというほどではなかったともいいます。でも、ここが勝負どころと踏まえ、ためらうことなく商品開発に臨みました。

ブレイクするまで2年かかる

その技術で海外市場をつかむ!(中橋莫大小株式会社)

「merippa」は2013年に発売となりましたが、市場の反応は静かなものでした。当時はいまほどルームシューズの存在感は高くありませんでしたし、値段が安くないということもあったのでしょう。
風向きが変わったのは、発売2年後の2015年のことでした。東京・銀座で「merippa」を扱ってくれるショップが現れたんです。これは単なる幸運ではなくて、社長自身の働きかけによるものでした。

「その取引先にはOEMでTシャツを収めていたのですが、『ついでにと言ってはなんですが、「merippa」も置いてもらえませんか』と頼み込みました」

取引先は快諾。すると、これをきっかけに米国のセレクトショップの経営者が「merippa」を目にすることとなった。そして「これを米国で売りたい」とオファーをかけてくれました。
ああ、好機をただ待つのではなくて、動けるところで動くことがやはり大事なのだなあ、と私は感じました。その経営者がこのルームシューズに注目してくれるに至った経緯を考えれば、単なる幸運ではなかったといえますから……。

そして、その経営者は実際に「merippa」を仕入れてくれ、現在では同商品の売り上げの7割は北米市場での販売が占めるほどになっています。ちなみに日本国内は2割、残り1割は欧州などだそうです。
生活習慣の違いや、価格に対する考え方が異なるのでしょうね。国内よりも米国市場でより受け入れられたというのは興味深いところです。

「ただし、日本国内でも、伊勢丹をはじめとして扱ってくれる百貨店などが現れています。5000円ほどするルームシューズですが、そこに価値を見出してくれる消費者はいるということだと思います」

「merippa」は大きな存在に育ったといっていいでしょう。「merippa」そのものの売り上げは発売当初の3倍規模となり、同社の売上高の7〜10%を担っているそうです。現社長が事業を継承して10年弱ですが、売上高全体では継承当時に比べて約3億円伸びています。

どうして米国で成功した?

その技術で海外市場をつかむ!(中橋莫大小株式会社)

それにしても……。なぜまた米国市場でこれほどまでに「merippa」は受け入れられたのでしょうか。

「あるとき、米国の取引先に尋ねたんです。どうしてでしょうか、と」

米国のショップでの訴求法は次のようなものだったそうです。自分の時間を大事にしましょう。好きなソファで、好きな照明のもとで……。そんなひとときをおくるのに「merippa」はどうですか。

「当時、米国には『merippa』のような商品はありそうでなかった、とも聞きました。そういうことか、と感じましたね」

単なるプロジェクトとしてのアピール(素材ですとか仕上げのよさですとか)ではなく、その商品がある生活とはどんなものか、と、米国のショップは訴求した。こうした売り方は、別の商品領域でも、そしてもちろん日本国内市場での売り方でも、参考になるところだと思わせます。「それがあると、日々の暮らしにどのような変化をもたらすのか」は、消費者の強い関心事ですから。

累計700バリエーションの理由

その技術で海外市場をつかむ!(中橋莫大小株式会社)

「merippa」は、そのはき心地の優しさが魅力であるのと同時に、ここまで累計700近いカラーバリエーションを出しているのが特色ということは先に触れました。
なぜ、そこまでの数を世に出し続けているのでしょうか。

「選ぶ楽しさが必須のアイテムだと思うからです」

必ずしも安くない商品だけに、プレゼント需要をつかむことが大事になってきます。さらにリピーター層を確実に保持するには、カラーバリエーションの幅は重要ということですね。

「春夏秋冬、毎シーズン、新作を出しています」

誰がデザインを?

「私です。ほかにやる人がいなかったからでもありますね」

ポイントはどこに?

「かわいいと感じさせるデザインであるのが大切と考えています」

確かに……。男性向けの「merippa」を見ても、凛々しさだけでなく愛らしさも備わっている印象です。それがこの商品の持ち味になっているのですね。

既存の取引先からも注目され…

その技術で海外市場をつかむ!(中橋莫大小株式会社)

こうして「merippa」は、同社にとって欠くことのできない自社ブランド商品となったわけですが……。社内の空気も変わったのでしょうか。

「いえ、淡々としたものです。社員は冷静です、『社長がまたいろいろやっているなあ』くらいのものでしょう。ただし……」

でも、いくつかの大きな変化があったともいいます。

「まず、私の意識が違ってきました」

どういうことか。

同業他社と変に張り合うことがなくなりました。『merippa』を通して、よそとは違うことをやっているのですから、売上高などを他社と比較しても仕方ないし、実際、他社もうちと比べたりしなくなっている

さらには、これまでのOEMの取引先から「『merippa』の調子はどう?」と、しばしば声をかけてもらえるようになったとも聞きました。

「うちの社員にしても社外の人にしても、まさか『merippa』がここまで売れるとは想像していなかったはずです」

こう考えると、「merippa」にはやはり、その売り上げを超えた価値があったと考えられますね。本社のすぐそばには「merippa」の公式ショップも直営で開設され、色とりどりのラインナップが並んでいます。社員にとってもこれは励みになる話ではないでしょうか。

「コロナ禍のもとでも、うちの売上高は落ちておらず、むしろ増えています。つくるアイテムの幅をこうして広げ続けたことが、いま生きたのではないかと思います」

最後に……。社長はこうも語りました。

「ものづくりの文化は決してなくならないはずです」

でも、この厳しい状況下で、どうすればいいか迷っている経営者も多いかと思うのですが。

この『merippa』なんて、メリヤス屋であれば、もうどこの企業でもつくれたはずです。国内の町工場に技術の差はほぼないだろうから

もしそうだとすれば、あとは「つくることを決断」して、「仕入れてくれる企業との接点を見出せるよう必死に動く」かどうかによるという話なのかもしれません。同社はそれを実行して、現在に至るわけですね。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分
析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっ
ている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」
(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、NTT東日本「経営力向上ラボ」、
家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地
方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」な
ど、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

ANA国内線「北村森のふか堀り」監修

経済産業省 北海道経済産業局 地域ブランド創出支援事業 チームリーダー
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)

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