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  • 2022.06.14

事例で考えるコンプライアンス入門

事例で考えるコンプライアンス入門

コンプライアンスは具体的に考える

企業で仕事をしていると「コンプライアンス」という言葉がしばしば登場します。コンプライアンスとは、「法令遵守」を意味するもので、ここにいう法令とは、法律のみならず、企業倫理や社会規範をも含むとされることもあります。

近年、企業の社会的責任という観点からもコンプライアンスに対する意識の向上が求められています。その一方で、実際は企業においてさまざまなコンプライアンス違反の事案が後を絶たず、コンプライアンスに対する意識が十分に根付いているとはいいがたい状況にあります。

そもそも、「法令を遵守する」ということ自体に異論がある人はいないでしょう。にもかかわらず、コンプライアンス違反の事案(すなわち不祥事)が発生しているのは、コンプライアンスという言葉を抽象的にしか理解していないということにあると思われます。

そこで、今回は具体的な事例を通じて、コンプライアンスとは何かということを解説したいと思います。

事例からコンプライアンスの意義を考える

家電機器を製造するP社は,Q社に対し,P社が家電機器を使用する際に用いる部品の製造委託をしていた。この委託業務の委託料は,製造を委託する部品数に応じたもので、その通常の単価は、1個当たり5000円であった。

ところが、P社のベテランの契約事務担当者の甲は、Q社に対し、部品1個当たり6000円の請求書を作成すること、差額の1000円については、P社からQ社に振り込まれたのちに、甲に支払うことを指示した。このようなことが10年間にわたり行われ、Q社が、甲に対して支払った金額は合計で2000万円にも及び、甲が支払いを受けた金銭はすべて甲の遊興費に費消された。

事例は、P社の契約事務担当の従業員である甲が自らの利益を得るために、取引先であるQ社から不正に支払いを受けたというものです。この事案においては、甲について、懲戒処分はもちろんのこと、民事・刑事上の責任を問われることになります。

しかし、甲にとどまらず、P社も甲による不正行為を看過していたとして、社会的な信用が大きく失われることとなります。すなわち、風評被害で自社の製品が消費者から受け入れられなくなったり、行政から指名停止等の措置などを受けたりすることもありえます。また、事例とは異なりますが、従業員が企業の名を語り、詐欺を行った場合などは、従業員が行った不正行為について、企業が損害賠償責任を負うことも考えられます(民法第715条)。

すなわち、一従業員の不正行為であっても企業全体のコンプライアンスに関する姿勢が不十分であると判断され、企業にとって大きな損失へとつながるリスクがあるのです。このようなリスクをさけるためにも、企業にコンプライアンスへの取組みが求められているといえるのです。

不正行為が発生するプロセス:不正の三角形

では、事例のような従業員による不正行為はどのようなプロセスで発生するのでしょうか。この点について、「不正の三角形」というモデルがあります。

不正の三角形とは、不正行為は、「動機」、「正当化」、「機会」の3つの要因によるとされるものです。ここにいう「動機」、「正当化」、「機会」とは次のようなもので、「動機」や「正当化」という主観的な事情が「機会」という客観的な事情と結びついて不祥事が発生するといえます。

① 動機…不正行為の実行を欲する主観的な事情

  (例 個人的に多額の借金がある、仕事の締め切りに間に合わない、上司による業務遂行への圧力)

② 正当化…不正行為の実行を積極的に是認する主観的な事情

  (例 一時的に借りるだけ、ほかのみんなもやっている)

③ 機会…不正行為の実行を可能または容易にする客観的な環境

  (例 権限が一人に集中している、業務が専門的で誰もチェックできない)

事例で考えるコンプライアンス入門

この不正の三角形を用いて事例を分析すると、次のようになります。まず、動機について、事例では甲がQ社から支払いを受けた金銭を遊興費に費消していることから、遊ぶ金が欲しかったということでしょう。

次に、正当化について、例えば最初はその日のパチンコ代として1回限りでQ社から支払いを受け、後日Q社に返還したうえで支払記録を修正しようと思っていた(しかし、それがばれなかったので長期間にわたって不正行為に及んだ)ということが考えられます。

そして、機会について、事例では、甲は契約事務を長期間担当していたことがうかがえ、ほかの従業員が甲の業務をチェックできなかった可能性があります。また、どこの事業者に部品製造を発注しているのかについて、ある程度甲に権限が集中していたことも考えられます。なぜならば、Q社は甲の不可解な指示に対し、普通は異議を述べると思われます。にもかかわらず、長年にわたり、Q社が甲の指示に従ってきたのは、甲の指示に対して異議を述べればP社からの受注が今後見込めなくなってしまうと考えたことによる可能性があるからです。

不正の三角形を用いて不正行為の原因分析と予防策の検討を
行う

このように、不正行為の三角形は、不正行為が発生した場合において、その原因の分析の視点を提供するものといえます。

また、不正の三角形は、不正行為を未然に防ぐ又は被害を最小限にするためのヒントを提供するものともいえます。すなわち、「動機」や「正当化」は、基本的には不正行為を行う者の主観的な事情ですので、コンプライアンス研修の実施などによるコンプライアンス意識の醸成を行うことや業務又はプライベートの悩みを相談できる体制を整えることなどが有用となります。

他方で、「機会」については、さまざまな方法により業務のチェックする体制を整えることが有効となります。例えば、事例のP社の場合、定期的な人事異動を行っておれば、甲の後任者が前任者である甲の契約事務の処理を確認し、早期に不正を発見することができたかもしれません。すなわち、人事異動は、不正の早期発見が可能という意味で最もよいコンプライアンスの手段であるともいうことができます。

また、決裁制度を厳格にして、甲の独断では発注先を決定することができないようすれば、甲による不正行為を防ぐことができたかもしれません。さらに、決裁という縦のラインだけでなく、同僚による金額のチェックなどを行うことにより、ささいな(しかし、重大な結果をもたらしかねない)ミスを防ぐことも可能となるでしょう。

事例で考えるコンプライアンス入門

全ての従業員がコンプライアンスを「具体的に考える」こと
から始めていく

本稿では具体的な事例を素材として、コンプライアンスについて解説を行ってきました。

コンプライアンスはすべての従業員が「具体的に考える」ことから始まるといっても過言ではありません。ところが、筆者が企業や自治体などさまざまなところでコンプライアンス研修の講師をしたときの経験からしても、まだまだコンプライアンスについて他人事と考えている従業員も少なくないように思えます。

コンプライアンス研修はもちろんのこと、それ以外にもミス・ヒヤリハットの事案について共有する(その際は個々の従業員の責任追及を行うものではないことには留意する必要があります。)などの取組みを進めていくことでコンプライアンス意識が高まっていくことが重要であると考えます。本稿が参考になれば幸いです。

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