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  • 2022.05.09

デリバティブの活用による海外取引の損失回避

デリバティブの活用による海外取引の損失回避

増加する海外取引

日本は資源・エネルギーなどをはじめ海外依存度の高い国です。原材料や資源を海外から輸入し、それを高い技術力で加工し高品質の工業製品として海外に輸出し経済発展を遂げてきました。そのため以前から海外取引が多く行われていました。

そうしたところ、近年においては日本では人口減少が続き、国内市場の縮小は避けられない状況となっています。そこで、海外に目を向け規模の大きな市場で事業の継続をはかろうとする企業により、海外取引が増えています。

また、新型コロナウイルスの感染拡大以降、ニューノーマルといわれる生活や行動様式の変化により、世界中で新たなビジネスモデルが生まれ、オンラインツールも飛躍的に進化を遂げました。これらをうまく活用することで海外取引は増加しています。

為替変動リスクの発生

海外取引を行う際は、外国通貨を建値として取引される場合が多いです。そのため決済金額を円貨に換算する(為替換算(※1))際に、為替レート(※2)の変動によるリスクが発生します。為替レートは各国の政治・経済状況の見通しや金利の予測情報等、さまざまな要因により激しく変動する場合もあります。

1 為替換算とは、外国通貨で表示されている数値を自国通貨による数値に変換することです。為替換算は、外貨による金額×為替相場(為替レート)=円貨による金額で計算されます。

(例1

売掛金10,000ドル ⇒為替相場(1ドル=100円) ⇒1,000,000

2 為替相場(為替レート)とは、2国間の通貨の交換比率のことです。たとえば、1ドル=110円の為替相場の場合には、110円で1ドルと交換できることになります。この為替相場が1ドル=100円になれば、円の価値が高くなった(ドルの価値が低くなった)ことになり円高となります。反対に為替相場が1ドル=120円になれば、円の価値が低くなった(ドルの価値が高くなった)ことになり円安となります。

(例2

10,000ドルの製品を輸入し決済期日が3カ月後である場合を考えてみます。取引時点の為替相場が110/ドルであり、決済期日における為替相場が120/ドル、110/ドル、100/ドルとなった場合の為替変動による影響額は下記の表1のようになります。

1 為替変動による影響額(輸入の場合)

取引時点の為替レート

3カ月後の為替レート

影響額

110/ドル

120/ドル

100,000円の為替差損※3

110/ドル

110/ドル

なし

110/ドル

100/ドル

100,000円の為替差益※4

  ※3 為替差損とは為替レートの変動により生じた損失のことをいいます。
  ※4 為替差益とは為替レートの変動により生じた利益のことをいいます。

(例3

他方で10,000ドルの製品を輸出し決済期日が3カ月後である場合を考えてみます。取引時点の為替相場が110/ドルであり、決済期日における為替相場が120/ドル、110/ドル、100/ドルとなった場合の為替変動による影響額は下記の表2のようになります。

2 為替変動による影響額(輸出の場合)

取引時点の為替レート

3カ月後の為替レート

影響額

110/ドル

120/ドル

100,000円の為替差益

110/ドル

110/ドル

なし

110/ドル

100/ドル

100,000円の為替差損

為替予約を用いた為替リスクによる損失低減

上記のような為替変動による影響を低減させるための方法として、為替予約というデリバティブ取引の利用が考えられます。為替予約とは売買の当事者が金融機関の店頭などで、あらかじめ定められた時期に特定の通貨を一定価格で売買することを約する取引です。

上記(例2)の輸入の場合であれば、為替変動によるリスクを低減させるために、金融機関と3カ月先のドル買い・円売りの為替先物予約を行います。3カ月後のドル買い・円売り(支払いのためドルを購入する)の為替レートが111/ドルである場合には、3カ月後に1ドルを111円で購入することができます。この場合には、10,000ドル×(111円-110円)=10,000円の損失が発生しますが、120/ドルで決済する場合よりも損失を低減させることができます。

上記(例3)の輸出の場合であれば、為替変動によるリスクを低減させるために、金融機関と3カ月先のドル売り・円買いの為替先物予約を行います。3カ月後のドル売り・円買い(円で受け取るためドルを売却する)の為替レートが109/ドルである場合には、3カ月後に1ドルを109円で売却することができます。この場合には、10,000ドル×(110円-109円)=10,000円の損失が発生しますが、100/ドルで決済する場合よりも損失を低減させることができます。

上記のように決済期日に10,000ドルを先物為替レートで売買するという為替予約をしておけば、その後、為替レートがどのように動いても決済期日の円貨金額は先物為替レートで交換された円貨金額となり、円貨金額が固定されます。

なお為替予約を行った場合には、自社にとって有利であるか不利であるかにかかわらず、決済期日に予約した為替レートで受渡(予約の実行)をする義務が発生します。また、デリバティブ取引ですので、いったん予約してしまえばキャンセルはできないか、キャンセルした場合でもキャンセルしなかったのと同じ経済効果となるように清算金が発生することになり、事実上キャンセルはできないことになります。

デリバティブの活用による海外取引の損失回避

通貨オプション取引を用いた為替リスクによる損失低減

為替変動による影響を低減させるためのもう1つの方法として、通貨オプション取引というデリバティブ取引の利用が考えられます。

オプション取引とは、「所定の期日(または期間)(※5)に、原資産(株式や通貨など)をあらかじめ定められた価格(※6)で買う(または売る)ことができる権利」を売買する取引をいいます。通常、オプションを買う場合は、オプションの買い手がオプションの売り手にオプションプレミアム(オプション料)を支払う必要があります。

5 所定の期日(または期間)とは、オプションの権利行使ができなくなる権利失効日(満期日または権利行使日)までの期間をいいます。
6 あらかじめ定められた価格のことを権利行使価格といいます。

オプション取引は特定の価格(権利行使価格)で売買できる点では先物取引と同様ですが、「権利」を売買しているため権利を購入した側(買い手)にとって不利益になるような為替相場の変動があった場合には、買い手は権利を放棄すれば、最初に支払ったオプション料以上の損失を被らなくて済みます。

権利ではあるが義務ではない、もうかることはあっても損をすることはない、保険のようなものであるというのがオプションの特徴となります。オプション料を支払わなければ、オプションを手に入れることができないため、オプション取引全体で見ると、損をしたとしてもオプション料までともいえます。

オプションの種類には、コールオプション(権利行使価格で一定数の原資産を買うことができる権利)とプットオプション(権利行使価格で一定数の原資産を売ることができる権利)があります。

上記で説明したオプション取引の1つとして通貨オプション取引があります。通貨オプション取引とは、「外貨をある一定期日に売買する権利」を売買する取引のことです。通貨オプションを購入する場合にはオプション料の支払いが必要となります。

通貨オプションを買った場合は期日(オプション行使期日)の為替相場がオプション行使価格より有利になった場合、その権利を放棄して市場の為替相場で外貨を売買することができます。つまり、通貨オプションの買い手は権利を行使するか、権利を放棄するかの選択ができる点で為替予約とは決定的に異なります。

(例4

10,000ドルの製品を輸入し決済期日が3カ月後である場合を考えてみます。買掛金10,000ドルの為替変動によるリスクを回避するため、決済日に110円/ドルで10,000ドルを買うことのできる通貨オプション(コールオプション)を購入し、その対価としてオプション料40,000円を支払います。

⇒オプション料40,000円は権利行使の有無にかかわらず支払う必要があります。
⇒買掛金の決済のため10,000ドルを調達する必要がありますが、市場価格が110円/ドルを超えていても、権利行使により110円/ドルで10,000ドルを調達することができることになります。市場価格が110円/ドルを下回っている場合には権利行使をせずに、市場の為替相場で10,000ドルを調達することができます。

(例5)

10,000ドルの製品を輸出し決済期日が3カ月後である場合を考えてみます。売掛金10,000ドルの為替変動によるリスクを回避するため、決済日に110円/ドルで10,000ドルを売り渡すことのできる通貨オプション(プットオプション)を購入し、その対価としてオプション料40,000円を支払います。

⇒オプション料40,000円は権利行使の有無にかかわらず支払う必要があります。
⇒売掛金の決済により10,000ドルを取得しますが、これを円に交換する場合に市場価格が110円/ドルを下回っていても、権利行使により110円/ドルで10,000ドルを売り渡すことができることになります。市場価格が110円/ドルを超えている場合には権利行使をせずに、市場の為替相場で10,000ドルを売り渡すことができます。

上記のように通貨オプション取引を利用すれば、オプション料の負担はありますが、もうかることはあっても損をすることはないということが分かると思います。

実務面における為替予約と通貨オプションの使い分け

為替変動リスクを低減させる代表的な方法として為替予約と通貨オプションがありますが、実務面でどのように使い分けるのでしょうか。

為替予約は輸出取引における受取外貨、または輸入取引における支払外貨の対価となる円貨金額を為替予約の時点で確定させることができるという特徴があります。したがって、コストを抑え取引時点で円貨金額を採算ベースで確定させたい場合には為替予約を利用するのがよいでしょう。

為替予約はオプション料の支払いがない分、通貨オプションよりも低コストで利用できます。為替予約を利用した場合には、為替リスクを完全にヘッジすることはできますが、将来、為替相場が自社にとって有利な方向に変動しても予約したレートで受渡をする義務が発生するため、為替差益は得られないことになります。為替リスクをヘッジすることさえできればよいと考えるのであれば、為替予約を利用する方がよいでしょう。

これに対して通貨オプションは、オプション料という保険料のようなものをオプションの買い手が売り手に対して支払う代わりに、通常の為替予約より為替レートの先行きに対する変動予想やオプションの買い手と売り手の双方の思惑が入り混じった為替条件(権利行使価格)を得ることを目的としています。為替の変動率や行使日までの時間、行使期間の長さによりオプション料の価格は増減することになります。

為替の変動性が上昇するほど、また権利行使日までの期間が長くなるほど、オプション料の価格は上昇することになります。オプション料を支払ってでも損失を発生させずに、さらに為替差益をも狙いたい場合には、通貨オプションを利用するのがよいでしょう。この場合にはオプション料を前払いする必要があり、オプション料は掛捨て保険料であるため、為替予約よりもコスト面で高くなる可能性が大きいです。

上記に述べてきましたように、為替予約も通貨オプションも外貨建取引に対する為替変動リスクの低減には有効な手法です。それぞれに利用できる期間や仕組みについてはさまざまな取扱いが可能ですので、あらかじめ金融機関等に相談されることをお勧めします。

本稿が海外取引をされる方にとって少しでも参考になれば幸いです。

笹原 和男

笹原 和男

PROFILE

ライター、コンサルタント
1969年生まれ、神奈川県出身。

都内の総合人材サービス企業で経理業務を担当。連結決算,個別決算,開示書類作成,税務申告,税務調査対応,管理会計,予算策定の取りまとめ等,経理・税務業務を幅広く担当し,上場企業で20年以上,経理・税務業務に従事。

2020年中小企業診断士登録。
企業内診断士として本業と診断士活動の両立を目指し,業務を行っている。



お問い合わせ先
株式会社プロデューサー・ハウス
Web:http://producer-house.co.jp/
Mail:info@producer-house.co.jp

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