POSレジがなくなる日はくるのか?~流通小売業界でのIT変遷と今後~
スーパーマーケットなど流通小売業界で必須アイテムとなっているのがPOSレジです。ECサイトでの商品購入比率が増加し、タブレットの普及や周辺機器の小型化によって、その形態も大きく変わってきています。消費者が買い物をした際に必ず通るPOSレジについて、その役割と変遷を解説します。
POSレジの役割
そもそもPOSとは「Point Of Sale」の略称で、販売時点情報管理を行うシステムを指します。POSシステムの機能を備えたレジがPOSレジです。販売時点情報管理とは、よく売れている商品(売れ筋商品)とあまり売れていない商品(死に筋商品)の販売状況をリアルタイムに把握して、在庫管理や売上分析を効率的に行うことを狙いとしています。
高度成長期から安定成長期にかけて消費が活発となり、スーパーマーケットなどの流通小売業において客数や客単価は大幅に伸びてきました。その際に発生した、「顧客が長蛇の列をつくってPOSレジを待つ」という問題を解決するために、POSレジの形態も大きく変わってきました。
POSレジの変遷
①1人制レジ
日本では、1978年の共通商品コード用バーコード(JANコード)の制定が主要因となって、POSレジが広く普及しました。文字通り、POSレジで商品を通す商品登録から、支払代金を入力する支払精算までの操作を1人で行う形態です。
現在もドラッグストアやコンビニエンスストアなど、商品購入点数の少ない買い物を行う小売店で利用されています。飲食店やショッピングセンター内のテナントでは、省スペースで利用できるタブレット型のPOSレジも普及しています。
スーパーマーケットなど顧客数が多い店舗においては、来店の多い夕方の時間帯などに、顧客が列を作ってPOSレジでの精算を待つという状態が発生していました。
②2人制レジ
POSレジの待ち時間を解消するために、1人で行っていたPOSレジ操作を2人で行う「2人制レジ」が1985年頃から普及しました。
特徴は、レジに商品を通す商品登録のみを行う従業員(チェッカー)と、レジに支払代金を入力する支払精算のみを行う従業員(キャッシャー)に操作を分けて、POSレジの作業時間を短縮するものです。1人でPOSレジ操作を行っていた場合と比較すると約半分の作業時間となりました。
最近では人件費削減の理由から、チェッカーとキャッシャーの作業を1人で行う「1人2人制」という運用形態が多くなってきています。
③セルフレジ
店舗の人材不足を解消するために、従業員ではなく顧客自身がPOSレジ操作を行う「セルフレジ」が2003年に登場しました。
特徴は、商品登録から支払精算までの操作を、すべて顧客自身が行うというものです。不慣れな顧客も多いため、操作間違いなどがあった場合のサポートを行う従業員(アテンダント)が常駐しています。
セルフレジ導入のメリットは、従業員の負荷軽減と人件費削減です。アテンダント1人で8台程度のセルフレジを担当するため、上述の2人制レジ(1人運用)と比較すると約1/8の人件費となります。さらには、人との接触機会を減らすことによるコロナ感染防止があげられます。
④セミセルフレジ
上述のセルフレジは、商品登録から支払精算までのPOSレジ操作をすべて顧客自身が行います。商品に付いているバーコードをレジに登録する操作は面倒なことから、操作に混乱してクレームになる、商品登録せずに持ち去るというトラブルが発生しやすいといわれています。
このデメリットを解消するシステムとして、2010年に「セミセルフレジ」が登場しました。特徴は、商品登録を従業員が行い、支払精算を顧客が精算機にて行うというもので、銀行のATMを操作する感覚で支払精算を行うことができます。
セミセルフレジ導入のメリットは、顧客のレジ待ち時間短縮と、現金などの接触頻度削減による従業員のコロナ感染防止があげられます。
⑤セルフスキャン
新型コロナウイルスの影響から人との接触機会を避けるために、POSレジに並ばなくても買い物が行える「セルフスキャン」が2020年に登場しました。
特徴は、顧客が買い物をしながら自ら商品登録を行うというものであり、スマートフォンの画面上で購入中の商品確認ができるため、買い忘れ防止にもつながります。
使い方のイメージは下記のとおりです。
・店内入口でセルフスキャン用の貸出スマートフォンを手に取りカートに設置する。
・買い物かごに商品を入れる際に、貸出スマートフォンで商品を登録する。
・買い物終了時、精算機に貸出スマートフォンで登録した商品情報を連携する。
・精算機にて買上金額を確認し、支払精算を行う。
セルフスキャン導入のメリットは、顧客のレジ待ち時間短縮だけでなく、人との接触機会を減らすことによるコロナ感染防止があげられます。最近では貸出スマートフォンではなく、顧客自身のスマートフォンでセルフスキャンを行えるシステムも登場しています。貸出スマートフォンは他人も扱うことから、非接触にこだわる顧客へ配慮したしくみとなっています。
POSレジの比較分析
2人制レジ(1人運用)、セルフレジ、セミセルフレジ、セルフスキャンの特徴を整理して比較分析を行ったところ、顧客にとってのレジ待ち時間の解消については、セルフレジ以外で導入効果があることがわかります。一方、店舗にとっての人件費(従業員数)の削減については、セルフレジとセルフスキャンで導入効果があることがわかります。
総合的には、セルフスキャンが顧客側・店舗側のどちらにとっても導入効果が高いことがうかがえます。ただし、商品登録から支払登録までをすべて顧客に任せることになるため、商品登録間違いや商品登録漏れによる不正取引が発生しやすいという問題があります。
セルフスキャンの導入効果を上げるためにも、不正取引をいかに削減できるかが今後の運用課題となります。
POSレジの今後について
新型コロナウイルスにより、消費者の生活様式そのものが変わるという時代に突入しました。この大きな変化に、「ネットスーパー」(注1)と呼ばれる、POSレジを通らない非対面・非接触での買い物手段が増加傾向にあります。さらに米国では「Amazon Go Grocery」(注2)などの、POSレジを使わないスーパーも出現しています。
ただし、店舗での買い物がなくならない限りPOSレジは必要だと考えています。店舗では棚に商品を陳列して販売しますが、販売状況に応じて棚の商品を補充し品切れを防止するなど、店舗での売上管理、在庫管理は必須業務です。この管理を行うためにもPOSレジは欠かせません。POSレジを使わないといっても、売上管理や在庫管理をクラウド上で処理しているだけであり、POSレジとしてのしくみは実在しています。
筆者自身、30年以上にわたりPOSレジ開発に携わってきました。今思えば、時代の変化とともに進化してきた流通小売業のニーズに応えるべく、POSレジ開発に励んできたように感じます。最新ニーズに応じたPOSレジが、その姿形を変えてでも活用され続けることを切に願っています。
注1:ネットスーパーとは、食品や日用品などの購入において、インターネットを使って注文し、自宅に配送してもらうサービスです。
注2:Amazon Go Grocery(アマゾン・ゴー・グロサリー)とは、米アマゾン・ドット・コムがオープンしたPOSレジ無しの食品スーパーです。Amazon Goアプリで表示したQRコードを店の入口のゲートにかざして入店し、店内で買い物だけを行って店を出る運用で、決済はクレジットカード等による後払いとなります。
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