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  • 2021.12.03

大副業時代の労務管理

企業が従業員の副業を認める際の必須ポイント:
社会保険・健康管理編

企業が従業員の副業を認める際の必須ポイント:社会保険・健康管理編

企業が副業を認める際に検討しなければならないことは
多く存在する

前回のコラムでは、企業が従業員の副業を認める際に検討すべきこととして、

① そもそも従業員の副業は認めなければならないのか

② 副業を認める場合の就業規則の規定

③ 副業を認めた場合の労働時間の管理

について説明しました。

しかし、これら以外にも企業が副業を認める際に検討しなければならないことは多く存在します。
今回は、企業が従業員の副業を認める際の社会保険や健康管理について解説をしたいと思います。
(なお、本稿では社会保険とは、厚生年金保険、健康保険のほか、労災保険、雇用保険を指すものとします。また、本稿では「副業」とは主たる勤務先以外と雇用契約を締結することをいうものとします。)

雇用保険について

従業員を雇用する場合、その業種、規模等を問わず、企業は雇用保険に加入する必要があります(ただし、農林水産の個人事業のうち常時5人以上の労働者を雇用する事業以外の事業については、加入は任意となっています。)。そして、雇用保険の適用を受ける従業員を雇用保険の被保険者といいます。

雇用される労働者は、雇用形態のいかんにかかわらず、『同一の事業主』のもとで、①1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ②継続して31日以上雇用されることが見込まれる者は原則として被保険者となります(以下では、被保険者となる要件を「被保険者要件」といいます。)。
同時に複数の企業に雇用されている者が、それぞれの企業との雇用関係において被保険者要件を満たす場合は、その者が生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係についてのみ被保険者となります。

では、それぞれの企業の所定労働時間が被保険者要件を充足しないものの、合算した所定労働時間が被保険者要件を満たす場合は、当該従業員は雇用保険の被保険者となるのでしょうか。
被保険者要件はあくまで『同一の事業主』について判断されるものですので、このような場合は、雇用保険の被保険者になることはありません。

ただし、法改正により、令和4年1月から65歳以上の労働者本人の申出を起点として、単独の雇用関係では被保険者要件を満たさない場合であっても、複数の事業所の労働時間を合算して雇用保険を適用することとなります(雇用保険マルチジョブホルター制度)。これは、副業促進の観点から、まずは65歳以上に限定して導入するもので、その効果を踏まえ今後さらに対象が拡大をされることも考えられます。

厚生年金保険・健康保険について

企業が法人である場合や従業員が常時5人以上いる場合は、原則として厚生年金保険に加入する必要があります。そして、厚生年金に加入している企業に常時使用される70歳未満の従業員は、雇用形態等にかかわらず、厚生年金保険の被保険者となります(ただし、パート・アルバイトの場合は1週間の所定労働時間及び1か月の所定労働日数が同じ事業所で、同様の業務に従事している通常の労働者の4分の3以上である必要があります。)。

また、健康保険について、株式会社といった法人事業所や、短時間勤務も含む従業員が常時5人以上で継続する個人事業所(農林水産業やサービス業等の一部を除く。)は、強制適用事業所として健康保険に加入する必要があります。
そして、当該従業員について、1週間の所定労働時間及び1か月の所定労働時間が同じ事業所で、同様の業務に従事している従業員の4分の3以上である場合、又は4分の3未満であっても所定の要件を満たす場合は、原則として被保険者となります。

当該従業員が厚生年金保険や健康保険の被保険者となるかどうかは、雇用保険と同様に事業所毎に判断します。このため、副業を行っている従業員について、『それぞれの企業の所定労働時間』をもととすれば被保険者とはならないものの、『各企業の所定労働時間を合算』すれば被保険者要件を満たす場合に、当該従業員は、厚生年金保険・健康保険の被保険者となることはありません。

他方、副業を行っている従業員がそれぞれの事業所で厚生年金保険・健康保険の被保険者となる場合は、当該従業員はどちらの事業所の厚生年金保険・健康保険に加入するかを選択することとなります。
そして、当該選択された年金事務所及び医療保険者において各事業所の報酬月額を合算して、標準報酬月額を算定し、保険料を決定します。そのうえで、決定された保険料は企業が当該従業員に支払う報酬の額により案分した保険料を年金事務所や医療保険者に納付されます。

労災保険について

労災保険とは、従業員が業務中・通勤途中に起きた事故により傷害を負った時などに一定の給付を行うものです。
事業主は、従業員を1人でも雇用していれば、労災保険の加入手続を行う必要があります。したがって、副業をしている従業員の場合は、副業先でも労災保険の被保険者となります。

ただし、法改正により労災事故と関係のない事業場の賃金額も合算して労災保険給付を算定することになりました。また、労災かどうかの認定に当たっては、勤務しているすべての就業先における業務上の負荷を総合的に評価することとなりました。大副業時代を見据えた法改正ということができます。

社会保険についてのまとめ

これまで説明してきたように、企業は副業を認める際には、副業を行う従業員について、どの社会保険の被保険者とする必要があるのか、また保険料その他の取扱いはどのようにするのかなどについて把握しておく必要があります。

このコラムでは概説的な説明しかできませんでしたが、厚生労働省のウェブサイトなどで確認をしておきましょう。

労務提供に支障が生じないために重要な従業員の健康管理

ところで、副業は、従業員にとっては現在の勤務先以外に収入を得る方法であり、時間を費やせば費やすほど多くの収入を得ることができることから、長時間労働をしがちになります。
そのうえ、これまでは余暇や休息に充てていた夜間や休日に副業を行うこととなるため、副業を行う従業員は過労により健康を損なう蓋然性が高くなるおそれがあります。

労働者安全衛生法上、企業は従業員に対し、当該従業員の副業の有無にかかわらず健康診断、長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェックやこれらの結果に基づく事後措置などを行わなければならないこととなっていますが、副業を行う従業員に対しては、これらの措置を講じる際に特に副業が当該従業員の健康状態に悪い影響を与えていないかを確認していく必要があります。

また、企業は、就業規則に所定の規定を設けたうえで、従業員に対しても労務の提供に支障が生じる場合は副業を制限することができることを伝え、従業員が自ら健康管理に努めることを指示するべきです。
そして、場合によっては、具体的な業務の内容などの報告を求めることを検討してもよいかもしれません。

企業が従業員の副業を認める際の必須ポイント:社会保険・健康管理編

企業にも副業を認めるメリットはある

これまで2回にわたって副業を認める際のポイントを解説してきました。副業を認めるのは企業にとって手間ばかりだと思われた方もいるかもしれません。

しかし、「副業で従業員が得た人脈を用いて新規事業につながった」、「副業で得たスキルで新たな製品コンセプトを作り出すことができた」といった事例もあり、副業のメリットは従業員だけでなく企業にもさまざまなメリットをもたらす可能性があります。
本稿が、企業と従業員のいずれにとってもメリットとなる副業導入のための参考になれば幸いです。

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