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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第79回)

続・商品を「再定義」してみよう!
(ダイヤロン株式会社)

続・商品を「再定義」してみよう!(ダイヤロン株式会社)

この連載の75で、エニシングという企業が日本古来の前掛けをネットで販売して大きな成果を挙げた、という話をしました。前掛けとは誰のためで何のための商品なのかを、いわば定義し直したという事例でしたね。酒屋さんなどが仕事するときにまとう道具であった前掛けを、一般の消費者がプレゼントとして誰かに贈るアイテムに変えたことで、衰退の一途だった前掛け市場そのものが息を吹き返しました。

こうした「商品の再定義」という意味では、さらに踏み込んだやり方もありますね。商品そのもののかたちにも手を入れて、使い方自体を全面的に見直す、というものです。ただし、この手法には落とし穴もあります。商品本来のかたちをも変えるということは、その商品が本来有していた美点を損ないかねないわけです。

ここで大事になってくるのは、いつも私がお伝えしている「なにを変えて、なにを変えないか」の峻別であると思います。もっと言えば、「その商品はそもそもなにが生命線なのか」の見極めですね。これは意外に難しいとも感じます。長年扱ってきた商品の根本を見つめ直す作業になりますから。

で、今回の事例です。ページ冒頭の画像がそれなのですが、「畳なんだけれども、従来の畳ではどうやらなさそうだ」というのは想像がつくかと思います。

埼玉県の幸手市に生産拠点を構えるダイヤロンという企業が今年(2021年)秋に発売したばかりの「tattamy(タッタミー)」という新商品です。そもそも成熟商品分野である畳の世界に、こうした新商品が登場するというのも興味深いところと感じさせます。

ただの置き畳ではなくて…

続・商品を「再定義」してみよう!(ダイヤロン株式会社)

tattamy」は、いわゆる置き畳と呼ばれるカテゴリーに属します。部屋全体にぴたりと敷き詰めるのではなくて、空間の一部に好きなように置くスタイル。1枚がほぼ半畳分の正方形です。縦横がそれぞれ82センチ(このほか、サイズオーダーも可能です)。で、ここが大事なんですが、厚さというか薄さが7ミリなんです。

同社に聞いたら、いまの技術で畳を薄くできる限界らしい。芯材をこれ以上取っ払ったりすれば、それは畳ではなくてゴザですね。畳であるからには、人が踏んだり座ったりしたときに重みを受け止めるようでなければいけません。その限界値が7ミリということですね。

ほぼ半畳単位の正方形型でしかも薄いとどうなるか……。これならフローリングの床にほとんど段差なく自由に置けるということですね。それも部屋全体に敷き詰めなくても、部屋の一角に必要なぶんだけ敷けます。赤ちゃんの世話をする空間にとか、ごろ寝したい空間にとか、キッチン周りにちょっとだけとか……。しかも薄いから、へりでつまづく恐れをかなり減らせます。専用のテープを使えば、この畳を床に固定してはまた剥がして……と繰り返しもできるそうです。値段は、基本となる82×82センチのもので、1枚当たり1万450円。

もうひとつ、ここで伝えておくべき点があります。この「tattamy」って、樹脂製なんです。従来の畳は、い草でつくられていますよね。樹脂製の商品を畳といい切っていいものなのかどうか、私は最初ちょっと戸惑いました。い草の香りがしてこその畳という気がしたからです。この点については、後ほどお伝えすることにしますので、少しお待ちくださいね。

「畳業界が悪いのだ」と考えた

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まず聞きたいのは、どうしてこんな畳を発想したのか。まずは、そこですよね。社長はこういいます。

「衰退する文化を後生大事にするのではなくて、なんらかの新しい商品を出して、次の世代につなげたかった」

畳業界は近年厳しい状況にさらされています。業者の数は最盛期の半減以下となっているというデータもあります。大都市圏のマンションなどでは、和室自体がない間取りの物件も多いですからね。でも……。

「少なくない人が畳を求めているはずなのに、業界がその思いに応えていなかったのだ、と私たちは考えました」

ああ、確かに……。床面に腰を下ろせるって、暮らしていくうえでラクでもありますし、フローリングに直接ではなくて、そこに畳があれば、ラグマットなどとはまた違った感覚で和めもします。

ただし、ここからですよね。ならば、どのような畳をつくれば、人は振り向くのか。フローリング全盛の時代だけに、そこには難しさがより伴ってくるはずです。

「薄く、軽く、小さく」を目指す

続・商品を「再定義」してみよう!(ダイヤロン株式会社)

新しいスタイルの畳を開発するにあたっては、もうひとつの困難があるのでは、と私には思えました。畳というのは元来、職人仕事の世界から生まれるものですよね。畳づくりに長年携わってきた同社にすれば、製造部門にいる職人の抵抗はなかったのでしょうか。

「いえいえ、全くありませんでした。なぜかというと、『tattamy』の開発を担った社員本人が、もともとが生粋の畳職人だからです」

えっ、そうなのですか。よほど斬新な発想の持ち主だったということでしょうか。職人本人に尋ねてみました。

「そもそもの話をしましょうか。いま、消費者の皆さんがイメージする畳のかたちって、実は昭和初期に一般化したものなんですよ」

意外と新しいんですね。日本の畳の歴史からしたら、ごくごく近年の話と表現してもいいかもしれません。

「だったら、21世紀の生活環境に合う畳を新たに開発するなんて、それは当然の話ではないでしょうか」

だんだんと納得できてきました。

「だからこそ、そうした考えのもとで新商品を世に送り出すのが、畳屋の務めとも言えると判断しました」

具体的には、どういった畳をつくるのが「畳屋の務め」なのでしょうか。

畳といえば『厚くて重くて大きくて硬い』ものと、ほとんどの消費者は考えていると思います。それを『薄くて軽くて小さくて軟らかい』に転換するということです

なるほど……。そうすれば、ごく普通の消費者も畳をたやすく扱えますね。いまの時代、和室に敷き詰めた畳を春と秋に屋外で干す、といった習慣を続けている人は少数派かもしれません。大変な作業になりますしね。でも、薄くて軽くて……という畳であれば、季節ごとのメンテナンスも抵抗なくできそうですし、なによりリビングやベッドルームに好きなように配置できることを大きなメリットとして普段から実感できるはずです。

どうして樹脂製に決めたのか

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では、どのようにして「薄くて軽くて……」という開発目標を果たせるのか。お待たせしました。ここで出てくるのがつまり、樹脂製にするという話ですね。

しかし、です。私にはやはり、い草の畳であってこそという思いはまだ拭えません。そのあたり、開発に臨んだ職人はどう踏まえたのか。

「畳とはいったいなんなのか、そこを考えました」

どういうことですか。

「私は『冬であっても足が冷たくならず、夏でもサラサラして足がべとつかない』、それこそが畳の存在意義であると思います」

そう捉えると、どのような結論にたどり着くのか。

「冬と夏にそれぞれ、こうした特性を発揮するには、実は、い草の畳よりも樹脂製のほうが有利と気づいたんです」

ただ単に、原価の関係からとか、生産効率が上がるからとか、そういう話ではなかったということですね。

「はい。この『tattamy』を、まごうことなき畳と表現していいと、私は自信を持っていえます」

製造に際しては、樹脂を薄いテープ状に加工して、それを7本単位で撚(よ)っていくことで、質感を高めていると聞きました。けっこう凝ったつくりなのですね。また、芯材の仕様をゼロから見直して、従来のい草の畳に比べると、腰を下ろしたときの触感をより穏やかなものにするよう努めたそうです。そこが先に記した「軟らかい」という部分ですね。これもまた、21世紀の消費者の嗜好に沿ったという話なのかもしれません。

「それより、なにより……」

開発に携わった職人は言葉を続けます。

「この『tattamy』って、よその業界でつくることはまずできません」

どういうことか。芯材に表皮材を巻き込むような工程をとるのが、畳メーカー以外では、よほどのことがない限り難しいそうです。畳業界では当たり前の技術ですが、とても手がかかるため、他業界のメーカーにとっては現実的ではないそうです。その意味でも、この商品はやはり畳なのですね。

消費者のインサイトに迫る

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ここまでの話をまとめしょう。21世紀に入って一般家庭における畳の存在感は薄くなってきましたけれど、だからといって畳そのものに人が完全にそっぽを向いたわけではない。いま振り向いてくれないならば、それは畳業界の怠惰だとダイヤロンは考えた。そして、畳そのもののあり方を、形状や重量だけでなく、その素材からも捉え直した。畳の歴史を踏まえれば、畳をつくる企業として、そのプロセスを進めるのは当然の話である、とも……

そうすれば、畳離れといわれがちな消費者とも新たな関係を深められる、と判断したわけですね。でも、言葉にすれば簡単ですが、実際にはやはり迷いもあったのではないでしょうか。再び、社長の話です。

私たちが目指したのは、消費者の考える『一歩先』なんです

ああ、ここでその話が出ましたか。一般消費者のなかで顕在化したニーズを聞いて商品開発するのでは、実はヒットはおぼつかない側面がありますね。私がこの連載で何度も綴っているように、消費者の「インサイト=意識化に潜んでいる真の欲求」を掴むには、商品の作り手の側が、消費者に先んじて開発を進めないといけません。この「tattamy」はつまり、消費者がぼんやりとしか考えられていない(あるいは考えられてもいない)ところに、企業みずからが踏み込んでいった結果の新商品であるわけですね。だからこそ「なに、これ!」という驚きと納得をもたらせたと言ってもいい。

社長がもうひとつ、こんな話もしてくれました。

「新しい商品を世に送り出すには、これまでの畳業界が扱っていた素材だけに目を向けていてはいけません」

同社の経営陣や社員は、全国を巡って、よその業界からも知恵を得ようと動いたそうです。例えば、自動車関連メーカーに供給しているフエルト(素材を圧縮したシート状の繊維)の製造企業などが一例といいます。

「そういった経緯があったからこそ、畳業界の文脈だけにとらわれない商品が開発できた、という一面もあると思います」

実際、「tattamy」を床面に貼り付けるためのテープは、素材メーカーを巡っているなかでヒントを得られたとも聞きました。何度も貼ったりはがしたりできれば、この「tattamy」の持ち味は確かにより生かせますね。

「時代に負けないもの」こそを

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最後に、開発を担った職人、そして社長の言葉を改めてお伝えしましょう。まずは職人から。

「時代のニーズに合わせる、というよりも、『時代に負けないもの』をつくることが、いまの畳職人に求められている。そう考えながら、この商品を開発しました」

この言葉、とても重みがあると私には感じられました。例えば、伝統工芸の世界などでは、ニーズばかりを意識してしまった結果、新商品づくりで迷走しているケースが散見されますね。時代に合わせるのではなくて、時代に負けないものをという姿勢で臨めば、もしかすると光は射してくるのかもしれません。

社長は、締めくくりにこう話しました。

「この商品が、全国の畳屋の“希望”になれたら、という思いがあります。畳の未来は自分たちでまだまだつくれるんだ、と」

ダイヤロンの工場を覗いてみたら、思わぬほど多くの若い社員たちが生産に携わっていました。ここまで掲載した数枚の画像を見ていただければお分かりになるかと思います。彼ら彼女らがまた、畳の未来をこれから築いていくのでしょうね。

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