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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第77回)

業態転換に挑むならば!(MAJIMA株式会社)

業態転換に挑むならば!(MAJIMA株式会社)

コロナ禍のもとで厳しい局面に立たされている企業は多いとお察しします。先が見通せない状況ではあるけれど、かといって何もしないままではいけないと危機感を募らせている経営者にとって、少しでもヒントとなりそうな事例はないか、と考えました。

今回は、プリンの話です。営業時間短縮や営業そのものの休止を余儀なくされて、逆風を浴びている飲食業界の事例なのですが、取材を通して、飲食以外の業界にも参考になる部分があるのでは、と感じたので、皆さんにお伝えしようと思った次第です。

飲食店の業態転換といえば、テイクアウトへの移行がまず考えられますね。ただ……いくつものお店で耳にしたのは、テイクアウトだけでは利益を確保しづらいという側面があるという声でした。包材(容器)をどうするか、に始まり、テイクアウト可能なメニューは何かを検討し、さらに価格を抑える方策を練らないといけません(消費者はどうしても、テイクアウトには値ごろ感を求めがちですから)。

では、今回の事例は? 大阪で居酒屋など7店を運営しているMAJIMAという企業を舞台にした話です。コロナ禍の影響をもろに被る業態で、昨年(2020年)の売り上げは前年比8割減となりました。テイクアウトにも着手しましたが、売上高回復の決定打とまではいかなかった。ならばどうするか。

同社の取締役であり、系列の焼き鳥店の店長を務めていた女性が、みずから現場で陣頭指揮を取りました。居酒屋だった店舗を、プリン専門店に転換したのです。

それが、大阪・なんばに今年(2021年)4月にオープンした「私のプリン食堂」でした。昼間だけの営業にもかかわらず、元の居酒屋時代からは来店数が100倍。単価の低いプリンが中心でありながら、売り上げは居酒屋のころの30倍を記録していると聞きます。

扱うプリンは常時7種ほどあり、なかでも話題をさらったのは「大阪みっくすジュースプリン」と名付けた商品。このページの一番上に載せた画像がそれです。値段は420円。「私のプリン食堂」の開店初日も翌日も、この「大阪みっくすジュースプリン」はそれぞれ300個を完売し、ほかのプリンを加えると、最初の2日間で3000個を売り切った。しかも、その勢いは最初だけにとどまらず、その後も着実に集客し続け、品切れとなることもしばしばらしい。見事な話ですよね。

それにしても、居酒屋を経営していた企業が、またなぜプリンだったのか。そのあたりから、お話ししていきましょう。

もともと「そこにあった」商品

業態転換に挑むならば!(MAJIMA株式会社)

開口一番、取締役はこう話しました。

「プリンって、もともとあったメニューなんですよ」

居酒屋を運営する企業なのにどうしてなのかと不思議にも感じられたのですが、話を聞いて納得しました。取締役が店長を務めていた焼き鳥店では、食事の後のデザートに、もともとプリンを出していたそうです。それがお客さんに好評を博していた。

私、思うのですが、追い詰められた状況下でこそ、やはり「足許にある宝物」を再認識する作業は大事なのでしょうね。焦ってしまって「急ごしらえ、厚化粧、必然性なし」といった方向に走ると、うまくいかない。

売り上げ8割減という危機的な場面で、みずからの店舗でお客に支持されていたプリンに光を当てようとした。この取締役の姿勢は、もうその時点で価値ある判断と表現すべきではないかと思います。

「実は『プリンを前面に売り出す店舗を新規オープンさせよう』というアイデアは、もう5年ほど前に、スタッフから一度提案されていたんです。でもそのときは立ち消えになりました」

そのアイデアの存在を、コロナ禍のいま、取締役が思い出したということなのですね。

「いや、それだけではなかったんです。コロナ禍となる以前から、私がずっと抱いていた問題意識も、そこに関係してきます」

というと?

「女性スタッフが結婚すると、生活のサイクルが変わるために相次いで退職する。せっかく頑張っていたスタッフが社を去ってしまうんです」

2つの要素を重ねて立案した

業態転換に挑むならば!(MAJIMA株式会社)

夜間の営業がどうしても必須になる居酒屋や焼き鳥店では、確かに避けて通れない問題ですね。でも、それと今回の「私のプリン食堂」オープンにはどのような関連性があるのでしょうか。

「私のなかで、プリン専門店の開業に踏み切るという企画の立案と、女性スタッフの退職問題への対処策が、ピタッとつながったんです」

どういうことか。取締役の話はとても明快でした。

「お酒を提供しないプリンのカフェであれば、昼間だけの営業にしても成立しえます。そして、昼間営業に特化すれば、結婚して子育てを続ける女性スタッフにも、活躍の場を提供できますよね」

ああ、そういうふうにつながるのですね。ここまでのところを改めて整理しましょう。まず、やみくもな業態転換を期すのではなくて、もともと存在したプリンを軸にしたカフェを提案した。次に、そのカフェは昼間だけの営業として酒類の提供もしない、と企画に盛り込もうとした(酒類を提供しないという判断は、結果として、緊急事態宣言が続く状況にうまく合致してもいる)。そして何より、このことによって、子育てに臨もうとしている女性スタッフにも仕事の舞台を確保し、長年の悩みどころであった、退職が続く問題と解決できると踏んだ。

退職していた女性を呼び戻す

業態転換に挑むならば!(MAJIMA株式会社)

取締役は、この新店舗企画を社長に説明します。社長はすぐさま承認をくだしました。社長にも少しだけ話を聞けたのですが、当時からこう考えていたそうです。

「業態転換の成功と失敗を分けるものがあるとしたら、それはリーダーの思いかもしれない」

飲食業界には昨年来、お先真っ暗な空気が漂っています。そこに少しでも明るい未来を見出すには、経営トップ層が「こっちだ」と指し示すほかない、というのですね。で、実際、MAJIMAの社長は、プリンカフェのオープンを強く支持した。おそらく、プリンそのものがどうこうという話というより、この会社は次の一手をきちんと打つ、という、社内全体に向けた意思表明だったのでしょうね。

取締役の話に戻しましょう。みずからの企画が社長に承認された直後、彼女が真っ先に動いたのは……。

「5年前にプリン中心の店舗を提案した女性スタッフを呼び戻しました。アイデアを出した本人に復職してもらおう、と」

いまこそ貴重な発案をなしたスタッフに、ちゃんと声をかけたのですね。この女性スタッフは結婚退職し、子育ての真っ只中でしたが、取締役の思いに応え、復職を果たしました。

こうして、5年前に発案された企画をいまこそモノにすべく、取締役と復職したスタッフ2人での奮闘が始まりました。それが昨年12月のことでした。

「温めていたものをこのタイミングでこそ世に出すべきだと社内に説明をして、それが認められた格好でした」

ただし……オープンまでの過程は、そう簡単ではなかったともいいます。

社内には反対の声も根強く

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なんばにある居酒屋をプリンカフェに業態転換させるべく、動き始めた2人でしたが、MAJIMAの社内には反対の声もあったそうです。まず、「居酒屋に比べると明らかに客単価の低いスイーツ専門店が、新しい収益の柱になるのか」という指摘。そしてさらには、「社員のなかで、昼間だけの勤務で済む人と、深夜まで勤務しないといけない人に分かれるのは、不公平ではないか」と話す人もいました。

それでも……。

『そんなこと言ってても、何もせんかったら、何も生まれませんよ。お給料をきちんと支払う状況を続けるには、進むしかないですよ』。私はそう言い続けましたね

手をこまねくばかりで何もやらずに沈むなら、何かをなそうと動いて失敗したほうがまだまし、という意識だったともいいます。

昨年12月から準備を始め、今年4月にオープンを遂げたわけですから、実質3カ月少々という短い期間に、すべてを進めたのですね。

「新しいお店で出すプリンの開発は、私と女性スタッフの2人だけで担いました。周りの意見を聞きすぎると、軸がぶれてしまいますから」

短期間での勝負となると、そこは確かに重要ですね。起死回生の企画を完遂するには中庸な商品開発ではいけません。ならば、ここはごく少人数で進めたほうが、輪郭のはっきりした強い商品を作り上げられる。そう考えたということでしょう。

プリン完成は開業の1週間前

業態転換に挑むならば!(MAJIMA株式会社)

ここで尋ねておきたい。「私のプリン食堂」躍進の原動力となった「大阪みっくすジュースプリン」は、すんなりと完成を見たのでしょうか。

「そもそもの出発点は『大阪と言えば、というプリンを作る』というところにありました」

ただ、そこからが難儀したらしい。通天閣をモチーフにする? たこ焼きをイメージしたものにする? いや、どれもピンとこなかったといいます。そうですよね、それらをプリンに取り込む必然性は薄いでしょうから。

「悩んだすえにたどり着いたのが、みっくすジュースだったんです。大阪が発祥ですし、地元に根付いた味でもある。しかも、調べた限りではプリンとしての商品化はいまだ手つかずの状態でした

2人はここから試作を続けます。キーワードは3つだったそうです。「横に食べるのではなく、縦に食べる」「スプーンで混ぜたときにキラキラと光る」。そして「みっくすジュースを想起させる見た目である」

レシピができあがったのは、店舗がオープンする1週間前でした。いちばん上に乗せるジュレがくせ者だったそうです。

「ジュレって暴れん坊なんです。うっかり作ると水のような美しい色が出ないし、いい感じの柔らかさを保つには火の入れ方に細心の注意が必要になる」

ここで、ページ冒頭の画像をもう一度ご覧いただけるでしょうか。完成となった「大阪みっくすジュースプリン」の中身を説明しましょう。いちばん下の層は桃のプリンです。その上がイチゴのプリン。で、上がブルーキュラソーを使ったフルーツのジュレです。食べてみたら、単なるふわとろのプリンではなくて、上のジュレがアクセントになっていて 食感の変化がとても面白い。確かにこれは「縦に食べる=混ぜて楽しむ」プリンとして成立していますね。

2号店までもオープンさせた

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「私のプリン食堂」は、冒頭でお話ししたように、4月の開業からすぐに答えを出せました。

でも、ここでまたひとつの問題が生まれます。

「品薄状態があまりに続いて、お客さんに迷惑をかけていたんです」

店内で作ったプリンがまたたく間に捌けていき、日によっては1〜2時間待ちをお願いすることもあったそうです。店舗スタッフは、閉店間際の夕方に訪れてくれたお客さんにもなんとか対応したい、と、翌日に売るために作っておいたプリンを販売してしまうこともありました。そうなると、次の日は朝いちばんから売るものがない状態に陥ってしまいます。

「それで、プリンを作ることに特化した店舗を新たに設けようと判断しました」

なんばに「私のプリン食堂」をオープンさせてからわずか3カ月後だった7月、ひと駅ほど離れた場所に「私のプリン製作所」を立ち上げます。ここはただの2号店ではなく、プリンの製造に特化した拠点としました(店内では食べられませんが、テイクアウトには対応しています)。

大逆風のもとで、取締役は2つのことをなしました。ひとつは、コロナ禍で打撃を受けていた居酒屋をプリンカフェへと業態転換させ、成功に導いたこと。もうひとつは、女性スタッフが長く活躍できる場の創出をプリンカフェの開業を通して実現したこと。加えて言いますと、さらに2号店まで立ち上げるまでに、この新事業を花ひらかせた、という話ですね。

想定外の客層もついてきた

業態転換に挑むならば!(MAJIMA株式会社)

取締役に言わせると、思わぬ嬉しい誤算がひとつあったそうです。

「男性客が意外なまでに多かった」

もともと420円というプリンの価格設定は「20歳くらいの女の子が躊躇せずに買える水準に」との思いがあってのことでした。プリンだけに、まず狙うべきは若年層、それも女性である、と。

ところが実際には、もっと幅広い層が「私のプリン食堂」を訪れています。店内で食べるイートインでは女性客が9割といいますが、テイクアウトでは男性が6割を占めている。

「こういう社会状況ですから、きっとご家族と家ですごす時間のために、購入して帰られるのでしょうね」

最後に聞きます。この新事業が好発進できたいちばんの要因は何だと思いますか。

「これでダメなら退くしかないという覚悟、だったかもしれません」

取締役は、まず社長を説得し、次に女性スタッフを復職させ、そして少数精鋭の体制のもとで開店準備を一気呵成に進めました。社内の反対にひるむことなく事に当たり、すぐそこに迫るオープン予定日のぎりぎりまで新しいプリンのレシピ制作に臨みました。その結果の成功でしょうね。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分
析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっ
ている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」
(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、NTT東日本「経営力向上ラボ」、
家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地
方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」な
ど、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

ANA国内線「北村森のふか堀り」監修

経済産業省 北海道経済産業局 地域ブランド創出支援事業 チームリーダー
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)

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