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  • 2021.08.19

高精度、全自動のPCR検査を実現させた
こだわりの技術開発
(プレシジョン・システム・サイエンス株式会社)

高精度、全自動のPCR検査を実現させたこだわりの技術開発(プレシジョン・システム・サイエンス株式会社)

全自動PCR検査装置と代表取締役社長 田島秀二氏

全自動PCR検査装置の開発・製造元として一躍注目を集めるプレシジョン・システム・サイエンス株式会社(英文社名Precision System Science Co., Ltd. 以下PSS)は、千葉県松戸市に本社を置く老舗のバイオベンチャーだ。1985年の設立以来、臨床検査機器に関する独創的な技術開発を続け、世界の名だたる医療関連企業から一目置かれる存在感を示してきた。

国際的な知財戦略を慎重に進め、2015年、フランス企業のOEM製品として全自動PCR検査システムを発売。臓器移植が頻繁に行われる欧州を中心に、感染症検査などのために使われてきた。着実に売り上げ台数が伸びてきたところで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界を襲った。日本では、それまでPCR検査のニーズが少なかったが、新型コロナウイルス検査を大量に行う必要が生じ、同社への期待は国内でも一挙に高まった。海外より遅れてPCR試薬と装置がセットで保険適用となり、20208月から国内販売を開始。多くの病院に導入された。

熱意と人柄でPSSを引っ張ってきた田島秀二社長に、この1年半の緊急対応について、そして創業の思いから将来展望まで、技術経営の要諦を聞いた。

企業概要

商号:プレシジョン・システム・サイエンス株式会社

設立:1985717

資本金:3,921百万円(20206月末現在)

売上高:5,067百万円(連結:20206月期)

従業員数:175名(連結:20206月末現在、派遣社員、パートなどを含まず)

連結子会社:Precision System Science USA, Inc.(米国)、Precision System Science Europe GmbH(ドイツ)、ユニバーサル・バイオ・リサーチ(株)(千葉県松戸市)、エヌピーエス株式会社(秋田県大館市)

この1年で本当に忙しかったのは「量産」対応

20204月下旬、PSSはローラン・ピック駐日フランス大使から礼状を受け取ったと発表した。フランス企業エリテック社(ELITech)のブランドで全自動PCR検査装置をOEM供給し、フランスの医療現場でCOVID-19対応に大いに貢献していることへの感謝だ。同年625日には、PSS本社のある松戸市の本郷谷健次市長が、世界的な注目に対して同社を表敬訪問している。8月に同製品「エリート インジーニアス(ELITe InGenius)」が日本でも保険適用されると、松戸市立総合医療センターにすぐに導入された。

その後も多くのマスコミ取材が続いたというPSSの田島氏。コロナ禍で色々なことで忙殺されたが、「本当に忙しかったのは『量産』です」という。注目されるごとに供給を求められ、精一杯応えてきたという気概が伝わってくる。

高精度、全自動のPCR検査を実現させたこだわりの技術開発(プレシジョン・システム・サイエンス株式会社)

COVID-19の影響について話す田島社長

PSSが全自動PCR検査装置の製品化に成功し、検査に必要な試薬をエリテック社と共同開発してOEM供給を開始したのが2015年だ。欧州では臓器移植が多く実施されているため、ドナー(臓器提供側)とレシピエント(提供を受ける側)の感染症有無を調べるなど、遺伝子検査の需要も高い。その際に必要となるPCR(ポリメラーゼ連鎖反応。DNARNAといった遺伝子を増幅させて検出する技術)を全自動で行う同社のシステムは高い評価を得てきた。

2020年の1月頃、「エリート インジーニアス」の販売台数が世界50数カ国で約500台となり「500台のお祝いだ」と言っていた。その矢先に起こったCOVID-19のパンデミック。「500台どころじゃない。どんどん持って来い」と事態は一変した。
病院で、臓器移植やそれ以外にも遺伝子検査が広がるように、もっと使ってもらおうと計画していたのだが、一挙に全部がCOVID-19のために必要とされる。現在、全自動PCR検査装置の累計販売台数は自社ブランド製品を含めて1000台を超えている。

医療機器は承認等も要すために、急に供給を増やすのは簡単ではない。提携企業の助けもあって何とか装置を提供し続けた。しかし、装置の場合はここが限界と言うことができても、納入した装置に必要となる検査試薬は「足りません」では許されない。なんとしても試薬を作ることに力を尽くした。秋田県大館市にある子会社の工場が、昼夜分かたず三交替制で「試薬カートリッジ」を増産しているという。

この「試薬カートリッジ」は、全自動でPCR検査を行うための肝となるアイデアの1つだ。装置にセットすることにより、検体からDNAを抽出し、増幅し、蛍光による測定を行うという一連のプロセスが可能となる。
さらに大館工場には、現在、第2工場を増設中である。経済産業省の「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」の採択を受けたことで、大規模投資の覚悟を決めたそうだ。2022年後半には増産体制の柱となる予定だ。

高精度、全自動のPCR検査を実現させたこだわりの技術開発(プレシジョン・システム・サイエンス株式会社)

検査用部品について説明する田島社長

PCRを正確にやるということは譲れない

ここでPCRについて簡単に説明しておきたい。
PCRPolymerase Chain Reaction=ポリメラーゼ連鎖反応)は、遺伝子とされるDNARNAといった核酸を急激に増やすことによって、DNA等を検出しやすくする技術だ。1983年に米国の生化学者、キャリー・マリス氏がPCR法を開発し、後にノーベル化学賞を受賞している。

新型コロナウイルスの感染状況を調べるには「抗原検査」も行われているが、最も精度の高い検査方法はPCR検査とされる。インフルエンザなどの検査にはPCR法以外が多く使われるが、新型コロナウイルスを正確に検査するには、PCRによってウイルスの遺伝子(この場合はRNA)を検出することが不可欠となっている。

PSSの装置は、①検体から核酸(DNARNA)を抽出する工程、②抽出したDNA等を増幅する工程、③蛍光を使った測定という手順を、一連のものとして自動で行う。全自動で行うことにより、手間と時間を省くだけでなく、検査途中の混濁や検査者の感染リスクなどを防ぐメリットもある。

同社の全自動PCR検査装置は、エリテック社のOEMブランド「エリート インジーニアス」(12検体を同時検査対応)のほか、自社ブランドの「ジーンリード エイト(geneLEAD Ⅷ)」(8検体対応)があり、さらに24検体対応製品の発売を目指している。また、核酸自動抽出装置の「magLEAD」シリーズや、検査装置とセットで使用される各種の試薬カートリッジが主力製品である。

実はこの核酸自動抽出装置に使われている技術「マグトレーション」こそ、PSSの基幹技術といえる。磁性を帯びた粒子を使って、検体の中からDNAなどの核酸だけを正確に捕まえるのである。「マグトレーション」の開発については後述したい。

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全自動PCR検査装置「ジーンリード」シリーズの内部
※同社ホームページ掲載の解説動画より

もう1つ重要な点として、同社のPCRは「リアルタイムPCR」といわれるものである。「リアルタイムPCR」は、増幅の過程で並行して計測を続けているため、定量的な測定ができるという。つまり、高精度の検査ができるということになる。田島氏は「我が社は、PCRを正確にやるということについては譲れない」と語気を強める。

またPSSは、COVID-19のような感染症の蔓延を防ぐためには、1日に数十万件程度のPCR検査を可能として、陽性者を見逃さない体制を目指すべきだと提言している。1日に50万件とすれば1カ月に約1千万人の検査ができることになる。そして、ここでPSSが有望視するのが「プーリング」という手法だ。

「プーリング」とは、多数の検体を混ぜて一度に検査を行う方法である。陽性と判定される確率が低い検査の場合、例えば10人分の検体を1つにまとめてPCR検査を行い、もしも陽性反応が出たら、その検体について再度検査する。試算すると、1件ずつ検査するよりもはるかに時間と費用の節約になる。ただし、プーリング検査を行うためには、検査の精度が非常に高くなければならない。全自動のリアルタイムPCR装置はそれを可能にするという。

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リアルタイムPCRによるDNA測定の説明
※同社ホームページ掲載の解説動画より

「田島さんやってくれ」というお客さんの信頼に応える

PSS設立の経緯を聞いてみた。
田島氏は、大学で応用化学を学び、理化学分野の専門商社に営業職で入社した。研究機関を顧客として多くの研究現場の要望を聞いて回り、検査装置メーカーとの関係もできていった。その中で、松戸市に事業所を持つ米国資本の診断機器メーカーとの共同開発に熱中したという。社内ベンチャーを作ってプロジェクトに取り組んだ。次第に商社内では納まらなくなり、独立してPSSを設立したという経緯である。

会社設立時に大々的に共同開発を行っていたのは免疫検査装置だった。ところが、その装置の開発自体が、相手企業の事情で中止となった。1994年のことだ。大きな負債を抱えて経営の危機に直面する。

そこで一転して会社を救うことになるのが、前述したPSSの基幹技術である「マグトレーション」だ。当時、免疫検査装置の開発と並行して、磁性をもつ小粒子にDNAを吸着させ、磁力を使ってDNAを分離するという技術を研究していた。どうすればうまく分離できるか。磁石を付けた小さなチップと分注機によって自動的に抽出するというアイデアが、田島氏によって生まれたのである。スウェーデン王立工科大学のマティアス・ウーレン教授の研究により「マグトレーション」の確かさを示すデータも揃い、米国サンディエゴで開催された展示会に、DNA自動抽出装置の試作品を出展した。そこでPCR技術の事業化権を持っていたスイスのロシュ社の目にとまり、OEM供給の契約に至る。「磁性体を使うという概念を覆したので、ロシュがそれに乗って、世界中に売ってやるということになったのです」と田島氏。

「我が社は何ために抽出するかというと、PCRのためにやるわけです。これを結び付けて一体化装置をなんとしても作りたい、というのが長年の目標でした」

こうして、DNA抽出を高精度、高効率にできる装置で世界をリードすることになると同時に、全自動PCR検査システムの開発へと加速していった。

「対象となる物質を、ある溶液から引っ張り出して精製するというのは、全ての検査の大元になる部分です。そこに軸足があったというのが、今回のCOVID-19にも結果的に結びついたと思います」と田島氏は振り返る。

PSSの自社ブランド「ジーンリード」シリーズでは、24検体対応の製品を発売予定だ。基本的な開発はほぼ終えているとのことだが、新たに実装したい技術がある。1つは前述の「プーリング」の仕組みを組み入れて、大量の検査を可能にしていくことだ。もう1つは、唾液採取の方法による全自動化である。検査が簡単・安全になるとともに、大量のPCR検査体制を整えることで、社会に貢献していこうと考えている。

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唾液による検査の仕組みを説明する田島社長

一貫した開発の熱意の源泉は何であろうか。田島氏は「お客さまからの信頼です。『田島さんやってくれ』と言われたことについて、やるということです」と答える。

私は何の知識を持っているわけでもなく、バックグラウンドなど何もない。自分のできることは10の内、1か2。あとの8つは誰かにやってもらわないといけないわけです。それをできる人を探し回って色々な人に会い、一緒に実行していくのが面白いのです

「開発」の中核能力は、ある1点に気づくかどうか

「開発とは?」と聞くと、キャリー・マリス氏の話になった。
当時、ポリメラーゼという物質や、それが熱によって増幅できることもわかっていたが、連続して増幅を起こさせる技術がなかった。PCR法を開発したマリス氏は、そこを思いついた。その1点でノーベル賞の価値があるのだという指摘である。

「研究者」というものは、開発にあたって必要な事象を立証するために必要だが、「開発者」に求められることは違うという。

「ちょっとした勘が必要なのです。あと1つ、その1点に気づくかどうかです」

いろいろな技術があったとして、それを統合したときに何ができるか。それがPSSの仕事の開発コンセプトだと示してくれた。「マグトレーション」もそうだ。磁性体を使ってDNAを抽出するために、分注のためのチップに磁石を組み合わせて使うという発想がポイントになっている。元々存在する様々な要素技術に対して、うまく束ねることで何かがうまれる。そういった統合の力が求められている。

がんの早期発見に注力し、新たな分野にも挑戦

全自動PCR検査装置を開発してきた田島氏の願いは、日本でも遺伝子検査を幅広く活用し、病気の治療や予防に役立てて欲しいということだ。目下のCOVID-19対策としては、1日に数十万件検査できる体制を作るべきだと主張していることは前述のとおりだ。新たに登場する変異株に対しては、それに対応する試薬を、契約先の試薬メーカーがすぐに開発してくれる体制になっている。

「基本はがんの早期発見です」

実はこの言葉には、ある思いが伴っている。PSSが開発を実らせてきた立役者の一人、小幡公道さんへの思いだ。小幡さんは研究・開発の先頭に立ちながら、ドイツと米国の現地法人の社長を務めた方だ。その小幡さんは2014年、64歳で胃がんのため亡くなった。がんの転移を早期に見つけたいという願いは、PSS社員の心に改めて刻まれたのである。

今後の話になると、田島氏は「ほかにも種は色々あります。アイデアは尽きない」と、笑顔で答えた。「そこにある『要素技術』を結び付けて、ひとつずつ実現していきたい」

「大手OEMと組めたのは幸運でした。しかし今後は、自分たちで正確さを立証し、自分たちで売ることをやっていきたい」と抱負を語る。

高精度、全自動のPCR検査を実現させたこだわりの技術開発(プレシジョン・システム・サイエンス株式会社)

本社屋の前で

「社長の人柄に周囲の人が集まり、協力してくれるのだと思います」と、取材の帰り際に、取締役総務部長の田中英樹氏が教えてくれた。「会社の皆は自由にやっています」という田島社長の言葉に偽りはなさそうだ。組織として開発力を継続する秘訣はここにもありそうだと納得した。


写真:岡本崇志

宮田 昌尚

宮田 昌尚

PROFILE

ライター、コンサルタント

熊本県宇城市出身。早稲田大学政治経済学部卒業後、新聞社に入社。広告部門で営業や企画立案等を長年担当し、CSR部門でメセナ活動を含む各種事業の推進に携わった。現在はグループ会社に勤務。

2020年中小企業診断士登録。
東京都中小企業診断士協会 城東支部所属。


お問い合わせ先
株式会社プロデューサー・ハウス
Web:http://producer-house.co.jp/
Mail:info@producer-house.co.jp

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