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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第73回) 

新商品の狙いをどこに置くか!?
(石川金網株式会社)

新商品の狙いをどこに置くか!?(石川金網株式会社)

長い歴史を刻む会社にとっても、新たに起業して間もない会社にとっても、新商品の開発というのは実に難しい話ですね。
ただやみくもに企画すればいいわけではない。そこに明確な狙いがなければ、社業に好影響をもたらせませんし、長続きはしませんから。

この連載コラムの第1回で綴った三星刃物のチーズナイフの例を振り返ってみましょう。OEM供給のための刃物製造がもっぱらだった同社は、自社ブランドの新しいナイフ開発に着手します。実際に発売すると、その自社ブランド商品の売り上げ比率は、同社全体の5%程度にしか過ぎなかった。でも、それがいいというのですね。「5%」くらいと最初から踏まえていたからこそ、じっくりと時間をかけて開発できた。そして、その「5%」は、次の時代を左右する「大きな5%」だったとも社長は語っていました。若い社員を育てるとともに、同社の存在感を高めるものになったという話。

さあ、今回はどういう事例か。上の画像をご覧ください。おりがみで折った鶴?
いや、鶴であるのはそうですけれど、これ、おりがみではないんです。「おりあみ/ORIAMI」という名の商品を使って折られた鶴です。
この「ORIAMI」は、純銅、丹銅、ステンレスといった金属でできた細かな網を用いた1枚の薄いシートです。だから「ORIAMI」というのですね。おり「がみ」ではなくて、おり「あみ」という名なのは、そのためなんです。値段は3枚入りで1100円から。

でも、またどうしてわざわざ、おりがみを金属の網でこしらえないといけないのか。そこに意味はあるのか。もちろん、あるわけです。
まず、折ったものがずっときれいに形を保てます。湿気や水分にも強いですし、ちょっと揺らされたくらいでもびくともしません。次に輝きが美しいという話ですね。純銅、丹銅、ステンレスそれぞれに独特の雰囲気があり、既存のおりがみではまず表現できないような風合いが感じられます。そしてなにより……。

この「ORIAMI」を企画・開発・販売するのが、1922(大正11)年創立の老舗金網メーカーであること、です。石川金網という東京・下町の企業。つまり、つくった当の企業にしてみれば、大いに意味のある商品なのですね。しかも同社にとっては、初めての、一般消費者向け自社ブランド商品です。

こんなニッチな商品、売れているのか。そして同社にとってなんらかの影響をもたらす商品になりえたのか。そこが大事ですね。話を聞くと、売れているし、かなりの効果を社業に与えているらしい。まずは順を追って、開発の背景を紐解いていきましょう。

業績の停滞がきっかけだった

新商品の狙いをどこに置くか!?(石川金網株式会社)

老舗金網メーカーである石川金網は、2010年代に入り、業績が停滞し始めたといいます。製造するのは、工業製品・産業資材・建築用品に使われる金網類なのですが、取引先企業の側が時代とともに厳しい状況に陥るなかで、当然、石川金網もその余波をこうむるわけです。
そうなると、社内でなにかを新たに開発して、自力で売っていくという方策を取らざるをえません。社長はこう話します。

「でも、それが難しかった」

これまでは、取引先企業から「こういう仕様で」という注文があって、それを受けて金網を使った製品を供給すればよかったのですが、自社での商品開発となると、外部からのヒントを容易には得られませんからね。そしてもうひとつ……。

「販路の問題もあります。どこに売ればいいのかが見えない」

そうですね。売り先が決まっているわけではありませんから、そこがまた大きな課題となります。

「いわゆる“商流”(商的流通)がわかりませんし、また、それ以前の話として、社員がこうした商品開発自体に慣れていません」

従来の業務であれば、取引先から図面をもらったり、話を聞いたりすれば、そこからものづくりの糸口はつかめます。それが期待できない、そのうえに仮に商品が完成したとしてもどこに売るべきかつかめない、という状況です。業務用の製品づくりから一歩踏み出そうとすると、こうした悩みはつきものですね。今度は最初から自分たちでひとつずつ判断していかないといけないのですから。

文具? 椅子? 照明? どれも…

新商品の狙いをどこに置くか!?(石川金網株式会社)

とはいっても、社業の危機は迫っています。だから、とにもかくにもプロトタイプ(試作品)の製作に取り掛かりました。
金網を取り扱う老舗メーカーだけあって、プロトタイプの完成まではうまくいくんです。文具や椅子、照明カバーなど、金網製造の技術を用いて、一定以上のレベルのものはつくれた。

「つくれることはわかったんです。でも……」

ここで当然引っかかるのは、文具にしても椅子にしても、どうやって売っていくのか、ですね。そこの答えが出なかったといいます。さらには、ネックとなった点がもうひとつあった。

「ウチでは量産化が難しいんです」

文具も椅子も照明カバーもそうでした。石川金網に現存する設備規模では、量産化するだけのキャパシティがないことが判明しました。だから、これらの商品案は消すことにした。

これはあくまで私の考えですが、文具や椅子、あるいは照明カバーの市販へと強引に踏み切らなかったのは、結果としてよかったのではないでしょうか。
というのは、まず、それらの商品に金網技術を使うことに必然性をさほど感じないからです。他の技術を使ったってできるわけですし、石川金網だからこそという話にはなりえなかったのではないかと思うのです。

さらにいいますと、やはり持続しえない事業は難しいですね。同社の規模では、一般消費者向けの商品を新たにつくって売るために、巨額の設備投資をなすのは正しい方向とはならないかもしれません。新商品のプロジェクトを完遂させるだけでなく、無理ない形で長く続けるには、いまあるものを用いてものづくりを進めるほうが賢明という考え方は成り立ちますね。こうした2つの意味で、同社の考察と判断は間違っていない。

職人の“偶然の遊び”に着目

新商品の狙いをどこに置くか!?(石川金網株式会社)

そして、ここからです。

「最後の最後が、『ORIAMI』だったんです」

どういうことか。同社の職人が仕事の合間に、ほんの遊びごごろで、仕事場にあった金網を使っておりがみのように作品を折っていたのを、社長は見逃さなかった。

「こんなことができるのか、という感じでした」

いや、単なる偶然の産物でもなかったようです。文具のプロトタイプを開発している途上に、そうした場面が生まれたそうですから。

「金網を曲げたり折ったりしながら、職人が文具ケースをつくっていたときの話だったんです。『試しに折り鶴でもつくるか』と、ある職人が冗談交じりでやってみたら、それがうまくいった」

職人はその折り鶴を社内で見せます。これが2012年のこと。あまりに面白い折り鶴に思えたので、展示会や見本市に同社が出展する際に、この折り鶴をブースの一角に飾っていたそうです。すると……

ブースを訪れた人から『この折り鶴が欲しい』という声がなんども挙がったんです。しかも『金網を使って、自分の手で折り鶴をつくってみたい』とも

こうした反響を受けて、石川金網は、金網で折り鶴をこしらえるワークショップを催し始めました。ただ、実際にやってみると問題もそこにあった。一般の人が金網での折り鶴に挑むと、尖った部分で手を傷つけかねないんですね。

「ならばいっそ、折り鶴を安心してこしらえられる金網製のおりがみをつくろう、となった」

ここでようやく思い切ったのですね。ここから開発に3年をかけました。なにが大変だったのでしょうか。

「最初に開発したのは、銅を素材に使った金網でおりがみをつくることでした」

なぜか。おりがみの専門家に話を聞きに行って、そこから大きなヒントを得られたからといいます。具体的には、次の3つの要素が必須とわかったのでした。

まず、折りやすくないとダメ。それも、子どもからお年寄りまで誰もが扱いやすくすべき。次に、もし金網でつくるならば、金網であればこその特徴がそこに表れていないといけない。紙と違う持ち味を有することが大事。最後は、とにもかくにも安全でないといけない。
ここまでのヒントをもらうことができ、石川金網は、金網製のおりがみは絶対に完成させられるとの確証を得られたそうです。

「ウチは長年の歴史を通して、いろんな金網を扱ってきました。だから、この3つの要件を揃えればいいというアドバイスをもらえたことで、『それならつくれる』とすぐに判断できたんです」

先に触れたように、銅を素材にすれば完成に近づけることは即座にわかったそうです。ただし、ここから開発・完成・発売までにおよそ3年間を要しています。完成させられると踏んだのはすぐだったのに、またどうしてそんなに時間がかかったのか。

「素材はすぐに決まったけれど、そのあとが一発でうまくいかなかった」

どういうことか。金網の目の大きさと、金網をなす素材の線の太さ、この2つの組み合わせで苦心したというのですね。そこに時間をかけざるをえなかった。

「簡単に表現してしまうと、目を小さく、線を細く、が正解でした。でも、そこにたどり着くまでが大変だったということです」

しなやかで、しかも安全に…

新商品の狙いをどこに置くか!?(石川金網株式会社)

ORIAMI」と名づけた、この金網製のおりがみが完成をみたのは2015年のことでした。できあがったのは、布のようにしなやかで紙のように張りがあり、しかも折る人の手に安全な金網製おりがみでした。
ここからが大事ですね。この原稿の冒頭でお話しした部分です。ある意味、実にニッチなこの商品は果たして売れているのか。そして、社業に好影響をちゃんともたらしているのか。

「この6年間ほどで1万セットが売れていますね」

これは同社にとって、予想外といえるほどの売れ行きであると聞きました。3枚セットで1100円からという、既存のおりがみからすると相当に値段の高い商品なのに1万セットですから、確かに想定を超えていたのかもしれませんね。立派な数字であると、私は思います。

この「ORIAMI」、いまでは素材や色合いなど商品のラインナップも増やし、さらに上々の反応を得ているそうです。一度折ってしまえば、作品がずっと残せるわけですから、おりがみが趣味という人にとっては、またとない商品であるわけですね。

しかも……ここがまさしく大事なところですが、「ORIAMI」には石川金網がつくる意味のある必然性が備わっていますね。おそらく金網ひとすじのメーカーであるからこそ完成させられたのですし、金網製であることの意味をそこにふんだんに感じられる商品(別に金網製でなくてもいいというようなものではない、という意味において)として成立しているからです。

社員は「売れると思わなかった」

新商品の狙いをどこに置くか!?(石川金網株式会社)

ただし……。その開発途上を思い出しながら、社長は笑います。

「ウチの社員は、これが売れるとは全く思っていなかったようです」

もともと、社長の心の中では、開発の狙いははっきりしていました。

我が社の存在を世に伝えられるものになれば、それでいい。ウチの技術力や開発力を理解してもらえるための材料になってほしいという思いでした

でも、3年間を費やした開発の途中では、社員からこうも言われていたそうです。

「『社長、そんなに熱心にやらないでください』と何度もたしなめられましたね」

いまでも、そうした声は残っている?

「いえ、いまはもう言われません。それどころか、社内に『ORIAMI』をさらに活用するためのプロジェクトチームも立ち上がったくらいです」

マスクにこの薄い金網を用いたりするなど、派生商品の開発にも余念がないそうです。
でもなぜ、社内からのそうした声が消えたのでしょうか。

「本業に対して、明らかな効果があったからでしょうね」

同社の技術を取引先に説明する際に、この「ORIAMI」を見せると効果てきめんらしいんです。「こんな商品をつくれるんだったら、こういうことも可能ですよね」というふうに、相手が話に乗ってきてくれるそうです。

石川金網は本業において、製品の輸出にも長年、力を入れてきました。いまから10年前(2011年)にはイタリアの企業と業務提携を結ぶなど、精力的な取り組みを続けています。もしかすると今後、「ORIAMI」で折った鶴などが、海外との商談の場を盛り上げるのに役立つかもしれない、私にはそうも思えましたね。

もうひとつ、締めくくりとしてお伝えしましょう。同社の売り上げは、年5億円規模です。「ORIAMI」は確かに予想を超える販売数となっていますけれど、石川金網の売上高全体からみれば1%にも満たない数字ではあります。それこそ、この原稿の冒頭で触れた三星刃物の新商品(5%)よりも、社としての売り上げ比率は小さい。
それでも、です。この「1%弱」の存在が、石川金網にとって大きなものであることは、ここまでの話から、皆さんに充分ご理解いただけたのではないかと思うのです。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分
析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっ
ている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」
(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、NTT東日本「経営力向上ラボ」、
家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地
方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」な
ど、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

ANA国内線「北村森のふか堀り」監修

経済産業省 北海道経済産業局 地域ブランド創出支援事業 チームリーダー
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)

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