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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第72回)

「危機感」は商品ヒットの源泉!
(但馬漁業協同組合)

「危機感」は商品ヒットの源泉!(但馬漁業協同組合)

六次産業の話、この連載で何度も繰り返して綴ってきました。第31回の「エアリーフルーツ」、第32回の「さつまからすみ」)、そして第66回の「お魚レストラン」……。

これらはどれも六次産業化に成功した事例ですが、全国を広く見渡すと、失敗事例も数々あるんです。そのことも繰り返しお伝えしてきましたね。助成金がおりるから何かつくってみようか、ですとか、他にこんな商品例があるからウチでもやってみようか、ですとか、そうした程度の意識では厳しい結果しか生まれない。なぜか。「伝わらないものは存在していないのと一緒」だからだと私は思います。

だったら、SNSなどを使ったり、場合によってはインフルエンサーと呼ばれるようなネットでの発信力のある著名人の力を借りたりすればいいかといえば、そんなに簡単な話ではないですよね。ありきたりの施策では「伝わる」ことって果たせにくいですし、他人まかせではそのうちメッキがはがれます。

今回の事例です。兵庫県の日本海側に位置する但馬漁業協同組合による六次産業化が成果を挙げています。どうしてまた成功しているのかと思って取材してみたら、わかりました。ひとつは「危機感」、もうひとつは「自律的な開発姿勢(人まかせからの脱却)」。

で、思うわけですが、この2つの要素って、先に挙げた「エアリーフルーツ」「さつまからすみ」「お魚レストラン」にも共通する部分なんですね。

但馬漁協での最新のヒット作は「ほたるいか飯」の缶詰です。去年(2020年)9月の発売。購入して食べてみたのですが、これがまた味わい深い。容器に移し替えて1分半ほど電子レンジで温めてやると、ご飯はもっちり、ほたるいかの香りがふんわり。ちょっとしたごちそうの一皿になります。1缶972円もするのに順調な推移を見せているそうです。でもなぜ、ほたるいかを使った六次産品なのでしょう。すみません、この原稿の後半でお伝えさせてください。

大事なのは、但馬漁協の取り組みのどこが「危機感」と「自律的な開発姿勢」の話であるのか、ですね。今回の事例を、順を追って綴っていきましょう。

漁協直営店の開業は早かったが…

「危機感」は商品ヒットの源泉!(但馬漁業協同組合)

いまから30年前、1991年に但馬漁協は港の一角に直営店舗をオープンします。水揚げされるカニ(但馬の名産として名高いですね)をはじめ、自慢の魚介類を消費者に直接手に取ってもらうためでした。

漁協が直営店舗の運営を手がける例は近年でこそ増えていますが、30年前の当時はかなり先進的な取り組みであっただろう、と私は思います。その意味では、但馬漁協には自律的に販売網を確立しようという姿勢が以前からあったのかもしれません。ただし……。

ここ但馬地方は、関西の大都市圏からの観光客が主に支える地でです。それが1998年に明石海峡大橋が供用開始となったことで、関西の人々の目が四国にも向くようになり、但馬地方への観光客が減ったといいます。但馬漁協の直営店の年間売上高は、オープン当初には3億円ほどあったのが、2016年には7000万円ほどへと大幅に下落しました。

直営店だけではありません。但馬漁協全体としての業績も厳しい局面に立たされました。晩秋から冬場にはカニという強力な存在があるものの、年間を通してみると水揚げされる魚介の漁獲高がどんどんと減っていき、2011年からは3期連続で赤字転落を余儀なくされたそうです。

これはまさに「危機」です。但馬漁協の当時の副組合長(現在は組合長)はこう判断しました。漁協をいい形で存続させるには、魚を獲る、そして商品をつくる、この二本立てでいくしかない、と。

具体的には、「未利用資源」と呼ばれる魚介を使って、新商品を漁協みずからが開発するしかないというふうに考えました。未利用資源というのは、脚のとれたカニですとか、ちいさすぎて売り物にならない魚を指します。こうした未利用資源を活用して商品化できれば、漁師さんにもお金が入るし、魚介を無駄にしなくてもすみますね。だからこそ、商品化が急務と決断したそうです。

冷ややかな反対の声も挙がった

「危機感」は商品ヒットの源泉!(但馬漁業協同組合)

ところが、話はそう簡単ではありませんでした。漁協のなかからも、六次産品の開発に冷ややかな反応を示す声が挙がったのです。「経費をかけて、ちゃんと利益が出るのか」「掛け声だけで終わるような事業ではないのか」といったふうにです。そうした意見に対して、どう説得を試みたのでしょうか。

「数字で語るしかありませんね」

確かに……。実績を積み上げて反対の声をかき消すしかないのでしょうね。では、六次産品の売り上げは、最初の商品を登場させてからずっと好調だったのでしょうか。

「いや、数字がものをいう、ということは理解していたのですが、初期段階では試行錯誤を繰り返しました」

具体的には、どのような経緯をたどったのですか。

価格もデザインも見直したら

「危機感」は商品ヒットの源泉!(但馬漁業協同組合)

但馬漁協での六次産品化における第1号商品は、カニの魚醤です。これは2016年の発売でした。開発には数年かかったようです。

脚のとれたカニをどうにか商品に使えないか。味や質は立派なものなので捨ててしまうのはもったいない。漁協の担当者は魚醤にすることを思い立ち、地元の醤油蔵に相談します。しかし……。

「醤油蔵の話では、『カニは発酵しないから魚醤にするのは無理』とのことでした。実際に何度も試したことが以前にあったけれどダメだったそう」

でもここで諦めなかった。醤油蔵と打ち合わせを重ねるなかで、「麹を使って試してみようか」という話がふと出たらしい。そして実際にやってみた。すると、1年寝かせた段階で、見事に発酵が叶った。要するに、過去にはまずなかった手法を編み出せたということですね。麹を使ってできあがった蟹の魚醤は、臭みがなくて、しかもカニの風味を深くたたえたものとなりました。

これだけの魚醤が完成したのだから、間違いなく売れるはず。そして、数字にものを言わせて、漁協内の反対の声も打ち消せる……。いやそうはならなかったんです。

「もう全く売れませんでしたね」

ああ、やはりそう簡単には、事は運ばないのですね。このカニの魚醤、値段が1瓶100mlで1800円という、相当に立派な値づけをしたそうです。当時、但馬漁協は六次産品開発にあたってコンサルタントに入ってもらっていたといいます。そのコンサルタントは「いいものは値段が高くても売れる」「無添加の食品だからヒットする」と力強く語ったとのことですが、予想に反して動きは極めて鈍かった。

「地元からは大ブーイングでした。『こんなに高いもの、誰が買うんだ』と。商談会に出向いても、最初は『おいしいですね』という反応でも、値段のことを伝えると『高いですね』となってしまう」

漁協の担当者からこの話を聞いて、私自身、とても反省しました。なぜかといいますと、私はここまで、やはり「いいものは高くても売れる」と信じていたからです。その意味では、件のコンサルタントと同意見ではあるんです。実際、この連載の第11回で綴った「百姓の塩」など、相当に値が張るのに現在もコンスタントに売れていますからね。

でも、頑なに「高くても売れる」と言い続けるだけではダメなんだとも、今回痛感しました。要するに「なぜ高いか」をきちんと伝える(伝える作業だけでなくて、結果として伝わったかどうかを検証しつつ)ことが、欠けてはならない要素なんですね。

では、「伝える(結果として伝わる)」とは、どういうことなのか。おそらく「説得力」がそこに備わっているかどうかが事を左右するのではないでしょうか。その値段、パッケージや商品名を含む訴求方法など、説得力をどう醸成するかがカギになる。ならば、但馬漁協はどうしたか。

2018年に、カニの魚醤を大きくリニューアルしました。さあ、ここで大事なのは「何を変えて、何を変えないかの峻別」ですね。これも、連載でいつも綴っているポイントです。

まず、中身は全く変えませんでした。この味や製法に手をつけると、商品の意味がなくなりますからね

変えたところは、どこですか。

「ネーミングとでラベルデザインを変えました。当初は『まるごと魚お醤油』という商品名だったのですが、これだと、麹をわざわざ使って魚介を発酵させたという部分が伝わらない。それで『麹の魚醤』としたんです」

このネーミングもコンサルタントに依頼したんですか。

「いえ、私の発案です」

ああ、漁協の担当者みずからが、この厳しい局面を打開すべく、リスクを背負って動いたのですね。ちなみにラベルデザインは地元・但馬のデザイナーに頼んだそうです。

この上の画像の左側が発売当初のラベル、右側がリニューアル後だそうです。どうでしょう。私には右側のデザインやネーミングのほうが、アピールする力をたたえているような気がします。その商品の何たるかが、より鮮明に、かつ、たちどころに理解できるから。

さらには……不評きわまりなかった価格にも手を入れたそうです。

「容量は100mlのままで、値段を1000円前後に下げました。漁協の利益分を絞った格好です」

すると、たちまち販売数に動きが出始めました。

「デザインとパッケージ、そして値段を変えただけでかなり状況が変わったんです。これには驚きました」

ここまでの経緯を私なりにまとめます。「値段が高くても売れる」と頑迷に信じるのではなくて、高くても売れるように、途中でなすべきことをなしたからこそ、消費者に伝わり始めた。そして価格についても、説得力を持たせる(=買っていいと感じさせる)ギリギリのラインまであえて落とした。

100mlで約1000円という値づけだって、まだまだ高い水準ですよね。でも、商品を伝えきることに向けて漁協の担当者が自律的に考え、力を注いだ結果、商品は動き始めたということなのだろうと思います。

魚醤から、すべてが動き始めた

「危機感」は商品ヒットの源泉!(但馬漁業協同組合)

カニの魚醤が売れ始めたのを契機に、但馬漁協は他の未利用資源を使った魚醤のラインナップ化を進めます。上の画像をご覧ください。一番左が、最初に登場させたカニの魚醤です。カニの発酵は無理というところから頑張ってつくりあげた第1号商品ですね。そこからさらに、甘エビ、のどぐろ、ハタハタ……と幅を広げていきました。

そして、また重要なのはこのあとです。こうして商品化を叶えた魚醤を、但馬漁協は別の商品開発にも生かしたんです。例えば……。

この魚醤を干物の調味液に用いた「旨干し」、あるいは、やはり魚醤で味づけした「むかし海苔」というふうにです。

バラバラな形でそれぞれの食材を商品化するのではなくて、せっかくつくりあげて、しかも結果を出し始めた「麹の魚醤」を軸に据えながら商品展開を進めたのは素晴らしいところだと感じさせます。「麹の魚醤」が漁協による六次産品化の、いわばアイコンのような存在になるわけですから、商品のありように統一感をもたらせますし、漁協自身にすれば、その先の商品開発戦略に向けた、太くてまっすぐ道を意識できます。迷い道に入り込まなくて済む。

2019年、今度は缶詰づくりに着手します。人気の高いのどぐろの身を使い(もちろん、売り物にならない魚体のちいさなものを活用)、そして、商品化をすでに果たしている、のどぐろの魚醤を生かし、「のどぐろ飯」の缶詰を完成させました。

この缶詰の商品化にあたっては、地元・香住高校の海洋科学科の先生と、その生徒達が全面協力したといいます。産学連携のプロジェクトだったのですね。

ここで興味深いのは、高校の生徒から、ただ単に商品化に向けたアイデアの一片を得るというのではなく、試作はもちろん実際の商品製造にまで生徒が携わっているというところです。同校の海洋科学科は実学的なカリキュラムを重視していることもあってでしょう、そこまで踏み込んだ協業をなしているのですね。これは生徒にとって大きな学びになったはずです。実習でもあり、かつ、地元産品を必死に生かすための仕事にも貢献できるわけですから。

そして新たな危機に見舞われ…

「危機感」は商品ヒットの源泉!(但馬漁業協同組合)

ずいぶんお待たせしました。ここからが冒頭で綴った「ほたるいか飯」の缶詰の話です。

去年の春のこと。ほたるいかの旬を迎えた時期と、新型コロナウイルスの感染拡大が同じ時期にぶつかってしまった。2カ月で400トンほどの漁獲高があったにもかかわらず、飲食店の休業などによって買い手がつかず、浜値は前の年の10分の1まで下がった。但馬漁協みずから買い支えたけれど、それでも前の年の38%の価格にとどまった。しかも買い支えたほたるいかを保存する倉庫も詰まってしまったんです。

どうするか。これは加工品にするしかない、と漁協は判断します。そこで頭に浮かんだのが、ちょうどその1年前に開発した、のどぐろの炊き込み御飯「のどぐろ飯」缶詰でした。今度はほたるいかでそれをやれないか……。

倉庫が詰まっているほどですから、時間は急を要します。5月から開発を始めて、完成したのは9月。今回も、香住高校の先生が陣頭指揮を担い、生徒たちが調理に一肌脱いでくれました。やはり実際に販売する商品製造に携わっている。具体的には、食材の下処理や味つけです。皆、本当に真剣勝負です。

で、この「ほたるいか飯」の缶詰なんですが、地元自治体が備蓄用食料として5000缶を買い取ってくれるなど、すぐに反響を呼んだそうです。そしてさらには、「ほたるいか飯」の缶詰発売となった去年9月からの7カ月で、缶詰類の売り上げは500万円を超えています。見事な数字ですね。ちなみに他の商品でいいますと、「麹の魚醤」「むかし海苔」「海苔佃煮」だけで昨年度は1525万円の売り上げがあったそうです。ちゃんと「数字でものをいわせる」レベルにまで育て上げている、と表現できますね。

協力した高校にも波及効果が

「危機感」は商品ヒットの源泉!(但馬漁業協同組合)

では、但馬漁協の直営店の売上高はどうなっているか。原稿前半でお伝えしたのは、オープン当初には3億円ほど、2016年には7000万円ほどへと大幅な下落という話でしたね。

それがいまでは1億5000万円ほどにまで復活しているそうです。これもまた見事。もちろん六次産品化の進展が寄与しているんでしょうけれど、他にも理由があったのでしょうか。

自分たちの都合よりも、お客の都合を優先したからでしょうね

どういうことですか。

「直営店の売り上げが落ち込んだ一因は、(六次産品以外の)魚介の値段のつけ方に問題があったと反省しています。漁協がわざわざ直営している店舗なのに、街場の一般店よりも高い値段を平気で掲げていました」

漁協直営店舗のアピールポイントは、魚介の質、そしてなにより値段であるはずですよね。直営だからこそ流通コストが上乗せされず、手頃に買えるという……。但馬漁協の担当者は、そこを踏まえ、値ごろ感ある価格設定に改めた。と同時に六次産品に関しては、一定の価格を保持しています。先に触れたとおり、魚醤のように値段を下げたものがあるとはいえ、缶詰など1000円ほどはしますし、どの商品でも、かけた原価相応の値段設定は大きく崩していません。でも、それなりに高くても商品はちゃんと捌けている。そのあたりの按配もまた絶妙だったのでしょうね。

最後に……。「ほたるいか飯」のヒットを受けて、思わぬ波及効果も生まれたと聞きました。

いまも缶詰の製造に汗をかいている香住高校の水産学科学科ですが、この春の推薦入学枠の倍率が2.5倍にまでなったそう。過去にはほぼなかったほどの高い倍率といいます。コロナ禍で苦しい場面で踏ん張ったおかげで、但馬漁協もほたるいかも認知度を上げて、そして力を惜しまなかった地元の高校もまた大きく注目された結果となった、ということです。

上の画像は、左3人が但馬漁協の担当職員、真ん中2人が香住高校の生徒、そして右側が香住高校の先生です。危機を乗り越えるために手を携えたメンバーです。みんな、いい笑顔ですよね。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分
析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっ
ている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」
(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、NTT東日本「経営力向上ラボ」、
家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地
方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」な
ど、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

ANA国内線「北村森のふか堀り」監修

経済産業省 北海道経済産業局 地域ブランド創出支援事業 チームリーダー
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)

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