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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第71回)

低価格競争からの脱却のために!(ムジンノフクヤ)

低価格競争からの脱却のために!(ムジンノフクヤ)

新しい試みはなんのため? 今回はそういう話をしていきたいと思います。

取り上げるのは「無人店舗」です。昔から、地方の道路沿いにはよく、無人の野菜販売所がありますね。でも、今回はそういう店舗の話ではありません。実は、都市部にある無人店舗も、ここ数年で見かけるケースが少しずつ増えています。たとえば古本屋さんですとか……。また、ITを駆使した無人決済コンビニも話題に上るようになっていますね。米国の「Amazon Go」であったり、日本国内の「TOUCH TO GO」であったりという具合です。

では今回取材してきた無人店舗はというと……古着屋さんなんです。その名を「ムジンノフクヤ」といいます。まずはそのあらましをお伝えしましょう。
この「ムジンノフクヤ」があるのは、東京・野方の商店街の一角です。私鉄駅のそばにある商店街であり、さして大きな規模ではないのですが、飲食店を含め、個性豊かな店舗が並んでいて、けっこうな人を集めている印象です。その商店街の中心からちょっとだけ歩いた場所に、「ムジンノフクヤ」は昨年(2020年)の8月にオープンしています。

無人だけに24時間営業。スタッフは23日に一度、店舗の掃除や商品の補充などに訪れますが、それ以外の時間は全くの無人です。取り扱っている古着はトップス(Tシャツやパーカー、トレーナーなど)が中心で、確かにこれなら、買うときのサイズ合わせも容易ですし、無人店舗でもなんとかなりますね。というか、客にすれば品定めするときにスタッフからあれこれ話しかけられる煩わしさがないので、むしろいいのかもしれません。

月に300人を集客している

低価格競争からの脱却のために!(ムジンノフクヤ)

で、この「ムジンノフクヤ」なのですが、売り場面積わずか4坪(13平方メートル強)の中に約600アイテムの古着を並べています。1着あたりの販売価格は1480円からで、ハンガーの色によって価格がわかるようにしている仕組み。複数商品の購入によって割引になるサービスもあると、店内に明示されてもいます。

購入にあたっては、まず店内の自動券売機でチケットを購入。試着できるスペースも用意されています。あとは気に入った商品を選んで持ち帰ればいいという形です。

実に省力化された店舗ですが、オープン以来、毎月300人ほどが来店し続け、1日あたりの売り上げは2万〜3万円を確保できているそうです。訪れている客層は、10代後半から30代の女性が中心らしい。つまり、ファッションアイテムに敏感な消費者が着実についてきていると想像できます。そして、オープン初月から、なんとかぎりぎりではあるものの、黒字を続けている。これは見事だと思います。
オーナーはもともと、ネット通販で古着を販売している人物です。またそれがなぜ、リアル店舗を開業し、しかも無人での運営に踏み切ったのでしょうか。

「低価格競争から脱却したかったからです」

もう少し詳しく説明してもらえますか。ぱっと考えると、無人店舗にするというのはむしろ、コストを抑えて低価格競争を続けるためのようにも思えますが、そうではなくて、狙いは真逆ということになりますよね。

「ネット通販は低価格競争に陥りがちで、なかなかそこから抜け出せないという苦しさがあるんです」

どういうことか。ネット通販の場合、運営サイト側への手数料が当然発生します。また、新規で参入しやすい側面もあることからライバルはおのずと増えます。そのために、ネット通販の世界で古着販売店が生き残るには。それ相応に低価格であることを打ち出さないといけなくなります。これは価格競争の常ですけれど、どこかが値下げしたら、こちらも値下げしなくてはいけなくなってしまい、その競争はきりがなくなるんですね。アクセスユーザーが容易に価格比較できるネット通販では、こうした背景から、どうしても消耗戦に巻き込まれるわけです。

なるほど……。「ムジンノフクヤ」開業の狙いは、消耗戦とは異なるフィールドに商機を見出すことにあったのですね。無人店舗というからにはコスト削減こそが最終目的(低価格競争を今後も続けて勝利するための窮余の一策)かと思いきや、そうではなくて、低コスト型の運営はあくまでひとつの手段だったという話です。

自動券売機の選択も難しかった

低価格競争からの脱却のために!(ムジンノフクヤ)

では、「ムジンノフクヤ」は、低コスト型の運営によって、低価格競争の消耗戦から抜け出し、さらにどこを目指したのでしょうか。

「ユーザーはやっぱり服の現物を手にとって購入したい。そのニーズに応えるための試みでもあった」

確かに……。たとえば食品の世界では、ネットスーパーがいま注目を浴びていますね。このコロナ禍で人との接触を避けようと考えれば、ネットスーパーの利用は、これまでにもまして意味を持ちますから。でも、その一方で、現物をその目で確かめて商品を購入したいという欲求もまた、消費者には間違いなくありますよね。「ムジンノフクヤ」のオーナーはいいます。

「この店舗も、コロナ禍で人との接触を最小限にしたいという消費者のニーズに応えたという部分から注目を浴びたというところは否定できません。でも……」

でも……なんでしょうか。

無人店舗であること以前に、楽しい服屋でないといけません

ああ、それはそうですね。ただ単に無人であるというだけなら、オープン直後に脚光を浴びたとしても、それは一過性のもので終わってしまいます。店である限り、有人だろうが無人だろうが、買い物する楽しさがそこにないとダメですね。

「ムジンノフクヤ」のオーナーはそこを忘れなかった。そして、低コスト化によって商品を無理のない価格設定にでき、そのことが惹きのある商品の仕入れにもつながり、しかも企業としての体力を削がれないようにしたというわけですね。
ただし、無人店舗を開業するのは初めてのことだっただけに、試行錯誤を余儀なくされる場面もあったといいます。

「チケットを購入してもらうための自動券売機の選択がそうでした」

最初に設置したのは、500円硬貨と1000円札だけが使えるものだったそうです。開業から3カ月経ってようやく、これは失敗だったと気づいたらしい。

「お客さんには相当不便なんですね。それで、すべての硬貨も1万円札も使える自動券売機に変えました」

こういう点を躊躇なく改善することで、「楽しい服屋」にし続けようと努力したのだと、私は理解しました。

一冊の連絡帳の意味は…

低価格競争からの脱却のために!(ムジンノフクヤ)

この「ムジンノフクヤ」の店内には、一冊のノートが置かれています。これが来店客とスタッフやオーナーを結びつける、大きな存在になっているそう。

「無人店舗だと、無機質な空間になりがちですよね。それをこのノートによって変えたかったんです」

もう、なんの変哲もないノートです。あとは手書きのためのペンがそばに置いてあるだけ。でも、来店客がこの連絡帳になんでも自由に書くことができるのは、確かに大事ですね。

「『服がかわいい』『楽しいお店です』といった感想を残してくださるのも嬉しいのですが、同時にいくつもの要望を知ることができるところが重要でもある」

これまでの例を少し教えてもらいました。「試着スペースにフェイスカバーをおいてほしい」。商品を試着するときに顔が触れて、メイクが付いてしまわないように、という要望ですね。これにはすぐに応えたそうです。一方、「キャッシュレス決済にも対応してほしい」という要望には、「ごめんなさい。コストがかかるので対応できません」と返事を綴っています。
オーナーによると、この連絡帳への書き込みは週に3つほどあり、それを確認するとすぐに返事を書いているといいます。

できることはすぐにやる

低価格競争からの脱却のために!(ムジンノフクヤ)

この上の画像はなにかというと、店舗入り口を撮った1枚です。鈴がついていますね。これも連絡帳での要望あってのことだと聞きました。

「『1人で試着スペースに入っているときに、他のお客がそっと入ってくるとびっくりする』と教えてくれたお客がいました。その書き込みを読んで、即座に鈴をつけました」

こうして、お客と店の呼応があれば、たとえ無人店舗であっても、そこにある種の信頼感が醸成されますね。こういうところが大事なのだと思いました。
連絡帳でのやり取りを通しての改善以外にも、オープン当初から変えたところはあるのでしょうか。製品・サービスが人気を保ち続けるには、「何を変え、何を変えないかの見極め」こそが必須という話、私はこの連載で何度もお伝えしてきています。

「今年に入って、服のラインナップを全面的に見直しました」

えっ? 開業からずっと成果を上げてきているのに、ラインナップを変えたのですか。

「そうです。トップス中心であるところは変えていませんが、一点物もしくは一点物に近いアイテムに変えました」

無人であることにもまして、まずは楽しい服屋でないといけないという話からすれば、一点物の古着を多数揃えるというのは理にかなっていますね。でも、オーナーの狙いは、もうひとつそこにあったと聞きました。

「これ、万引きの抑止にもつながっているんです」

ああ、そういうことですか。一点物かそれに近いものであると、万引きして転売を目論もうとしても足がつきやすいですね。実際に転売行為までを発見できるかどうかはともかく、万引き犯にためらいを生じさせることができます。これは実にいいところを突いた策ですね。ほとんどのお客にとっては、商品のラインナップがより楽しくなり、古着選びの面白さがさらに創出される。そして同時に、万引きを狙う不届き者には「ここで服を盗んだら自分を特定されるかも」と警戒させ、万引きを防ぐという話。

万引きの被害はどれくらい?

低価格競争からの脱却のために!(ムジンノフクヤ)

ここで確認しておきたいのですが、万引き犯って実際のところ多いのですか。無人店舗ですとどうしてもそこが心配になります。この「ムジンノフクヤ」には防犯カメラが備わっていて、店舗内に設置したモニターでも、その様子を映しているとはいえ……。

「私が把握している限り、開業してから9カ月で2人ですね」

たった2人ですか。

「予想よりもはるかに少ない件数でした」

そこには先に触れたような、万引きした古着を転売しにくいアイテムを揃えたというふうな施策も功を奏したと考えられますけれど、私にはそれ以外の要素が効いているとも感じられました。連絡帳の存在がまさにそうであるように、お客と店の関係性を良好に保とうという空気が、店内にきちんと醸し出されているような気がしました。そういうところひとつが意味をなしているのではないか、と。

私、この「ムジンノフクヤ」を取材時以外にも何度か試しに訪れましたけれど、ハンガー掛けされた商品はいつも綺麗に並んでいて、店内は荒れた空気とは無縁だったんです。こういうところが大事なはずです。ファン層をしっかりと掴むことで、こうした良い雰囲気を店内に備えるに至っているということでしょうね。

子ども服のリユースも…

低価格競争からの脱却のために!(ムジンノフクヤ)

「ムジンノフクヤ」の「途中で変えたところ」をもうひとつお伝えしましょう。店内の一角にカゴが用意されていて、お客はそこに不要になった子ども服を入れることができます。つまり、子ども服の回収を始めたんです。

店の側は、そうして集まった子ども服を整理し、クリーニングしたうえで、もうひとつのカゴに並べています。ここを訪れる別のお客は、必要に応じて、こうした子ども服を自由に(無料で)受け取ることができます。店の空間を用いて、リユースの取り組みにも着手したという話ですね。

「私は古着を扱う仕事をしているだけに、衣服の廃棄問題はやはり気になるんです。それで子ども服のリユースをまずはやろう、と」

こうした取り組みが、さらに固定ファンを増やすことにもつながっているはずです。

「安い」だけでは絶対にダメ

低価格競争からの脱却のために!(ムジンノフクヤ)

さあ、今回の話をまとめましょう。まず、低コスト型の店舗をひらくのは、「楽しい服屋」を実現するためであり、低コスト化そのものが最終目的ではなかった。また、価格競争の消耗戦からいかに抜け出すかを模索したかったという側面もそこにはあった。そして「楽しい服屋」であり続けるために、変えるべきところが見つかれば躊躇なく実行に移した。だからこそ、この店は黒字を続けている。

この「ムジンノフクヤ」から学べることは、いくつもありそうです。いま、苦境にあえぐ商店街が各地にありますけれど、この店舗の取り組みは、そうした商店街の人々にもヒントをもたらすのではないでしょうか。無人で扱えそうな商材はなにも古着に限った話ではないでしょうし。

「私がこの店舗をひらくにあたって目指したのは、『仕組みづくり』だったかもしれません」

開業直後に話題を呼んで、ちょっと流行って終わりではいけない。無人店舗としていかに持続させるかを意識してきたからこそ、「ムジンノフクヤ」はいまも人気を集めているといえそうですね。
最後の質問です。では、オーナーのいう「(無人店舗としての)仕組み」に最も必要なものとはなんでしょうか。

まずは商品の質でしょう。無人店舗に大きな期待を寄せるお客は少ないだろうと考えて、商品価値が低いものをただ置いていては、長続きしません

それは間違いないところでしょう。無人店舗の長所を生かして、商品ラインナップの充実につなげなければ、ただの風変わりな低コスト店舗で終わってしまいます。

「『安い』という要素しかそこにない店舗では、絶対にいけません。やはり面白くなければ……」

そうですね。消費者を見くびってはいけないという話ですね。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分
析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっ
ている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」
(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、NTT東日本「経営力向上ラボ」、
家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地
方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」な
ど、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

ANA国内線「北村森のふか堀り」監修

経済産業省 北海道経済産業局 地域ブランド創出支援事業 チームリーダー
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)

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