1. TOP
  2. Alibaba JAPAN PRESS
  3. 「持続させる」とはどういうことか!?(企業組合こもねっと)

実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第66回) 

「持続させる」とはどういうことか!?
(企業組合こもねっと)

「持続させる」とはどういうことか!?(企業組合こもねっと)

前回、「L'évo」の話を綴った取材では山奥のそのまた奥まで訪れましたが、今度はちいさな半島の最突端にある人口わずか300人という集落に足を運びました。
四国・愛媛の松山市からクルマを3時間ほど走らせたところにある蒋淵(こもぶち)が、今回の目的地です。県南部の宇和島市街を過ぎても、まだ1時間近くを要します。海岸沿いの細い田舎道をただただ進んでいくと、満開となった山桜が出迎えてくれました。

ここ蒋淵は、泣けてくるような美しい湾と、木々の茂る小高い山に挟まれるようにして家々が並ぶ集落でした。クルマを降りると、鳥のさえずりが絶え間なく聴こえてきます。こう言っては蒋淵に暮らす人たちに失礼かもしれませんが、別世界にたどり着いたような感慨すら覚えました。
いや、蒋淵という地がここまで遠く、また、心を奪われる風光明媚なところだとは知らないまま、取材を申し込んでいました。

今回の取材目的は、「お魚レストラン」という魚介類の加工商品の話を聞くことです。蒋淵に住む有志たちによって運営される「企業組合こもねっと」が開発と製造を担っています。

この「お魚レストラン」、私は今年(2021年)2月に幕張メッセで催された「スーパーマーケット・トレードショー」で目にしました。電子レンジ対応のパッケージの中に、蒋淵の海で育てられた真鯛などの切り身がひとつと、ベシャメルソースやトマトソース、バジルソースなどが入っていて、230秒ほどレンジアップすれば、それで加熱終了です。「お魚レストラン」という呼称もパッケージデザインもとても洒脱だし、個人的に購入して食べてみたら、味も悪くない。外食がなかなかできないこの時期、自宅でごく簡単にこの味を楽しめるなら、もう十分でしょう。

さらに、です。値段は1袋(1人前)あたり400円台と決して安くないのに、ちゃんと売れているらしい。また、こうして首都圏の展示会に出展するなど、意欲的なプロモーションを仕掛けているところにも興味をそそられました。

活動は17年間続いている

「持続させる」とはどういうことか!?(企業組合こもねっと)

いまも全国各地で六次産業化の取り組みが続いていますね。農業や漁業などの一次産業に従事する人が、二次産業に位置づけられる商品化も手がけ、さらに三次産業である販売事業も直接担う、というのが六次産業です。この連載コラムでいうと、第31回の「エアリーフルーツ」や、第32回の「さつまからすみ」などがそれに当たります。

これらの原稿にも綴りましたけれど、六次産業化の事業って、必ずしもうまくいってない事例が多い印象です。ただなにかを作りさえすればいい、というものでは決してないですからね。六次産業化のプロジェクトでは、それこそ前回の話と同様に、「それが唯一無二と言い切る覚悟」と「伝えきる努力」が強く求められます。それが果たせないと、六次産業化プロジェクトは、ほどなく空中分解してしまうと言ってもいい。

今回の取材テーマは、「地域の産品を売るための有志連合の取り組みを、どのようにして持続させるか」に据えました。この「こもねっと」は2004年の設立です。ということは、もう17年続いているのですね。それ自体が立派な話と感じさせます。
さあ、順番に話を紐解いていきましょう。どうして「こもねっと」は17年もの間、活動を途絶えさせることなく続いているのか。そして、なぜ、この企業組合が生んだ六次産業化による商品「お魚レストラン」を地道に売り続けられているのか、です。

驚いた、と言っては、これもまた失礼になるでしょうけれど、この「こもねっと」の取り組みには、地域での商品マーケティングに必要なものがほぼすべて内包されているように、私には思えました。それらのひとつひとつを説明していきましょう。「こもねっと」の理事長(本業では魚の養殖に携わっています)と営業部長(専従の職員です)のふたりから聞いた話をまとめていきますね。

狙いは地元の出身者だ

「持続させる」とはどういうことか!?(企業組合こもねっと)

まず、なぜ2004年に、この過疎の集落に「こもねっと」が生まれたか、から尋ねました。

「宇和島には古くから、『お講』という会食と互助の仕組みがあります。有志が集まったあるとき、『蒋淵がこのままじゃいけんだろう』という声が挙がりました」

集落の未来のためになにかをせねば、という思いで共通していた、ということですね。そして、当時30代だった、集落の郵便局の局長が音頭をとる形で「こもねっと」を立ち上げたそうです。最初のメンバーは5人程度でした。
最初はなにをやるかも決まっていなかったそうです。まずは地域活性化をという、ざっくりとしたイメージしか抱いていなかった。ただし、ここからなんです。

「蒋淵からよその地域に巣立っていった人たちに、A4用紙で4ページの情報誌を定期的に送ろう、となりました」

これ、ものすごくいい発想だと、私には思えました。大都市圏の不特定多数に向けて、いきなり「蒋淵という場所を知ってください」と伝えようとしても、それはまず果たせないでしょう。

「だからこそ、ここで生まれ育った人に『いまの蒋淵の様子をお伝えしますね』というところから始めたんです」

年に3回ほどの発行ですが、「コモマガ」と名付けたこの情報誌は、現在に至るまで刊行を続けています。いまでは1号あたり3000部ほどをさばいているそうです。

この「コモマガ」には重要なページがあります。美しい湾で育てている養殖の魚介類の販売情報を載せているんです。蒋淵にはもともと、年の瀬になると親戚などに、地元の養殖鯛を贈る習慣がありました。この地を離れた人にも、鯛のことを思い出してほしい、そしてできれば再び購入してほしいという話ですね。
地元の人が振り向かないものに、よその人が振り向くはずがない。これは地域産品を売っていくうえでの大鉄則だと思います。その意味で、「こもねっと」がまず地元出身者に照準を定めて魚介類を販売しようとしたのは、意義ある取り組みに感じられました。

「スタッフで手分けしながら蒋淵の家々を回って、ここを離れた家族の住所を聞き、『コモマガ』をはじめとした魚介の販売情報を送ったんです」

ちいさな集落であることを逆手に取ったと言いますか、これは重要な施策でしたね。家を一軒ずつ回って、よその地域にいる家族の住所を教わってまで、情報誌や販売情報を記した冊子を送ったというのは、行動力の賜物と思います。

高度な加工品はつくらない?

「持続させる」とはどういうことか!?(企業組合こもねっと)

こうして、蒋淵の海で育った鯛、あるいは真珠養殖の産物として生まれるあこや貝の貝柱(「真珠の貝柱」という名で「こもねっと」が毎年販売しています。これがまたべらぼうに旨い)などを販売していったのですが、次第に、このままで大丈夫かという声が、「こもねっと」のなかから挙がってきたようです。

「生の魚介だけではどうしても販売数に限界があります。加工品にシフトせねば……」

ここで六次産業化の話が出てくるわけですね。それは2010年を過ぎたころだったといいます。2013年、「こもねっと」は企業組合として法人化に踏み切りました。現理事長はこのあたりから狙いを明確に定めていました。

「魚を育てている私たちにすれば、商品をもっともっと直接、消費者の手に届けるすべを持ちたかったんです。『こもねっと』の活動にはその可能性があると考えました」

ただし、先に触れたように、地元に存在する産品を使った六次産業化は、そんなに簡単に成功するものではありませんね。商品化の手がかりをどのように掴んでいったのでしょうか。

「いまにすれば大事な要素だったと思うのは、『こもねっと』のスタッフほぼ全員がUターン組だったことです」

つまり、蒋淵のことを生まれながらによく知り、さらにはよその地域のことも肌で知っていた。商品化に向けた糸口を掴むうえで、確かにそれは大きいかもしれません。そして、キーワードに据えたのは……。

高度な加工品を無理して作るのはやめよう、でした

どういうことか。
外海からの潮の流れがある湾の水は極めて澄んでいて、水深も50mあるというのが蒋淵の持ち味です。ここで育った魚介は手をさほど加えなくても十二分に美味しいと、スタッフは判断しました。そもそも、素人集団に高度な加工品を開発するのは無理という冷静な分析もそこにはあったそうです。だから「無理はしない」。

「魚の単純な美味しさを伝えよう、という決断でしたね」

第1号商品は2010年の「一夜干し」でした。魚の出荷場と加工場の距離が近いのも功を奏し、美味しくできあがった。

「最初はイベントでの対面販売などが中心でした。私たちの知らない消費者が一足飛びにネット通販でたくさん購入してくれるとは思っていませんでしたから」

そしてこの場面でも、スタッフが次の主たるターゲットとしたのが、地元・蒋淵の出身者でした。再び、蒋淵の家々から得た、遠く離れた家族の住所を活用して、800通ほどのダイレクトメールを送り、一夜干しが完成したことを伝えました。

「ダイレクトメールを送ったうち、実に2割の人が商品を購入してくれて驚きました」

これは本当に異例の販売達成率ですね。誰に売るのかを見定め、また、どのように伝えるのが大事かを判断することって、やっぱり重要なのでしょう。

レンジ対応パッケージを知り…

「持続させる」とはどういうことか!?(企業組合こもねっと)

「こもねっと」はここからさらに、新商品の開発に取り掛かりました。それが2011年ころです。このタイミングで愛媛県内の食品コンサルタントのもとを訪ね、そこで教わったのが、レンジアップできるパッケージの存在でした。「これからはレンジ対応商品がさらに増える」とのアドバイスを得ました。2011年当時といえば、大手コンビニエンスストアが簡単にレンジアップできる個食タイプの煮魚商品などを現在のように一般化させる前のことですから、けっこう早いですね。

「とりあえず、そのパッケージを入手して、魚の切り身を入れてみたんです」

その試作品は魚好きには向きそうでしたけれど、理事長には気がかりな部分があったといいます。

「普通の消費者には、魚くささが敬遠されるかもしれない」

ここも冷静な分析だったのではないかと私は思いました。ではどうしたか。今度は宇和島市街に出向いて、イタリアンのシェフに示唆を求めました。

「バジルのソースが合うのではないか、というアドバイスでしたね」

そうすると味も香りも抜群に映えるようになった。さらにトマトソースやベシェメルソースのバージョンも完成させ、2011年に「レンジdeグルメ」と銘打って発売にこぎつけたのですが……

「いまひとつの売れ行きでしかありませんでした」

スタッフが顔を突き合わせて、その理由を考えました。

「売り方が悪かった、という結論に行き着きました」

3040代の若いママたちをターゲットに、手軽で美味しい魚商品をつくり、パッケージも明るいものにしましたけれど、そこに間違いがあったことに気付いたそうです。

3040代のママたちにとって、1人前400円台という価格は高い。子育て中の消費者層には受け入れがたい値段設定だったんです」

では、どうしたか。値段はどうしても相応に高くないと、商品販売事業は成り立ちません。だったら、どうすればママたちが振り向いてくれそうか、愛媛の松山市にある、主婦層を束ねているマーケティング会社に教えを求めました。そこで出てきたのが「お魚レストラン」というネーミングでした。そしてパッケージデザインも一新すべく、宇和島市街の広告代理店に依頼をかけた。

ここまでの話を聞いてきて感じ入ったのは、知恵を得るための動きを止めないというところですね。そして、守るべきところ(例えば、魚介の単純な美味しさ追求や、その価格設定など)は守るという、譲れない一線をきちんと踏まえていた点でしょう。つまり、「なにを変えて、なにを変えないか」を峻別できていた。だから、たくさんの人からヒントを掴むプロセスでも、商品開発が迷走しなかったのではないかと、私は思いましたね。

明るい「魚商品」を世に出す

「持続させる」とはどういうことか!?(企業組合こもねっと)

「こもねっと」のスタッフには、もうひとつ、商品開発やリニューアルに込めた思いがありました。

魚売り場って、どこか暗いんですよね

それを明るいものにしたかったそうです。だからこそ、「明るい商品」が必要だと……。言われてみれば、2015年にリニューアル販売となった「お魚レストラン」は、そのロゴデザインも、また鮮やかなソースの色が映えるパッケージも明るいものですよね。
さて、価格の問題はどう考えたのでしょうか。1人前400円台では値段上の競争力はやはり厳しいままだと思いますけれど。

「うちの商品は、スーパーマーケットなどの小売店ではダメだ、と最終的に判断しました」

だから、「こもねっと」は、主軸の販売チャネルをネット通販やギフト需要にシフトしようと決断します。確かに「お魚レストラン」という呼称からしても、そうしたシフトは有効かもしれませんね。そして、徐々に答えを出せるようになっていった。

見本市や展示会に積極出展するなかで、業界内外の人物とのつながりが生まれ、そこからの紹介によって、取り扱ってくれるところが増えていったのでした。少しの例を挙げるだけでも、大丸松坂屋ギフト、JALUXグルメファーストクラス、au WALLET Market、家庭画報……。錚々たるところが並んでいます。

「自分たちも、この結果にはびっくりしているんです」

いや、私が思うに、先ほどお伝えした「なにを変えて、なにを変えないか」を見定められたからこその結果ではないでしょうか。高価格であることがネックと気づいた時点で、もし、焦って材料の原価を落とす方向にいったら、こうはなっていないでしょう。中身の根幹を変えず、高価格でも耐えられそうなギフト需要に舵を切る決断が功を奏したと見るべきでしょうね。

ちなみにですが、この「お魚レストラン」って、てっきり外部に製造委託しているものと思っていたら、「こもねっと」の拠点である「こもてらす」(飲食提供や物販を手がけています。上ふたつの画像が「こもてらす」です)の一角でみずから製造しているそうです。外部委託すると、価格がさらに高くなりかねず、しかも魚の育つ場所から遠く離れる恐れもある。しかも小ロット製造を受けてもらえない可能性も高い。そういう判断らしい。

売れ行きは当初の3倍に

「持続させる」とはどういうことか!?(企業組合こもねっと)

この画像の左側が理事長、右側が営業部長です。営業部長は「お魚レストラン」の製造も担っています。
「お魚レストラン」、いまでは発売初年度の3倍の売れ行きを示しているそうです。スーパーマーケットなどからの引き合いはまだ弱点といいますが、その代わり、先述のようにギフト需要をしっかりと捉えられたことが成果として現れたということでしょうね。

「スーパーマーケットの市場を攻めるために、とにかく安い商品をつくってでも売り込みをかけるべきかとも一瞬考えました」

重ねての質問ですが、それをしなかったのはなぜでしょう。

「そもそも、なんのために『こもねっと』は活動しているのかを考えました」

その原点は、蒋淵をなんとかしないといけない、というところでしたね。とすれば、低価格の商品を焦ってつくるのではなく、この地・この海の強みを伝える商品づくりを続けることこそが大事なのだ、と「こもねっと」のスタッフ全員が踏みとどまった。

「その結果として、蒋淵ならではの商品を、ギフト系の通販事業者から評価してもらえるに至ったのだと確信しています」

さあ、最初の話に戻しましょう。「こもねっと」の手がける商品づくりやリニューアルの策が、地域での商品マーケティングを考えるうえで大切な要素をすべて反映しているところはよく理解できました。それにしても……。
ややもすれば途中で瓦解してもおかしくないような、地域の有志連合が、なぜ持続しえたのでしょう。

「まず、郵便局長が最初に道を照らしてくれたのは大きかった」

さらに……と理事長は言葉を続けます。

私たち漁師だけがメンバーだったら、こうは続かなかったかもしれません

このちいさな集落にありながら、「こもねっと」スタッフのほぼ全員がUターン組であることは先ほど書きました。そのうえ、経歴も多彩なようです。理事長はリゾートホテルでの勤務を経て帰郷、営業部長は小売業界を経験しています。このほか、JA職員出身のスタッフもいる。発起人のような立場である郵便局長は、元は商社マンだったといいます。

「こういうメンバーが話し合いを続け、正解を導こうと努力し続けた。それが大きかったかもしれません」

私に言わせれば、こうした多様なメンバーが手を挙げて集まった、そのこと自体に価値があると思いますね。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分
析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっ
ている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」
(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、NTT東日本「経営力向上ラボ」、
家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地
方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」な
ど、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

ANA国内線「北村森のふか堀り」監修

経済産業省 北海道経済産業局 地域ブランド創出支援事業 チームリーダー
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)

SHARE

実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則

連載一覧へ

おすすめ記事

低価格競争からの脱却のために!(ムジンノフクヤ)

2021.06.11

低価格競争からの脱却のために!(ムジンノフクヤ)

行動経済学から考えるマーケティング戦術

2021.06.03

行動経済学から考えるマーケティング戦術

苦しみも成果もシェアする!(若鶴酒造株式会社)

2021.05.31

苦しみも成果もシェアする!(若鶴酒造株式会社)

資料のご請求や
お問い合わせはこちら