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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第63回)

続・いい波をつかまえるには...!?
(株式会社OPSION)

続・いい波をつかまえるには...!?(株式会社OPSION)

この連載の58回、愛知県の湯谷温泉の話で、私は「いい波をつかまえるには準備が必要」と綴りました。

それはサーフィンの世界でよくいわれる話です。いい波は前触れもなく突然やってきますけれど、それを確実にとらえるには、やはり準備こそが大事ということですね。これはサーフィンの話に限りません。今回のテーマも、まさに第58回と同じです。さらにいうと、商品開発プロジェクトが一度ついえたとしても、そこから再興を目指し、今度こそいい波をとらえるために何が求められるか、という話でもあります。

まず、今回取り上げる商品そのものとは別のことに触れさせてください。

このコロナ禍の社会では、仕事生活でも私生活でも「折り合いをつける」ことが肝要と私は考えています。制約がどうしても生まれますから、こればかりはしょうがない。ただし、です。「折り合い」というのは単なる「妥協」とはちょっと違う気もしています。妥協を強いられるだけでは、人は我慢できなくなるのですね。だからこそ「より前向きで、より楽しさを創出できる折り合い」であることが求められると思うのです。実際、このところ売れている商品というのは「前向きな折り合い」が期待できるものが多い。家庭用の高級プロジェクタ、あるいは高機能キッチン小物などがその一例でしょう。どちらも“おうち時間”を充実したものにしてくれそうだからですね。

では、仕事生活での「前向きな折り合い」に関する商品は? これなど、その好事例ではないでしょうか。
仮想オフィスです。
大阪のベンチャー企業であるOPSIONが昨年(2020年)の秋に満を持してリリースした「クラウドオフィス RISA」のことを今回はお伝えしましょう。先の年末年始あたりから相当に脚光を浴びている存在ですから、もうご存じの人も多いかもしれません。企業や部署単位で登録して利用するイメージで、すでに500社ほどからの問い合わせがあり、そのうち約160社がトライアルユースに踏み切り、さらに名だたる大手企業をはじめとした30社程度が正式に導入していると聞きます。

楽しいからこそ、長続きする

続・いい波をつかまえるには...!?(株式会社OPSION)

RISA」って何なのかを説明しますね。インターネット上にオフィス空間があって、そこには6つの大きな部屋があり、それぞれの部屋の名は、ユーザーが任意でつけることができます(仕事部屋とか、応接室というふうに)。さらにはこの6つの部屋それぞれに3つの小さな会議室があります。ここがまたポイント。あとでお伝えしますね。

この仮想オフィス空間に、「RISA」を利用する企業の社員たちは毎日出社する仕組みとなります。アバターという「自分の分身」をキャラクター化した人物が、そのオフィス空間にいる感じになる。
こうした仮想オフィスのサービスって、いくつも登場していますが、この「RISA」 は、テレビゲームを思わせるような3D表現を果たしているのがミソです。オフィス空間もアバターも3Dで描写されているので、臨場感がある。自分の存在を示すアバターは自分好みに服や靴まで設定できます。

RISA」の仕様はシンプルながら、うまくできている印象です。例えば、いま自分に話しかけられてもいい状態かどうか、離席中かどうかなど、アイコンで表示できます。同僚と会話したいときは、実際の音声でも伝えられます。オフィス空間にいる同僚のアバターに手を振ったりもできる。で、会議室にこもって、お互いのリアルな音声で打ち合わせも可能。その会議室にはカギもかけられる(音声会話が他の人に聞かれない)というのが、また心憎い設定に感じられました。

それがどうした?と思われるかもしれません。でも、私には意義あるサービスに感じられました。なぜか。テレワークの状況下では、離れた空間にいるであろう同僚にちょっと話を聞きたいなどというときに、どうしてもためらいが出ます。そうなると仕事の生産性は下がりますね。「RISA」のような仮想オフィスを使っていれば、オンライン会議システムなどにつなぐよりもはるかに話しかけるハードルを低くできます。

また、この仮想オフィスを使うと、同僚とつながっている感覚も得られますから、心理的に寂しくないでしょうね。そこも大きい。で、それは仕事の成果にも間違いなく好影響をもたらすと思います。

これなど、「楽しく折り合いをつける」という話の好事例ではないでしょうか。
「つながっている」「相手がそこにいる」感覚は、テレワークでの意欲上昇に役立つでしょうね。料金は、1アバターあたりで月額5002000円だそうです。

一度はつぶれたプロジェクト

続・いい波をつかまえるには...!?(株式会社OPSION)

さあ、ここからが今回の話の本題です。このコロナ社会の状況に見事なまでにハマった存在であるかのような「RISA」ですけれど、実は昨秋のリリース前に、同じような仮想オフィスのサービスを一度登場させているんです。そして、サービス取りやめという事態を余儀なくされている。つまり「RISA」を立ち上げる挑戦は、今回が2度目という話なんですね。いったいその過程で何があったのか。OPSIONの代表に聞いてきました。

「もともと、私のなかにあった大目標は、『現実社会に存在する不都合のない仮想社会をつくること』にありました」

そう考えたとき、仮想オフィスサービスを立ち上げるという思いが募っていったといいます。彼は学生時代に公認会計士の資格を取り、卒業後は大手監査法人に入社しますが、3年を経たずして独立を決意します。これも最初から決めていたことだそう。

OPSION20191月の設立です。そしてすぐさま、仮想オフィスサービスの試作版を世に問いました。代表によると、それ相応の反響は得られたそうです。60ほどの企業が利用に向けての事前登録をしてくれました。ただし……その反響が売り上げには直結したとは言えない状況でした。

「5社ほどが有料版の導入に踏み切ってくれましたけれど、そこからが広がらなかった」

なぜか。想像に難くはありませんね。現在の状況と違って、日本国内ではテレワークを導入する企業がまだまだごく少数派に過ぎなかったからです。

「さらなる資金調達を目指しても、仮想オフィスのサービスを説明しに回っても、『日本では、テレワークはそう一般化はしないでしょう』という声が多かった」

この2019年時点で代表が痛感したのは、国内の大企業はテレワークを本気で進めないかもしれないという状況でした。導入するうえでの切実な理由がそこになかったという話ですね。

2019年秋。OPSIONは資金難に陥りました。サービスの課題を解決するには開発を担うスタッフを増強すればいいと信じていた、そんな代表の考えが裏目に出た結果でした。固定費に多くを割きすぎたのですね。

「あと3カ月でキャッシュがなくなる、という状況を目の当たりにして、これは『RISA』の事業を停止するしかないという判断をせざるところまで追い込まれました」

事業停止の直後から考え抜いた

続・いい波をつかまえるには...!?(株式会社OPSION)

代表は考えたといいます。

「市場が全く見通せないなかで経営のアクセルを踏み続けても、空回りするだけと踏まえました」

そして、2019年の晩秋、「RISA」の事業は完全ストップ。残った同社のメンバーで、VRゲームなどをつくろうとも話したそうですが、「仮想オフィスのサービスを世に問おう」と意気込んだ当初の事業方針はそれによってブレてしまうわけですから、社内での反発も当然大きくなった。そして最後は、代表1人になってしまいました。「RISA」の開発チームは完全に解散となりました。

「私自身が迷走していたのだと多います。自分は何をやりたかったのか、わからなくなってしまっていた」

1人になった代表は、ここでなりふり構わない動きに出ました。2020年に入り、企業向けの経理アウトソーシングサービスを始めようとしました。その場しのぎであっても、公認会計士の資格を活かしてお金を稼がなくては、と……

「でも、1週間でやめました」

どうして、また? 会社の状況は厳しいはずなのに?

「確かに、新規事業によって売り上げを立てないとどうしようもない窮地にはありました。でも同時に悔しい思いも膨らんでいったんです」

前年に「RISA」の事業を完全に止めていたにもかかわらず、代表のもとには企業からの問い合わせやメディアからの取材依頼が続いていたからでした。

3Dで表現した仮想オフィスというサービスは、その時点でもまだ、私たちが手がけた『RISA』だけしかなかったんです。だからでしょうね、もうサービスを止めてから数カ月も経つというのに、問い合わせの連絡はやまなかった」

そして…サービス再興を決意

続・いい波をつかまえるには...!?(株式会社OPSION)

問い合わせが来ても、取材依頼が届いても、「RISA」のサービスは終了しているのだから、断りの返答をするしかありませんでした。しかも、当時の開発メンバーは1人残らず同社を去っています。でもここで代表は考えを改めました。苦し紛れに始めようとした経理アウトソーシングサービスの展開を、前述のように取りやめてまで、再び「RISA」を世に送り出そうと決意します。

私のような“何者でもない人間”が勝負していくには“タイミング”が必要なのだと、この時点までに痛いほど理解しました。そして、実はその“タイミング”とは、2020年春の“いま”ではないかと決断したということです

そうです。コロナ禍が世界で問題となり始めた時期ですね。それこそ、先ほど触れた、代表の最初の思いである「現実社会に存在する不都合のない仮想社会をつくること」が世の中から切実に求められるようになった。では、困っている人々に、同社として何を提供するのがいいのか、という話ですね。

「一度クローズさせた『RISA』に変わる別の新事業をいくつも考えたわけですけれど、結局どれも『RISA』よりも弱い。とするならば、この時期に再度『RISA』で勝負したかった。そういう気持ちもありました」

とはいえ、ここからが大変でした。

「残されていたのは、私と、1人の営業担当者、そして休止したままボロボロの状態だった『RISA……これだけです」

まず、どうしたか。以前の「RISA」の開発に携わっていたけれど、すでに同社を離れているエンジニアに声をかけました。「もう一度使える状態にまで『RISA』を改修してほしい」と……。その彼はもう他社案件で年内の仕事が埋まっていた状態であったにもかかわらず、不具合の残っていたままの「RISA」を、すぐさま、どうにか使える状態にまで手直ししてくれたそうです。

さらに、です。代表は、その後を引き継ぐ新たなエンジニアを必死に探しました。100人リストアップした結果、実力派の4人が呼応してくれた。これで「RISA」復活の体制は整いました。
同時に、代表はもうひとつ動きを進めていました。以前の「RISA」を立ち上げ始めた2019年当時から、ベンチャー企業の先達である著名な経営者に教えを求めるべく、果敢にコンタクトを取り続けていたのですが、このタイミングで再びその経営者からのアドバイスを得ようと臨みました。その結果……この経営者は新生「RISA」への可能性を見出し、20209月にOPSIONと資本業務提携を結ぶ判断を下しています。

202010月。新生「RISA」は正式リリースとなりました。その後の大健闘ぶりは冒頭に綴りましたね。

話を最初に戻しましょう。仮想オフィスの「RISA」は、コロナ禍という環境下が追い風になったサービスなのか。そう問われれば、イエスというほかないですね。ただし、それだけではない。アクションを起こし続けたからこそ、同社代表が頭に最初から思い描いていた発想が、いまこうして花ひらいたわけです。単に「いい波を偶然つかまえられた」というものでは、決してないと私は思いますね。

いい芽がいきなり出るわけではない。種を蒔かなかったら芽は出ない。そのことを改めて認識した2年間でした

まさにまさに。その通りですね。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分
析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっ
ている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」
(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、NTT東日本「経営力向上ラボ」、
家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地
方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」な
ど、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

ANA国内線「北村森のふか堀り」監修

経済産業省 北海道経済産業局 地域ブランド創出支援事業 チームリーダー
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)

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