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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第59回) 

その弱点は強みかもしれない!
(株式会社スガイワールド)

その弱点は強みかもしれない!(株式会社スガイワールド)

まずは上の画像をご覧ください。
右側に写っているネコや猿をかたどったクリップは「クリップファミリー」という名で、5個入り税別480円です。これはすでに20万セットが捌けているといいますから、結構なヒット商品ですね。

左側に写っているのは「アニマルハグ」という名の商品で、2個入りで税別480円。画像をご覧いただければ分かると思いますが、マクキングテープカッターです。動物がテープに抱きつく姿から、商品名(ハグ)がつけられたわけですね。こちらは5万セットが売れています。

いや、確かに可愛いけれど、可愛いだけの文具など、よそにもたくさんあるのでは? 
そうですね。でも、今回取り上げたのは、そのデザイン性だけの話ではないんです。

東京・世田谷のスガイワールドという小さな会社がデザイン・開発・販売するこのシリーズ、米国や中国など20カ国に輸出されているうえ、このコロナ禍でも売り上げが全く落ちなかったそうです。「アニマルハグ」でいうと、生協からの注文はむしろコロナ禍で増え、例年の4倍だとも聞きました。
一体、どんな経緯で開発され、何が強みであるのか。順番に見ていきましょう。

満員の通勤電車の中で…

その弱点は強みかもしれない!(株式会社スガイワールド)

スガイワールドの代表は、もともとは会社員でした。毎朝毎夕、満員電車に揺られながら通勤する毎日。あるとき、彼はちょっとした楽しみを見つけます。

「通勤する電車の中で、アイデアを描きとめようと思い立ったんです」

それはあくまで、通勤ストレス解消のためだったといいます。自分自身も含め、この満員電車に、みんながつらそうに乗っている。それを変えられる手立てはないかなあ、といった感じだったそうです。上の画像は当時のもの。地下鉄が夢の乗り物になれば…という発想を描いています。

「描いたアイデアは、どれも突拍子ないものばかりでした。地下鉄の車窓の先にLEDでつくられた星空が見えたらどうだろう、つり革の輪っかがとてつもなく大きかったらどうなるだろう。そんなことばかりでしたね」

ただ、彼のアイデアスケッチは、単なるストレス解消では終わりませんでした。そうしたアイデア創出を通勤する電車の中で続けていたあるとき、彼はふと、現実に商品化できそうな発想を得ます。

「ひげの形をした付箋をつくったら面白いんじゃないか」

受注のアテもないのに製作した

その弱点は強みかもしれない!(株式会社スガイワールド)

それが上の画像の商品です。「ひげ付箋」と名づけ、彼が独立起業した後もずっと販売されているものです。
パソコンやノートなどに貼ると、それらがたちまちキャラクターのようになりますね。仕事のひとコマがちょっと楽しくなる、という商品です。彼がこれを製作したのは、まだ会社に在籍していたころの話。

「貯金を崩して、4000セットをつくりました。受注もないのに、いきなり見切り発車で製作したんです」

それはなぜか。

「実際のモノがないと、自身としてそのあと動けない、と判断したからです」

これが2011年のことでした。製作にあたっては、大手企業であるスリーエム ジャパンに飛び込んで、協業の依頼をかけたそうです。かなり思い切った話にも感じますが、同社は快諾してくれたそう。

「結局は行動力なんだと、このときに気づきましたね」

そして2013年に彼は会社を辞めて独立します。翌年にギフトショーに出展したところ、「ひげ付箋」の注文が相次いだといいますから、彼の思い切りは成功したことになりますね。
さらに…。2015年、代表はある素材に出逢います。取引先の紙工会社が見せてくれた、ファイバー紙というものでした。このファイバー紙、セルロースという繊維を板状に固めたものであり、かなり硬質な素材でした。

「もう、鉄のように硬いんです。紙工会社の担当から見せてもらったのですが、これを商品に活用する筋道がつかめず、1年近く、塩漬けにしていました」

光が見えたのは、約1年後でした。件の紙工会社の担当者が、こうこぼしていたのを聞き逃しませんでした。

「紙工会社の担当者が話すには『ファイバー紙って、普段はこんなに硬いのに、少しの湿気を帯びると、たちまちグニャリと曲がってしまうんで、本当に大変なんです』と…。この言葉から、アイデアがひらめきました」

どういうことか。
ファイバー紙の持つ、湿気に弱いという欠点は、本当に欠点なのかと、代表は考えたそうです。

「欠点とされている部分はむしろ、使える特性ではないか」

そしてすぐさまデザインを起こし、動物の姿をかたどったクリップを開発しました。それが冒頭にお話しした「クリップファミリー」です。

弱点を持ち味に変えたら…

その弱点は強みかもしれない!(株式会社スガイワールド)

この「クリップファミリー」、触るとカチカチに硬いんですけれど、水で少し濡らすと柔らかくなります。
そのことを知った消費者が、この商品に注目しました。オフィスで働く女性層が、仕事の合間に、このクリップを湿らせて、クリップにポーズを取らせて遊び、それを写真に収めてSNSに投稿したというのですね。そこから人気に火がついた。これって、ファイバー紙が湿気で曲がる特性あればこそ、ですよね。

代表はここから、ファイバー紙を活用した派生商品の開発を続けます。そして2019年に発売したのが、やはり冒頭でお伝えした「アニマルハグ」でした。先にお伝えしたように、これはマスキングテープカッターです。マスキングテープといえば、女性層に昨今人気ですね。これは、そのテープにくくりつけるカッターです。

「この商品をつくったのには、また別の理由がありました」

マスキングテープがプラスチック製ではないエコ商品であるのに、どうしてカッターの側はエコ素材でないのか、という思いが代表にはあったといいます。だったら、カッターをファイバー紙でつくればいいのでは、と考えた。
そうなんです。ここで重要なことをお伝えすると、ファイバー紙というのは先ほど綴ったようにセルロースが主原料であり、土の中で分解します。その意味においては既存のプラスチックよりも、環境に優しいという点では、はるかに優位性の高い素材なんですね。

「僕らの世代は、義務教育の時代からエコについて学んできました。だから自然と、ものづくりへの責任という意識がいつもある」

代表がファイバー紙という素材に惹かれたのは、その特性の面白さだけではなかったんですね。
そして実際、ファイバー紙を使ったスガイワールドの文具は、業界でも話題を呼び始めます。それも、国内のみならず、米国や欧州においても、でした。

「欧米のバイヤーは、少しでもプラスチック素材が使われていると『要らない』とそっぽを向きます。これは、現地の見本市に出展してみて、ひしひしと感じた事実でしたね」

そうやって欧米の見本市に積極的に出展した結果が、20カ国への輸出という実績につながりました。
で、ここからです。2020年のコロナ禍でも、本当に売上は落ちなかったのですか。

「本当です。米国や中国などからの受注は、新型コロナウイルスの感染拡大後も途切れませんでした」

ひとつは、同社の製品がメイド・イン・ジャパンであることが効いているようです。中国の場合、同社の文具を主に買っているのは、北京などの富裕層らしい。
ここで気になることがあります。スガイワールドの商品がそこまで売れているなら、後続商品が国内外から出てきてもおかしくないですよね。それが社業に響いたりすることはなかったのでしょうか。

「それが現時点では、追随商品が全くないんです」

詳しく聞くと、理由が分かりました。スガイワールドの文具のほとんどはファイバー紙でつくられています。このファイバー紙を加工する技術は、取引先の紙工会社固有のものであり、従来の紙製品や成形物(金型を使う)とは、性格が全く異なるそうです。それだけに、よその企業がおいそれと追随することはまずできないと、代表は解説します。

なるほど…。ファイバー紙の欠点を持ち味に変えた商品をつくった。しかも、ファイバー紙がエコであるという特性も訴求力にできた。さらには、ファイバー紙の加工技術の難しさを強みに変えた。そういうことなのですね。
文具というのは、いわば成熟商品の領域であり、低価格競争にさらされガチな一面がありますが、スガイワールドはそうしたコモディティ化の波に打ち勝っているところもまた、特筆すべきところかと思いました。

「エコかわいい」商品だから

その弱点は強みかもしれない!(株式会社スガイワールド)

最後に…。私がスガイワールドの文具に着目したのには、もうひとつ理由がありました。

SDGs(持続可能な開発目標)という言葉が、昨今のニュースを賑わせていますけれど、その範囲は幅広く、私たちにはなかなか捉えきれない概念であると感じること、しばしばです。
同社の文具は、既存のプラスチックを使っていないという意味において、SDGsの概念にあてはまるものとも言えますが、おそらく、少なからぬ購入者はSDGsのことを意識しないまま手に取っているのではないでしょうか。

私はここが大事と思います。大上段にエコを叫ばなくても、ごくごく自然にエコを実践できるという意味においてです。単純に「これ、面白い商品だから」という購入動機で構いませんよ、と同社の商品は語っている気がしますから。

ちょっと思い出したことがあります。今から15年ほど前、私が「日経トレンディ」という月刊誌の編集長を務めていたころの話です。その年、エコバッグが一気に普及しました。その現象を、当時の優秀な部下が「エコかっこいい」と表現し、記事にまとめました。あのころ一世を風靡していた倖田來未さんの異名「エロかっこいい」になぞらえたのですね。
環境に優しくあらねば、とエコバッグを必死に使うのではなく、エコバッグを携えるのが格好いいんじゃないか、と多くの消費者がそれぞれのライフスタイルに自然に溶け込ませていったのが、2000年台半ばの話でした。

そう考えると、スガイワールドの文具たちを、私は「エコかわいい」と表現したくなりましたね。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分
析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっ
ている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」
(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、NTT東日本「経営力向上ラボ」、
家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地
方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」な
ど、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

ANA国内線「北村森のふか堀り」監修

経済産業省 北海道経済産業局 地域ブランド創出支援事業 チームリーダー
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)

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