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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第56回) 

ロングセラーなのは「高いから」!?
(ショウワノート)

ロングセラーなのは「高いから」!?(ショウワノート)

先日、北陸の富山空港を訪れた折、搭乗ゲート前のショップに目を惹く商品が陳列されていました。
大相撲の朝乃山関のイラストを表紙に大きくあしらった学習帳です。これ、ロングセラーとして知られる「ジャポニカ学習帳」のシリーズ。それが空港のショップに大きなスペースを取って並んでいました。

ああそうだった。「ジャポニカ学習帳」は全国的に販売され続けていますけれど、企画・製造・販売しているのは、ここ富山県高岡市に本社のあるショウワノートだったと、改めて思い出しました。

学習帳という、いわば成熟商品の分野であり、しかもコモディティ化(技術競争が行き着くところまで到達して、低価格競争に陥りがちになる状態)にさらされても仕方のないような商品でもある。それなのに、地方の企業が大健闘して、こうして長く売れているというのは、どういうことなのか。

ちょうど、今年(2020年)は、この「ジャポニカ学習帳」の表紙に「昆虫シリーズ」(昆虫の写真を大きく掲載)が復活したタイミングでもありますね。ニュースなどでけっこう話題にもなっていました。

だったら、と、同社の会長に話を聞いてみようと思い立ちました。どうして1970年の発売から現在に至るまでロングセラーたりえたのか、また、大手企業ではないのになぜこれだけの認知度のある学習帳を出し続けられているのか……

後発組だったからこそ…

ロングセラーなのは「高いから」!?(ショウワノート)

考えてみれば、学習帳を含む紙のノート類って、国産の商品が多いですよね。コモディティ化に襲われても致し方ないような分野で、どうして国産がここまで大健闘しているのでしょうか。

「端的にいえば、紙質でしょうね」

ああ、確かに……。海外でノートを買うと、ザラザラの紙質でボールペンの先っぽが引っかかったりすることもあります。それに綴じ方も大雑把だったりする。そういう経験をされた方、少なくないかもしれません。

「国産の良い紙を使うとなると、学習帳にせよノートにせよ国内生産で、となりますね。だから国産の商品が生きながらえている側面がある」

実際、同社の場合でいうと、製造する学習帳の90%は、高岡の本社工場でつくられているといいます。原材料である紙の調達を考慮すると、おのずとそうなるという話だったのですね。
話を半世紀前まで戻します。「ジャポニカ学習帳」は、1970年に発売した当初から売れたのでしょうか。

「いえ、まったく逆でした。ウチは学習帳では完全な後発組です。最初のころはもう、箸にも棒にも引っかからない状態」

それでも学習帳分野に進出したのには、ある読みもあったようです。1960年代、国内の小学生の数は1600万人台にのぼっていました。にもかかわらず、学習帳の市場規模は約60億円。

「小学生の人数に比べると、学習帳の市場が小さいんです。なぜかと調べると、すぐに理由がわかりました。学習帳の単価が低いんです」

当時、多くの学習帳は一冊30円ほどでした。

「だったら、後発であるウチは、あえて50円の学習帳をつくって販売しようと判断しました」

発売してすぐのころは低調だったものの、徐々にその付加価値が認められるようになったそうです。付加価値とは、表紙周りの紙質、小学館の百科事典と連携しての解説文や図解の掲載などでした。

また、学習帳では異例だったテレビCMの効果もそこにはあったそうです。なんだ、ただのCM効果か、と考えるのは早計ですよ。今お伝えしたように、1970年当時、単価の安い学習帳がCMを打つという方策は普通の話ではなかったわけです。現在でいえば、会社の人間がいきなりYouTuberになって学習帳の告知をするとかでしょうか。いやそれ以上のインパクトがあったに違いありません。

次第に、「ジャポニカ学習帳」は、子どもや保護者からの指名買いが続出するようになりました。ほかの既存メーカーは、対抗しようにも付加価値のつけ方でショウワノートに遅れをとってしまったようです。つまり、「値段がよその商品よりも高い」ということが販売上のネックにはならず、むしろプラスの効果をもたらしたわけです。

1975年ごろになると、小学生の数は約300万人減ったといいます。しかもオイルショックが社会を襲いました。学習帳の原材料である紙の値段も高騰し、ショウワノートは「ジャポニカ学習帳」の価格を、70円、そして100円(ただし判型を大型化)と、2度の値上げに踏み切りました。
それでも「ジャポニカ学習帳」は売れ続けた、というのです。

大手が入ってこないのは、なぜ?

ロングセラーなのは「高いから」!?(ショウワノート)

1970年台後半、「ジャポニカ学習帳」は、表紙を新たにします。それが「昆虫シリーズ」でした。ページ冒頭の画像の右側がそれですね。
写真家による美しくも迫力ある作品を表紙にし、小学生たちはこぞってこの学習帳を求めるようになりました。これもまた、付加価値戦略ですね。原材料が高騰したからといって、ただ単に値段を上げたわけではなかったということです。

ここで、ふと思うことがあります。普通のノートの場合、大手企業が市場を席巻していますね。ところが、学習帳の領域には、そんな大手どころがあまり参入してこなかった。これはどうしてなのでしょうか。

「大手企業には、うまみが少ないからでしょうね」

どういうことか。学習帳は科目別に商品が分かれています。つまり、小ロット多品種型の商品なわけです。ショウワノートの場合、現在は170種類あるほどと言いますからね。なるほど、理解できました。

うちは、値段を崩さず、付加価値で勝負し続けた。そこは変えていません

値段を下げずに、先行していたメーカーと戦い続けられたのはどうしてか。

1970年代半ばごろには、追う立場から追われる立場になりました。追われるということは、さらに前に行かないといけないわけですね」

表紙に「昆虫シリーズ」を展開しただけではなかったそうです。表紙をコーティング加工して雨に強くしたり、科目シールを商品につけたりといった具合。
他社が真似してきた部分もあったらしいのですが、それでも追随を許さなかった。なぜか。値下げ施策に走った他社とは逆に、ショウワノートは価格を崩さなかったのが、この局面でも効いたようです。そのことで利益が確保でき、次の一手を矢継ぎ早に打てる原資を確保できた。見事な判断だったと思います。

「小売店の安売り商材になってしまわないように、と、それだけを考えていました」

でも、当時は流通・小売の発言力が急速に高まってきた時期ですよね。安売り商材化を避ける手立てはあったのでしょうか。

「ウチは、全国の小学校を丹念に回り続けたんです。ぜひ『ジャポニカ学習帳』を使ってください。と……。学習帳の勝負は学校で決まるんです」

その結果、子どもや保護者の指名買いが増えたという話です。たとえるなら、同社は空中戦(付加価値をつけるなど、イメージ戦術を怠らない)と、地上戦(学校の現場を回る)を同時展開したわけですね。だから、小売店のプライベートブランドによる学習帳は、たとえ安価でも「ジャポニカ学習帳」を前に歯が立たなかった。

「ドラえもん」と同い年だから

ロングセラーなのは「高いから」!?(ショウワノート)

「ジャポニカ学習帳」は、1970年台後半から続く「昆虫シリーズ」だけではなく、人気キャラクターとの連携も積極的に進めました。なかでも、藤子・F・不二雄の「ドラえもん」の表紙は長年続けています。

「実は『ドラえもん』と『ジャポニカ学習帳』は同じ年です」

もう少し正確な表現をしますと、「ドラえもん」の連載開始は小学館の学年誌の19701月号でした。そして、この1970年に「ジャポニカ学習帳」が発売を迎えていますね。
さらにもうひとつの共通点があります。どちらも高岡がルーツであるというところです。「ドラえもん」の藤子・F・不二雄は、ここ高岡の生まれ。

「『ジャポニカ学習帳』が高岡発の商品であることを、地元の人も意外や知らないんです。これはウチのPR不足が主因。だからこそ、同じ高岡にゆかりのある『ドラえもん』と連携したいと願ったのです」

現在では、高岡にある本社工場の外観に「ドラえもん」を大きくあしらってもいると聞きます。これも、地元の人たちに、「高岡の『ジャポニカ学習帳』」であると伝えるための一策だそう。

話を戻しましょう。「ジャポニカ学習帳」は3年に一度は表紙をリニューアルし続けてきました。

「子供がなかなか見ることのできない世界の画像を、どんどん採用していったんです」

変えるところ、変えないところ

ロングセラーなのは「高いから」!?(ショウワノート)

ただし……。1995年のインターネットブーム以来、ネットが社会に浸透して、子どもたちが普段触れられないような画像というのは少なくなっているはずです。「ジャポニカ学習帳」を取り巻く環境も変わったのではないでしょうか。

「そうです。そもそも商品のライフサイクルという観点で厳しくみれば、『ジャポニカ学習帳』も衰退期に入っていると表現できます。表紙のインパクトは以前ほどではないでしょうし」

さらに変化したこともありました。表紙にあしらっていた昆虫の写真への不評です。虫嫌いの子どもが増えたという話ですね。そのため、2012年には「昆虫シリーズ」を休止します。

ロングセラーをなすために大事なのは、「何を変え、何を変えないか」の判断であると、私は常々綴ってきましたが、この学習帳においても、そこに直面したということですね。
「ジャポニカ学習帳」は、「昆虫シリーズ」を休止したものの、表紙に採用するキャラクターの幅を広げていきました。大相撲の朝乃山関もそうですし、バスケットボールの八村塁選手もそうです。そういえば、どちらも富山出身ですね。

「朝乃山関の表紙は、初優勝したときに依頼しました。『ジャポニカ学習帳』で大相撲力士を表紙にするのはこれまで横綱だけとしてきましたが、郷土の期待の星ですので」

朝乃山関に話を持っていったところ、本人から「横綱ではないのにいいんですか」と驚かれたそうです。すぐに「あなたは特別です」と伝えたとのこと。

「横綱に昇進したら、特別版をまたつくりましょう。とも話しましたね」

何を変えて、何を変えないかという話、もうひとつ重要なところを言いますと……。先に触れたように、2020年に「昆虫シリーズ」は復活します。その際、以前にあった写真のほか、イラストバージョンも同時に登場させました。虫嫌いの子どもへの配慮ですね。そこは変えた、ということです。下の画像がそうです。

コロナ禍でも売れている

ロングセラーなのは「高いから」!?(ショウワノート)

最後に尋ねたいことがあります。2020年のこのコロナ禍では、いろいろな業界が逆風にさらされました。「ジャポニカ学習帳」はどうだったのでしょうか。

「4〜5月の時期も、前年比で落ちていないんです」

どうしてなのでしょう。小学校は休校になっているはずなのに。

「自宅学習で、多くの子どもがウチの学習帳を使ってくれたようです」

他の文具メーカーでは、この時期、3〜4割も売り上げを落としたところもあると聞きます。異例な話ではないですか。

購入される方の多くが指名買いであること、そして何より、指名買いとなるよう努力してきたことが、ここで生きたのだと思います

8〜9月期もまた好調な推移とのことで、まさに長年の営業努力(たとえば小学校を行脚するですとか、値段は崩さないですとか)が、この厳しい社会情勢下で改めて身を結んだ格好なのだと思います。

現在の価格は一冊190円。やはり、よその学習帳よりも高い。それでも「ジャポニカ学習帳」が学習帳全体のなかで占めるシェアは、現在も5割弱はあるそうです。そして、少子化にさらされながらも「ジャポニカ学習帳」の年間売り上げは下がっていないともいいます。

「次は、教科書のデジタル化の波に、どう対処するかですね」

デジタル時代に、紙の学習帳がどう変わっていくのか。あるいは変わらないのか。次の一手をこの目で確かめたいと思います。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、婦人公論「女の気になるキーワード」、家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」など、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)
MM総研大賞 審査委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員

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