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  • 2020.10.23

契約書リーガルチェック入門

契約書リーガルチェック入門

適切な契約書が作成できればトラブルを防止できる

「ひな形の空欄を埋めさえすれば契約書は完成する。」このように考えている方もいるかもしれません。しかし、そのような考えはトラブルを招きかねず、非常に危険なものと言わざるを得ません。
契約を締結することによって、当事者間に権利・義務が発生します。そして、当該契約がどのような内容であるかを明らかにする最も重要な書面が契約書なのです。その意味で,契約書は単に取引をしたという事実を確認するための書面ではありません。

また、契約に関するトラブルの多くは、契約書の条項に関する当事者双方の理解が食い違っていたことにより発生しています。逆に言えば、適切な内容の契約書が作成され、当事者間で契約の内容が共有されていれば、トラブルが起こることを未然に防止することができます。
契約に関する訴訟では、民法や商法といった取引に関する法律の規定ではなく、契約書の条項をよりどころとして判決が言い渡されることがしばしばあります。これは、取引に関する法律の規定のなかには、当事者間に取り決めがなかったときに補完的に適用されるに過ぎないものがあるためです。

これらのことから、契約を締結する前に行う契約書のチェック(リーガルチェックといいます。)は非常に重要なものとなります。では、トラブルを予防するために、どのような点に注意してリーガルチェックを行うべきなのでしょうか。

どのような目的で契約書を作成するのかを理解する

例えば、薄利多売型の取引基本契約においては、個別の取引が定型的に行われるようにすることが求められますので、契約書の条項もこのことを踏まえたものにしなければなりません。また、新規事業に参入する第一歩として行う契約においては、まずは実績を作ることが重視されることから、利益よりもリスクの防止に重点をおいた契約書の条項を作成することが求められるでしょう。

リーガルチェックを行う際は、どうしても個々の条項のみに目がいってしまいがちです。「木を見て森を見ず」にならないようにするためにも、何のためにこの契約書を作成するのかを理解しておくと、個々の条項をチェックする際の方向性が明確になります。

リスクのある条項①:あいまいな内容の条項

リスクのある契約書の条項をいくつかご紹介します。まず、あいまいな内容の条項は、当事者それぞれが都合の良い解釈をするので、トラブルのもととなってしまうため、リスクのある条項といえます。

【条項例1】

販売営業所開設に要する費用は甲の負担とし、運営に要する費用は乙の負担とする。

この条項では、「開設に要する費用」や「運営に要する費用」が具体的にどのようなものであるのかが記載されておらず、甲と乙との間でトラブルとなります。少なくとも別紙として「開設に要する費用」や「運営に要する費用」について、詳細に記載するべきであるといえます。

【条項例2】

1 乙は、甲に対し、令和2年10月から令和3年9月まで毎月10日限り各金10万円(合計12回・120万円)を支払う。

2 乙が前項の分割金の支払いを2回以上怠ったときは,乙は期限の利益を喪失し、 120万円のうち既払金を控除した残額を直ちに支払う。

分割払いの際のごく一般的な内容であるとも思えます。しかし、実は「分割金の支払いを2回以上怠ったとき」という意味があいまいなものとなっています。「2回以上」というのが、「連続して2回」なのか,「通算して2回」なのかが分からないからです。このような場合は、例えば「分割金の支払いを連続して2回以上怠ったとき」と明確にしておかなければトラブルのもととなります。

【条項例3】

1 甲は、乙に対し、商品Aの販売を委託する。

2 甲は、乙に対し、乙が顧客に商品Aの販売を行った売上額の1割を委託料として支払う。

3 乙は、甲に対し、毎月月末までに、前月21日から当月20日までの売上げに相当する委託料の額を計算した書面に売上伝票を添えて、甲に送付する。

一読しただけでは、この条項には特に問題がないと思った方もいるかもしれません。しかし、この条項では、委託料の額が「乙が顧客に商品Aの販売を行った売上額の1割」となっていますが、ここにいう「売上額」とは、帳簿上の売上額なのか実際に乙の販売先から入金があった額なのかが明確ではないのです。

甲の立場からすれば、入金されるまでは甲の利益が生じない以上、委託料を支払う必要はないと主張するでしょう。他方、乙の立場からすれば、販売までが委託を受けた業務であり入金は乙の関与するところではないし、売上伝票を添えて報告せよと契約書にあるのだから、「売上額」とは,帳簿上の売上額をいうのだと主張するでしょう。このようにしてトラブルが発生していくのです。

あいまいな条項となってしまう原因は、具体的にどのような場面に適用されるのかを意識せずに条項を作成してしまうことによるものです。実際にこの条項が適用される場面になると、自己や相手方にどのような疑義が生じることとなるのかを、イメージしながら条項の文言を検討していくことが重要であると考えます。その際は、契約の相手方であれば、どのようなことを主張するであろうかといった視点も重要になります。

リスクのある条項②:
法律の規定を意識しないで作成された条項

法律の規定ではなく契約書の条項をよりどころとして判決が言い渡されることがあると冒頭で述べました。しかし、これは、法律の規定を理解しておかなくてよいということを意味しません。法律の規定を意識しないで作成された条項も、想定していない結果を招きトラブルになりかねないことから、リスクのある条項といえます。

【条項例4

買主甲は売主乙に対し、本契約締結と同時に、手付金として金200万円を支払う。

売買契約において、代金の一部が手付金として契約締結時に支払われることがあります。このとき、売主乙が代金の一部を受け取ったという認識しか有していないのであれば、思わぬリスクを負うことになります。

民法の規定により買主甲が手付金を放棄すればどのような理由であっても契約を解除することができるからです(民法第557条第1項本文。いわゆる手付流し。なお、売主が契約の履行に着手した後は、解除できないものとされています(同項ただし書き)。)。

売主乙が純粋に代金の一部として手付金を受け取ったということであれば、「手付金200万円」を「手付金200万円(証約手付とし、解約手付としての性質を有しないものとする。)」に修正する必要があります。

このように、リーガルチェックを適切に行うためには、法律の理解も必要になってきます。

契約書リーガルチェック入門

リスクを回避する条項

これまでリスクのある条項について、ご紹介してきましたが、トラブルになった際のリスクを回避することができる条項もありますので、一例をご紹介します。

1 メーカー甲が、卸売乙の倒産のうわさを聞いたとき、その他乙の弁済能力に疑問や不安が生じたときは、甲は乙に対し、直近の財務諸表や今後の資金繰表など乙の財務状態、信用状態を示す資料の提出及びこれらに関する説明を求めることができる。

2 乙が、前項の甲の請求に応じないとき、又は甲に対して十分な説明がないときは、甲は、乙に対する製品の出荷について、期間を決めて停止することができる。

いわゆる出荷停止条項というものです。メーカー甲としては、卸売乙の信用に不安がある場合に、出荷を停止することができる旨の条項を契約書に記載することによって、製品を出荷しても代金を回収できないリスクを回避することができます。

リーガルチェックの際に注意すべきその他の事項

リーガルチェックを行う場合、市販の契約書のひな形を参考にすることも多いと思います。しかし、市販の契約書のひな形はあくまで一般的な内容を記載したものにすぎないので、「今から締結しようとする契約にはこのひな形の条項は適切なのか。」という視点を持つ必要があります。

また、リーガルチェックの際は、誤字脱字はもちろんのこと、甲と乙とが逆になっていないかなど、形式的な点についても注意を要します。
形式的な点はもちろん、内容についても、リーガルチェックを一人で行うとどうしても見落としてしまうところが出てきます。なるべく複数人の目でリーガルチェックを行うことも重要です。

さらに、特殊な契約や複雑な取引条件の契約等の場合は、専門家に相談することも有効です。この点について、中小企業診断士の資格を持つ弁護士に相談することで、法的な観点のみならず、経営的な観点も踏まえてより適切な助言が期待できるでしょう。

契約書の作成は事務仕事ではなく交渉である

リーガルチェックについて、さまざまな内容を説明してきました。最後に、契約書の作成に際して最も意識しなければならないことをお伝えします。

そもそも、契約はあくまでも当事者の合意によって成立しますので、自分の都合のよい条項ばかりの契約書を作成しようとしても、相手がこれを了解しなければ、契約を締結することはできません。この意味で、契約書を作成することは、相手との駆引きを伴う交渉であるという認識をぜひとも持つ必要があります。リーガルチェックを行う際も、複数回にわたり契約の相手方と交渉をする場面が出てきます。契約書の作成を単なる事務仕事と考えていると、リスクのある契約書を作成してしまう可能性が高くなってしまうでしょう。

リーガルチェックについてはまだまだお伝えしたいことがありますが、紙面(?)が尽きてしまいました。
本稿で契約書に関するトラブルの発生を少しでも予防することができれば幸いです。

なお、本稿記載の条項例は説明のために用いたものですので、実際の契約書にそのまま用いることは適切ではありません。念のため申し添えます。

武田 宗久

武田 宗久

株式会社プロデューサー・ハウス

PROFILE

ライター,コンサルタント
1978年生まれ,大阪府出身。京都大学大学院法学研究科修了
2011年弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2020年中小企業診断士登録予定

債権回収や離婚等の一般民事事件を担当する一方,大阪の中小企業や自治体を元気にするため,法務・労務を中心とした支援に取り組む。著書に『改正民法対応!自治体職員のためのすぐに使える契約書式解説集』(令和2年,第一法規,共著)など。

お問い合わせ先
株式会社プロデューサー・ハウス
Web:http://producer-house.co.jp/
Mail:info@producer-house.co.jp

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