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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第52回)

逆風のもとで団結する!(高岡伝統産業青年会)

逆風のもとで団結する!(高岡伝統産業青年会)

なにやら精神論めいたタイトルで恐縮です。でも、こうとしか表現できない話だと思い、今回のテーマを「逆風のもとで団結する!」としました。

富山県高岡市は、鋳物(銅器、鉄器)と漆器の街です。400年ほど前から、ものづくりの文化が根付いている地域として知られています。しかし伝統産業の世界は現在、厳しい逆風にさらされているところが多く、ここ高岡もまた例外ではありません。

今から半世紀近く前である1974年、高岡伝統産業青年会が発足しました。鋳物と漆器の仕事に携わる40歳までの青年層が結集して、地場産業を盛り上げていくことを目指したわけです。

高岡の伝統産業はその後も順調に進展して、1991年の最盛期には、鋳物関連の売り上げ規模は約370億円にのぼっています。でも、その後は衰退の一途であり、2018年にはやく103億円にまで減少。3分の1以下になってしまいました。
苦境に立っているとしか言いようのない状況なのですが、実は高岡伝統産業青年会の取り組みは、むしろここ10年間で活発化をきわめているといいます。そして、その取り組みがプラスの効果をもたらし始めている、とも

いったい、どういうことなのか。今回は地場の伝統産業に携わる同会の会長と副会長、そしてOBの3人に話を聞いてきました。

分業制であるからこそ

逆風のもとで団結する!(高岡伝統産業青年会)

そもそも、こうして伝統産業に絞って青年層が集まる組織って、全国各地に結構あるのでしょうか。

「4つあると聞いています」

逆に言えば、4つしかないんですね。同会の会長によると、京都、石川、福井、そして高岡だそう。高岡だけ県単位ではないところが興味深くもあります。

ここ高岡でも伝統産業に携わる人は少なくなっていて、全盛期に比べると3分の1ほどらしい。売り上げの減少率と歩調を合わせたような状況なのですね。
それでも高岡伝統産業青年会が50年近くも存続しているのには、それ相応の背景があるそうです。

「高岡の伝統産業は、1社で成り立つのではなく分業制です。家族単位の小さな工場があって、リレーのように現物が渡っていき、完成をみるわけです」

なるほど。事業者同士の結びつきが強い分業制であることが、同会を存続させる下地になっているのですね。分業制をうまく働かせるために、同会はかなり重要な役割を果たしているという話でもある。分業制だけに、1社だけで製品を担っているところは少なく、複数の工場がチームで取り組まないといけない。鋳物でいえば、デザイン→原型を作る→鋳造する→仕上げに入る→着色といった具合に、ひとつの商品ができるまで5〜6軒は必要になります。

みんなで何かをなすことが回りまわって自社の利益になることを、身にしみて理解しているからこそ、高岡伝統産業青年会もまた機能し続けているのだと理解しました。

高岡伝統産業会の活動は、ここ10年は、大きく4つの事業であると聞きます。
まず、大都市圏の展示会への出展やワークショップの開催。次に「クラフツーリズモ」と名付けた活動。これは工場見学ツアーのことで、高岡の工場をバスで回ってもらう。そして「伝産の学校」。全国の美大生向けにインターンシップを展開しているそうです。最後は、会員のための勉強会。これはメンバーの関心あるテーマを取り上げながら毎回催しているそうです。

「この4つの活動がそろったのは3年前くらいですね」

つまり、活動はどんどん進化・深化しているということです。この10年で何があったのでしょうか。

「背水の陣というのはもちろんあります。でも、それだけじゃない」

高岡の場合、恵まれているほうなのだとも、同会の会長はいいます。工場と工場の間が、物理的にも心理的にも「近い」ということが利いている。1人で苦労を抱え込んでしまうということが少ないそうです。そういった高岡ならではの土壌を、この逆風下で同会がしっかりと活動に生かし始めたということですね。

とはいえ、です。高岡以外の地域に根付く伝統産業でも、同じように分業制を採っているところは数々ありますよね。なぜ高岡では、この会がうまく機能しているのでしょうか。

「よその伝統産業の人に聞くと『近所の工場が何をやっているか、実はよくわからない』らしいんです。高岡の場合でも昔はそうでしたが、今ではそういうことはない。私たちが意識して、工場同士の関係を『近くしていった』のかもしれません」

定例の活動頻度が高いのも、高岡伝統産業青年会の大きな特徴かもしれない、と感じました。原則月2回の定例会。そのほかに委員会や分科会。これらを合わせると、最低でも週に一度は集まっているそうです。何かの大きな事業開催が近づけば、毎日集まっているほど、とも。

「ほかの地域では、ここまでのことはないかもしれません」

よそものを迎え入れた

逆風のもとで団結する!(高岡伝統産業青年会)

高岡戦闘産業青年会には副会長が数人、名を連ねていますが、そのなかの1人はもともと伝統産業に直接携わっているわけではなかったそうです。具体的にはデザイナーとして地元で仕事を続けてきた人。その副会長によると…。

「10年ほど前に、この会に飛び込みました。会の側も、異分野の人材が今こそ必要、と考えていたようですね」

この副会長は会員になってからずっと、高岡伝統産業青年会の制作物全般を担っています。同会のキャッチフレーズも、副会長の作だそう。

「ガラは悪いが、腕は良い。」

見た人の心に刺さるフレーズですね。そして、副会長がこうしたキャッチフレーズづくりと同時に手掛けたのは、会員の名刺制作だったといいます。どうしてまた、名刺だったのでしょうか。

「当時、職人さんは『腕ひとつで勝負』という時代でした。でも私は、これからは職人さんがもっと前に出ないといけない、そういう時代が来ると確信していました」

少なからぬ職人が名刺を持っていないことが、まず疑問だったそうです。正確に言えば、高岡伝統産業青年会の会員用の名刺はあるにはあったのですけれど、急ごしらえで作った程度の、形ばかりのものでした。

「鋳物の壺かなにかの写真が印刷されていて、役職名が描かれているだけです。まあ、それも古風でいいのかもしれませんが、ここから変えようとしました」

よそものとも言える彼と、以前から在籍する会員との間で、かなりの言い合いにはなったようです。

「でも、そこから職人さんに近づいていきました。一緒に飲みに行ったり、銭湯に行ったり…。そしてようやく会の名刺を作ることができた」

10年前の当時、各地の伝統産業の世界では“おしゃれ化”が進んでいた、と副会長は振り返ります。今風なデザインをなにかと取り入れようとしたり、英字を使ったりというふうに…。

「でも、私はそれをしたくなかった。400年の歴史がある世界なのに、それは避けたかったんです。ならばいっそ、400年前に戻ってしまったらどうかと考えた」

副会長がデザインした名刺は、次のようなものでした。裏面には先ほどお伝えした「ガラは悪いが、腕は良い。」のキャッチフレーズを交えたテキストを配置。そして、表面にはそれぞれの会員の姿を似顔絵にしてあしらいました。写真ではなくて、それこそ400年前の版画を思わせるような絵です。現在の会員数は40人。会員ごとに似顔絵を起こすのですから、すごく大変だったはずです。

「でも結果として、会員たちの似顔絵が、高岡伝統産業青年会のアイコンのような存在になりました」

で、今年2020年には似顔絵にちょっと手を加えたといいます。マスクエディションも作った。コロナ禍だからですね(この上の画像に目を凝らしてみてくださいね)。

1枚の新たな名刺によって、職人をはじめとする会員の意識は大きく変わったそうです。自分から名前を売りに行くということは、これまでまずなかった。でもこの名刺は、渡した相手が喜んでくれる。

名刺交換の雰囲気を生んでくれる1枚となったわけです

名刺から改革するという話があるのだと、私は感じ入りましたね。

数はあえて追わない考え

逆風のもとで団結する!(高岡伝統産業青年会)

高岡伝統産業青年会が「クラフツーリズモ」と名付けた、工場見学ツアーの取り組みの開始は、全国を見渡してもかなり早かった部類といえます。2011年から催しているそうで、同じような取り組みは当時、日本で5カ所くらいしかない時期でした。
副会長はいいます。

「これそのものが収益を生むものではないんです。でも、若手が集まるこの会だから思い切って挑めたのでしょうね」

同会では、工場見学ツアーの規模を大きく広げたいとか、今年は何千人呼びたいとかいうことではなくて、数を追わず、来てもらった人たちをファンにすることを一貫して目指しているそうです。1回の開催あたり、せいぜい40人くらいに絞って招いています。

その効果はどうもたらされたのか、整理してみると…。

まず、一般的な観光客よりも、バイヤー、デザイナー、学生などに照準を定めたことで、明確な目的を持ってきてくれる人がほとんどとなった。参加者の知りたかった情報プラスアルファを持ち帰ってもらえるのが大きいといいます。

同会の会員にすれば、開催するたびに手間はかかるし、効果測定も難しい。それでも重要なのは、このツアーを通して、職人たちがいつもの仕事相手以外の人と会話できるところにあると考えているそうです。初めて会う人に自分の仕事を語ることを通して、改めて、広い世界を意識できる。それが次につながるという話ですね。

「私たちは、この工場見学ツアーを、大掛かりなアートフェスのようにはしたくない。考え方は地域それぞれでしょうけれど、私たちの街には少人数スタイルが合致していると信じています」

短編映画を制作した結果…

逆風のもとで団結する!(高岡伝統産業青年会)

ここ10年間の同会の取り組みのなかで、もうひとつ特筆すべきものがあります。短編映画を制作しているんです。

現在でこそ、地域おこしのための、いわゆる“地ムービー”の制作は各地で数々みられますけれど、同会が映画づくりに臨んだのは2013年のことで、伝統産業に関わる組織がみずから立ち上がって制作するケースは、過去にはまずなかったそうです。責任者だった当時の会長、現在のOBに尋ねると…。

「地域おこしのために地ムービーを、と狙ったわけではないんです。この会の40周年に当たって何ができるかを考えた結果の話でした」

あるとき、同会のメンバーが、NHK大河ドラマ「八重の桜」のオープニングなどで知られる映像作家の菱川勢一氏と偶然出会いました。当時の会長たちが菱川氏に「1分間程度の短い尺で良いから、高岡の伝統産業のコマーシャル動画を制作してください」と依頼したところ、菱川氏は「そもそも高岡の伝統産業を知らない人たちに興味を持ってもらうことこそが重要ではないか。だったら映画を作りませんか」と返答したそうです。

「映画を観てもらって、『ああ、こういう職人さんがいるんだ』となれば、ここ高岡に人が来てくれるかもしれない」

当時の会長はそう考え、映画制作を決断しました。そして完成したのが『すず』という23分間の短編映画でした。高岡の鋳物職人の家業を継がずにふらふらするタカシ、結婚してなんのゆかりもなかった高岡にやってきて夫を支えるすず、若い夫婦が自分の夢と現実のはざまで葛藤する姿を描いています。

映画制作のコストはどうしたのですか。

すべてが会の自前です。行政からの助成金は1円も入っていません

私、ここが大きかったのではないかと思います。自前のお金であることで、制約が何もないからです。そしてYouTubeにも躊躇なく本編をアップできました。『すず』の本編はここから閲覧できます。

「お金がさほどないのは菱川監督もわかっていて、私たちが『自前で用意できるのは100万円です』と正直に伝えたら、それで良いと応じてくれました」

地ムービーといえば普通、最低でも300〜400万円くらいの制作費が常です。かなり低予算で完成させたのですね。

この『すず』という作品、当初の想定を超えてたくさんの人に観てもらえたといいます。YouTubeでは4万回再生を超え、そのほか、各地のケーブルテレビでも放送されました。大都市圏だけでも10万人単位で視聴してくれた計算だと聞きます。この映画を作った後、高岡に住み、伝統産業に携わる人も増えてきたらしく、『すず』という作品がそこに貢献できているという実感もあったそうです。

ちなみに、高岡伝統産業青年会の会員本人たちが、エキストラのレベルではなく、役名を持って出演しているのはなぜですか。 

「もちろん制作費が少ないこともあります。でもそれ以上に、菱川監督の言葉が決め手でした。『あなたたちが映るのがいい』と」

この『すず』の作中には、高岡の観光名所(寺や大仏など)は登場していません。地元の人たちのなかには「名所が全然映っていないじゃないか」と指摘する向きもあったらしい。もし行政から助成金を得ていたなら、「あそこを映してほしい、ここも映してほしい」といった意向を受け入れる必要があったかもしれませんね。でも、自前のお金での制作なので、そうした制約が全くなかったということです。いかにもな観光名所は作中には全く登場せず、その代わりに、伝統産業に携わる実際の人物が役を演じて数々のシーンに映り込んでいる。この作品の特筆すべき特徴であるわけです。それは菱川監督の狙いだったのですね。

みんなが前を向いて

逆風のもとで団結する!(高岡伝統産業青年会)

この画像の真ん中が現在の会長。右が名刺づくりやキャッチフレーズ制作を手がけた副会長。左が映画『すず』を完成させた当時の会長である現OBです。

最後に会長に聞きました。今後の課題があるとすれば? 

「何と言っても、事業者数が減っていることです」

そのなかで、ここから何をなせるかを見出していくことがテーマと力説していました。伝統産業で大事なのは、自分たちが世の中のためになるものを作り続けられるか、そこに尽きる、ともいいます。それを完遂させるために、同会をさらに発展させたいという話でした。そのためには…。

「当事者が楽しむことではないでしょうか」

この厳しい状況にあっても同会が存続している理由を改めて聞くと、「みんなが前を向いているからでしょうね」とも語ります。

今年のクラフツーリズモは初めて、オンライン開催するそうです。コロナ禍にあっても、同会の活動を止めることは決してないのですね。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、婦人公論「女の気になるキーワード」、家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」など、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)
MM総研大賞 審査委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員

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