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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第46回)

偶然の幸運は、どこに訪れるのか!
(株式会社miura-ori lab)

偶然の幸運は、どこに訪れるのか!(株式会社miura-ori lab)

「セレンディピティ」という言葉がありますね。偶然の幸運というふうにも訳されています。新技術の開発や、さまざまな発明、あるいは学術的な発見において、このセレンディピティが重要だった、というふうに表現されます。
ただし、「偶然は構えのある心にしか恵まれない」という表現もあるように、ただただ幸運を待っているだけでは、せっかくのセレンディピティを見過ごしてしまうことにもなりかねませんね。

今回は「偶然の幸運」を見落とさず、長年の宿願を果たした事例の話です。「ミウラ折り」という技術が、今回のテーマ。
いや、「ミウラ折り」の発見に当たって、セレンディピティがあったということではないんです。その技術を商品化に広く取り入れるに至るまでのプロセスが、今回の主題です。
まずは「ミウラ折り」そのものの説明が必要ですね。

1970年ですから、今から半世紀も前のことになります。三浦公亮氏(現在は東京大学名誉教授で90歳です)が大きな発見を果たしました。それは、折り目をジグザグの角度にして、各面を等しい平行四辺形とする、畳み開きの手法。そうすると折り目が重ならず、破けにくいだけでなく、大きな面もごく小さく畳めます。しかも、拡げるのも畳むのも実に簡単なんです。折りたたみ式の地図などに使うと、ものすごく便利になりそうと想像できますね。
要するに、パッとひらいて、さっと閉じられる。しかも折り目から破けるのを防ぐ丈夫な仕組みというわけです。

この技法はいつしか、三浦氏の名前を採って「ミウラ折り」と呼ばれるようになりました。当然ですが、地図に一部採用され始めたほか、1990年代半ばには宇宙実験の太陽光パネルの開閉システムにもミウラ折りが採用されました。それほど価値のある発見だったのですね。

地図や宇宙実験だけにとどまりません。他にも身近なところで言えば、キリンのチューハイ「氷結」の缶の表面に付けられているあの凸凹も、「ミウラ折り」をモチーフにしているのだそうです。缶の強度が高まるので、薄い缶素材でも大丈夫というメリットが生まれるのだと聞きました。

商品への活用には困難が…

偶然の幸運は、どこに訪れるのか!(株式会社miura-ori lab)

こうお伝えしていくと、「ミウラ折り」はさまざまな領域で、順調なまでに活用されているように感じられるかもしれませんね。でも……
ちょっと冷静に考えてみると、そうは言っても、この「ミウラ折り」って誰もが知る言葉というところまでは至っていませんね。それはなぜなのか。

「折り方が複雑なので、機械化を果たせなかったんです」

そう説明するのは、この「ミウラ折り」の権利管理と商品開発を長年、一手に手掛けてきた、miura-ori labです。東京に本社があります。
「ミウラ折り」は、先ほどご説明したように、折り目を重ならないように構成する手法です。実はこれ、相当に難しい折り方なんだそうです。

「だから、地図のオーダーが入った場合でも、手作業で折れる範疇の数量しか受けることができなかったんです」

折る工程を機械化できないとなれば、「ミウラ折り」を生かした商品の大々的な事業化はおぼつかない話になります。
実際、同社に尋ねてみると、以前、海外から商品化の打診を受けた場面では、大量生産できないことがネックとなってしまい、泣く泣く断ったといいます。
地図の場合、どうしてきたのでしょうか。

すべて手作業でやるしかなかった

同社は、東京都からの依頼で、東京マラソンのルートマップ製作を第1回からずっと担当してきたそうですけれど、同社のスタッフが黙々と手作業で折り続けるほかなかったらしい。「ミウラ折り」を手でやるとなると、1つの地図の折り畳みを完成させるのに最低でも2分間はかかってしまう、とも。

これでは、「ミウラ折り」商品の量産化は無理ですね。こうした経緯があって、「ミウラ折り」の存在は業界内では知られていても、広く誰もが認知するところまではいかなかったんです。

量産化への挑戦を始めるも

偶然の幸運は、どこに訪れるのか!(株式会社miura-ori lab)

「ミウラ折り」の機械化をなんとか果たせないか。今から20年ほど前、印刷会社を中心とした業界内で、量産体制確立への機運が生まれました。

ここまでお話ししてきたように、それを実現するにはもう、折り畳み工程を機械化するしかないですね。ところがこれがやはり困難を窮めました。
大手をはじめとする実力派の機械メーカーに頼んでも、答えは出なかったんです。もちろん複数のメーカーに話を持ちかけたのですが、どこからも芳しい結果は得られなかった。いったいどれだけ難しい工程なのかという話ですよね。

機械化に向かう努力は、ここで終わってしまったのか。miura-ori labは諦められなかったといいます。
そもそも同社は、前述のように「ミウラ折り」の権利管理をもっぱらに担っている企業です。だからこそ、機械の開発に関しては、専門のメーカーに声をかけていたわけですが……。同社はここで大きな決断をします。

「だったら、自分たちで、折り畳みの機械を開発しよう」

そう考えました。名だたる機械メーカーですら歯が立たなかったのに、そんなこと、本当にできるのか。
勝算がないままの挑戦だったそうです。でも、ここは進むしかないと判断したのですね。

私、こうした話を聞いて、この連載の第1回「和 チーズナイフ」のことを、すぐさま思い出しましたね。どんな硬いチーズも柔らかいチーズも1本で切れてしまうナイフを創ろうとした、という事例でした。開発した社長によると「それを叶えられる技術的裏付けのないままに、商品づくりを出発させた」とのことでした。それでも、社業のためには開発に邁進するべきだ、という考えをくだし、そして見事に完遂した。

「和 チーズナイフ」の開発が成功したのはおそらく、(どんなナイフをものにするのかという)「ゴールを、真っ先に、かつ、明快に決めていたから」だと、私は思います。だからこそ、途中でぶれなかったのですね。
話を「ミウラ折り」に戻しましょう。折り畳むための機械は、果たして開発できたのか。

できたんですね。それってどうやって?

偶然を見逃さなかった

偶然の幸運は、どこに訪れるのか!(株式会社miura-ori lab)

「ミウラ折り」を量産化するための機械を完成させるため、miura-ori labは、1人のエンジニアと一緒に開発を進めることにしました。
そのエンジニアが、偶然を見落とさなかったんです。

あるとき、エンジニアが使っていたプリンターが紙詰まりを起こしてしまいました。その紙を取り出して、くちゃくちゃになったのを、格段の意識もないまま、広げてみたら……

なんと、そこに付いていた折り目が、まさに『ミウラ折り』だったんです

それはもう、エンジニアは驚きました。で、驚いただけに終わらなかった。

「つまり、人工的に紙詰まりを起こすような仕組みを機械で作れば、『ミウラ折り』は可能になるという話ですから」

ようやく機械が完成したのは2年ほど前です。手折りで2分以上かかっていたのが、この機械ではわずか2秒で折り畳めます。これでようやく量産化が果たせるようになったわけですね。

そして、このページで、ここまで掲載してきた画像のように、地図だけではなく、エコバッグのように使える紙袋も発売できるようになりました。「ミウラ折り 折り袋」と名付けて、税別500円で販売を開始しています。
使ってみると、「ミウラ折り」の美点を実感できますよ。畳んだ状態ではスマートフォンくらいのコンパクトなサイズに収まっているのですが、広げると丈夫な紙バッグになります。再び折り畳むのにも全く難儀しません。直感的にしまうことができます。

安価でごく手頃な商品ですけれども、ここまでくるのに半世紀もかかっているのかと思うと、ちょっと感じ入るところがありましたね。
「ミウラ折り」の生みの親である三浦氏は、機械完成の知らせを受けて、同社のスタッフに握手を求めてきたそうです。

「自分が元気なうちに、この折りを機械化できるとは……

ゴールを定めたからこそ

偶然の幸運は、どこに訪れるのか!(株式会社miura-ori lab)

「ミウラ折り」を機械化できたのは、単なる偶然でしょうか。そうではないと、皆さんもお感じになっているかもしれませんね。

ゴールをしっかりと定め、歩みを止めなかったから、偶然の場面を見逃さなかった。これに尽きると、私は思いました。普通だったら、プリンターで紙詰まりを起こしたところで、苛立ちながら紙を捨てて終わり、でしょう。
担当したエンジニアに「構えのある心」があったから、くしゃくしゃになった紙を無造作にゴミ箱へと放り投げてしまう前に、極めて大きな発見をなせたのではないでしょうか。

こう考えていくと、セレンディピティをつかむには、口をあけて待っているだけではダメなのだと、よくわかりますね。仕事に心を砕くとはこういうことなのだと、改めて感じた話でした。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、婦人公論「女の気になるキーワード」、家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」など、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)
MM総研大賞 審査委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員

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