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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第44回)

「共創」とは、つまりこれだ!(Gigi株式会社)

「共創」とは、つまりこれだ!(Gigi株式会社)

ちょっと理屈めいた話から、今回は始めさせてください。すぐに具体的な事例に入りますから、少しだけお付き合いくださいね。

ここ数年、「共創」という言葉をビジネスの現場でよく耳にします。1つの企業だけでプロジェクトを進めるのではなくて、多様な企業、専門家、さらには消費者をも巻き込む形で、新たなビジネス価値を見出していく、という意味です。
この共創という概念、たとえば携帯電話の新しい通信規格である5G(第5世代)の展開を考えるうえでは、欠かすことのできない、とても大事な要素です。通信速度が格段に上がることなどによって、5Gではこれまでなかったようなサービスが可能になります。ただ、その際には、携帯電話会社だけでは事が運びません。あらゆる業界との連携が必須です。

では、これまでの協業(たとえば下請け、OEMなど)と、ここで言う共創では、何が違うのか。あるメガバンクの担当者はこう語っていました。

「企業の規模の大小は関係なくなります。発注した企業が偉いんじゃなくて、汗をかき、知恵を絞った企業が偉い、となる」

なるほど、と思いましたね。ただし、なんとなくは理解できてもまだ、共創の具体像をつかむには、なにか事例が欲しいところ……。
で、今回のテーマです。「ごちめし(さきめし)」という飲食店応援サービスを取り上げてみましょう。

昨年(2019年)10月。九州・福岡に本社を置くベンチャー企業、Gigiが「ごちめし」と名付けた、アプリを使ったサービスを始動させました。
好きな誰かに食事をごちそうできる、というのが、その中身です。手順を簡単に説明しますね。

まず、ユーザーは、「ごちめし」に参加している飲食店(現在は全国1000店超あります)のなかから、店とメニューを選びます。そして、その食事をごちそうしたい人に通知をかけます(その相手が「ごちめし」ユーザーでなくても可能)。最後に、アプリからクレジット決済で代金を支払います。
この流れにより、ユーザーがごちそうしたい相手は、指定された飲食店に行けばタダで食事ができるわけです。食事の期限は180日。で、ユーザーがクレジットカード決済した日から数えて最短1週間で、飲食店側にはその代金が入ります。

さあ、ここからです。この「ごちめし」のサービスを活用する形で、同社は今年(2020年)3月に、「さきめし」ごいうプロモーションを開始したんです。
どういう内容かというと……。今お伝えした「ごちめし」の使い方のなかで、1つだけユーザーの側が変えることができるという話です。それは「好きな誰かを指定して、食事をごちそうする」のではなくて、「自分にごちそうする」と入力指定する、ただそれだけです。

それに意味があるのか。すでに「さきめし」は大きな社会的反響を呼んでいるサービスですから、もうご存知の方も大勢いらっしゃると思いますが……。

苦境に立つ飲食店のために

「共創」とは、つまりこれだ!(Gigi株式会社)

専用アプリでユーザーが「さきめし」を利用して、自分にごちそうする形をとると、こうなります。まず、自分がその飲食店を訪れて食事をするのは、最長で180日後でもいい。すでに飲食の代金は一定額、支払っていることになりますね。つまり、先払いのような形態ということです。

で、飲食店の側にすると、ユーザーが店にやってくるのは最長180日後ですけれど、先ほどお話ししたように、その代金は、ユーザーが「さきめし」を使ってから、最短わずか1週間で振り込まれます。
つまり……新型コロナウイルス禍で多大な影響をこうむっている飲食店を、アプリユーザーが応援できる、という仕組みにほかならない。

全国各地にある多くの飲食店では今、通常営業を諦めざるをえない状況ですね。店内での飲食提供を休止して、テイクアウトできるメニューを揃える店も少なくありません。そうしたテイクアウトを利用することで、消費者はひいきにしている飲食店を一定に支えることができます。

ただ、それは消費者が足を運べる距離にある飲食店に限られますね。テイクアウトとはいえ、店舗まで行くのが前提となりますから。しかしながら、消費者にすれば、自分が住む街から遠く離れたところにある飲食店をなんとか応援したいと考えたいこともあるでしょう。私などがそうです。以前に出張で何度も暖簾をくぐったお店、あるいは私の郷里でがんばっているお店……。さらには、行こうと思えば行ける距離にあっても、です。こういう事態下では訪れるのをためらってしまう、という場面もありますね。

そういった、自分がファンである飲食店が、「ごちめし」に参加してくれていれば、何のためらいもなく、「さきめし」サービスを利用して、先払いによってその店をささやかながらサポートできる、というわけです。あとはコロナ禍が終息したタイミングで、満を持してお店を訪れればいい。
私が知る限り、コロナ禍が深刻さを増すなかで、こうした飲食店向けの先払いサービスを幅広く展開したのは、「ごちめし(さきめし)」がさきがけではないかと思います。だからこそ、3月の「さきめし」発表後、すぐさま大きな話題を呼んだわけですね。

さて、今回は共創がテーマでした。この「ごちめし(さきめし)」のどこが共創なのか。ここからじっくりとお伝えしていきましょう。

音楽家とその仲間が立ち上げた

「共創」とは、つまりこれだ!(Gigi株式会社)

「ごちめし(さきめし)」を提供するGigiというベンチャー企業の成り立ちからお話しするのがよいですね。

2018年に設立された同社の代表、実は音楽家なんです。
安室奈美恵『HERO』や、TEE/シェネル『Baby I Love You』などを手掛けた今井了介氏です。そして、ITの専門家、エリア活性化の専門家、マーケティングの専門家が集い、同社が発足しました。こういった各界のプロが集結する形で、まず「ごちめし」が始動したという話です。

それにしても……。どうしてまた、気鋭の音楽プロデューサーが「ごちめし」だったのか、ここが何よりに気になるところです。

きっかけは『3.11』だったんです

2011年の東日本大震災ですね。

「音楽って素晴らしい、と、私は今も思っています。だけれども、3.11後の緊急状態にあって、私は無力さを感じました」

音楽は人を癒し、また元気づけてくれる大事なものです。でも、お腹が空いているですとか、移動手段もないですとか、そういった被災者がたくさんいる状況下で「自分が音楽をやっていていいのか」と、今井氏はもどかしく感じたといいます。

「今困っている人たちに、自分は何もできていないじゃないか、という思いが募りました」

そうした経験を経て、今井氏は「音楽に携わるのと同じ思いでもって、衣食住のどれか、人間の社会生活のなかに寄与できないか」と考え始めます。

あるとき今井氏は、北海道の帯広で「ゴチメシ」と銘打ったサービスを提供しているコーヒー店の存在を耳にします。誰かが代金を先払いして、好きな誰かにごちそうできるという仕組みでした。

今井氏は、これだ!と思い立ちます。そして、何度も帯広に足を運びました。もちろん、コーヒー店の店主に会うためです。店主のアイデアをぜひ、アプリの形で展開して、「誰かが誰かにごちそうする」という枠組みを広げていきたい……。
店主は快諾だったといいます。アプリの試作版を今井氏が見せたとき、コーヒー店の店主は喜んでくれたそうです。「すごいアプリができたね」と。

この店主への敬意を込めて、アイデアの元となった「ゴチメシ」の名をもらい、Gigiのアプリでは、ひらがなの「ごちめし」としました。

地域の信組のひと言から…

「共創」とは、つまりこれだ!(Gigi株式会社)

そうして201910月、「ごちめし」は立ち上げられました。では、この「ごちめし」の仕組みを生かした「さきめし」は、Gigiみずからの考案だったのでしょうか。

「いえ、違うんです。長崎県にある信用組合の方からの連絡がきっかけでした」

どういうことか。佐世保の信組に勤務する1人の職員が、このコロナ禍が次第に重大な局面を迎えつつある時期、同社に連絡してきたそうです。

「その信組の方がおっしゃったんです。『自分で自分にごちそうするっていう形態を取れませんかね』と」

信組の職員は、みずからが担当する地元の飲食店をなんとか支えたいと考え、「ごちめし」を展開するGigiに、そう相談したわけです。
今井氏はもちろんすぐに同意しました。

「さらに言うと、『さきめし』という呼称を命名したのも、この信組の方だったんですよ」

同社は、この信組職員の許可を得たうえで、このアイデアを同社の取り組みとして導入しようと決めました。そして202039日、「さきめし」がプレスリリースされることとなります。

みんながアイデアを出して…

「共創」とは、つまりこれだ!(Gigi株式会社)

「さきめし」の大反響を受けて、同社はさらに「さきめし開放」というキャッチコピーのもと、飲食店以外(たとえば美容院などです)にも参加を促しました。また地域の商店街単位での参加も積極的に受け入れるようにしました。今井氏は言います。

「いろいろな方がアイデアを出してくださって、この『ごちめし』のプラットフォームが生かされている。それがありがたい」

そうなのですね。まず、帯広のコーヒー店の店主が「ゴチメシ」のサービスを快くアプリに応用させてくれたことで、「ごちめし」のプラットフォームは完成をみました。そして長崎の信組職員が、それを活用する知恵をくれた。さらには、この仕組みの社会的意義を感じ取った消費者が「さきめし」の登場をネット上で拡散させ、そして実際に使い始めた。
こういう形こそ、まさに共創と言えるのではないでしょうか。

最後に……。この「ごちめし(さきめし)」について、決して書き忘れてはいけないことをお伝えしますね。

既存の飲食店系サービス(デリバリーですとか、ギフトですとか)の場合、参加する飲食店の側からお金を徴収するのが一般的ですね。登録料、あるいは手数料といった形で……。ところが「さきめし(ごちめし)」では、飲食店からは一切お金をもらわないシステムなんです。じゃあ誰が「ごちめし(さきめし)」の運営費などに充てられるであろうコストを負担しているのか。

それは消費者(アプリユーザー)なんです。ユーザーが利用するたび、飲食店が指定するメニュー代金に手数料10%が上乗せされた金額を、ユーザー自身が支払うことになります。もう少し詳しく言いますと、そのうち3.5%はクレジットカード決済の手数料となり、Gigiの取り分は6.5%です。
どうしてまた、利用者負担としたのでしょう。

世の中にこんなサービスがあったっていい、そう判断しました

昨今注目を集めるデリバリーサービスをはじめ、先ほど申し上げたように店の側が結構な手数料を取られる仕組みであるところが、飲食店系サービスでは一般的です。そんなご時世に、1つくらいは、参加する飲食店に負担を強いないサービスがあってもいい、という判断だったのですね。

これ、私はとても貴重な話だと思いました。飲食店、とりわけ個人経営の店は薄利を余儀なくされるケースが多いだけに、です。私には「ごちめし(さきめし)」のサービス利用時の10%負担というのは、たとえるならば旅館を訪れた折に渡す「心づけ」のようなものと感じられました。そしてコロナ禍の深刻化というこういうときだからこそ、心づけの精神は重要とも……

「最初は、『どうしてユーザーが10%負担するのか』『そんなサービスが成功するのか』といった声も、社外からはずいぶんと上がりました」

しかし、実際には、参加店が1000店を超えたばかりか、利用するユーザー数は飛躍的に伸びています。さらには、飲食店側が「ユーザーのみなさんが手数料を支払ってくれているのだから」と、「ごちめし(さきめし)」向けに特別メニューを組んでくれるケースも増えてきたと聞きます。

『ごちめし(さきめし)』は、分け合う・分かち合うという、人の気持ちを生かすサービスです。ここから新しい価値観が生まれる、そう信じています

多くの企業や人々が集まって、新しい価値を創造する。それがまさに共創の意味するところですね。その意味で言うと、やはり「ごちめし(さきめし)」は共創のお手本となる事例なのではないかと、私は思います。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、婦人公論「女の気になるキーワード」、家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」など、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)
MM総研大賞 審査委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員

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