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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第43回)

規模よりも大事なことを見出す!
(農業生産法人 伊豆沼農産)

規模よりも大事なことを見出す!(農業生産法人 伊豆沼農産)

六次産業というのは、農業や漁業などに従事する人が、自らが有する素材を使って商品を開発し、その販売までを担うという形態を指します。第2回、三重県の「デアルケ200%トマトジュース」など、この連載でも何度か具体例をお伝えしていますね。

ただ、そうした六次産業の展開事例から、ヒット商品がなかなか登場していないのも事実です。なぜそうなのか、第31回、山梨県の「Takano Farm エアリーフルーツ」の話を綴った記事で解説していますので、よかったらご覧ください。端的に言うと、単に何かの商品をこしらえさえすればそれで一定の成果が上がる、というような簡単なものではないということでしょうね。
今回、題材として取り上げたいのは、六次産業という言葉が一般化するかなり前から、現在でいう六次産業化を進め、成功を収めている事業者の例です。

まず、本題に入る前に……。六次産業といえる事業にいち早く取り組んできた事例としては、高知県の馬路村がよく知られています。1970年代からユズの加工に着手していて、1988年にはユズのドリンク「ごっくん馬路村」を発売。この商品はロングセラーとなっていますから、ご存じの方も少なくないと思います。

で、ここからです。この村が「ごっくん馬路村」を発売したのと全く同じ1988年に、実は東北でも、六次産業化のはしりと言っていい動きが生まれていたんです。それは、宮城県の伊豆沼農産という農業生産法人の話。畜産の分野で新境地を切り拓き、そして今も奮闘を続けています。

ハムやソーセージの生産だけでなく、当時は極めて珍しかった農家レストランの直営にも踏み出し、さらに近年、また新たな商品も生み出しています。
今回は、この伊豆沼農産の歩みを、一緒に見てまいりましょう。

自分が育て、自分で値付けを

規模よりも大事なことを見出す!(農業生産法人 伊豆沼農産)

畜産農家の跡継ぎであった社長は、1988年、こう思い立ったといいます。

「生産効率は追わない、規模も追わない。自分で育てた産品に、自分で値を付けて、多くの人に食の世界を伝えていきたい」

それはどうして?

「大手の事業者とは、“戦う土俵”を変えようと思ったからです」

社長によると、1988年当時は「何をやってもモノが売れた時代」だったといいます。確かにそういった傾向は見て取れましたね。あの「シーマ現象(3ナンバー枠の高級車が売れに売れた)」のが、まさに1988年でしたし……。もっと言えば、グルメブームが巻き起こったのも、この時期でした。
でも、社長は、そこで冷静に考えた。

「だからと言って、規模を大きくして売上高を伸ばそうとするのは得策なのか。ここで畜産物の商品化の領域に新規参入したところで、大手どころには勝てません」

だったら、どうするか。

「まず、『そもそも、商品を誰のために作るのか』を考えましたね」

量を取るのではなくて、その商品を真剣に求める消費者のほうを向こうと判断したわけです。だから、ハムやソーセージの加工を始めると同時に、当時はあまり存在しなかった農家レストランを開業した。

「この当時、すでに手作りハムのブームが到来していました。畜産業の先輩たちからは『君も豚を育てているのだから、ハムを作ればいい』と勧められ、製造法まで教わりましたが……」

ただ単にハム作りを真似するだけでは、先輩たちに申し訳ないという思いがあり、少しでも独自性を出そうと考え、それがレストランを設立した、1つの理由になったそうです。
さらには、ドイツからハム作りのマイスターを招き、ひと味違うハムを、と動いたのでした。後年、ドイツの国際的なコンテストで金メダルを獲得するといった形で、その努力は結実しています。

そして21世紀に入り、伊豆沼農産は新たな銘柄豚の飼育を本格化させます。上の画像にある「伊達の純粋赤豚」がそうです。

全頭食べて、チェックする

規模よりも大事なことを見出す!(農業生産法人 伊豆沼農産)

社長はこう解説します。

「豚って、同じ種類(系統)であっても、同じ味ってことはないんですよ。美味しい、美味しくない、という差が必ず現れます」

2002年、伊豆沼農産は「伊達の純粋赤豚」の本格飼育に乗り出します。これは、美味しさに定評のあるデュロック種を、さらに交雑しない純粋種として育てるというもの。

「業界から見たら『アホな話』なんです」

純粋種の飼育は効率が悪いからだといいます。時間や手間を考えると、割に合わない。

「でも、美味しいんですよ」

そして、ただ純粋種を育てるという話ではありませんでした。2つの取り組みを徹底したと聞きました。
まず、脂の多い豚も、飼育で協力してくれる畜産農家から、ちゃんとした価格で仕入れることにした。これ、どういうことなのか。

従来、脂の厚い豚肉は、流通過程で格付けを落とされていたそうです。そのため、生産者は脂を薄く育て上げようとします。格付けによって入るお金が変わってきますから。
でも、社長に言わせると、「この格付けは、実際に食べる人(=消費者)には何の関係もない話」とのこと。あくまで流通上の基準であって、「私たちのような、生産から加工・販売までをすべて担う事業者にしてみれば、そういうモノサシは意味をなさなくなる、ということです」

つまり、伊豆沼農産は、脂が厚かろうが薄かろうが、食べる人にとって美味しい豚であれば、値段のうえで、きちんと評価した。そのことで、伊豆沼農産に協力する畜産農家は、安心して豚を育てることができます。これは前述のように「伊豆沼農産が自分で値段を決める」という体制だからこその話ですね。

次に、2002年当時から現在に至るまで、すべての「伊達の純粋赤豚」を一頭残らず食べてチェックしているそうです。文字どおり、全頭を試食して品質確認するということ。
相当な手間だと思いますが、それって、畜産の世界ではよくあることなのですか。

「いえ、それこそ『アホな話』と言われるでしょうね。ここまでやっているところはまずないと思います」

これも、伊豆沼農産が、すべての領域を一手に担っているために決断できた手法でしょうね。
初期のころは、全頭を試食して、30%ほどは自社の基準を満たさないと判断して撥ねたそうです(その30%は加工用などに回したそう)。現在では生産体制の改善などで、跳ねるのは5%程度に留まるところまできているとのことです。

そして、「伊達の純粋赤豚」は、国内だけではなく香港への輸出でも成功を収めます。香港の精肉店では、日本の銘柄豚として、すでに高い評価を得るに至りました。

ここに何度も来てもらうために

規模よりも大事なことを見出す!(農業生産法人 伊豆沼農産)

伊豆沼農産は、5年前の2015年、また新たな試みを始めました。それは、生ハムのオーダーメイドの仕組み。いわば「生ハムのオーナーになる」というものです。
豚の骨つきモモを1本まるごと購入してもらい、それを伊豆沼農産の工房で、消費者自らが仕込みます。そして、仕込んだものを伊豆沼農産が預かり、工房内で管理するという仕組み。1本で税別3万円ですが、考えようによっては納得できる価格であると思います。なにしろ1本まるごとですからね。

「国内で食べられる生ハムのほとんどは輸入物ですが、せっかく地元に良質な豚肉があるのだから、その資源を生かせればと考えたのです」

こうした生ハム製作のサービスは、全国を探せばないわけではありません。しかしながら、ここ伊豆沼農産の生ハム作りに関しては、独自の面白い趣向もあります。

それは……熟成途中で工房を訪れれば、自分が仕込んだ生ハムを試食することができるだけではなくて、そうやって食べてみた段階で熟成がまだ足りないと思ったら、さらに引き続き寝かせてもらうのが可能、という仕組みである点です。基本は熟成に充てるのは1年なのですが、望めば、1カ月1000円の追加で、最長3年までいけます。そこまで可能なサービスは珍しいはずです。
でも、わざわざ工房まで新設して、貯蔵用の空間をしつらえ、これはコストに見合うのでしょうか。

「コスト以上に、ここに足を運んでほしいという狙いを込めた施策です」

そういうことですか。モノを売るだけに留まらず、人に足を運んでもらう、というのは地域おこしでは極めて重要なポイントです。そのことを意識した取り組みだったのですね。

「人が来ないのは、そのためにコストをかけていないから、と私は考えます。だからこそ、この仕組みを構築した。仕込んでくださった生ハムを試食して、さらにもう少し寝かせたいとなれば、何度もここに来ていただけることになります」

農村に人を連れてくる。そのための生ハム作りサービス(しかも試食後の再熟成が可能な仕組み)だったというわけです。

規模を追わなくても…

規模よりも大事なことを見出す!(農業生産法人 伊豆沼農産)

規模は追わない、と開業時に、社長が自らに強く言い聞かせた伊豆沼農産ですが、結果として売上高はどう推移したのか。

1988年度当時は年間売上高が約3000万円でした。それが2018年度は5億円強になっています」

ああ、なるほど……。規模拡張を必要以上に追わない姿勢を大事にした結果、実は売上高が順調に伸びたという、とても教訓めいた展開となったわけですね。
ただし、まだ課題点もあると考えていると、社長は話します。

「業界筋では『伊達の純粋赤豚』の評価は高まっていますが、一般の消費者には浸透しているとは言えませんね」

生産量が限られることもあって、全国規模でのPR活動をしてこなかったことが一因でしょう。これを打開するため、今年(2020年)、豚肉の品評会に初めて出品することを決めたそうです。さあ、さらなる進展を果たせるか……

今回の話をまとめましょう。こう見ていくと、1988年以来、伊豆沼農産は、自らの可能な範疇で、一歩ずつではありますが、歩みを止めることなく手を打ち続けていることが理解できます。

六次産業化の成功は、そう一足飛びにはいかない。だからこそ、途中で手を緩めてはいけない。伊豆沼農産の事例は、そう物語っている気がします。もう1つは、軸足をブラさないことの大切さを忘れないことでしょうね。「誰のための商品化か」という自らへの問いかけは、ハムなどの加工着手から、銘柄豚の飼育開始、そして生ハムのオーダーメイド事業のスタートまで、すべてに生かされていると思います。原点を忘れなかったのも、成長の要因でしょう。

大事なことを言い忘れました。「伊達の純粋赤豚」、とても美味でした。あっさり、おしとやかな味わいで、脂がとても優しい。どこまでも食べ飽きしないと表現できます。これはシンプルに塩と香辛料で仕上げたい感じですね。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、婦人公論「女の気になるキーワード」、家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」など、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)
MM総研大賞 審査委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員

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