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意外と知らない知的財産権(第5回)

海外進出における留意点~意匠権・営業秘密編~

海外進出における留意点~意匠権・営業秘密編~

見た目がそっくりな模倣品対策として、意匠権は是非知っておきたい権利です。メイドインジャパンの高品質の製品を真似た、機能が劣るのに外観がそっくりな粗悪品が流通すると、本家本元の企業の信用を害することになります。同じ品質の商品であっても、パッケージの柄や商品形状といったデザイン変更によって売上が大きく影響を受けることもあります。

卓越したデザイン力でブランド力を向上させた例としては、米国アップル社の故スティーブ・ジョブズ氏が挙げられます。例えば、その米国アップル社と韓国サムソン社の間で、デザインパテントも含んで長年争われているスマートフォンについての知財訴訟に関し、カリフォルニア州の米連邦地裁において2018年5月に同地裁の評決がされた後、和解が成立したと報じられました。そのとき話題となったのが、同地裁の評決において、賠償金の額が約5億3900万ドルであったことと、デザインパテント侵害による損害賠償分が特許侵害の損害賠償分と比べて非常に高くデザインの重要性が認められた評決であったことでした。

今後はデザインの重要性がさらに着目されるようになるかもしれません。2020年4月から施行される意匠法の改正により、意匠権による保護をより戦略的に行うことができるようになる可能性がありますので、今回は改正ポイントも盛り込んで紹介します。
また、ノウハウの海外流出によるトラブルが多くあることを踏まえ、ノウハウを含む営業秘密についてもコンピュータ・プログラムを含み留意点を紹介します。

意匠法の改正

海外進出における留意点~意匠権・営業秘密編~

デザインの中で、意匠権の保護対象となる「意匠」は、日本では物品の形状・模様・色彩又はこれらの結合であって視覚を通じて美感を起こさせるものとされていますが、上述した改正により建築物の形状等も意匠登録の対象に加わります。第4回では、著作権について紹介しましたが、美術工芸品等の分野のみならず建築の分野でも、著作権だけでなく意匠権についても考慮した方が良いケースはますます増えることが予想されます。内装全体として統一的な美感を起こさせる空間デザインがブランド価値を創出している場合には、今までとは別の面からブランド保護に意匠権が貢献することが期待されます。

さらに、現在は登録から20年である存続期間が、2020年4月からは、出願から25年に変わります。特許権が出願から20年であることと比較すると、長い期間独占排他権を保持できるメリットがあります。

また、2020年4月からは、バリエーションデザインの保護も強化されます。これまでは、出願した意匠Aに類似する意匠A’、A’’・・・について、意匠Aに関連する意匠として権利化したい場合、出願可能時期は、意匠Aの出願から所定の短期間に限定されていましたが、意匠Aの出願から10年以内と拡大されます。さらに、意匠A’に類似していて意匠Aには類似しない意匠A’’’も意匠Aに関連する意匠として権利化を図れます。いくつか注意すべき点があるものの、従来に比べて、同一のコンセプトに基づいて開発されるデザインの保護に関して手厚くなります。

海外における意匠保護

国際登録に関するハーグ協定に日本も締約国として加わったため、意匠について各国での保護に関して国際出願からのアプローチが可能になりました。これによって、特許(第2回参照)や商標(第3回参照)についてだけでなく、意匠についても国際出願制度により、一つの国際出願手続により複数の指定締約国における保護を一括で可能とすることができるようになりました。米国や韓国、シンガポール、欧州連合知的財産庁(EUIPO)等もハーグ協定の締約国です。意匠の国際出願制度では、上述した複数意匠の一括出願が認められています。なお、2019年5月17日から2年以内(施行日は現時点では未定)に、日本の国内出願でも複数意匠の一括出願ができるようになる予定です。

従来通り各国への直接出願も可能です。日本の意匠出願を基礎として外国で出願する場合、第1回で述べたように、優先権の期間が6ヶ月である点に注意してください。
各国で存続期間や意匠の定義も少しずつ違うため、海外での意匠登録に際しては、正確な存続期間と保護対象となるかどうかを確認する必要があります。なお、米国では特許法の中でデザインパテントとして規定され、独立した意匠法はありません。

コンピュータ・プログラムの流出

海外進出における留意点~意匠権・営業秘密編~

意匠のように製品の外観デザインとして公開される知的財産とは反対に、製品を作るためのコンピュータ・プログラムは、製品を製造する工場の中だけで使用され、非公開が一般的です。

第4回で触れましたように、コンピュータ・プログラムの著作物は著作権で保護されますが、ソフトウェアのソースコードが流出した場合、著作権で守れないケースでも、営業秘密(秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの)に該当すれば、不正競争防止法による行為規制により保護できることがあります。営業秘密になり得るものとしては、製造ノウハウや顧客名簿なども含まれます。

一旦流出したコンピュータ・プログラム等の営業秘密の情報を回収することは事実上極めて困難であり、海外での紛争解決には多大なコストを要します。基幹となるコンピュータ・プログラムや製造ノウハウの流出により国内販売が減少したりするなどの重大な被害も想定されることから、自らが実践できる知財リスク低減手段は講じておくことが必要であると考えます。

営業秘密の保護

海外進出における留意点~意匠権・営業秘密編~

営業秘密を守るには、社内における情報管理体制を整備するとともに、情報に接する者を対象に誓約書や秘密保持契約等を取り交わしたうえで必要以上の情報は開示しないことが重要です。

例えば、展示会や海外企業との商談、自社工場の見学会において、うっかり営業秘密に関わる事項まで開示・説明したり、過剰な技術指導をしたりすると、営業秘密が流出し他社の模倣を招く危険があります。営業担当者を含め、守るべき情報をリスト化するなどして共有し、かかる情報を開示する際にも十分注意した方がよいでしょう。

また、海外進出する場合には、商慣習や法制度の異なる外国企業が相手ですから、様々なリスクを想定し、国内契約書よりも仔細な規定を盛り込んだ秘密保持契約書を開示に先立って取り交わすことが求められます。また、現地企業に製造を委託する際には、過分に情報提供を求められることのないようにすること、技術指導の範囲等を製造委託契約に明記すること、そして、万一技術が流出した場合でも多大な損失が生じないように金型や技術のコアとなる部分等の重要部品については海外の委託先でなく自社内で製造するといったことも検討が必要でしょう。

現地での生産を海外企業にライセンスする際にも自社のコンピュータ・プログラムや製造ノウハウの保護・管理が重要となります。日本ではライセンス契約をする際に政府機関への届出や登録をする必要はありませんが、一部の国(特に新興国)においては現地企業が有利となるような法律(例えば、ライセンス契約には政府機関への届出や許可が必要など)が定められている場合がありますので注意が必要です。

保護方法の決め方

知的財産権は権利の種類や範囲や存続期間等によって、その知財の価値評価をした際(例えば、資金調達やM&Aあるいは債権回収等の場面)に価値が大きく異なってくることがあります。どの種類の権利でどのような範囲で権利を取得・保護するかは重要なポイントになります。知的財産が発生したら、営業秘密として守るか、特許等の独占排他権を取得して守るか、その性質によっても使い分けが必要です。知的財産権は販売等による公開時期も踏まえて戦略的に取得する必要があります。

改正等について

本記事の内容は、2019/11/19現在の内容です。知的財産の法律は毎年のように改正があり、例外規定も多く、各国で改正のタイミングが異なるのでご注意下さい。また、国際出願のルール、加盟国等も変わるのでご注意下さい。
今回で5回シリーズの最終回です。記事を読んで下さってありがとうございました。

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