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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第34回)

続・「私のための商品だ」と思わせる!(ミミー電子株式会社)

続・「私のための商品だ」と思わせる!(ミミー電子株式会社)

この連載コラム、33回の東京モーターショーの話で、「これは、自分のためのものだ」と、消費者に直感的に伝わる商品づくりはとても大事、と綴りました。超小型の電気自動車を開発するタジマモーターコーポレーションの事例でしたね。

たとえ万人向けの商品でなくとも、中堅中小の事業者にしてみれば、それで十二分に商機をつかめる、という話でもあります。それは、15回のベンチャーウイスキーの事例からも得られる教訓でしたね。

「これは、自分のためのものだ」と実感できる商品には、強いファンがつきます。なぜなら、商品領域によっては、「自分の切実な思いに応えてくれた」と感じさせるかもしれないからなんですね。
今回の話は、まさにそういう事例です。なにか。補聴器です。

補聴器というと、なじみのない方もいらっしゃると思いますが、購入しようとなると、幾つかのハードルがそこにあるようなんです。まず、価格です。10万円を超える商品も少なくないからなんですね。次に、購入後の手間です。買った店舗に数カ月間、何度も通って、聴こえ方の調整を繰り返す必要が生じます。補聴器を求める方のなかには、移動するのも大変な高齢者も結構おられるのは間違いない。それだけに、店舗に通い詰めるのも一苦労、となりがちなんです。

で、今回の商品はというと……値段は19800円と、明らかに安い。そしてここからが大事なところなんですが、購入した後に店舗まで何度も通う必要がない。どういうことかと言いますと、聴こえ方(音質)をユーザーが自分で調整できるというものなんです。
開発したのは、東京・立川にある補聴器メーカー、ミミー電子です。商品の名は「ポッケsel1(セルワン)」といいます。

初めから「低価格ありき」で開発

続・「私のための商品だ」と思わせる!(ミミー電子株式会社)

私、この商品のことを偶然知ったとき、「ああ、この補聴器は、いわゆる“間に合わせ”というか、簡易型の入門機のようなものか」と正直見くびっていました。値段が値段ですし、買った後に店舗で聴こえ方を調整するのが補聴器の常なだけに、です。

ところが、ミミー電子のスタッフに話を聞くと、そうではないことが徐々にわかってきた。どういうことか。

「軽度、中度の難聴の方に向けた補聴器として、真剣に開発しました」

軽度や中度の難聴の方には、補聴器購入に補助金はでないそうなのですね。ということは、高額な補聴器を買うのをためらい、その結果、音や声が聴こえづらいままなので、生活に困難をきたしてしまう。それをなんとか打開したかったという一念が、この商品を開発した契機だったそうです。

同社によると、この「ポッケsel1」のような「低価格・自分で調整」というタイプの補聴器は、海外製などの一部にあるにはあったといいますが、「性能はさほど高くなかった」。専門メーカーとして、そこをなんとかしたかった、というのですね。

実際に、軽度の難聴があると思われる80代後半の男性(恐縮です、私の父)に使ってもらったら、実際、かなりいい具合だ、といいます。この個別例をもってしてだけで断言できないものの、補聴器としてちゃんと一定の機能を果たしてくれる商品だろうと推測することはできます。

それにしても、この補聴器はどうして安いのか。アナログ式であること、設計から製造まで自社で担っていることなどが挙げられそうですが、それよりも納得できた回答がありました。

最初から『2万円以下』という価格設定ありきで開発したんです

そうでないと軽度や中度の難聴の方に手軽に使ってもらえない、という理由だそうです。原価率はそれ相応に高くなってしまったともいいますが、それでも2万円弱で売るのは大変だったはずです。

「この商品に関しては、高度の難聴の方には向かない補聴器、と割り切りました。そのことで、この商品をこの値段で出せた」

しかし、です。高価である一般的な補聴器の場合、先ほど触れたように、購入後に何度も繰り返して店舗に通い、聴こえ方の設定を微調整していくのが普通です。そうであるのには、それなりの意味があるのでは?

「もちろん、プロが調整する意味があります。ただし、この機種の場合、素人であるユーザーでも簡単に調整が可能になるようにしました」

具体的に言いますと、この「ポッケsel1」にある調整つまみは2つだけです。1つは音量、もう1つは音質です。この音質つまみは無段階でスライドできるつくりになっている。つまり、設定用のつまみが極めてシンプルなんですね。おそらくシニアのユーザーでも、さほど戸惑わないであろうことが理解できます。

それでも、重ねて問いたくなります。軽度の難聴であったとしても、使う方にとって、音質はとても大事です。それを素人が設定するのは厳しい面もあるのでは?

「いや、メリットもあるんです」

それは何なのですか。

ユーザーの生活環境に身を置いて音質調整できること。店舗と自宅では、状況が違うことがしばしばでしょうから、これはむしろ使う人にとって有利な話なんです

なるほど。確かにそうですね、
ユーザーは日常生活をおくる場所に身を置いて、音質設定をみずから行える。となると、自分にとってより良い聞こえ方に調整できる可能性は高まりますね。

「プロがユーザーの自宅にまで行くのは実際問題として難しいでしょう。だったら、ユーザー自身で“しっくりくる音”を探し当てるほうが、結果として聴きやすくなリます」

ただの入門機ではなかった

続・「私のための商品だ」と思わせる!(ミミー電子株式会社)

そう考えると、この「ポッケsel1」の持ち味はくっきりと浮かび上がります。

ただの入門機、機能を絞った単なる低価格機とは言い切れないということです。ここが巧いところと、私はうなりました。単価の安い商品ってえてして、ただの初心者向けとかライトユーザー向けとか言ったふうに見られがちではないですか。でも、商品のつくり込みによっては、必ずしもそうではなくなる。

確かにシンプルなつくりではあるし、高度の難聴者にはそぐわない商品ではありますね。でも、ただの“簡易版補聴器”で終わっていない。むしろ、この仕様だからこそ助かる、と感じる方は少なくない、そんな商品に仕上げたところが、「ポッケsel1」の痛快さであると思います。重ねて言いますけれど、店に通わなくていい、自分の生活環境のなかで音質調整ができる、というのは、ユーザーにとって大きな美点となっています。

上の画像は、同社のウェブサイトに掲載されていた1枚です。創業期のものかと思いきや、「最近、社長が仕事していた場面を撮影して加工したものなんです」とスタッフは笑います。この1枚から想像がつくのは、同社が現在も手作業で商品開発しているということですね。一気通貫の商品づくりだからこうした商品を発想できた、とも推察できます。

結果として「補聴器をつけるかどうか迷っている消費者層」にしっかりと訴えかけられる商品ができあがったということですね。

「あなた」を想定すること

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今回の事例を通して、商品開発には、売りたい「あなた」の具体像をまず明確にすること、そして、その「あなた」を見据え続けることの大切さを、改めて学んだ気がします。前回のコラムでは超小型の電気自動車のケースを綴りましたけれど、これが商品領域を問わず、大事なんだろうな、と。

次に重要になってくるのは、きっと「想定した『あなた』が諦めていることはないか」を探り当てる作業になってくると思います。

前回で言えば、「ママチャリよりも安全に子どもの送り迎えができる手段はないか」というのが、タジマモーターコーポレーションがたどり着いた考えでした。もしかすると、多くのママたちにとっては、「子どもを手っ取り早く送迎するのはママチャリくらいしかない」と諦めているかもしれませんね。同社はまさにそこに斬り込んだ。そして、三輪の超小型電気自動車を提案しています。

今回のミミー電子の場合、「補聴器は買ってからが面倒なもの」、さらに「補聴器は値が張るもの」と諦めている消費者に対して、思い切った提案をしたわけです。これは私の想像の域でしかありませんが、同社の開発陣にすれば、逡巡はあったと思いますよ。これまでの補聴器の定石から外れる商品をつくっていいのか、といったふうに……。でも、そこを乗り越え、そして、商品の対象層をあえて絞ることで、今回の補聴器を世に出せた。

最後に……。同社によると、「ポッケsel1」をつくりあげるうえで、あとひとつ譲らなかった部分があったといいます。それは何?

『見てほしい補聴器』を合言葉に掲げました

デザインの話ですね。それ、よくわかります。この補聴器、すらりとした本体で、かつ、コンパクトです。これを手にするユーザーのうち、少なからぬ方はきっと、補聴器を初めて使おうというケースであるはずです。商品そのものがそういう性格を帯びたものであるだけに。

だからこそ、抵抗感のない=平気で周囲に見せられる補聴器、であることは、外せない要素だったということですね。
これもまた、前回のタジマモーターコーポレーションの話と似ていますね。シニア層に向けた超小型電気自動車こそ、格好良いものでないといけない、と同社の社長が力説していました。積極的に使ってもらうには不可欠な部分なのです。

こうして細部まで心を砕いた商品であるからこそ、人は「自分のための商品だ」と感じるのでしょう。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、婦人公論「女の気になるキーワード」、家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」など、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)
MM総研大賞 審査委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員

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