MENU
  1. TOP
  2. Alibaba JAPAN PRESS
  3. 「私のための商品だ」と思わせる!(タジマモーターコーポレーション)

実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第33回)

「私のための商品だ」と思わせる!
(タジマモーターコーポレーション)

「私のための商品だ」と思わせる!(タジマモーターコーポレーション)

商品づくりにおいて重要なことはたくさんありますが…。

私、そのなかでも、今の時代に必須なのは「万人を狙った中庸な商品ではなく、『あなた』を明確に捉えること」ではないかと感じています。はっきりした「あなた」を想定した商品は強い光を放ちますし、結果的にはえてして、想定していたよりも広い共感を産んだりするものです。

マーケティング用語のひとつに「ペルソナ」というのがありますね。その商品を求める“代表的な仮想の人物像”のことを指します。それをきちんと定めると、商品づくりにブレが起きにくいという話なのですが、ペルソナというちょっと難しそうな言葉を引くまでもなく、狙う「あなた」がはっきりしていれば商品開発はまず大丈夫ということだと、私は思います。

この連載で言えば、24回のサカナイフなど、その好事例ですね。このナイフは「魚がうまくさばけないことにコンプレックスを抱いている人」という鮮明な「あなた像」が感じ取れます。魚をさばける人、あるいは魚をさばけなくても別にいいやという人は、最初からお客の埒外なんですね。そういう話です。

さあ、ここからが今回の本題です。

114日に東京モーターショーが幕を閉じました。輸入車ブランドの多くが出展を取りやめていて寂しい、とか、今回は会場が2カ所に分かれていて不便、とか、事前にはいろいろな評が飛び交っている印象もありましたが、ふたを開けてみれば、なかなかの活況ではなかったかと私は感じています。海外でもモーターショーは曲がり角にあるようで、今後、どのような内容構成にすることがふさわしいのか議論が尽きないようですが、今回の東京モーターショーは、体験型、あるいは子どもにもわかりやすい展示志向など、ひとつの答えを探ろうと奮闘していることは伝わってきました。

で、私がとりわけ注目したブースはと言いますと…。
大手の自動車メーカーではなくて、ベンチャー企業のものでした。東京に本社のあるタジマモーターコーポレーションのブースです。「モンスター田嶋」との異名を持ち、長年にわたってモータースポーツの世界で活躍してきた田嶋伸博さんが率いる企業。

同社のブースは、大手メーカーのそれに比べればさほど広くはありませんでしたが、子どもからお母さん、そしてシニアまで、文字どおり幅広い客層を吸い込んでいました。それには理由があることが明快。なんだったのか、順を追ってご説明しますね。

世界的デザイナーと協業する理由

「私のための商品だ」と思わせる!(タジマモーターコーポレーション)

タジマモーターコーポレーションのブースに、所狭しといった感じで、ずらりと並んでいたクルマのほとんどは、超小型のEV(電気自動車)です。軽自動車よりもちいさくて、短距離の移動に向いているようなモデルです。

上の画像は、タジマEVの新モデル「e-RUNNER ULP1」です。こうした、ごくコンパクトなモビリティは、ここ20年ほど、既存の大手自動車メーカーからも、毎回のように出展されていましたが、私個人の感想を言いますと、その多くはデザインが洒脱とは表現できない印象がありました。突飛すぎるか、あるいは凡庸か…。私はタジマEVのこのモデルは、シュッとしているし、奇をてらっていないわりに存在感があるし、いい線を突いていると感じました。

誰のデザインか。奥山清行さんの手になるものだったのですね。奥山さんは「エンツォ・フェラーリ」のデザインを担った世界的デザイナーとして知られる存在で、クルマ以外にも、鉄道などのデザインに携わっています。そんな奥山さんが超小型EVを手がけたところがまた面白い。

なぜ、奥山さんにデザインを委ねたのか。田嶋さんに尋ねてみました。

だって、格好良くないと、誰も乗ってくれないでしょう

確かに…。この超小型EVは低速走行で短い距離を移動する目的で開発されています。だからと言って、実用性一辺倒では、ユーザーの食指は動きませんよね。

「乗っていて自慢できることって大事です。ただ移動するだけならば、たとえばゴルフカートのような低速車両でもいいのでしょうけれど、そういうものでシニアの皆さんが満足できるのか、という話」

こうした超小型モビリティは、シニア層の足という側面を想定されるケースが多いのですが、ものを見る目が確かなシニアにとっては、デザインって大切ですよね。
モータースポーツの世界に長く身を置いている田嶋さんだけに、こうも付け加えます。

「運転していて楽しいという要素も大事です。たとえ低速でも、気持ち良く走れるって重要なんですよ」

子どもが代わるがわるに…

「私のための商品だ」と思わせる!(タジマモーターコーポレーション)

同社のブースではさらに、上の画像のモデルも展示されていました。これ、やはりEVなのですが、3輪の超小型モビリティです。
画像を見ていただくとお分かりになると思いますが、この3輪モビリティ、来場客のなかでも子どもたち、そしてお母さんたちが、順番を競うように乗り込んでいました。田嶋さんは言います。

これ、ママチャリの代わりなんです。ママチャリよりも安全に子どもを乗せられる一台

なるほど。私も息子が幼かったころ、自転車の後ろに乗っけて走った経験がよくありましたが、どきりとした場面、しばしばありました。この3輪モビリティなら自動車よりも手軽だし、しかも自転車よりも安心といえます。

ここでひとつ、田嶋さんに確認したいことがあります。今回の東京モーターショーを通して、どんな収穫がありましたか。聞いたのは、開催最終日でした。

「クルマ好きのいわゆるオールドファンだけでなく、若い人たちも興味を示してくれた。これまでの感触とは全然違いましたね」

なぜ、そんな感触を得られたと思いますか。

「(超小型EVという存在が)現実のものとして感じてもらえたからでしょう」

ああ、それはあるかもしれませんね。過去の東京モーターショーで展示されていた超小型EVって、どこか絵空事と言いますか、単なる提案に終わっていたきらいがないこともない。その一方、今回のタジマEVのモデルは、誰がどんな必要に迫られて乗るものかが、くっきりとしたかたちで伝わってきます。

私の個人的な感想を述べますと、それはベンチャー企業に必須と言っていい「明快な旗を掲げる」姿勢の賜物かと思います。万人狙いではない。メガヒットまで届くことは想定していないかもしれない。でも確実に「あなた」像を結び、そこに目がけた商品をものにする。その結果、今回、多くの来場者が、同社のブースに足を止めたのではないかと思うのです。

「『今、これを持って帰りたい!』とまでおっしゃったシニアの方もいらっしゃいました」

田嶋さんはそう笑います。この話など、「あなた」がはっきりしている証ではないかと感じました。

同社は出光興産との協業も発表しています。すでに岐阜県で両社がモビリティの実証実験を行っていますが、この先は新しい「e-RUNNER ULP1」を活用することも視野に入れているそうです。
その背景にあるのは、中山間地の「足」に困難を感じている住民が少なくないこと。単に公共交通機関網が行き届かないという問題だけではない。

「ガソリンスタンドが往時の半数に減っています。それも中山間地ではなお顕著な傾向にある。移動手段にいちばん困っている地域で、そうなっているという深刻な問題です」

だから、出光興産とのモビリティ実験には、意味があるのですね。ガソリンや軽油を売ってきたガソリンスタンドの“次のあるべき姿”も、EVを活用した実証実験のなかから模索されることでしょう。

「ピンキリ・プロジェクト」と謳う

タジマモーターコーポレーションに関して、私がもうひとつ注目したトピックがあります。

今回は実車を展示されていませんでしたが、来年2020年を目標として、超高性能なスポーツEVも開発していると聞きました。こちらもやはり奥山清行さんデザインとなる予定で、最高出力は2020馬力相当、6輪を備えた、いわばモンスターマシンです。

「うちは『ピンキリ・プロジェクト』と言っています。究極のEVマシンも開発するし、中山間部を低速で走る超小型EVモビリティもつくります」

まさに、ピンからきりまで、ですね。

この話を聞いて、私は「ようやくだ!」と思いました。というのは、東京モーターショーと同年に開催される中国の上海モーターショーを取材していると、毎回といっていいほど、中国国内のEVのベンチャー企業が、ブランド構築を狙って、そうした超高性能EVスポーツを出展しています。中国のEVベンチャーとして先頭を走ってきたNIO(蔚来)が、その代表格です。「NIO EP9」という流麗なスタイリングのEVのスポーツカーは、1360馬力を誇り、ドイツ・ニュルブルクリンクのコースでの最速記録を打ち立てました。

中国の場合、これまで同国政府が巨額の補助金をEVメーカーに投じたり、IT企業などが競って投資に踏み切ったりという背景があり、EV新興勢力の状況に関しては、日本と同列に語ることはできません。ただ、そのことを差し引いても、中国で多数立ち上がっているEVの新規メーカーが、それぞれの独自性を争うように新モデルを投入している状況は、正直羨ましくも感じられました。しかも、その企業のアイコンとなる超高性能モデルから普及モデルまで、両にらみで開発する新規メーカーも少なくないだけに…。

クルマ離れがささやかれる日本では、そういった夢のある話は期待薄なのだろうな、と会いらめていたのですが、今回、田嶋さんへの取材を通して、日本もやるかも、と感じた次第です。

軽自動車と電動車椅子の間を

「私のための商品だ」と思わせる!(タジマモーターコーポレーション)

私、14回のWHILLで、日本のEV開発に関しては、軽自動車よりもコンパクトな超小型モビリティ分野に可能性があるかもしれないと綴りました。

その考えは今も変わりません。シニア層が今後さらに増える日本社会において、普段のちょっとした足代わりに使えるモビリティは存在感を高めるはずですし、そうしたモビリティを開発するにはEVが有利です。部品点数が少ないですしね。さらに言えば、“小さな機械”をつくりあげることにかけては、日本はお手のもの。得意領域を活かさない手はない、とも思うからです。

そういうわけで、「軽自動車と電動車椅子の間」を狙うのが日本のモビリティ開発では重要と私は考えるのですが、田嶋さんはどう捉えていますか。

「まさにその通りでしょう」

そうですね。そこに日本の活路はあるのは間違いなさそうです。そして田嶋さんはこうも言います。EVをいかに身近に感じてもらえるかについての話。

「うちのEVはすべて100ボルトでの充電ができる仕様になっています。つまりスマートフォンと同じ。そのことで、手軽な存在のモビリティを提供していきたい」

最後に問いたい。EVの宿命ともいえる航続距離についてはどう考えますか。一回の充電で走れる短いと、いざというときに困るかも、と心配するユーザーが多そうですけれど。

「超小型モビリティは、近所に出かける足です。それ以上の先まで走りたい場合には、どうぞトヨタ車に、という感じですね」

やはり…。的を絞って、「あなた」に届けるという商品設計は大事ですね。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、婦人公論「女の気になるキーワード」、家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」など、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)
MM総研大賞 審査委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員

SHARE

「私のための商品だ」と思わせる!(タジマモーターコーポレーション)

「私のための商品だ」と思わせる!
(タジマモーターコーポレーション)

実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則

連載一覧へ

おすすめ記事

ヒントは足許にある!(さつまからすみのプロジェクト)

2019.10.21

ヒントは足許にある!(さつまからすみのプロジェクト)

六次産業の課題点と可能性について、前回のコラムで綴りました。前回の事例を通して、大事なことがらであると私が申し...
不成功にも成功にも、理由が存在する!(Takano Farm)

2019.10.07

不成功にも成功にも、理由が存在する!(Takano Farm)

六次産業という言葉が広く知られるようになって、もう10年以上は経つと思います。おさらいしますと、六次産業とは、...
そもそも「どうあるべき」なのか!(伊藤漬物本舗)

2019.09.25

そもそも「どうあるべき」なのか!(伊藤漬物本舗)

中小企業の商品開発においてはとりわけ「プロダクトアウト型」を志向することが大事なのではないかと、第2回の原稿で...

資料のご請求や
お問い合わせはこちら