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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第31回)

不成功にも成功にも、理由が存在する!
(Takano Farm)

不成功にも成功にも、理由が存在する!(Takano Farm)

六次産業という言葉が広く知られるようになって、もう10年以上は経つと思います。
おさらいしますと、六次産業とは、農業・漁業・林業に携わる人(一次産業の従事者ですね)が、これまでのようにただコメや野菜、あるいは魚介類や木材などを市場などに卸して終わり、というのではなくて、付加価値のある商品をみずからつくり(これは二次産業ですね)、そしてさらには自分で販売まで担う(これは三次産業)形態を指します。

それぞれの数字をかけると、1×2×3ですから6になります。だから六次産業と名付けられたのですね。
一次産業の担い手が、みずからの手で商品づくりや販売まで手がけるというのは、夢のある話ですし、一次産業の強化にも直結しますから、政府や地方自治体はかなりの力を入れて、農業などの六次産業化を図っているのですが……。

私がみるかぎり、順風満帆とはどうしても言えない気がします。全国各地の見本市などに招かれて、シンポジウムで登壇する機会も多いのですが、見本市のブースに並んでいる商品群を眺めると、そこにあるのはだいたいが、ジャム、ジュース、ドレッシングといったところなんです。本当に変わり映えしない。そしてヒットしていない。いや、実際に口にすると美味しいものはたくさん存在するんです。でも、売れていない。

なぜか、と、そこで考えるわけです。ひとつは「伝わっていないものは、存在していないのと一緒」。つまり、せっかくこしらえた商品の広め方が弱い。それともうひとつは、最初に助成金なり補助金なりがありき、とおぼしき商品が少なくない印象があります。どうせ助成金がもらえるのなら、なにかをつくろうか、いうくらいの意識にとどまっている気がするんです。助成金や補助金の制度を私は否定してはいません。ただし、最初に開発したい何らかの商品が、つくり手の頭にあってこそのお金ではないかと思うのです。

そういう状況だけに、六次産品のなかで可能性を感じさせる存在に出逢うと、かなり胸が躍ります。つくり手の意図が明快に伝わってきて、そこに独自性があり、しかも伝えるための努力が見える、そんな商品……。探せばちゃんとあるんですね。たびたび例に引いて恐縮ですが、この連載の第2回の商品など、まさにそう。

前置きが長くなりました。今回は山梨県山梨市、中央道の勝沼インターからほど近いところで果樹を育てている農家の事例です。その名をTakano Farmといい、農家としては3代目にあたるそうです。
その3代目は、千葉の大学を卒業した後、最初のうちは農業を継ぐことを嫌っていたと聞きました。地味であり、また大変な仕事ですから。でも、「うちの果物って美味しいんだ」ということに気づき、次第に家業の承継に意欲を示していきます。

でも、ただ果物を育てるだけでは、事業は成り立たない時代であることも、3代目は身にしみて感じていました。そこで六次産品の開発です。

今回取り上げる商品は、そんなTakano Farmが開発・販売する「エアリーフルーツ」というものです。最近、ドライフルーツが人気ですが、この商品は、よくあるドライフルーツとはちょっと異なります。フリーズドライなんです。いったん冷凍をかけた果物に、装置を使って熱をかけて水分を飛ばし、カラッカラに仕上げたもの。手にしたときも、頬張ったときも、空気のように軽く感じられます。だから「エアリーフルーツ」。

生よりも訴求力あり?

不成功にも成功にも、理由が存在する!(Takano Farm)

現在、商品のバリエーションは3つあって、すぐ上の画像に沿ってご説明しますと、左から「シャインマスカット」(18gで税別1200円)、「完熟もも」(10gで同1050円)、「黒いぶどう」(18gで同1100円)です。

けっこう値が張るんです。ところが……山梨のこの小さな農家が作っている、この「エアリーフルーツ」は、山梨県が主宰する第4Mt.FUJIイノベーションキャンプで「始動部門プランコース最優秀賞」を獲得。また、全国の新聞社が手がけ、地域産品に光をあてるプロジェクト「47CLUB」において「こんなのあるんだ!大賞2019」関東ブロック代表にも選ばれています。さらに言うと、大手クラウドファンディングサイトでは、これまで300万円を超える支援を獲得しています。
展示会への出展や、コンテストへの応募、そしてクラウドファンディングの活用と、地道に「存在を伝える努力」を重ねてきたわけですね。そして評価をしっかりと得ている。

どんな味なのか、もう少し説明しましょう。
まず、普通のドライフルーツと違って、こちらはフリーズフドライの製法をとっていますから、先に触れたように、とにかく軽い。で、口に含むと、これが面白いように、生のままの果物の味を取り戻していくんです。いや、生よりも美味しいかも。それは、軽やかな食感の妙だけではないと感じましたね。シャインマスカットは澄んだ甘みが際立っていますし、ももは不思議なまでにシズル感(みずみずしさ)までも次第に伝わっている風合いなんです。そして黒ぶどうは、皮のところが天然のキャラメリゼと言いますか、香ばしさを湛えている。生より楽しい、と表現することさえ、違和感ないと私は思いました。どれも砂糖は不使用で、わずかにクエン酸を加えているだけと聞きました。それだけに果物の味わいがそのまま凝縮されているのですね。

私、これまでも、各地の農家がフリーズドライ商品づくりに挑もうとしている姿を見てきましたが、商品化に至り、かつ反響を呼んでいるものはあまりないのが実際のところです。やはり、現実に六次産品化を目指すとなると、コストの問題もさることながら、製法の微妙なところが難しいのでしょうね。あとは値付けをどうするかも悩ましい。ちなみに、フリーズドライの果物を商品化した農家は、山梨県では初めてだそうです。

Takano Farmはどうやって、この「エアリーフルーツ」をものにしたのでしょうか。

「まず、冷凍方法ですね。急速に冷やすことが肝要です。次に完熟の果物をちゃんと使うこと。最後はフリーズドライの工程に時間をかけることですね。乾燥時間をあえて長く、じっくりとやる。コストはかかりますが、間違いなく美味しくできます」

その3つだけなんですか。だったら、ほかの農家でも、やればできそうですが……。

あとひとつ挙げるならば、内製化することでしょうね

どういうことか。フリーズドライを内製でこなすには、当然の話ですが、フリーズドライ用の機械が必要です。これが数百万円かかります。投資に躊躇する農家ならば、まずは工程を外注化しようと考えますね。

「でも、そこが問題なんです」

なぜ?

「冷凍し、フリーズドライをかけるというタイミングが、外注先の都合に左右されるでしょう。しかしながら、そのタイミングが、果物の採れるタイミングとぴたり合うとは限りません」

そうか、確かに……。内製であれば、今日がそのベストの日だ、という時点で、ちょうどいい按配となった果物を収穫し、すぐさまフリーズドライに向けた工程に入れますね。そう捉えると、外注か内製かは、商品の出来映え、もっと言えば、商品の訴求力そのものを完全に左右するわけです。

「ここで機械導入の投資をためらわなかったことが、ここまでの進展に直結しているような気がしますね」

鳴かず飛ばずの繰り返し

不成功にも成功にも、理由が存在する!(Takano Farm)

ただし、こうして「エアリーフルーツ」が注目を浴びるまでは、失敗の繰り返しだったとも聞きました。

「こんな時代ですから、農家自身が手を替え品を替え、何かをなさないといけないという覚悟はあったんですが…」

ただ単に、果物を育てて卸して、では通用しないことは、3代目は痛いほど理解していました。でも、どういう手を打てば良いかは見えてこなかった。

「お客様の顔を直接に見たい、という強い思いがあって、JA経由で売るのではなく、直販中心で経営していこうという点は貫いてきたのですけれど、その先が見出せなかった」

今回の原稿の冒頭で、私はこう綴りましたね。(六次産品の)見本市のブースに並んでいる商品群を眺めると、そこにあるのはだいたいが、ジャム、ジュース、ドレッシングといったところ……。それでは結局、存在が埋もれてしまいます。
実はTakano Farmもその迷宮にはまりかけたのだそうです。

「ジャムも、ジュースも、実はやりました」

そして、失敗に終わった、とも。
父親の手伝いで、ジュースを果物1トン分ほどを使って試作しましたが、発売にすら至らなかったらしい。

「肝心の『売る方法』を、父も私もわかっていなかったのです。なのに、やみくもに外部に製造委託してしまった」

賞味期限が迫ってくるなか、結局、父親が知り合いに配って終わったそうです。
その次がジャムでした。

「でも、加工の過程で、果物の茎が混ざってしまい、そこで頓挫しました」

こうした2つの失敗を通して、3代目は気付いたそうです。

何かをつくりさえすれば売れるわけじゃない。SNSで発信すれば大丈夫というものでもない。それに、いかに優秀なデザイナーを起用して可愛いパッケージにしたところで、中身が伴っていなければ、人は振り向いてくれないんです

みずから外に出ること

不成功にも成功にも、理由が存在する!(Takano Farm)

3代目はまさに不退転の覚悟で、果物のフリーズドライ商品づくりに挑み始めます。それが2016年ごろの話。2つの失敗を胸に秘めてのスタートでした。
今度は、ただやみくもにつくるのではない。「伝わる商品」とはどんなものかを考えに考え抜きました。そうして導いた結論が、先にお伝えした「ただのフリーズドライではなくて、製法にも素材にもよそとは違う視点を取り入れること」でした。

さらには……。

「サイトを立ち上げたり、パッケージデザインを凝ったりするだけではダメ、と痛いほど分かりましたから、その教訓を生かそうと考えました。それだけでは決して広く伝わらない」

ならばどうしたのか。

私自身が『外に踏み出す』、これに尽きますね

みずからが試作品を携えて、人前に出て説明する。「いいものをつくれば売れるはず」との思い込みから脱却できた瞬間だったといいます。

そして、これも先ほど綴りましたが、コンテストや展示会に積極的に参画するとともに、クラウドファンディングサイトでは、3代目自身の顔写真も掲載して、みずからの思いをしっかりと綴りました(クラウドファンディングでは、これ、とても重要なポイントです。応援したくなるかどうか、それは出品者の思いが匂い立っているかにかかっています)。

それでも、2016年から17年頃までは、問い合わせも少なく、反応は低調だったらしい。しかし、実際の商品を見てもらう(口にしてもらう)ことで、注目は集められると信じて、「外に踏み出し続けた」そうです。そして、じわじわと成果を上げることができました。そう考えますと、最後はやはり、この「エアリーフルーツ」の味が勝負の分かれ目だったとも言えますね。食べてみれば、よそのものと違うことは明白です。「外に踏み出したこと」「味を考えて内製化を貫いたこと」、これらが成功への両輪となったわけでしょうね。

「先代越え」は目前に…

3代目が就農し、そして「エアリーフルーツ」の商品化を果たせた今、売り上げはどうなっているのでしょう。

「まあ、ぼちぼちですね」

そう謙遜しますが、その内訳を尋ねると、着実に進展はあるようです。

「加工品の売上比率が40%ほどになりました。これはかなり大きな話です」

さらにいうと…。

2020年には、加工品の売上比率を過半数に持っていきたい。それが叶えられれば、売上高と利益率ともに、父(先代)を超える数字を達成できそうです」

生食用の国産果物の市場が低調なこの時代に、先代超えが目前に迫ってきたというのは、特筆すべき快挙ではないでしょうか。
重なる失敗を糧にして、さらに新たな加工品開発に挑んだからこそ、数字がついてきたのだと思いますね。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、婦人公論「女の気になるキーワード」、家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」など、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)
MM総研大賞 審査委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員

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