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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第28回)

右肩下がりからの復活に必要な意識(八戸横丁連合協議会)

右肩下がりからの復活に必要な意識(八戸横丁連合協議会)

21世紀に入っての屋台村ブームに先鞭をつけたのが、第19回で取り上げた「北の屋台」であるとすれば、昔から残る横丁の人気再燃のきっかけを作ったのは、青森県八戸市の中心市街地に広がる新旧の横丁であると思います。

八戸には、新旧8つの横丁が根を下ろし、飲食店の数は合わせて約130軒にものぼります。8つの横丁はほぼ隣り合っており、古いところもあれば、八戸に東北新幹線が延伸した2002年になって登場したところもあります。具体的に言うと、昔ながらの横丁が7つ、そして新しい横丁が1つ、となります。

平日でも、夕方からお客さんをぐいぐいと引き寄せ、日暮れを過ぎると、各店舗はかなりの賑わいを見せています。地方都市の中心市街地はいま、人の波が引いていってしまっているところが少なくありません。それをよそに、ここ八戸の横丁は、観光客はもちろん、地元客であふれている。いったい、他の街と何が違うのでしょうか。

さびれた古い横丁の危機

右肩下がりからの復活に必要な意識(八戸横丁連合協議会)

実はこの八戸の横丁、いまの人気に至るまでは、さまざまな苦闘を続けてきました。

そもそも店舗の数は1960年代からずっと減り続けていました。昭和の香りを残す7つの古い横丁がどうにか残っていた、という表現が正しいようです。

そして21世紀を迎えようとする時期、そうした古い横丁に、大きな危機が訪れます。

2002年に東北新幹線が八戸まで延伸することが決定しました。すると、地元商工団体から「寿司屋通り」を作ろうという声が持ち上がったそうです。北海道・小樽にあるような寿司屋が連なる店舗街ですね。

しかし、地元の飲食店主たちは強硬に反対します。「今あるものを活かさないでどうするんだ」と……。八戸には古くから残る横丁があります。なぜ、それを大事にしないのか、という主張ですね。飲食店主たちにすれば死活問題だからというのもあるでしょうが、それを差し引いても、彼らの気持ちはわかります。

地域を盛り上げるのはまずやはり、足元にある宝物を大事にすることが鉄則と、私は強く感じますからね。何も無理して新しいものを作らねばと動いたところで、旧来から根付いているものにはそうかなわない。

7つの古い横丁の1つには、すでに寿司屋が何軒か並んでいたそうです。ところが「あんな古い店じゃダメだ。観光客は振り向かない」とまで言われたらしい。

当時のことを振り返るのは、現在、八戸横丁連合協議会の事務局を務める、地元のいわば顔役です。彼は横丁に出資するなど、八戸の街づくりに長らく関わってきた存在。

「私は反対しました。八戸の飲食店はすでに飽和状態。1軒オープンすれば1軒つぶれるのは目に見えていますから」

そして、こう力説したそうです。

「八戸には、もうすでに横丁があるじゃないか」

でも、この時点では、古びた、そしてさびれつつある7つの横丁の価値に気づく人はほとんどいなかったといいます。

その後、寿司屋通りの企画は立ち消えになったものの、代わりにできあがったのが、「みろく横丁」という名の、新たな横丁でした。新幹線駅の開業に合わせ、2002年に登場。

華々しいオープンでした。上の画像がその「みろく横丁」なのですが、当時流行し始めた屋台村仕立ての空間構成、そしてきらびやかなライトアップ……人を集めるには十二分の演出を凝らしていました。

そして、この「みろく横丁」が、古くから生き延びてきた7つの横丁に、これまでのどんな危機をも上回る打撃をもたらしてしまいました。

「お客さんが半減したんです」

新しい「みろく横丁」ができた直後、そちらに一気にお客さんが流れてしまったために、実に100軒を超える店が、古い横丁から姿を消したそうです。100軒以上がつぶれるというのは、尋常な状況ではありませんね。

「『みろく横丁』は何のための存在か。地元が元気になるためだったはずでしょう。ところが古い7つの横丁では、その直後に多くの店がつぶれたわけです。これでは話が違うじゃないか、となった」

新幹線開業で八戸を盛り上げるための「みろく横丁」によって、地元で長く営んでいる飲食店が苦しんでしまったのですね。

しかし一方で、人が押し寄せたはずの新しい「みろく横丁」にも深刻な問題があったそうです。「みろく横丁」の運営会社は無報酬で運営にあたっており、このままでは無理が出てくるという懸念が生じました。確かに賑わってはいますが、古い7つの横丁だけが問題に直面しているわけではなかったのです。

八戸の横丁の顔役は、ここで決断したといいます。

「古い7つの横丁、新しい1つの横丁。それらが仲違いするのではなく、一緒に“面”として捉えて、振興策を考えないといけない」

しかし、最初はなかなかうまくいかなかった。足の引っ張り合いも正直あったといいます。それはそうでしょう。同じ飲食業の店舗、つまりライバルばかりですからね。しかも、「みろく横丁」にお客さんは一極集中となっている。これではまとまらないのも致し方ない。さらに言うと「みろく横丁」は起業組が多く、一方の古い7つの横丁には古株が多い。考え方に隔たりがあるのも事実でした。

新旧8つの横丁を束ねる

右肩下がりからの復活に必要な意識(八戸横丁連合協議会)

2005年、八戸の顔役は、八戸横丁連合協議会を立ち上げます。それまではこのような組織はなかったのを、一軒一軒、説得しながら発足にこぎつけたそう。

「年会費などは一切なし。ただし、全店舗が“強制参加”です」

そして、最初に動いたのは……。

「まずは、イベントで手を携えようとしました」

飲みだおれラリーという名のイベントでした。第1回は8軒回って3000円(現在は、5軒で2000円)。一夜で横丁をめぐるという催しで、新旧8つの横丁から必ず店舗が参加する形をとりました。

「最初は、各店舗の店主は渋ったんです。『常連さんがいて忙しい』『店の雰囲気が損なわれる』と。でも、そこを説得した」

結果はどうだったか。

「第1回から160人が参加してくれました。すると、すぐさま、飲食店の側から『年に2回の開催にしよう』という、嬉しい声が上がりました。現在は毎回およそ300人が集うようになっています」

さらに言うと、この「飲みだおれラリー」は、観光客向けというより、地元・八戸の住民向けのイベントであるところが、見逃せないポイントです。地元客が振り向くからこそ、観光客も出張客も訪れる。そこを踏み違えなかった。

「まず、地元の人でしょう。このイベントで、地元民がまだ訪れていない店に行くきっかけを作れました。そして、その流れが観光客に伝わっていった」

自治体も強力に援護した

右肩下がりからの復活に必要な意識(八戸横丁連合協議会)

八戸横丁連合協議会は、先に触れたように「年会費無料」です。収益は、「飲みだおれラリー」から得られるお金のみ。現在では25回を数える、このラリーですが、1回いくらほど得られるのでしょうか。

「協議会に残るのは、1回あたり5万円ですね」

わずか5万円? いや、この5万円は大きなものであると、私は思います。協議会はこの5万円を元手に、それぞれの横丁にキャラクター人形を設置しました。地元デザイナーの手になる「よっぱらいほやじ」の像です。のどかなキャラクラーですが、各横丁の飲食店主にすれば、8つの横丁がまとまって協業した証としての、ひとつのアイコンとして認識できますよね。私は、いいお金の使い方と感じました。

さて、八戸の横丁が快進撃を見せたのには、もうひとつのきっかけがあったといいます。

「市が、『8つの横丁』と、新旧すべての横丁に目端を効かせてくれるようになったのは、大きかった」

どういう話か。

1人の市の職員が空気を変えてくれたのだそうです。その職員が古い横丁の魅力に気づき、動き始めた。

「県外から来た人は、古い横丁にむしろ行きたがる。そのことを、視察に訪れた人への対応を通して、その職員さんは実感したんですね。これは観光資源になるじゃないか、と」

観光資源になるとは、誰も気づいていなかったのですか。

「恥ずかしながらそうです。なぜ、我々が気づかなかったのか。昔から普通にあったからなんです。これらの古い横丁に魅力があるなんて、思いもしなかった」

この市職員は、新旧8つの横丁をまとめたパンフレットの制作を起案しました。ところが……市議会の一部から反対の声が出たらしい。「自治体が飲み屋の宣伝をするのか」ということです。

「『いやそうじゃない、観光資源の存在を伝えるための施策です』と、市職員が頑張ってくれた」

パンフレットはどうにか完成し、そこから風向きが変わりました。

このパンフレットの刊行をきっかけに、「8つの横丁」が合言葉のようになったんです。新旧を隔てる雰囲気は消えました。そして八戸の新旧8つの横丁への注目度は一気に上がっていったんです。

気づけば、空き店舗が消えた

右肩下がりからの復活に必要な意識(八戸横丁連合協議会)

その後、八戸の横丁は、どう変貌したのでしょうか。

この数年、地元の人も驚く現象が生まれたといいます。

「いっときは空き店舗だらけになっていたのが、空き店舗が埋まってきたんです。それも古い横丁の中で……」

若い店主が増え、それを近隣のベテラン店主が支えるという好循環がそこに生まれたと聞きました。

つまり、新(「みろく横丁」)と旧(7つの横丁)の心理的な垣根が取り払われたことで、古株の店主と、新参者の店主を隔てる壁もなくなったということなのでしょうね。

先にも綴りましたように、横丁に連なるのは飲食店です。130人もの店主がいて、しかもすべてが同業となれば、なかなかまとまらないのが常です。実際、たとえ存続に危機感があっても一枚岩になれない商店街を、私はこの目でいくつも見てきました。

その意味で、八戸の横丁のケースは、稀なものとは言えます。ここしかない、ここを逃すと滅びるだけ、というタイミングで、横丁の顔役が動き、それに店主たちが呼応した。

でも、それをレアケースと片付けてしまうのは、もったいない話であるとも思います。取り入れられるヒントはふんだんにある……そんな好事例ではないでしょうか。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、婦人公論「女の気になるキーワード」、家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」など、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)
MM総研大賞 審査委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員

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