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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第2回)

商品開発、あえて「プロダクトアウト型」を!(株式会社デアルケ)

商品開発、あえて「プロダクトアウト型」を!(株式会社デアルケ)

ワインのボトルのように見えるこの1本。
これ、トマトジュースなんです。三重県紀北町の農園が製造・販売している「デアルケ200%トマトジュース」といいます。

500ミリリットルのボトルなのですが、値段はいくらだと思いますか。普通のトマトジュースですと1リットルで200円台、高級トマトジュースでも1リットル1,000円程度が相場ですね。
答えは1本3,480円! それも500ミリリットルのボトルで、ですよ。凄まじい価格に思えます。
ところがこの「デアルケ200%トマトジュース」、いま注文しても1年待ちなんです。手元に届くのは来年の夏ということ。人気もまた凄まじいということですね。
 
その理由はいくつか挙げることができそうです。2015年の発売なのですが、翌年には伊勢志摩サミットで各国首脳が泊まる全客室に収められ(外務省からの依頼だったらしい)、それが話題を呼んだこと。
また2018年に入って、それまでにもまして各メディアで続けざまに取り上げられるようになったこと……。

でも、それらは言ってみれば偶然の幸運のようなものかもしれません。私にはもっと根幹的なところに、この超高級トマトジュースが爆発的な人気を得ている理由がある気がしてならないのです。
それは……「プロダクトアウト型」で、この商品が生み出されたからではないか、と私は確信しています。

甘みが弾け、つうっと喉を落ちてゆく

商品開発、あえて「プロダクトアウト型」を!(株式会社デアルケ)

この画像の人物がデアルケの農園主です。30代前半の男性。家族で紀北町に移住して、トマトをつくり始めたそう。
「プロダクトアウト」というマーケティング用語の説明をする前に、このトマトジュースの持ち味をまずお伝えしますね。

そもそもが商品名にある「200%ってなんだ?」と思います。私、2015年の発売直後にこのトマトジュースを見つけたとき、やはりそう感じました。
これ、絞ったトマト果汁(100%の状態ですよね)を7時間以上、果汁が半量になるまで煮詰めているんです。
だから「200%」だという理屈。で、そのままだとどろっとして飲めたものではないでしょうから、何度も何度も濾しているらしい。

飲むとどうなるか。口に含んだ瞬間に甘みがぶわっと弾け、さらには喉をつうっと落ちてゆく。
これは確かにとんでもない、唯一無二のトマトジュースかも、と実感させられます。

確かに3,000円台のトマトジュースというのは常識はずれではあります。でも、考えてみれば今日び3,000円台でここまで驚かせてくれ、しかも人に語りたくなる商品というのがどれだけあるか……。
そう捉えると、これは「べらぼうな価値のある、3,480円の使い方」と言えるのではないでしょうか。

旗を掲げたから、ここに行き着いた

またどうしてこんなトマトジュースを生み出したのか。取材すると、こんな答えが返ってきました。
農園主は「既存のトマトジュースの味に満足できていなかった」と言います。
1リットル1,000円ほどの高級トマトジュースでも?
「いや、同じです。僕には不満がありましたね」

それはなぜか。農園主には「トマトジュースとは『糖度』がすべて」という強い信念があったそうです。

消費者がなんとおっしゃろうが、業界関係者がなんと反論しようが、僕にはトマトジュースとはすなわち糖度だ、という思いがあった

糖度をきわめたトマトジュースを完成させようとなれば、これは先に触れたように“200%”の状態まで煮詰めていくしかない。これは相当な手間だし、なんといっても歩留まりが悪い。それでも……農園主は「糖度こそがすべて」という方針を崩さなかったのですね。

そして、この方針を一発で伝えられるようなネーミング(「200%トマトジュース」)を施しました。つまりは、新しい商品をつくるうえで「旗を掲げた」わけですね。
さて、ここからです。

私の今回の原稿で、冒頭にて「プロダクトアウト型」という言葉を引っ張り出してきました。その理由と意味をご説明させてください。

プロダクトアウトは「わがまま」ではない

マーケティングにおいて、「プロダクトアウト」とは「作り手の意思を優先した商品づくりの手法」と解説されますね。この反対語は「マーケットイン」で、こちらは「消費者の意思を優先した商品づくり」を指す。

こうした語義を見る限り、なんとなく「ならば『マーケットイン型』のほうが商品づくりの正解ではないか」と感じられるかもしれませんね。
実際、少なからぬマーケティング研究者は「『プロダクトアウト』は、作り手の独りよがり」と指摘しているようですね。自分がつくりたいものをつくるという姿勢では消費者は決して振り向かない、というふうに。

私はその考え方に疑問を持っているんです。理由は2つあります。

1つは「プロダクトアウト」というのは、本当に独りよがりな手法なのかという疑問。
もう1つはちょっと挑発的な表現になってしまいますが、消費者に意思はあるのかという疑問です。

まず1つめの話から説明していきましょう。「プロダクトアウト」というのは、決して独りよがりでつくりたいものを勝手につくる、という手法ではない(もしそうだとしたら、それは「プロダクトアウト」の意味を履き違えている)と私には思えます。

私が考える「プロダクトアウト」とは……。
「その商品分野は『どうあるべきか』という独自の旗を掲げ、それを消費者に問うこと」であると思うのです。
もう少しひらたい言い方をすると、例えば「クルマとはどうあるべきか」「メガネとはどうあるべきか」といったふうに作り手が考えに考え抜き、それを世に問う=旗を掲げる、ということ。

その旗に対して消費者が共鳴すれば、その商品は売れるという話です。つまり、正しい(と少なくとも私が考える)「プロダクトアウト」は作り手のエゴでは全くない。
いまの時代、掲げた旗が独自性を帯びていないとモノは売れません。それを成就させるには作り手の主張を反映した「プロダクトアウト型」の思考こそが大事、と思うわけです。


2つめの話にいきましょう。「消費者に意思はあるのか」という点について。

もう少し丁寧に言い換えると、「消費者は、みずからの欲求をちゃんと把握できているのか」ということです。
こういう商品が出たら自分は飛びつく、こういう商品こそ自分は求めている、といった感じに……。

私は「否」と感じています。
多くの消費者は、いまそこに現存する商品のよしあしについてはしっかりと表明できると思います。でも、次になにが欲しいかは実は意識できていない。そういうものだと思います。

「iPhone」だって、そうだった

これ、マーケティング用語では「インサイト」といいます。消費者自身が全く意識できていない本当の欲望のことを指します。
真に欲しいものを消費者自身、実は言葉にできないし、考えつきもしないという話です。

で、実際に画期的な商品が登場するとはじめて「そうそう、これが欲しかった」となるんです。「そうそう、これ」と言いつつも、実際のところはその商品を目の当たりにするまでは、その思いを全く意識できていなかったということなんですね。

こう考えると消費者に「次になにを欲しいか」を尋ね、そこに照準を合わせてモノをつくろうとする「マーケットイン型」の手法というのは、一見理にかなっているように思えて、大ヒットを飛ばす(つまりは、多くの消費者のインサイトを捉え切る)ための方策としては、必ずしも機能しないということがわかっていただけるのではないでしょうか。

古くは「写ルンです」(現・富士フイルム)、「プリウス」(トヨタ自動車)、2000年代に入っての「iPhone」(アップル)、ここ1年ちょっとでは「ニンテンドー スイッチ」(任天堂)……。

こうした大ヒット商品、私に言わせればいずれも「プロダクトアウト型」の開発手法をとっているように思えます。消費者に「そうそう、これ」と感じてもらうには、「プロダクトアウト型」のほうが有効と言っていい。

ここで重要なのは作り手がもっと自信を持つ必要がある、ということでもありますね。
旗を掲げるとはすなわち、確信をもって「この商品分野はこうあるべきとは思いませんか、皆さん……」と消費者に尋ねるという作業ですから。

数多のライバルを前にして…

商品開発、あえて「プロダクトアウト型」を!(株式会社デアルケ)

最後に再び「デアルケ200%トマトジュース」の話に戻しましょう。
高級トマトジュースというのはなにもこの農園だけが製造しているものではなく、それこそ全国のトマト農家が頑張ってつくっています。ところが必ずしも売れていない。

いや、実際数々のトマトジュースを試飲してみると、いい味を醸しているものもあるんです。でも大半の商品がヒットしていない。

厳しい言い方をしてしまい恐縮ですが、「伝わっていないのは、存在していないのと同じ」なんです。

旗を掲げるというのは、別の表現をすれば伝えるという作業に欠かせない行為でもあります。今回取り上げたトマトジュースは「200%」というトリッキーなネーミングをあえて施し、「糖度」をひたすら訴求した。それがすなわちこの商品の旗でした。

議論はあろうかと覚悟のうえで申し上げますが、「プロダクトアウト型」の手法に徹したからこそ見事な旗が掲げられ、その結果としてこの商品の存在が消費者に伝わり、そして大ヒットを果たしたのだと私は思います。

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